それは突然のことだった。
怪我の治療を終えて、食事を取っている時だった。急に痛みが走り、シャルロットは自分の右手の甲を押さえる。
「シャルロットさん? どうしました?」
セシリアは持っていた箸を落としたシャルロットに心配し、声をかけるが。
「だ、大丈夫だよ。ちょっとね」
「そ、そうですか」
何事もなかったようにふるまい。
セシリアは少し心配しながらも、新しい箸を手に持つ。
シャルロットは「あはは……」と笑うが、右手の甲にあった三画の痣が無くなっていたのだ。
◇
ざあ……。ざあ……。
一夏は近くの岩場に腰を下ろしながら、月を眺めている。
箒たちが食事を取っている時、一夏は旅館を抜け出して夜の海へと繰り出していた。
満月の今日は、真夜中であっても明るい。一夏は穏やかな波の音を聞きながらぼんやりと空の月を見上げる。
(そういえば、夕方になんか夢を見た気がするんだが……)
そのことを考えるが、何故かそこだけすっぽりと抜けていた。
「い、一夏……くん?」
突然名前を呼ばれ、一夏は振り向く。
月明かりに照らされて姿が浮かんだのは、紅い外装姿のアーチャーだった。
「刀奈……? どうしたんだ?」
「しっかり聞いて」
「?」
アーチャーは珍しく真剣な眼差しを一夏に見せていた。
いつもなら、からかうはずのアーチャーが今だけ、真剣だったのだ。
「ライダーが死んだわ」
「え……?」
それは突然のことだった。
シャルロットのサーヴァント。ライダーが死んだことだったのだ。
「どいうことだよ……」
「真相はわからないけど、シャルロットちゃんの令呪が完全に消えたことを確認したのよ」
令呪が消える。
それは、サーヴァントが死んだことを意味していた。
「一体……誰が……」
「可能性として……アサシンのサーヴァントが候補に上がっているけど」
アサシン。
マスター殺しのサーヴァントとして、隠密行動を得意とするクラスだ。
しかし、今回狙われたのはサーヴァントだった。
アーチャー、セイバーが疲労していたなかといえど、サーヴァントを暗殺するのはそうたやすくはない。
「今はそれしか、わからない」
「じゃあ、シャルは……」
「……………」
アーチャーは目を瞑る。
一夏は認めたくはなかった。
「なんでだよ……」
アーチャーも本当はこの真実は認めたくはなかった。
正々堂々と戦い……敗れたなら彼女も認めただろう。
しかし、それは叶うことなく、ライダーは死んだ。
「一夏!」
そんな一夏をアーチャーは抱き留める。
お互いに認めたくないという気持ちは決して消えることはない。
だからこそ。受け止めるしかないのだ。
「これは……聖杯戦争。暗殺なんて……認めたくはないけど、サーヴァントにとってはごく普通のことなのよ」
アーチャーの温もりを一夏は感じながら、涙を流す。
「……刀奈」
一夏は決心した。
「俺……聖杯を手に入れる」
もう、二度とこんな思いはしたくはない。
「聖杯を手に入れ……俺の願いを叶える!」
何でも叶う願望器。
それを手に入れば、一夏の願いは叶うだろう。
しかし、それは同時に茨の道でもあった。
「だから、力を貸してくれるか?」
アーチャーは一夏の決心を受け止め、その場に膝をつく。
その姿は騎士が主君に誓いを表す姿だった。
「仰せのままに。マイ、マスター」
◇
「無事にキャスターのサーヴァントとマスターは始末されたか」
とある協会で男性は今回の件の報告を聞いていた。
「情報操作はこちらでしておく。ああ、問題ない。報酬はいつもの所に振り込んでおく」
そう言って、電話を切る。
「キャスターとライダーが脱落か……」
男は少しあることに疑問を感じていた。
キャスターはセイバーによって倒されたが、ライダーは一体誰がやったのかがわからないのだ。
「アサシンが動いたのか? となると厄介な宝具を持っていることになる」
サーヴァントすら殺す程の宝具。
だが、男にはその宝具が全くと言って検討がつかない。
「現代か未来のサーヴァントと言う訳か。今宵の聖杯戦争はつまらないと言ったが取り消そう」
男……言峰綺礼は一人、協会内で笑い声を上げる。
「さあ、今宵の勝者は誰になるのやら」
前回の聖杯戦争に参加した言峰綺礼は勝者の名を口にする。
「君の息子が聖杯を手に入れるか、更識が手に入れるか、賭けようではないか……織斑切嗣よ」