「どうして……こうなった……」
アーチャーと出会ってから数か月が経った。
アーチャー曰く、『マスターは貧弱です』と言って、家の中では現界して俺の護衛をしている。
まあ、一人飯をすることがなくなり、それなりに楽しかった。
だが……そんな日常もあっけなく終わる。
「はいっ、副担任の山田真耶です」
俺は今……IS学園にいる。
◇
高校の入試でわざわざ3駅先の会場に行ったのに、どうしてかIS学園の試験会場に来てしまった。
そして、そこでISに触れ……動かしてしまい。
大騒ぎになってしまったことは言うまでも無かった。
なぜなら、ISは……女性にしか反応しないからだ。
男である俺がISを動かしたことにより、藍越学園からIS学園に強制入学することになった。
そして、今に至る。
「―――くん。織斑一夏君」
「はっ、はいっ」
いきなり大声で名前を呼ばれて思わず声が裏返ってしまった。
「あ、あの……」
「少し考え事していまして……自己紹介ですね」
「あ、はい。そうです」
言って、一夏は席を立つ。
「う……」
やはりと一夏は思った。
たかが自己紹介だというのに、クラスの女子の視線が一夏に向けられる。
「えー、えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
一夏は呼吸を一度止め、そして再度息を吸い、思い切って口にした。
「以上です」
思わずずっこける女子が数名いた。
「え? あれ? ダメでした?」
パアンッ! いきなり頭を叩かれた。
「痛ッ」
「お前は自己紹介も、まともにできんのか」
恐る恐る振り向くと、千冬姉がいた。
◇
それかというと、千冬姉の登場に自己紹介は中断。
そのまま、休み時間に突入してしまった。
「一夏、話がある」
突然、話かけられた。
「……………」
「箒?」
目に前にいたのは、6年ぶりの再会になる幼馴染だった。
「なんだ、話って」
「いいから早くしろ」
「お……おう」
すたすたと廊下に行ってしまう箒。
「久しぶりだな、箒」
「え?」
ふと思い出したことがあって、一夏から話を切り出した。
「すぐに箒ってわかったぞ。髪型、昔と同じだしな」
そう言ってちょんちょんと一夏が自分の頭を指差すと、箒は急に長いポニーテールをいじりだした。
「……よく覚えているているものだな」
「そりゃ、覚えてるって」
「そう言えば……去年、剣道の全国大会優勝したってな。おめでとう」
箒は一夏の言葉をきくなり、口をへの字にして赤らめた。
「なっ、なんでそんなこと知ってるんだ!?」
「なんでって、新聞で見たし……」
新聞ぐらい読めよ。
「引っ越して以来、それっきりだったけど、親父さんは元気か? あと……束さんも」
「……あの人は……私とは関係ない……」
「? 束さんと……何かあったのか?」
キーンコーンカーンコーン。
二時間目の開始を告げるチャイムが鳴ったのだ。
「時間だ、戻るぞ」
ぷいっと一夏から顔をそらし、また来たときと同じようにすたすた歩き出す箒。
「あっ、おい!!」
どうやら、この幼馴染の一夏を待つ気はないらしい。
「……なんだ、あいつ」
◇
「それでは、この時間は実践で使用する各種装備の特性について説明を……ああ、その前に」
ふと、思い出したように千冬が言う。
「再来週のクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
どうやらクラス長を決めるらしい。
「は―――い!! 織斑くんがいいと思います!」
「おっ、俺!?」
「そーね。せっかくだし」
「ナイスアイデア」
「私もそれがいいと思います」
「ちょっと待った。俺そんなの」
「自薦他薦は問わない。他に候補者はいないか? 無投票当選になるぞ? ちなみに他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」
「い、いやでもっ」
反論を続けようとした一夏を、突然甲高い声が遮った。
「納得できませんわ!!」
バンッと机を立ち上がったのは地毛の金髪が鮮やかな女子だった。
「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表なんて、いい恥さらしですわ! このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと仰るのですか!? 実力から行けば、わたくしがクラス代表になるのは必然です!」
正直、一夏はこの手合いは苦手だった。
今の世の中、ISのせいで女性はかなり優遇されている。優遇どころか、もはや女=偉いの構図にまでなっている。
つまりそういう、いかにも現代の女子が目の前にいたのだ。
「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、それはわたくしですわ!」
興奮冷めやまぬ―――というか、ますますエンジンが暖まってきたセシリアは怒濤の剣幕で言葉を荒げる。
「何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」
「?」
「イギリス代表候補生でもあるわたくし以上に相応しい人間はいないはずですわ」
「入試ってあれか? ISを動かして戦うやつ?」
「それ以外に入試などありませんわ」
「俺も倒したぞ、教官」
「なっ!?」
アレを倒したに入れていいのかわからないが、結果がすべてならアレは倒したことになる。
開始と同時に突っ込んできたところを避けたら、勝手に壁にぶつかって終了したアレを。
しかし、一夏が言ったことが相当ショックだったのか、セシリアは目を驚きに見開いている。
「あなた! あなたも教官を倒したって言うの!?」
「えーと、落ち着けよ、な?」
「これが落ち着いていられますか!!」
「わざわざこんな島国にまで来たうえに極東の猿と比べられるなんて……このような屈辱、耐えられませんわ!!」
「イギリスだって島国だし、大してお国自慢ないだろ」
「なっ!?」
怒髪天をつくと言わんばかりにセシリアは顔を真っ赤にして怒りを示していた。
「あっ、あっ、あなたねえ!? わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
バンッと机を叩くセシリア。
「決闘ですわ」
「いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」
「おちつけ、馬鹿ども。とにかく、話はまとまったな」
ぱんっと手を打って千冬が話を締める。
「勝負は一週間後の月曜日。放課後、第三アリーナで行う。それぞれ用意をしておくように」
「「はい」」
一夏とセシリアはそう言って、大人しく席に着いた。
◇
放課後になり、山田先生から寮の鍵をもらったので一夏は寮に向かっていた。
「参ったな……」
買い言葉、売り言葉でセシリアの決闘を買ってしまった。
しかも、相手は代表候補生……つまり、一夏より多くの時間をISにつぎ込んでいるのだ。
対して一夏はせいぜい3時間弱しかISを稼働させたことがない。
目に見えた結果が一夏を襲っていた。
「アーチャーはISに詳しくないだろうし……どうしたらいいものか」
アーチャーは普段リビングのソファーに寝転がってテレビを見ている。そんで、「今日の晩御飯なに?」と聞いてくるのだ。本当に仕事をしているのかと疑いたくなってくるが、なんだかんだで晩御飯を作ってしまう。もちろん、狐の面だけは何故か外さない。
そう、一夏は一度もアーチャーの素顔を見たことがないのだ。
ご飯を食べる時は、口元の所がない仮面にいつの間にか替えて食べている。
本当にアーチャーって、何者なんだろう……。
「ん?」
一夏はその場で足を止めた。
ふと、目を向けると剣道場が見えたのだ。
「誰かいるのか?」
当たり前だが、剣道場から声が聞こえたのだ。
しかし、入学当初から部活動をやる生徒などいない。
そのため、一夏はそのまま、寮ではなく剣道場の方へと歩いて行ってしまった。
「せい! やあ!」
一夏は恐る恐る、道場の中を覗く。
道場の中では一人の女性が竹刀を振っていた。
セシリアと同じ金髪の女性が竹刀を両手で握り、まるでそこに誰かがいるかのように振っていたのだ。
そして、女性は竹刀を振るのを止め、顔をこちらに向けた。
「そこに隠れている者。出て来たらどうです」
どうやら、ばれていたらしい。
一夏は決心を決め、道場の入り口に立つ。
「何をしていたのですか? 今日は入学式があった日ですよ?」
「ええ。まあ、これは日常の一環でしたので……つい」
女性はどうも、道場が見えたので思わず振ってしまったらしい。
一夏もそれを聞いて、思わず笑ってしまった。
「織斑一夏です」
一夏は自分の名前を名乗る。
そして、女性は……
「アルトリア。アルトリア・ペンドラゴン」
そう名乗った。