今回は共也と仙が幼稚園の年長組だった頃に初めて会ったお話です。
世界は退屈だ。人の生死に価値はない。生きたければ延命するし死にたければ自殺する。殺したければ殺害するし殺されたくなければ抵抗する。
現代で殺人拳を習わされた俺はそう思ってた。
殺人拳と言っても現代で振るえば確実に社会によって殺される。重火器の発展は誰もが殺傷能力を手に入れ、格下だろうと運が悪ければどんなに強くても死に至るからだ。
だから殺人拳の継承をする際に殺人衝動が芽生えない様に教育される。誰かを守る達成感で殺人を誤魔化せない様に弱者を介入させず、殺人に意味を見いだせない様に作業の様に殺させる。楽しくなければやりたくない様に殺人は楽しい物でないと刻んで殺人衝動を芽生えさせない。
現代社会に適応した殺人拳を何事もなく自分の代まで継承されてきたのだ。そして精神が成熟してるからこそ周りの幼児に付き合うのが苦痛だった。
「明日からまた幼稚園か…退屈だ……」
血塗れになり骸となった軍人で積み上げられた人間の山に座る幼い子供である鳴神 共也は溜め息をついた。
「共也君は遊ばないの?」
「本読んでた方が楽しい」
幼稚園の先生に訊ねられる。周りの年長組が外で遊んでいる中で俺は本を読んでいた。遊ばない理由は本気で遊べないので満足出来ないからだ。誰だって手を抜いて遊ばないといけないのは欲求不満なだけだ。
外の子達はボールを蹴って遊んでいるが俺の場合、大木を一撃で蹴り折る訓練をさせられているのだ。因みに大木を蹴り折る脚力でボールを蹴ったらコンクリートの壁にボールがめり込んだので勿論、参加なんか出来ない。俺がやったらゴールキーパーごとゴールにぶちこむ駆け引きとか技術とかが無いつまらないゲームになってしまうのでサッカーも同然出来ない。
「何を読んでるの?」
「これ」
見せたのはファンタジー物である小説である。内容は微笑ましいと思うだろうが幼児が活字びっしりの本を読んでたらドン引きする奴が多い。事実、この先生もドン引きしていた。
「これ、読めるのかな?」
「両親から習ったから読める」
戦争は頭を使えない奴が先に死んでいくと言った父が語学を徹底的に叩き込んだからだ。流石に幼児だからか日本語だけだけど……
問題児でもなく、本を読んでたら大人しいからか先生も他の子供の相手をするために離れていった。
俺は一通り読み終えて本から目を離すと教室に一人だけ俺と同じ幼児である白髪の少女がいた。俺は興味を惹かれて話しかけてみた。
「君は遊ばないの?」
「うんどうにがてだからたのしくない…」
「ああ……」
競争社会の弊害と言える言葉だった。勝てば褒められ、負ければ次には勝ちなさいと注意される。良くも悪くもそんな先生なのだ。問題は感受性の高い幼児にそんな事をすれば底辺で褒められない子供は落ち込んでしまう。この少女は運動オンチなのか『かけっこ』では毎回最下位だし、テクニックのない幼児同士のスポーツだと走りが早い奴ほど活躍するので少女は活躍出来ないのだ。
「運動なんてのはやってれば速い奴と遅い奴に分けられる。速くなりたいなら教えてやるけど……」
「ほんとう!?」
「約束しよう」
「やった~!」
この時期だと練習すれば直ぐに速くなる。まだ本格的に練習してない奴が多いから差が大きくなるからだ。ただ理性の弱い幼児に練習なんかさせても辛くなったら嫌がるので相当スポーツに熱を入れてる親じゃないとまずあり得ないけどな……
簡単に約束したがどうせ辛くて止めるだろうから数日位で済むだろう。少女が暗い表情をしてたから明るくなった顔が見てみたいと思ったからかもしれない。今俺は喜ぶ少女の笑顔を見て胸が温かくなるのが心地良いと思っている。そして少女は俺が持っていた本に気付く。
「ねえ、これどんなおはなし?」
「そっか、普通は読めないもんな。じゃあ聞かせよう」
そして俺は小説の物語を少女に話す。とあるお姫様と異界からやって来た青年の物語。お姫様の国は他国に襲われて滅んでしまったけど青年はお姫様を助けて一緒に何処かの辺境で慎ましくだが幸せに暮らすお話である。この物語のハッピーエンドは身分違いの二人が国の滅亡という外的要因のおかげで結ばれるということだ。ファンタジーだからか魔法もあるが第三者が都合良く助ける事はなく、自分達の力で成し遂げた。
「わぁ!すごいすごい!じゃあうんめいのであいだったんだね!」
「そうだよ。シンデレラとか白雪姫よりよっぽど素敵さ」
超常的な物にすがらず二人は自らの力で逃げ切り、暮らす事で運命を切り開いたのだ。
「ほかにはどんなおはなしがあるの?」
「そうだな……」
自分が今まで読んだ物語を話していく。空に浮かんだ大陸で戦う勇者や、星の聖剣に選ばれた少年と聖女の物語などだ。
「いっぱいしってるんだね!」
「そりゃあ時間があったからな」
ただの子供に殺人拳なんか教えられない。俺の一族は成長が凄まじく生後半年で赤子時代を終えて二足歩行かつ思考出来るようになり、一才には武術を教え始める。といっても身体がまだ弱い時期なので短時間の鍛練しかせず暇な時間は沢山あって遊んだり、本を読んだりしてたからだ。
「そう言えば名前を聞いてなかったな。俺は鳴神 共也。君の名前は?」
「わたしは……」
これが子供の頃から殺人拳を習わされていた鳴神 共也と白髪の少女、槍水 仙の出会いだった。
この時点での共也
・大木を蹴り折る脚力
・ジャングルファイトで木々や高低差を気にせず駆け回る体力
かけっこの時は必ず一位でした。面倒ごとは嫌いでも自分より劣ってる奴に嘗められるのが嫌いなので他の奴より少し速い程度で勝ち越しています。
あくまで初めての出会いであって幼馴染みになる位に仲が良くなるのは小学生になってからです。