太陽の女神とその眷属   作:神納豆

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久しぶりの人はお久しぶり、初めての人ははじめまして、神納豆です。

この作品に目を止めてくれてありがとうございます!

ではどうぞ!


プロローグ

 

 

「それは本当なのか?」

 

薄暗い部屋の中に男の声が響く。

 

「ああ、本当だ。私が占って、その結果をこの目で見たんだ、間違いないよ」

 

今度は女の声が響く。

 

「それにしても物騒な占いだな、何だっけ?『道化に災禍来たれり』だったか?道化で思いつくのは俺は一つしかないが」

「おそらくお前が考えておるものと同じだろう」

 

部屋には灯りがなく、窓にかかっているカーテンの隙間からの陽光しか光源がない。

 

「確かアイツらは今遠征中だろ?異常事態(イレギュラー)か?」

「だろうな。そこでだお前を呼び出したのは——」

「分かってるよ、救援に行って恩を売って来いって言うんだろ?」

「ふふっ、分かってるじゃないか。一緒に行くメンバーはお前が決めな。それじゃ無事に帰ってくることを祈ってるよ」

「はいはい、分かりましたよ主神様。俺と他に二人連れて行ってきますよ」

「行ってらっしゃい」

 

そうして男は部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

此処は迷宮都市オラリオ。

世界で唯一のダンジョンが存在し、神が降臨した世界。

神がもたらした『恩恵』を持った人類(こども)たち——冒険者——が富を、名声を、未知を求め、地底のモンスターと鎬を削る。

時は今、神時代。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョン深層域(ディープラウンド)49階層。今ここでは凶悪なモンスターと複数種族の亜人(デミ・ヒューマン)とヒューマンの一団が争っていた。

 

山羊のようなねじ曲がった二本の大角。馬面の醜悪な顔面に真っ赤な眼球が蠢いている。巨人のような巨躯を持った怪物——フォモール——の大群がが咆哮を轟かせながらその太い腕に鈍器を持ち、津波が如く目の前の小さな者たちを押し潰さんと進撃している。

 

その進撃を受け止めるのは掲げられた多くの大盾。踵を地面にめり込ませながらも、自分たちの後ろに行かせまいと力の限りを尽くす。後ろの後衛では矢や魔法を絶え間なく打ち込んでいる。前衛と後衛の間には風にはためく道化師(トリックスター)のエンブレム。オラリオでもトップクラスの実力を誇る【ファミリア】の一つだ。彼らは遠征の真っ最中、未到達階層を目指し此処49階層まで来たのだ。

 

「ティオナ、ティオネ!左翼支援急げッ!」

 

小柄な少年——小人族(パルゥム)の首領が支持を飛ばす。

 

「あ~んっ、もう体がいくつあっても足りなーいっ!」

「つべこべ言わずに働きなさい」

 

支持を受けたアマゾネスの姉妹がフォモールたちを斬り伏せる。だか、それでもまだフォモールの大群は尽きることがない。盾を構える前衛の陣形は押されておりその半円は小さくなっていく。

 

「リヴェリア~ッ、まだなの~!?」

 

その声の向かう方向、後衛の中心には細く尖った耳を生やした絶世の美貌を持つエルフの女性が杖を水平に構えて詠唱を紡いでいる。

 

「【——間もなく、()は放たれる】」

「【忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む】」

 

彼女の足元の魔法円(マジックサークル)は翡翠色に輝き、その光を強くしていく。

 

「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火】」

 

詠唱を耳にしてファミリア全員が力を振り絞る。しかし、その詠唱に反応したのは彼らだけではなかった。

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウッッ!!』

 

フォモールの群れの中で一番の巨体を誇る個体が仲間を巻き込みながら猛進する。その攻撃は前衛の一角に吸い込まれて炸裂、辺りを吹き飛ばす。

 

「——ベート、穴を埋めるんだッ!急げッ!」

「ちッ、クソッタレが何やってやがる!?」

 

吹き飛ばされた穴を狼人(ウェアウルフ)の青年が塞ごうとするが幾匹かのモンスターが侵入する。後衛の魔導士達にフォモールの攻撃が炸裂する。

 

「レフィーヤッ!?」

「——ぁ」

 

『グルルルルルゥ……!』

 

転んでしまった少女に前衛の壁を破壊した超大型のフォモールが迫る。巨大なフォモールは手に持った鈍器を振りかぶる。

 

直後。

 

サンッ

 

フォモールの首が飛ぶ。

 

フォモールを一瞬で屠った長い金髪の女剣士が剣を振る。

 

「アイズ!」

 

アイズと呼ばれた彼女は尻餅をついたまま放心している少女の無事を確認するとモンスターへと走る。侵入したフォモールを全てを一撃必殺で全滅させる。

 

「え、アイズ、待って!?」

 

アマゾネスの少女の制止を振り切り、前衛の盾を飛び越えてフォモールの大軍へと突っ込む。

 

「……すっげえ」

 

誰かが呟く。

 

斬撃の嵐。その嵐の中に入ったモンスターたちはその体を次々と斬り裂かれ絶命する。その中心には多くの者に畏敬の念を抱かせる【剣姫(けんき)】の姿があった。

 

「【汝は業火の化身なり】」

「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」

 

皆が待ち望んでいた魔法の詠唱が完成に近づく。

 

「アイズ、戻りなさい!」

 

その声を聞いたアイズは跳躍。自陣の中央に着地する。

 

「【焼きつくせ、スルトの剣——我が名はアールヴ】!」

 

音が弾け、魔法円(マジックサークル)が拡大し、アイズ達の、全てのフォモール達の足もとにまで広がった。

効果範囲は全戦域。

そしてエルフの魔導士、リヴェリアが『魔法』発動する。

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

大炎。

 

天に昇る炎柱。フォモール達を丸呑みにし、その体を焼き尽くす。劫火にモンスターが消え、絶叫が響きわたる。

 

広範囲殲滅魔法。熱気と火の粉によって世界が灼熱に満たされる。全てを紅く染め上げる中、アイズ達『冒険者』顔も緋の色に染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア、アイズさん!」

 

山吹色の髪を後ろでまとめた少女がアイズを呼び止める。髪から覗く尖った耳、容姿端麗なエルフの少女だ。

 

「さ、先程は助けて頂いて、ありがとうございました!いつもいつも足を引っ張ってしまって……そのっ、あのっ、すみませんでした!」

「……レフィーヤ、怪我は大丈夫?」

 

そう尋ねるアイズに何度も頭を下げるレフィーヤ。感情の表現が苦手なアイズは困り果ててしまう。考えた末にレフィーヤの山吹色の髪に手を置き、ゆっくりとぎこちないが優しく撫でる。泣きそうになるレフィーヤはアイズが持っていた天幕の布地を「も、持ちます!」と言って奪う。

 

「——アーイーズ!」

「ティオナ……」

 

ティオナと呼ばれた少女がアイズに飛び付く。健康的な小麦色の肌。その顔立ちは整っており、彼女持ち前の快活さが十二分に滲み出ている。服装はアマゾネス特有の踊り子のような衣装で、露出が多い。上は薄い胸周りを覆う布一枚、腰には長いパレオを巻いている。腹回りやしなやかな肢体をおしみなく晒している。

 

「何してるの、レフィーヤ?アイズに慰めてもらってた?気にしない方が良いのに、大荒野(モイトラ)で怪我しない方が珍しいんだから。で、アイズは何であんな無茶したの?」

「……」

「あたし止めたのに。壁を維持するだけでも良かったのに、そんなにあたし達は頼りない?」

「……ごめん」

 

アイズは彼女を心配させたことも含めて謝るしかなかった。ティオナはぶーぶー言いながらアイズに抱きつく力を強くする。が、それは長くは続かなかった。頭部に獣耳、腰から尻尾を生やす鋭い毛並みの狼人(ウェアウルフ)の青年がティオナを蹴り付けたからだ。

 

「痛ーっ!?何すんのさベート!」

「気色悪いもん見せんじゃねぇよ。寒気がする」

「うるさいよ!このアイズにちょっかい出したいだけの格好付け!」

「なっ、この野郎、喧嘩売ってんのかッ!?」

「やーい、図星ぃーっ!残念狼ぃーっ!ヘタレベートォー!」

「このっ、ど貧相アマゾネスがぁああああああああああああ!?」

「ど貧相言うなぁああああああああああああ!!」

 

どんどんヒートアップしていくベートとティオナの口喧嘩にオロオロするレフィーヤ。場は一瞬で混沌と化していた。

 

「見当はつくけど一応聞いとくわ、何やってんのよあんたら」

「……ティオネ」

 

騒ぎを聞きつけたアマゾネスの少女がアイズの隣に来る。腰まで届く長い髪型と雰囲気、後は一部の胸囲(たいかく)を除けば、ティオナと瓜二つだ。彼女はティオナの双子の姉、着ている服もほとんど同じで同じ髪型、同じ服装をすればどっちがどっちか分からないだろう。

 

「アイズ、団長が呼んでたわよ。あれは私がやっておくから」

「……ごめんね」

「いいから、さっさと行きなさい。——あんた達、遊ぶ暇があるなら野営の準備を手伝いなさい」

 

アイズはその場から立ち去り、準備中の野営地を進む。目指している大きな天幕の横にたっている旗には滑稽な道化師(トリックスター)が刻まれている。

 

【ロキ・ファミリア】。

 

アイズ達の所属するファミリアの名だ。

迷宮都市オラリオの中でも一二を争う強さを誇るファミリアだ。今はダンジョンの未到達階層を開拓するための遠征中なのだ。

 

「フィン」

「来たね、アイズ」

「がははっ、今ちょうどお主の話をしておったところだ」

「ガレス……今は笑うな」

 

天幕に入ったアイズを迎えたのは三人の亜人(デミ・ヒューマン)

レフィーヤと同じ容姿端麗なエルフの女性、リヴェリア・リヨス・アールヴ。

たくましい筋骨隆々な体付きをしたドワーフ、ガレス・ランドロック。

そして通常の人間の半分の背丈しかない小人族(パルゥム)の少年、フィン・ディムナ。

この三人が、【ロキ・ファミリア】の最高幹部たちである。

 

「さてと、単刀直入に聞くよアイズ。どうして前線維持の命令に背いたんだい?」

 

深い知性を感じさせる碧眼がアイズを射抜く。誰よりも幼い外見であるが彼が【ロキ・ファミリア】の団員全てを統括するトップだ。

 

「アイズ、君は強い。幹部である君の行動は少なからず下の者達に影響を与える。それを覚えてもらはないと困る」

「………」

「その立場は窮屈かい?」

「………ううん、ごめんなさい」

 

フィンの碧眼に心を見抜かれたアイズは素直に反省して謝る。

 

「アイズ、()()()()()()()()()。ここでは何が起きるかわからない。そして皆が皆君のようには動くことは出来ないんだ、その事は頭に入れておいてくれ」

「……うん、分かった」

「その様子だと、ティオナかティオネ辺りに絞られたんだろう。行っていいよ」

 

アイズは一度頭を下げてから天幕を出る。また今度は来た道を辿りながら準備中の野営地を進む。

 

「おい、馬鹿ゾネスっ!?何でてめえはテントの一つも張れねえんだよ!」

「う、うるさい!?ベートの教え方が悪いんじゃんかー!?私は悪くないもん!」

「レフィーヤ、あのバカ達はいいから、人を集めて炊事をお願い」

「は、はいっ、わかりました」

 

そんな光景を目にしながらアイズはふらりと野営地の外れまで歩く。広がるのは灰色に染まった木々の群れ。この階層の至るところを埋め尽くす樹木の間には青い水の流れる川が葉脈状に走っている。【ロキ・ファミリア】が野営地に選んだのは10M(メドル)程もある一枚岩の上だ。そこからアイズは景色を眺める。

 

現在地、ダンジョン50階層。

 

数多くの冒険者や【ファミリア】が存在する中で最前線とも言える。未だ多くの冒険者が見たことがない景色をアイズはずっと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、これからの事を確認しよう」

 

食事を終えた【ロキ・ファミリア】の面々が団長であるフィンに目を向ける。

 

「遠征の最大の目的である未到達階層の開拓、これに変わりはない。けれど、途中で冒険者依頼(クエスト)をこなしておく必要がある」

冒険者依頼(クエスト)って……確か、【ディアンケヒト・ファミリア】からのものですか?」

「そうだ。51階層にある『カドモスの泉』から要求量の泉水を採取する」

「『カドモスの泉』かぁー……面倒くさーい。何でそんなの引き受けちゃったの?」

「魅力的な報酬だったし、ファミリア同士の付き合いもあるからな、無視はできない」

「ちっ、あいつら面倒なやつよこしやがって……。よりにもよってカドモスかよ……」

 

フィンとリヴェリアの説明にベートが悪態をつく。不満が出尽くしたところでフィンが計画を伝える。

 

「『カドモスの泉』には少数精鋭のパーティを二組送る。無駄な消耗を避け、速やかに泉水を確保してこの野営地に帰還する。質問はあるかい?」

「はーい!何でパーティを二つにするの?」

「泉水の注文量が厄介でね、二つの泉を回らないと足りないんだ」

「それに物資にも限りがある。59階層に行くためにも時間をかけずに効率的に進めねばならんのだ」

 

フィンとガレスが説明する。

 

「『カドモスの泉』には大人数では行けないからね。戦力が低くなるけど小回りが利いた方がいい。他に質問があるかい?ないなら、メンバーを選出する」

 

ティオナが挙手して立候補する。

 

「はーい!あたしやる!アイズも一緒にやろう!」

「うん」

「そもそも少数精鋭なんだからわたしたち実力者以外に誰が行くのよ」

「じゃー、ティオネもこっち!」

「ちょ、まっ、私は団長と……!?」

 

ティオナがさっさと三人決める。リヴェリアはフィンの指示で拠点に残って防衛。先の戦いで魔力を消耗しているためその回復も兼ねている。

 

「レフィーヤ。私の代わりにアイズ達のパーティに入れ」

「はいっ!……って、えっ!?私ですか!?」

「レフィーヤもこっちだねー!」

 

ティオナに捕まり異議を封じられる。

 

「これじゃと残りで編成するしかないのう。フィン、ベート、儂じゃろ……後は」

「ラウル、サポーターでこっちに入れ」

「って、自分っスか!?」

「お前以外にラウルはいねぇだろうが」

 

こうして少数精鋭の各四人パーティが完成した。

一班:アイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤ

二班:フィン、ベート、ガレス、ラウル

 

「……おい、あいつら大丈夫か?」

「ンー……」

 

アマゾネスの狂戦士(バーサーカー)であるティオナ、『戦姫』という非公式の渾名のあるアイズ。猫をかぶっているがティオナ以上に凶暴なティオネ。そんな彼女らを格下で気の弱いレフィーヤが御しきれることは不可能だ。

 

「……ティオネ、君だけが頼りなんだ。僕の信頼を裏切らないでくれ」

「——お任せくださいッッ!!必ずや団長の信頼に応えてみせますッッ!!」

「……ティオネちょろーい」

 

フィンにぞっこんのティオネは何のためらいもなく了承する。そんな姉を見て妹が呆れ顔で呟いていた。

 

 

 

 

 




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