Fate/Infinite Stratos   作:ぬっく~

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第39話

「……っ、う……」

 

小さく唸ってから、一夏はゆっくりと目を開けた。

 

「ここ……は……」

 

視線が霞む。一夏は目を擦るために右手を上げようとし―――眉をひそめた。

右手が、動かない。否……正確に言うのなら、背中で右手首と左手首を繋がれているかのように、腕が身体の前に回ってくれなかった。

それから数十秒。段々と意識が覚醒していく中で、一夏は自分が椅子に座らされ、後ろ手に手錠をはめられていることに気づいた。しかもご丁寧なことに、胴はロープで椅子に括り付けられ、ついでに椅子の脚は鋲で床に固定してある。何があっても一夏を逃がすまいという意図が窺える、執拗な拵えだった。

 

「一体何だよ、こりゃあ……」

 

幸い、目隠しや猿轡はされていない。一夏はぼやくように呟くと、ゆっくりと首を回し、自分がいる場所を見回した。

薄暗い、廃墟の一角のような空間である。ヒビの入った壁材に、一部鉄骨がむき出しになった天井。人の手を離れて長らく時間が経過していることを思わせる様相だった。

一体なぜ自分がこんなところに捕らえられているのか。一夏は根本的な疑問に首を捻り―――すぐに、気を失う直前にあったことを思い出した。

 

「そうだ、俺はマドカに負けて……」

 

と、一夏が言いかけたところで、前方にあった扉が、ギィと音を立てて開く。

その音に弾かれるようにそちらを向くと、そこに、大きなボストンバッグを携えたジャンヌが立っていることがわかった。

 

「ジャンヌ!? おまえが、何故ここに―――」

 

言いかけて。一夏はハッと息を詰まらせた。

 

「まさかおまえが、連れて来たのか」

 

「ええ。そうよ」

 

ジャンヌはそう答え一夏の近くに歩いてくると、ボストンバッグを床に置き、その中を探り始めた。

 

「な、何を……!」

 

一体何を取り出そうとしているのかはわからなかったが、聖杯戦争の参加者である一夏に何らかの危害を加えるものに違いなかった。拳銃、ナイフ、あるいは自白剤の類……様々な想像が、一瞬のうちに一夏の頭の中を駆け巡る。

だが、

 

「―――はい」

 

「へ……?」

 

一夏の予想に反して、ジャンヌが一夏に差し出してきたのは、ミネラルウォーターのペットボトルだった。

 

「な、何だこれ」

 

「水よ。のどは乾いていないかしら?」

 

極めて不自然な状況の中、ジャンヌが極めて不自然な様子で訊ねてくる。その違和感に思わず一夏は眉をひそめていた。

確かにのどは乾いていたが、自分を拉致した相手が差し出してくるものを安易に口にすることは躊躇われた。水を差しだしてくるジャンヌに、猜疑の視線を向ける。

すると、ジャンヌはそんな一夏の様子に気づいたのか、ペットボトルの蓋を開けると、ぐいと一口、中に入っている水を口に含んでみせた。……どうやら、毒の類は入っていないと言いたいらしい。

 

「…………」

 

「……え?」

 

否、違った。ジャンヌは口に含んだ水を飲み込まず、そのまま一夏に唇を寄せてきたのである。

そう。まるで……口移しでもするかのように。

 

「す、ストップ! わかった! もらう! もらうから普通に飲ませてくれ!」

 

「あら、残念ね」

 

ジャンヌは一夏の言葉を聞くと、こくんと水を飲み下し、少し残念そうにそう言った。そして、口の開いたペットボトルを差し出してくる。

 

「はい」

 

「……あ、ああ、じゃあゆっくり―――むぐっ!?」

 

一夏の言葉を最後まで聞かず、ジャンヌがペットボトルを一夏の口にねじ込んでくる。強制的間接キスである。不意を突かれたため抗うこともできず、一夏はそのまま、口内に注がれた水をごくんと飲み下してしまった。

 

「…………」

 

それを確認して、ジャンヌが満足そうに手を引く。

むせるように咳き込んでから再度ジャンヌに視線を向ける。

 

「……で、俺をどうするつもりなんだ?」

 

「私の目的はただ一つよ」

 

最初に会った時のように背筋が凍るような視線を向けると、ジャンヌはぴしゃりと返してきた。

 

「私と契約しなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ?」

 

一夏は思わず声が裏返てしまった。

ジャンヌは一夏の考えていたことは全く別のことを言ってきたのだ。

 

「あら? 私直々のお誘いに嬉しくて声も出なくなってしまったのかしら?」

 

「いやいやいや……つうか、なんでそうなる」

 

「あら、私はこれでもサーヴァントよ?」

 

ジャンヌの言いたいことを一瞬に理解した一夏は「ああ……」と呟く。

サーヴァントはマスターから魔力供給をしなければ、この世界に現界できない。

もちろん、単独行動のスキルを持つサーヴァントであれば数日は問題ないが、他のサーヴァントは魔力量によってはすぐに消えてしまう。

だが、そこで一夏はある疑問にたどり着く。

 

「待ってよ? じゃあなぜ、お前は現界し続けているんだ?」

 

そう。ジャンヌにはマスターがいないのだ。

魔力供給するマスターがいないのだ。外で多少の魔力供給はできるが、それでも全くと言って足りない。

消えても可笑しいはずのジャンヌが今でに消えていないことがどうにもおかしかったのだ。

 

「これよ」

 

そう言って、ジャンヌは右腕にあるブレスレットを一夏に見せる。

 

「私は本来ならばこの世界に現界することはできないわ。しかし、今回の聖杯は不用意に大怪我を負う回数が多かったため、蓋が僅かに開いてしまったのよ」

 

一夏は思い当たる記憶に頭が痛くなる。

 

「そして、臨海学校の時にあなたと強引に仮契約をおこなって、この世界に現界したわ。これは、魔力供給の受信機みたいなものよ。聖杯直々に魔力供給おこなっていたけど、ここ最近から魔力供給が徐々に弱くなっているのよね……」

 

「だから、俺と契約したいと」

 

「そうよ」

 

このまま行けば、ジャンヌはこの世界に現界するための魔力が無く消える。

それはジャンヌにとっては不味いことでもあった。

 

「それで、答えは?」

 

もちろん一夏の答えはただ一つだった。

 

「お断りだ!」

 

「…………」

 

ジャンヌは予想通りといった顔をし、はぁ……とため息を吐く。

 

「この手は使いたくはなかったんだけどね」

 

そう言って、ジャンヌは一夏の前にしゃがみ込むと一夏の顔を押さえる。

 

「な、何を……」

 

今、ジャンヌの顔は一夏の目の前にある。

 

「うっ……」

 

一夏の視界が歪む。ジャンヌとの目線があっただけで、意識が朦朧としてきたのだ。

 

「お休みなさい。そして、次に目覚めた時は、とても素晴らしい日々が始まるわ」

 

ジャンヌは口角を上げ、目から光を失った一夏に契約の呪文を唱えさせる。

 

「―――告げる。汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に。聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら―――我に従え。ならばこの命運、汝が剣に預けよう……」

 

「アヴェンジャーの名に懸け誓いを受ける。貴方を我が主として認めよう、一夏―――」

 

再契約が完了すると同時に一夏の右手の甲に三画の令呪が出現し、それを確認したジャンヌは。

 

「さあ、恐怖劇をはじめよう!」

 

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