チュンチュン……。
「
窓の外では早く入れろとばかりに朝日が差している。同じく、目覚めを促すかのようにスズメが鳴いていた。
「創造理念……基本骨子……構成材質……製作技術……」
そんな中、一夏はアーチャーと真っ正面に向き合いながら、何かをしていた。
一夏の手元に光が集まる。
「う~ん、50点かな。まだ、中身が空っぽだね」
「うっ……」
光が収まると一本の剣が出来ていた。
一夏の白式が本来の単一仕様能力を開花させたことにより、アーチャーと一緒にその訓練をしていたのだ。
白式の単一仕様能力は《無限の剣製》。無限の剣を内包する世界を作る単一仕様能力。
その副産物である《投影魔術》を今、やっていたのだ。
「い、一夏? せっかくだし朝食を一緒ににどうかと思うのだが」
ちょうどひと段落がついたところで部屋の前で箒がドアのノックしてきた。
「今日はこれまでだね」
「ああ……」
そう言って、一夏は作った剣を消す。
「一夏? 寝ているのか? もう起きないと朝食に間に合わない―――」
箒は一夏からの返事がないので、そのままドアノブに手をかける。
部屋に鍵がかかっていなかったので箒はそのまま部屋に入った。
「やあ♪」
びしり。箒の表情が、動きが、全身が固まる。
ドアを開けて入った室内に、パジャマ姿の
「一夏ぁっ! ななっ、何故この女がいるっ!」
一夏とアーチャーはお互いに向き合い、首を傾げる。
「「そりゃあ、
それを聞いて、箒の堪忍袋の緒が遂に切れた。
「せっ、せっ、成敗してくれる!」
箒は真剣を抜刀する。
言語道断の箒は刀を頭上に一刀両断の構えを取り、振り下ろした。
―――が、その刃はギリギリのところで止まる。
「今
アーチャーは黒と白の双剣《干将・莫耶》で箒の刀を防ぐ。
さすがの箒でもサーヴァント相手では勝つことはできない。あっという間に力負けし、箒の刀は弾かれ絶句する。
アーチャーによって吹き飛ばされた日本刀は、くるくると回転しながら壁に勢いよく刺さった。
「勝負あり、ね」
「ぐっ……!」
実を言うと今日だけで一夏の部屋での撃退は箒で二人目だった。
一人目は言うまでもないが、ラウラだ。
結局、アーチャーに
「これから一夏くんと、
「なっ!?」
箒の脳内でR-18が再生され、顔を真っ赤にする。
「お、覚えてやがれっ!」
何故か負け台詞を言い残して、箒は部屋を飛び出して行ってしまった。
にっこりと微笑むアーチャー。
この時思った。一夏は絶対にアーチャーを敵に回したくないと。
◇
「ん?」
朝食を終えて、一夏は教室に向かう途中、掲示板があるところに人が集まっていたことに気付く。
「なんだ?」
気になった一夏は掲示板のある方に足を進めると、群がった生徒たちが一夏に気付き。
「ねえ、ねえ、一夏くん。あの写真って本物なの!?」
「あの写真?」
生徒たちがその写真が載っている新聞を指差す。
それは新聞部が発行しているIS学園新聞。その写真の一面に……
「……………」
一夏と
「なんじゃこりゃあああぁぁぁ!?」
一夏はあまりの衝撃に大声を出す。
新聞には「IS学園最強の生徒会長に彼氏ができる」「お相手はあの男性操縦者、織斑一夏」などなどと、色々書かれていた。
「い、ち、か、く~ん」
がしと、肩に誰かの手が乗る。
一夏はぐぎぎぎと後ろを向くと、明らかに怒っている更識楯無がいた。
「ど、どど、どうも。さ、更識生徒会長、殿」
「これは、どう言うことかしら?」
楯無の力が強まり、一夏は正直に話す。
「アーチャーが……」
その単語を聞くと楯無は、今までのが嘘だったかのようにニコリと笑みを浮かべる。
「虚ちゃん。奴を見つけ次第、どんな手段でも使っていいから、生して私の前に連れてきなさい!!」
「は、はいっ!!」
楯無の横にいた虚はまだ怒っているいる楯無の指示を聞き、すぐさまその場から消える。
掲示板の周りにいた生徒もさすがに楯無が怒りMAXであることに気付いており、誰もその話をしない。
「もう直、授業が始まるわよ」
そう言って、生徒全員は自分のクラスに向かう。一夏もどさくさに紛れてクラスに向かう。
結局、その日は気まずい雰囲気の中、授業が行なわれ、箒からラウラ、クラスいるクラスメイトからずっと視線を向けられることになった。
◇
終末の日曜日。一夏とシャルロットは、来週から始まる臨海学校の準備として駅前のショッピングモールに来ていた。
途中で山田先生と千冬に偶然にも会ってしまい、山田先生はシャルロットを連れて何処かに行ってしまう。
残された一夏と千冬は、千冬の水着を一夏が選ぶ。
千冬は選んだ水着を購入しにレジに向かう。
そこに取り残された一夏はふと……向かい側にあるアクセサリーショップに目が止まった。
「これが全ての始まりだったな……」
一夏は首にかかっていたペンダントを取り出す。
それは、一夏の唯一の母の私物。
「母さんは魔術師だったんだな……」
あの日まで、一夏は魔術など一度もやったことはなかった。
魔術刻印すら継承されていない、半端者の魔術師。そんな半端者が今、聖杯戦争と言う名の大掛かりな儀式に参加されている。
「そうだね。一夏くんのお母さんは結構すごい魔術師の家系だったからね」
「!?」
いきなり背後からかけられた声に、驚いて振り返る一夏。
そこに立っていたのは狐の面を付けた楯無だった。
「アーチャー。先日のアレはなんだ?」
「あ~あれね」
あの写真が全校に知られ、相当生徒会は火の消しに手を焼いたそうだ。
「公的事実」
そう言って、少し年季が入った、青の扇子を広げる。
やっぱりこの人はあの楯無さんそのものだった。
「ちょっと付き合ってよ。一夏くん」
そう言って、アーチャーは一夏の手を握りる。
「ちょっと、待てよ」
「うふふっ」
言って、アーチャーが歩き出す。一夏はそれに引っ張られるような格好でショッピングモールの道を歩いていった。
◇
「……ていうか、刀奈。一体どこに行くんだよ」
歩き始めてからどれぐらい経った頃だろうか、一夏は何とはなしアーチャーに訊ねてみた。
「ちょっと、行きたいところがあってね」
「行きたいところ? どこだ?」
「うふふ、秘密♪」
アーチャーが「ないしょ」というように、指を一本立てて口元に当てる。その可愛らしい仕草に、一夏は思わずドキリとしてしまった。
さらに数分歩いたところでアーチャーが足を止めた。
「ここよ」
アーチャーの指さした方向に目をやる。
そこには、小さな結婚式場と、『ウェディングドレス試着無料!』と書かれた看板があった。
「俺、まだ高校生なんだが。ていうかなんでまたそんなもの……」
「……………」
一夏が言うと、アーチャーは一瞬言葉を切り、寂しげな表情を作った。
「……一夏くんとの思い出が欲しかったの。そして―――一夏くんにも、私との思い出を持って欲しかったの」
「え?」
アーチャーらしからぬ弱気な言葉に、思わず眉をひそめる。
「……ダメ?」
「う……」
アーチャーに潤んだ瞳で見つめられ、一夏は言葉を詰まらせた。
「わ、わかったよ。訊くだけ訊いてみて、駄目だったら諦めろよ?」
「う、うん!」
アーチャーが顔を明るくする。
そのあまりに無垢な表情に調子を崩しながら、一夏は結婚式場の方へ歩いていった。
◇
「なんか……落ち着かねえな……」
結婚式場の控え室で首元をさすりながら、一夏は小さく声を発した。
だがそれも無理からぬことだったろう。生まれて初めて白のタキシードあんかを着た男は、皆同じ感想を持つに違いない。
そう。結論から言うと、一夏&アーチャーの高校生カップルでも、ドレスの試着は許可されたのである。
否、正しく言うのであれば、受付の女性は最初渋い顔をしていたのだが、アーチャーが何やら耳打ちする態度を一変させ、妙に協力的になったのだ。具体的には……新郎側にも試着用のタキシードを貸してくれたくらいに。
「一体刀奈のやつ、なんて言ったんだ……?」
と、一夏は息を吐いた瞬間、控え室の扉がバン! と開き、先ほど受付に座っていた女性が入ってきた。
「ささ、新婦さんの準備ができましたよ! 新郎さん、こちらへ!」
と、やたらとやる気に溢れた様子で、一夏の手を引いてくる。
「わっ、ちょっ」
咄嗟のことに抗うこともできず、部屋の外へと連れ出されていった。
そしてそのまま廊下を歩かされ、別の控え室の前でようやく手を離される。
「さ、どうぞ」
「は、はあ……」
気のない返事をしながら、扉に手をかけ、開ける。
すると、次の瞬間。
「―――」
控え室の中央に佇んだアーチャーの姿が目に飛び込んできて、一夏は言葉を失った。
日頃のイメージとは対照的な、純白のドレスが、アーチャーの華奢な肢体を覆っている。身体のラインに沿うのうに縫製された上半身部分に、手触りの良さそうな長手袋。腰元から伸びた長いスカートは、隙間なく精緻な意匠が施されていた。
彼女の水色の髪は綺麗に結い上げられ、これまた真っ白なベールに飾られている。貎にはうっすらと化粧が施されており―――思わず声を失するような美しさだった。
「ふふ……そんなに見つめられると、照れちゃうわ」
「! あ、いや……わ、悪い。あんまりに……その、綺麗なもんで」
「ふふ……ありがとう」
一夏が言うと、アーチャーがほんのりと頬を染めながら淑やかに笑った。何故かそれに合わせて、一夏の後ろにいた受付の女性が、感極まったようにずずっと洟をすすり、ハンカチで目元を拭っていた。
「……なあ、刀奈。おまえ、あの人に何言ったんだ?」
「なに、別に大したことは言ってないわよ。ただ『私は難病に犯されていて、余命も後僅かしかありません。恐らく、彼が契りを結べる歳になるまで生きられないでしょう。それを哀れに思った彼が、せめて花嫁衣装だけでもと』と言った、途端にきを使ってくれてね」
「……いや、おまえそれ完全に嘘じゃねえか」
「あら、そうかしら?」
一夏が半眼で言うも、アーチャーはおどけるように笑うのみだった。
と、そんな光景を涙目で見ていた受付の女性が、大きく洟を啜ってから、一夏たちに促すように言ってくる。
「ささ、もしよければチャペルの方まで。写真もサービスしちゃいます」
「え……いや、いいですよ、そんなことまで」
「何を言ってるんですか! これが……これが最後かもしれないんですよ……ッ!」
熱っぽく叫び、女性が「うぅ……っ」とハンカチで覆う。どうやら涙もろい性格らしかった。
「いいじゃない、一夏くん。私も……一夏くんとの写真が撮りたいわ」
「……ん、んー」
いいのかなあ、と思った一夏だったが、ここまで来て「全部嘘でした」だなんて言えるはずもなく、一夏は女性に促されるまま、アーチャーと一緒に廊下を歩いていった。
そうして建物の裏手に出ると、そこが広い中庭のようなスペースになっていることがわかった。
ショッピングモールの喧騒から隔絶されたような空間である。そしてその中央に―――沈みかけた太陽が放つ燃えるような夕日によってオレンジ色に染められたチャペルが建っていた。
小さいながらも、手入れの行き届いた礼拝堂である。チョコレート色の扉を開けると、列をなした長椅子の間に伸びた絨毯に、その最奥に設えられた祭壇と巨大な十字架、そして煌びやかなステンドグラスが見て取れた。
「ささっ! 祭壇の前へ! 写真はお任せを!」
「は、はあ、どうも」
「うふふ、ありがとうございます」
仰々しいデジタル一眼レフを手にした女性の指示に従い、一夏とアーチャーは祭壇の前に並んで立った。
「さ、ではこちらを向いてください。ほら、もっとくっついていて。新郎さん、笑顔笑顔」
「は、はは……」
言われて、一夏がぎこちない笑顔を作ると同時、パシャッとシャッターが切られた。
◇
写真を撮り終え、着替えを済ませてから式場を出ると、既に辺りは暗くなっていた。
アーチャーは先程の式場で渡された写真(しかも、本物の結婚写真のように豪華な台紙までサービスしてくれた)を大事そうに抱えながら、機嫌良さそうに鼻歌なぞ歌っていた。
そして時折思い出したように台紙を開き、二人が並んだ写真を見ては、嬉しそうに微笑んでいるのである。
同時に一夏のペンダントにもそれと同じ写真が埋め込まれていた。
「……………」
「? どうしたんだ?」
アーチャーは先程までの雰囲気を止め、その場に立ち止まった。
そして、路地の方に視線を向けたのだ。
「マスターはここにいてください……」
「え?」
言って、アーチャーは持っていた写真を一夏に預け、いつもの紅い外装へと服を変えて路地の中を一気に駆ける。
「おい! 待てよ」
一夏はアーチャーの注意を無視して、路地の中に入る。
その判断に一夏は後になって後悔した。
もし、あの時……アーチャーのいう通りあそこで待っていれば、こんな思いをする必要はなかったのだから。
「おい、待て……よ……」
一夏が路地を進むとアーチャーの姿が見え、それと同時に最悪な物まで見えてしまった。
「……………」
アーチャーは何も言葉を発さない。
一夏はそれを見て、その場に尻を付け、吐き気を押さえる。
そこに在ったのは……無数の子供の死体だった。
「アーチャー……」
「何も……言わないで……」
一夏は今、アーチャーが泣いていることがわかった。
結局、何も言わないまま、一夏は楯無にこのことを知らせる。
「キャスター……あなただけは絶対に許さない」
そう言い残して、一夏とアーチャーは元来た道を戻った。