IS学園の中は、若い活気に溢れていた。
年に一度のIS学園・学園祭の会場である。辺りには様々な模擬店や展示物が並び、これまた様々な制服を着た生徒たちが大声で客を呼び込んでいる。
「うふふ、ねー、次はどこに行こうかー」
そんな、青春の汗と涙が凝縮したような空間の中を、織斑一夏は一人の可愛らしい少女とともに歩いていた。
濃紺と黒の中間色の色合いを持ったロングドレスの上に、やったらめったらフリルのついた純白のエプロン。ついでに頭部には、これまた可愛らしいフリルで飾られたヘッドドレスが着けられている。
一言で言うと、これ以上ないくらいのメイドさんスタイルだった。
「少しお腹が空いたね。何か食べない?」
しかしそんな彼女は、呑気な笑みを浮かべて首を傾げてくる。一夏は思わず苦笑してしまう。
彼女―――更識刀奈は、聖杯戦争のためのアーチャーの駒として呼ばれた一夏のサーヴァントだった。
男子生徒の九割が一度は妄想しそうな、幸せ純度120%の学園祭デート風景である。実際、先ほどから何人もの生徒や来場客が、ちらちらと一夏と刀奈のことを見てきていた。ひどい事例になると、許可を取らずに写真を撮ってくる者さえいる。
だが……それが嫉妬や羨望によるものからでないことを、一夏はなんとなく理解していた。
理由は非常にシンプルなものである。
「……はぁ」
一夏は深い溜息を吐き―――自分ののどから漏れた
「何してんだ……俺」
どう聞いても女の子のそれにしか聞こえない声で、そう言う。
今の一夏の装いは、普段のそれとはまったく異なっていたのである。
背をくすぐる長い髪に、ファンデーション、マスカラ、グロスなどでナチュラルに仕上げられた顔。そしてその全身を覆うのは、濃紺のドレスとフリルのいっぱいついたエプロンという、いわゆるメイドさんスタイルだった。
もの凄く簡単に言うと、今一夏の姿は、どこからどう見ても女の子にしか見えなかったのである。
「ねぇねぇ、
一夏の内心など知る由もなく、刀奈が郎らかな声をかけてくる。
一夏はもう一度深い溜息を吐くと、それに応じるようにまたも女の子の声を発した。
◇
夏休みが明け、九月三日。未だに夏の暑さ抜けきらない日の午後のことである。
IS学園の体育館は今、異様な雰囲気に包まれていた。
「それでは、生徒会長から説明をさせていただきます」
壇上に立った生徒会長の更識楯無がSHRと一限目の半分を使っての全校集会の理由を説明する。
近時か行なわれる学園祭ことだ。
IS学園とは言え、ここも学校であるのだ。その為、こう言った行事ごとはある。
とは言っても招待制なためごく一部の一般とVIP、企業の者しか参加できない。
「さてさて、今年は色々と立て込んでちゃってちゃんとした挨拶がまだだったね」
異性すら惚れさせるその笑顔を見せる楯無は今月の一大イベントにある特別ルールを導入したことを発表した。
「名付けて、『各部対抗織斑一夏争奪戦』!」
もちろんこの特殊ルールは一夏は了承している。
理由は生徒会に届く抗議で一夏が部活に所属していないことによることが一番に多く、楯無も少し困っていたのだ。
そこで今回の学園祭で通常のルールにコレを導入した。
本来は部費のボーナスだが、最も投票を多く手に入れた部活に一夏が所属するということになったのだ。
ともあれ、これがきっかけに体育館を揺るがす大歓声に呑み込まれた。
◇
同日、教室にて放課後の特別HR。
今はクラスごとの出し物を決めるため、わいわいのと盛り上がっていた。
「…………」
クラス代表として、俺の意見をまとめる立場にあるんだが―――
(内容が『織斑一夏のホストクラブ』『織斑一夏とツイスター』『織斑一夏とポッキー遊び』『織斑一夏と王様ゲーム』……って、あのなあ)
「却下だ」
ええええええー!! と大音量サウンドでブーイングが響く。
「お前らの頭はどこまで腐っているのだぁ!!」
「別に腐っていないもん!」
「そうだそうだ! これが一組の特権を生かした出し物なんだよ!」
「織斑一夏は共有財産である!」
「他のクラスから色々言われてるんだってば。うちの部の先輩もうるさいし」
「助けると思って!」
「メシア気取りで!」
なんだそれは。
というか、どうしろっていうんだ……。
助けを求めて視線を動かすものの、すでに千冬姉はいない。
『時間がかかりそうだから、私は職員室に戻る。あとで結果報告に来い』
うわあ、優しいお姉様。
「山田先生、駄目ですよね? こういうおかしな企画は」
「えっ!? わ、私に振るんですか!?」
おい、副担任。
「え、えーと……うーん、わ、私はポッキーのなんかいいと思いますよ……?」
やや頬を赤らめながら言う副担任・山田真耶先生。
……くそう、地雷だった。
「とにかく、もっと普通な意見をだな!」
「メイド喫茶はどうだ」
そう言ってきたのは、なんとラウラだった。
……え?
俺だけでなく、クラスの全員がぽかんとしている。
「客受けはいいだろう。それに、飲食店は経費の回収が行なえる。確か、招待券制で外部からも入れるのだろう? それなら、休憩場としての需要も少なからずあるはずだ」
いつもと同じ淡々とした口調だったが、あまりに本人のキャラにそぐわない言葉だったため、俺もクラスのみんなも理解に時間を要した。
「え、えーと……みんなはどう思う?」
とりあえず、多数決を取るにしても反応を見ないことには仕方がない。
しかし、急に振られたせいかクラスの女子全員がきょとんとしたままだった。
「いんじゃないかな? 一夏には執事か厨房を担当してもらえばオーケーだよね」
そう言ったのはシャルロットだった。
ラウラの援護射撃と思われるそれは、見事に一組の女子全員にヒットする。
「織斑君、執事! いい!」
「それでそれで!」
「メイド服はどうする!? 私、演劇部衣装係だから縫えるけど!」
一気に盛り上がりを見せるクラス女子一同。
さすがにこれを鎮めるというか、水を差すのはためらわれる。
(まあ、変わった衣装の喫茶店だと思えばいいか)
「メイド服ならツテがある。執事服も含めて貸してもらえるか聞いてみよう」
そう言ったのは、またしても意外な人物―――というか、ラウラだった。
え? と全員が目を丸くする中、ハッと気が付いて咳払いをするラウラ。
「―――ごほん。シャルロットが、な」
注目されたのが照れくさかったのか、ラウラは僅かに顔を赤らめている。
そして、いきなり振られたシャルロットは困った顔をするばかりだった。
「え、えっと、ラウラ? それって、先月の……?」
「うむ」
「き、訊いてみるだけ訊いてみるけど、無理でも怒らないでね」
不安げに告げるシャルロットに、クラスの女子は声を合わせて『怒りませんとも!』と断言をする。
かくして、一年一組の出し物はメイド喫茶『メイドカフェ☆AIESU』に決まった。