太陽の女神とその眷属   作:神納豆

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異常事態(イレギュラー)

 

 

 

「ねぇねぇ、今日あんまりモンスターと出くわさないよね」

「出くわさないならそれに越したことはないでしょ。戦わなくていいなら、願ったりよ」

 

数時間の休息を取り、51階層の『カドモスの泉』を目指して出発したアイズ達、モンスターとの戦闘を消化しながら進んでいた。

 

「そろそろ泉ね……今の内に注意事項を確認しとくわよ。目的は泉水を確保すること、だけど強竜(カドモス)との戦闘は避けられないわ」

「あの、強竜(カドモス)ってそのものすごく強いんですよね」

「パワーだけならこれまでのモンスターの中でも一番かなー」

「やり過ごせないんですか?」

「無理よ。泉水だけ手に入れて逃げようってんなら間違いなく、死ぬわ」

「あたしなんて吹っ飛ばされてさー、体中がぐちゃぐちゃになったことあるしねー」

 

ティオナの体験談に血の気が引くレフィーヤ。そんな彼女を見てティオネは作戦を伝える。

 

「アイズとティオナ、私の三人が強竜(カドモス)を抑え込む。レフィーヤはでかい魔法を撃ち込んでちょうだい。魔法で怯んだところを私達が畳みかけて仕留める。それから泉水の採取よ」

「……分かった」

「レフィーヤ、期待してるよー!」

「は、はいっ」

 

泉へと続く道の終わりは目と鼻の先だ。この先の広間——ルーム——に強竜(カドモス)の守護する泉がある。ティオネを先頭にして進む一行。パーティに緊張が走り、ティオネの合図を待つ。

 

だが、アイズが違和感に気付く。

 

「……おかしい」

「えっ?ちょ、ちょっと、アイズっ」

「静か過ぎる」

 

違和感を確かめるべくルームに足を踏み入れる。その先には惨状が広がっていた。生えていた木はほとんどがへし折られ、地面や壁には何かが暴れたような罅が入り、破片が散乱していた。

さらにルームの至るところに溶かされたような跡がある。濃い紫に変色した木々からは今も黒煙と一緒にすさまじい異臭が漂っていた。

ルームの奥には破壊の爪痕が全くなく、まるで聖域のように守られた泉があった。神秘的な光景を創り出している泉の前には、大量の灰。

 

「……強竜(カドモス)の、死骸?」

 

莫大な量の灰はここを守護していたはずの竜の巨体の規模とほぼ等しい。周囲の状況から見てもこの灰が強竜(カドモス)だったものに違いない。

 

「ドロップアイテムが回収されてない……」

「どういうこと?」

「この強竜(カドモス)を殺したのが冒険者じゃないってことよ。つまり、冒険者じゃない何かがここにいたのよ、しかも強竜(カドモス)を殺せるほどの奴がね」

 

沈黙が落ちる。

 

「とにかく、嫌な予感がするわ。早いとこ戻りましょう」

 

ティオネの言葉に従いルームを出た直後——

 

『——あああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!?』

 

凄惨な人の絶叫が迷宮に木霊する。その悲鳴にアイズ達は弾かれたように加速する。

 

「今の声って!」

「ラウル……!」

 

通路を幾度も曲がり、悲鳴の方角へと走る。するとアイズ達の視界にモンスターの姿が飛び込んできた。

ぶくぶくと膨れ上がった柔らかそうな黄緑色の表皮に、ところどころには極彩色が刻まれておりその毒々しさを増している。下半身は無数の短い多脚からなり、芋虫と似た形状をしている。上半身は小山のようで扁平状の腕が左右から伸びている。そんなアイズ達ですら見たことのないモンスターが迷宮の壁や天井を削りながら進んでいた。

 

「団長っ!?」

「っっ!」

 

「止せ、ティオナ!」

 

フィン達がモンスターから逃げているのを見てティオネが叫ぶ。ティオナはモンスターの進撃を止めようと制止を振り切り、斬り掛かる。しかし——

 

じゅぅっ。

 

彼女の愛用している大双刃(ウルガ)の片方の剣身が敵の体に埋まったことにより跡形もなく溶けたのだ。

 

『——————————————————ァァ!!』

 

モンスターが咆哮を上げ、腐食液を吐き出す。ティオナはすぐさま回避しフィン達と共に逃げ出す。

 

「ちょっと何あれー!?何で教えてくれなかったのー!?あたしの大双刃(ウルガ)が〜!?」

「フィンが止めてただろうが、この馬鹿ゾネス!!」

 

精鋭集団全員での猛退散、内一人にいたっては涙目である。

 

「僕達もあのモンスターの突然襲われてね、こうして逃げてきたんだ。それにあのモンスターは近付いたものは何であれ全て襲っている、モンスターでもお構い無しだ」

「団長、実は私達が向かった『カドモスの泉』が荒らされていました。強竜(カドモス)も倒されてドロップアイテムだけが」

強竜(カドモス)まで倒すとはね。これは決まりかな。とりあえずラウルの治療を早くしないと。

このまま速度を限界まで上げてあのモンスターを振り切る。そのまま野営地点まで撤退するぞ」

 

フィンの指示に従い速度を上げる第一級冒険者達。

 

「ただの杞憂だといいんだけど……」

 

そう言ってフィンは自身の右手の親指をぺろりと舐める。その顔はとても深刻なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野営地に戻ったアイズ達を待っていたのはおびただしい程の数の芋虫型のモンスターだった。

キャンプを襲っているモンスターを全て倒すも、新たに人形のモンスターが現れる。芋虫型と同じ下半身だが、上半身は滑らかな線を描く人型。二対四枚の扁平状の腕、後頭部からは管のような物が何本も垂れ下がっている。さらにその攻撃は厄介なものがあり、四枚の扁平状の腕から出る爆発する鱗粉に芋虫型モンスターと同じ腐食液攻撃を繰り出してくる。

 

フィンはこのモンスターを相手に撤退する事を決定し、アイズに時間稼ぎを命令していた。そして撤退完了し、今目標撃破の許可が出された。

 

その途端にモンスターを圧倒し出すアイズ。片側の足を全て斬り落とし、更には腕も斬り落とす。落ちた衝撃で鱗粉が舞い上がり、爆発。その爆発が更に爆発を呼び、女体型モンスターが炎に包まれる。

 

その隙にアイズは己の魔法『エアリアル』を最大出力にする。キャンプがあった一枚岩に着壁し、一気にその嵐を身にまとい開放する。

 

「リル・ラファーガ」

 

一撃必殺の矢はまさに、神風。

残った腕を重ねて盾にするも、それごと貫き穿つ。風穴を開けられた女体型はその全身を膨張させ、芋虫型モンスターとは比べものにならない、桁外れの大爆発を起こした。

 

アイズの戦闘を見守っていた【ロキ・ファミリア】にまでその余波が届くほどの爆発。50階層が火の海になる。その炎を風で割りながら歩み出てくるアイズ。その少女の姿を目にした途端、空気が割れんばかりの大歓声が巻き起こった。

 

顔をほころばせるレフィーヤ。そんなレフィーヤに抱き着くティオナ。その妹の様子に呆れるティオネ。若干不満そうだがうっすらと安心が見え隠れしているベート。大声で笑うガレス。微笑を浮かべるリヴェリア。軽く息を吐き安堵の笑みを浮かべるフィン。

 

様々な反応を示す皆の顔は喜びと安堵の表情だ。

 

 

だが——

 

ピシッ

 

 

その音は小さいものだったが、この深層まで到達できる冒険者達の耳には充分聞き取れる音量だ。その音はどんどん増え、大きくなっていく。今まで幾度となくダンジョンに潜ってきた彼らにとってその音はとても馴染み深く、そして不吉の前触れの様なものだった。

 

 

『————————————————————————————————ァァァァ!!!!』

 

 

アイズが女体型を撃破して出来た火の海が治まってきた場所の地面が割れ、先ほどと同じ女体型が姿を現し、同時に芋虫型モンスターも溢れ出てきた。さらには今から通ろうとしていた49階層へと繋がる道も芋虫型モンスターで埋め尽くされてしまった。

 

「おいおいおい!?何でまた出てくるんだよ!?」

「ここは安全階層(セーフティポイント)じゃなかったの!?」

異常事態(イレギュラー)ってこと?」

「まずいな、退路が塞がれた」

「どうするんじゃ?もう武器も物資もほとんど残ってないぞ」

「アイズも戦闘を終えたばかりだ、精神力(マインド)が回復していない」

「アイズとリヴェリアは出来るだけ精神力(マインド)を回復させるんだ。それ以外は時間を稼ぐんだ、急げ!」

 

ロキ・ファミリアの面々が驚愕しているなか、フィンが冷静に指示を出す。女体型とは距離があるためすぐに戦闘になる事はないだろうが、芋虫型モンスターは背にしていた通路から出現したためすぐさま接敵するだろう。

ロキ・ファミリアと芋虫型モンスターの距離が10M(メドル)になった時——

 

「【火生三昧】!!」

 

炎が弾けた。

 

蒼い炎。その炎は芋虫型モンスターを呑み込み焼き尽くした。呆気にとられるロキ・ファミリアを前に炎は治まっていきその奥から三人の人影が歩み出てきた。

 

「相変わらず派手だよねぇ、燐君の魔法。まぁ、ボクは綺麗で好きだけどなぁ」

「おうっ!ありがとな!」

「お前ら気抜くんじゃねぇぞ、ここはダンジョンだ。何が起こるか分からねぇからな」

「はーい!」「分かってるって」

 

右端はまだ年端もいかない少女。乳白色の肌。長く伸びたストレートの髪は、濡れ羽色のような艶やかなパープルブラック。胸部分を覆うアーマーは柔らかな丸みを帯び、金属特有の光沢がある。その下には青紫のチュニックにロングスカート。腰には黒く細い剣が鞘に収まっている。

 

左端は少女よりかは年上だろうが16、17ほどの青年。黒く短い髪から覗くのはエルフのように鋭く尖った耳。だが、腰から生えている黒く細長い尻尾が彼がエルフではない事を言外に語っている。黒のインナーに蒼いロングコート、黒い長袖のズボンといった出で立ちに背中に鞘を背負っている。手や脛に防具を付けているがほとんど金属装備が無い。手には剣というよりも刀が握られている。一番の特徴はその身体と武器から立ちのぼる蒼い炎。芋虫型モンスターを殲滅したのは彼のようだ。

 

真ん中は20代後半から30代前半ほどの歳の狼人(ウェアウルフ)。白銀の長髪には獣耳があり、腰には髪と同じ色の尻尾が生えている。黒い着流しに黒い帯、黒い篭手と黒一色の服装に装備が彼の白銀の髪を更に際立たせる。帯には刀が2本帯刀されており、その雰囲気から一級品装備と思われる。落ち着きがあり、他の二人の引率のような感じだ。

 

彼らの背中には青年は紅、少女と狼人(ウェアウルフ)は白でエンブレムが刻まれている。鏡に柄の端に勾玉が付いた剣が映っているエンブレム。【ロキ・ファミリア】と同じ、又はそれ以上の実力を誇る一大派閥のものだ。その名は——

 

「【アマテラス・ファミリア】」

 

フィンがそのファミリアの名をつぶやく。

 

「よう、フィン。生きてるか?」

 

狼人(ウェアウルフ)の男——テンペスタ・フィール——がおどけたように言う。

 

「Lv.4の【蒼炎の悪魔(サタン)】奥村燐にLv.5の【絶剣(ぜっけん)】ユウキ、それに【神速の銀狼(フェンリル)】って確か——」

「——Lv.7」

 

Lv.7。その言葉が指す意味は単純明快、数多くいる冒険者の中で最も高い位置にいる存在。オラリオの中でたったの()()しかいない頂点。そのうちの一人が今この場にいるのだ。

 

「何故君がいるんだい?テンペスタ」

「なに、うちの主神様の占いでな。というか今はそんなことを話してる暇はないだろ。あのデカブツを何とかしねぇといけねぇんじゃねぇの?」

 

今も女体型はこちらに向かって進んできている。アレを何とかしない限りこの階層からは出られないだろう。

 

「そこでだ、フィン。俺達がアイツらを倒してやるよ」

「何だと?テメェ、嘗めてんのか!?」

「黙ってろよ。俺はフィンと話してんだよ、引っ込んでろ、駄犬」

「この野郎っ!?」

「悪いが止めさせてもらうぜ」

「団長には指一本触れさせないよ」

 

テンペスタに近付こうとしたベートに燐とユウキが己の武器を向ける。

 

「少し抑えてくれベート」

「フィン!?何故止める!?」

「今は一刻を争う事態だ、言い争っている時間は無い」

「お前達も武器を収めろ。話を戻すぞ、あのデカブツ共を俺達で始末する。お前達は無事に生きて帰れるし、団員を危険にさらさなくて済む。俺達は【ロキ・ファミリア】に恩が売れて、うちの団員の経験を積むことができる。どうだ?悪い話じゃないだろ?」

「………分かった、その話受けるよ」

「団長っ!?どうしてっ!?」

「さっきガレスが言ってたように僕達には武器も物資も足りない。それに加えてあの女体型とまともに戦えるのはアイズだけだ。しかもそのアイズも今は消耗してるし、魔法を撃とうにもリヴェリアとレフィーヤは精神力(マインド)が回復していない。それに他の魔導士だと火力に欠ける。今はこの申し出を受けるしか方法がないんだ」

 

全てフィンの言う通りだった。【ロキ・ファミリア】は消耗しすぎている。物資においても団員においても。この状態で戦えば苦戦するのは必然、最悪死人が出るかもしれない。フィンはファミリアの団長として団員を危険にさらす真似は出来なかった。

 

「よし、なら役割分担するか。ユウキと燐であのデカブツを片付けろ。俺は周りの雑魚をやる。質問は?」

「止めはどっちが刺すんだ?」

「あ?そんなの勝手に決めろ。もう質問はねぇな?ならさっさと行け!!」

「おうっ!」「任せて!団長!」

 

ユウキと燐が走り出し女体型へ向かっていく。テンペスタは刀の一本を抜き待機している。

 

「テンペスタ」

「ああ?なんだよこれから忙しくなるんだから早めに済ませろよ」

「どうして君が行かなかったんだい?君の方が早く倒せるだろう?」

「ん?ああ、確かに俺がやれば早く終わるだろうよ。けどな燐の方があと少しでレベルアップなんだよな。だから今回の件で連れて来たんだよ。アイツの能力はなかなかに便利だからな」

「なるほどね」

「理解したなら下がってろ、溶かされたいなら別だがな」

 

巨体を揺らしながら進む女体型。それに対するはLv.4冒険者【蒼炎の悪魔(サタン)】奥村燐とLv.5冒険者【絶剣(ぜっけん)】ユウキ。一箇所にかたまったロキ・ファミリアに迫る芋虫型モンスター。そしてその前に立ち塞がるのは迷宮都市オラリオ最強の一角、Lv.7冒険者【神速の銀狼(フェンリル)】テンペスタ・フィール。

 

開戦の火蓋が今、切って落とされた。

 




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