時間はあっという間に過ぎ、大広間を3つ繋げた大宴会場で、一夏たちは夕食を取っていた。
『いただきまーす!!』
全員、浴衣を着用していた。
どう言う訳か、この旅館は『お食事中は浴衣着用』が決まりらしい。
「んん~! このお刺身、活きが良くて美味しい~!」
「うう。魚を生で食べるのは慣れませんわ……」
「本ワサの風味もいいなぁ」
「本ワサ……?」
「情けないな。補給がたたれたら生き残れないぞ」
「シャル!? 今わさびの山、直接食べなかったか!?」
「ら、らいじょうぶ、らいじょうぶ……」
「何やってんのよ! ほら水!」
その後もあれやこれらやとあり、気付ければ満腹になるまで食べてしまった。
◇
翌朝、IS学園の生徒は丸一かけてISの各種装備試験運用とデータ取りに追い込まれていた。
そんな中で専用機持ちは別の所に集められる。
しかし、その中に一人。
「織斑先生、何故箒がいるのでしょうか?」
そう。鈴のいう通り、そこに箒がいたのだ。
箒は専用機持ちではない。
なのにここにいいる。
「ああ。それはだなぁ……」
千冬が言いかけたところで、その理由が分かった。
「ちーちゃーーん!!」
遠くからドドドッ!! と音を起てて誰かが走ってくる。
そして、空からウサギが降って来た。
「うるさい。やめろ」
飛んできたウサギの顔に千冬はアイアンクローで受け止める。
「相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」
一夏はこのウサギが誰なのか分かっていた。
ギシギシと音を立てながら悠長に話す人物は一夏の知る限り……一人しかいない。
「何しに来た」
千冬のリンゴを握りつぶす程のアイアンクローから抜け出し、箒の横に並び立つ。
「そんなの決まっているじゃない!
そう。このウサギは……箒の。篠ノ之箒の実姉。篠ノ之束だ。
◆
IS……インフィニット・ストラトスは内在するコアによって存在・稼働している。
このコアを作ったのは一人の女性だった。
彼女は467ものコアを作り、それらを世界各国に配布したが、467個目を最後にコアを作る事を拒否し、同時に失踪する。
コアを作る技術は彼女以外には不明であり、コアの研究を行う傍ら、世界中が彼女を探している―――そして、その彼女が今……ここにいた。
◆
「箒ちゃんしばらく見ない内におっきくなったねえ。特にこのおっぱいが……」
「そういうのはやめてください」
そう言って、箒は束の手を叩く。
一瞬、束は固まり、一夏の方に泣きながら抱きついた。
「いっくん! 箒ちゃんがつめたいよー!!」
「た、束さん……お久しぶりです」
あえてもう一度説明するが、この人があのISの開発者だ。
「あの……それで頼んでいたものは……」
「ああ。そうだったね! もちろん準備済みだよ。さあ、大空をご覧あれ!」
そう言って、空から銀色の物体が落下してきた。
銀色をしたそれが、粒子となって消え、中にある物が姿を見せる。
「束さんの最新作。全てのスペックが現行IS上回る最高性能……これぞ、箒ちゃんの専用機『紅椿』だよ!!」
真紅の装甲に身を包んだその機体。
傷一つない新品のISだった。
「紅……椿……」
「箒の……専用機……!?」
「そんじゃあ早速フィッティングを始めようか!」
そう言って、箒は紅椿に搭乗すると束はいくつもの投影ディスプレイをいじる。
「よしっ、あとは紅椿が自動で処理してくれるよん。その間にいっくーんの白式見せて。束さんは興味津々なんだよ!」
「あ、はい!」
一夏は白式を展開すると束はいくつかのコードを繋ぐ。
「ん~~不思議な成長の仕方をしているね。いっくんが男の子だからかな?」
「束さん……そもそも何で俺はISを使えるんですか?」
「さあ? 私にもさっぱり。まあISって自己進化するように作ったしね。こう言う事もあるよ! あっはっはっは」
結局、その事に関しては束もわからなかった。
「あの……」
「おっ! 完了したみたいだね。試しに飛んでみてよ」
「はい」
ちょうど紅椿のフィッティングが終了し、出ていた投影ディスプレイが消える。
そして束の言われるまま、箒は紅椿に意識を集中させた。
「行くぞ……紅椿!」
箒が意識を集中させると、紅椿はもの凄い速度で飛翔した。
「速いっ!」
「どう? 箒ちゃんが思った以上に動くでしょ」
『はい……!』
その後も紅椿の稼働テストが続き、その力に全員が首付けになる。
「織斑先生! 大変です!!」
「どうした?」
いきなりの山田先生の声に一夏たちは山田先生のいる方に向いてしまった。
いつも以上に慌てており、千冬と何かを話している。
「専用機持ちは全員集合! 篠ノ之も来い」
「はい!」
気の入った返事をする箒。
◇
「では、状況を説明する」
旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷では、専用機持ち全員と教師陣が集められていた。
証明を落とした薄暗い室内に、ぼうっと大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいる。
「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代の軍用IS『
淡々と続ける千冬。
「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」
暴走したISを専用機持ちである俺たちで止めろと言うことだ。
「はい」
早速、手をあげるセシリア。
「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
「いいだろう。ただし、これは二ヵ国の最重要軍事機密だ。けして口外はしないように」
公開されたデータを元に作戦会議が始まった。
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……」
「攻撃と機動の両方を特化した機体か……」
「この特殊武装が曲者だね」
「このデータだけでは格闘性能とスキルがわからん。偵察は行えないのでしょうか?」
しかも、この軍用ISは……
「無理だな。この機体は今も超音速飛行を続けている。アプローチも一回が限界だろう」
「一回限りのチャンスとなると……」
山田先生の言葉に、全員が俺の方を見る。
「だろうな……で、誰が俺をそこまで移動させるんだ?」
「目標に追い付ける速度が出せるISに超高感度ハイパーセンサーが必要だな」
「現段階で最高速度を出せる機体は誰だ?」
「わたくしのブルー・ティアーズが」
「待った待った待ーーーった!! そこは断・然! 紅椿の出番なんだよっ!」
声の発生源はなんと天井からで、一夏たちが見上げると束が逆さまで首を生やしていた。
「紅椿なら展開装甲をチョイチョイといじれば、超高速機動なんて朝飯前なんだよ!!」
そこから紅椿の説明が始まった。
箒のIS『紅椿』は世界初の第四世代らしい。そして、その第四世代のコンセプトである展開装甲が今回の要となったのだ。
そこまで聞いて、千冬は使わざるを得ないと来た時だった。
「そうか……なら」
「その作戦には反対させてもらうわ」
「!?」
いきなり大座敷の扉が開く。
そこにいたのは、アーチャーだった。
「楯無か……」
一夏と千冬、シャルはこの楯無があのアーチャーであることはわかっており、何も言わなかった。
「今回の作戦相手は軍用IS。素人同然の奴に任せるのはどうかと思いますよ?」
「まあ、普通に考えればそうだな」
「ここは、セシリアに任せるのが適任だと思います」
そう。アーチャーの言う通り、箒はまだ専用機を手にして一時間も動かしていない。
そんな奴にこの任務は重すぎたのだ。
「なに言ってるの? 小娘、あたしの作った紅椿がこんなガラクタ風情に負けるともっているのかな?」
「ええ、負けるでしょうね」
そう言うと、束の表情が一瞬にして変わろうとした瞬間、何故か束が後ろへと吹き飛ばされる。
「時間はあまりないでしょうが、セシリア。すぐさま準備にとりかかってちょうだい」
「は、はい!」
そう言って、セシリアは大座敷から出て行く。
残った者たちは、吹き飛ばされた束を見つめる。
「一夏くんは軽く高速戦闘のレクチャーを受けなさい」
「え? 楯無さんがやらないのですか?」
一夏は疑問に思った。
楯無のISは雪片弐型が使える。しかも戦闘経験が納富なため、一番適任だと一夏は思っていたのだ。
「今回ばかりはダメなのよ。私のISって装甲が少ないでしょ?」
その理由がわかった。
アーチャーのIS『霧纏の白き女騎士』は装甲を極限にまで削って作られているのだ。その為、今回の超高速戦闘には適していないのだ。
「本当は私がこれをやるべきだと分かっている……」
アーチャーは本当は一夏を戦場に立たせたくはなかった。
「大丈夫だよ。楯無は笑顔のまま俺の帰りを待っていてくれ」
そう言って、一夏は残ったメンバーで高速戦闘のレクチャーを受ける。
「なんでだよ……どうして、いっくんは……」
大座敷から吹き飛ばされた束はその場から動かない。
「あんな女に……そんな笑顔を……見せるんだよ。その笑顔は……」
束の中で何かが壊れる。
「箒ちゃんだけのものだ」
そして、歴史は繰り返される。
けして、あの運命から逃れることは出来なかったのだ。
◇
セシリアの準備が終わり、一夏とセシリアは砂浜で待機していた。
「では、これより本作戦を開始する」
一夏とセシリアはお互いに頷き、一夏はセシリアの背中に捕まる。
そして、銀の福音がいる方角へと加速した。
「後、数百メートルで目視できますわ」
「了解だ」
一夏はセシリアの言う通りに雪片を投影した。
そして、精神を研ぎ澄まし、目的の撃破だけを考える。
「来る!」
一夏の言う通り、目の前から福音が猛スピードで向かっていた。
そして、一夏は雪片の力を開放する。
「いけぇ!!」
一夏は雪片を福音目掛けて振り下ろす。
しかし、それは福音に届くことはなかった。
「な!?」
福音は雪片が当たる寸前で避けたのだ。音速飛行の中をいとも簡単に避けて見せてしまったのだ。
「援護に入りますわ」
「ああ」
しかし―――
「敵機確認」
オープン・チャンネルから聞こえるのは機械音だった。けれど、そこからは明らかに『敵意』を感じた。
「一夏!!」
「!? 箒!? なぜ来たぁ!!」
予想外なことに箒が来てしまったのだ。
しかし、今この場から退散は不可能。一夏は仕方なくそのまま戦闘を続行する。
だが、福音の攻撃は複雑な上に高火力だった。
「はあああっ。一夏! 今だ!!」
「ああ……!?」
しかし、一夏は福音と真逆の、直下海面へと全速力で向かった。
「一夏……?」
「何をしているんだ。一夏!」
「船がいるんだ。海上は先生たちが封鎖したはずなのに……」
「船だと!?」
運悪くそこに密猟船がいたのだ。
一夏は福音の攻撃を相殺するが、そのせいで白式のSEが既に限界が近づいていた。
「奴らは犯罪者だぞ! 構うな!!」
「ダメだ! 見殺しにできない!」
一夏は密猟船に降り注ぐ福音の爆発光弾を再び相殺する。
「馬鹿者! 犯罪者などを庇って!! そんな奴らは放っておけば……」
「箒!!」
「ッ―――!?」
「そんな寂しい事は言うな……言うなよ……。力を手にしたら弱いヤツの事が見えなくなるなんて……どうしたんだよ。らしくない……全然箒らしくないぜ」
「……!」
この時、箒は気付いてしまった。
「わ、私……私は……」
自分が目先の力に溺れて……自分を見失った。
ただ、力の赴くままに暴力を振るっただけだと。
「!? しまった!!」
一夏は福音が箒を狙っていることに気付き、とっさに瞬時加速をする。
「箒っ!!」
一夏は箒を庇うように抱きしめた瞬間、爆発光弾が一斉に降り注いだ。
「一夏ああああああ!!」
ぐらりと世界が傾く。
海へと真っ逆さまに。そんな中、一夏は最後の力を振り絞って箒の頭を守るように抱きしめる。
大きな水音と全身を伝播する衝撃。一夏は海面越しに福音を見つめながら、気を失った。
◇
夕方、IS学園の生徒が泊まる宿からだいぶ離れたところで二人の男性が何かをやっていた。
周りには人はいない。
一人は如何にも怪しい奴、それも海の上に立っていた。
「旦那―――ッ! 神様もびっくりなすっげぇーツッコミ、頼んだぜぇ―――ッ! 旦那―――ッ!!」
「ご期待あれリュウノスケ! 最高の“く―――る”をご覧にいれましょう!」
「マァジィ!? 楽しみにしてっからさ―――ッ!!」
キャスターは本を開き、何かを唱え始める。
「今からすっげぇーおもしれえことが始まるんだぁ」
◇
結果として言えば、今回の作戦は失敗で終わった。
一夏を撃退した福音は箒、セシリアには目もくれずその場から立ち去った。その行動はよくわからなかったが、そのおかげで、セシリアたちは帰還出来たのだ。
一夏は福音の爆発光弾を直に受け、意識不明の重体に落ち、今でも眠っている。
そんな彼の横にアーチャーが黙って、座り込んでいた。
「どうしてよ……」
アーチャーは一夏の右手を握りながら、泣いていた。
「なんで、なんでよ……」
アーチャーはもう一度、希望を信じてみたのだ。
あの惨劇を再び犯さないように、一夏の白式を覚醒させ、作戦だって箒の参加を無くすように仕向けた。
しかし、それら全てが無駄になったのだ。
「どうして、運命には抗う事はできないのよ……」
日が沈んだ時、アーチャーとセイバーはある異変に気付く。
そして、その方角に目を向ける。
「近い……」
アーチャーとセイバーが感じ取ったのは魔力だった。
しかも、相当な量の魔力。
「……………」
アーチャーはその場から立ち上がり、眠る一夏に。
「行ってくるわ。マイ、マスター」
軽いキスをして、窓から飛び降りた。
そして、根源である場所に着くとキャスターが海の上に立っている。
遅れてセイバーとライダーが着く。
それに気づいたキャスターはお辞儀をする。
「ようこそ、聖処女よ……!! ふたたびお目にかかれたのは恐悦の至り……」
「―――性懲りもなく、外道め!! 今夜は何をしでかすつもりだ!?」
「申し訳ないがジャンヌ……今宵の主賓は貴女ではない―――ですが、貴女もまた列席していただけるというのなら私としては至上の喜びですとも……不肖ジル=ド=レェめが催す、死と退廃の饗宴をどうか心ゆくまで満喫されますよう!!」
キャスターの足元にいた生物がキャスターに纏わり付く。
「今再び!! 我らは救世の旗を掲げよう!!」
キャスターの足元から巨大な海魔・大海魔が現れ、キャスターを飲み込んだ。
「キャスターが…… 吸収されていく……!?」
「見捨てられたる者は集うがいい……!! 私が率いる!! 私が統べる!! 我ら貶められたる者達の怨嗟は、必ずや"神"にも届く!! おぉぉ 天上の主よ……!! 私は糾弾をもって御身を讃えよう!!」
「あれは……!?」
大海魔が全貌を現した。
「傲岸なる"神"を!! 冷酷なる"神"を!! 我らは御座より引きずり下ろす!!」
あまりにも巨大、あまりにも恐ろしいその姿は正に化け物と言う他なかった。