人の悪意は無限大であると父さんに告げられた。
「人を信じるのも愛するのも良いし大切な事だ。けれども一番忘れちゃいけないのは人は何処までも自分勝手で非情になれる悪意を持っているんだ」
大企業の本社ビルで重役が人質に取られた事で救出を依頼された父さんは俺を同伴させて占拠していたテロリストを撃退した。何故こんな事を話したのかは今回のテロリストが侵入出来たのは本社に反感を持っていた社員で防犯システムにハッキングした内通者がいたからだ。そして内通者も父さんは一発で見抜いてテロリストと同様に捕らえている。
「でも大切な人を守る為に身代わりになる人だっているよ?」
「自分の命より大切だから守るんだ。信じるのも愛するのも他人の為じゃなく自分の為であり見返りが返ってくるのはおまけさ。自分のために行って起きながら見返りが無くて裏切られたと言うのは筋違いさ」
内通者を足蹴にしながら父さんは笑顔で言う。内通者の葛藤を見抜いてわざと言ったのだろう。現にその人はこっちを睨んでいる。
「人は痛みや愛を知って優しくなれるし確かに善意はある。けれども本来生物は生存競争で何をしてでも生き延びる為に非情さが必要だった。共食いはしなくたって助かる為に同族を囮にする動物だって多くいる」
「人間もそうだってこと?」
「そうだ。だから今回も生かしておくと報復とかして危ないからきっちり殺しておく」
その言葉に怯えるテロリストや内通者達、運が良いのかまだ人死にを出していないからか捕まっても刑務所に入れられるだけで済むと思っていたのだろう。だが裏社会の傭兵である父さんを依頼された時点で生死を問わずが受ける条件なので依頼者も生きて捕まえられるなど期待もしてないだろう。
「ま、待ってくれ!俺が悪かった!」
「御免で済めば警察はいらないし、悪い事をすれば必ず報復されるのが社会だ。それが社会的なのか直接的なのかは別だけどね」
暗に殺すと告げる父さん。ここで生かせば改心などせず出所後に報復しに来ると判断してるからだ。いや、出所後に報復する奴は多いし改心など始めから信じていないというのが正しい。
「だったら勝手に殺したらアンタだって…」
「人を殺すのは法律じゃなくて人だ。そしてこれは非合法だから裁判なんかするわけ無いじゃないか。じゃあ共也、この人達を殺しなさい」
「はい、父さん」
父さんが俺を連れてきたのは制圧の駒が欲しかったわけじゃなく、俺が殺人衝動が生まれさせない作業の殺しをさせる為、つまりは糧にする為だ。警官が来る前に何時もの様に
小学生になってからその言葉は正しいと気付かされる。仙を虐めた空手を習ってた同級生をやっつけたら今度は上級生を呼んでリンチしようとしたので返り討ちにした。今度は仙を人質にしようと計画を企てたので二度とそんな気を起こさない様に病院送りにした。
勿論、そんな事をすれば教師や保護者が黙ってないが事前に録音テープで証拠を取ったり目撃証言で虐めが起きているのを追及し、寧ろ騒ぎにすれば職務怠慢や誹謗中傷はそっちに向くぞと脅したら掌返して謝罪してきた。正直こっちも面倒なので解決したらすぐに立ち去る。扉を開いて待っていた銀髪赤眼で同級生の男の子とハイタッチをする。
「助かったぜ白夜」
「あの教師は虐めを知ってて黙認してた屑だからな。近い内に潰すつもりだったから気にするな」
同級生の男の子は黒鋼(くろがね)白夜(びゃくや)。小学校に入ってから出会い意気投合した親友だ。何より信頼出来る点は自分と同類だからだ。好奇心で色々やらかす子供達の中で客観的に落ち着ける子供など少ない。精神年齢が成熟してなければまず有り得ないからだ。向こうも同様で動きから自分がただの小学生ではないと気付いたらしい。どんなに強くても人間社会では孤立してると狙い撃ちにされるから理解者が必要なのは同じだったということだ。
「これで仙に絡むいじめっこが減ると良いんだが…」
「共也を警戒して暴力振るう奴は減るだろうが陰険な奴は変わらずやるだろうな」
「そっちが厄介なんだよな」
暴力よりもイタズラでやる奴の方が質が悪い。孤立してる中でそれを防止するのは難しいからだ。そして報告するにも周りは我関せずを貫くから協力を得られず多人数で言い掛かりだと嘘をつけば誤魔化せてしまうからだ。
「そっちは任せろ。所詮は子供だから証拠隠滅もまともに出来ない素人だからすぐに見分けられる」
「白夜は本当に多芸だよな…」
「出来ても自分に利が無ければしないがな。今回手伝ってるのは妹が入学する前に虐めが横行する風紀を正す為だ」
「シスコンだなぁ白夜は…」
「そう褒めるな」
シスコンを胸を張って主張する白夜。何がおかしいかって裏社会に生けていける奴が拗らせる物じゃないからだ。
「後は仙には気付かれない様に注意しろよ。お前を慕ってるから自責の念になるからな」
「分かってる。助けるなら身体だけじゃなくて心もだ」
だからこそ大変なのだと溜め息を吐いた。
第一次大規模が起こるまで残り7年、共也や仙が中学一年生の頃に巻き込まれる。だがトリガーの無い星である玄界に何故近界の国家がトリオン兵を出しても人間までは送り込まなかったか?
理由の一つにトリオンが無い惑星に未知の病原菌がある可能性があった。とある大国が遠征をしたせいで壊滅的な被害を受けた国家がある。それは玄界でいう第二次世界対戦の核が放たれた被災地に偶然出くわした事だ。トリオン体やトリオン兵は傷一つ付かなかったが最も有害な放射能を付着したまま帰還したせいで国家の民が被爆してしまったからだ。当時の近界ではトリオンは軍事的価値しか見られず医療技術は大きく劣り未知の病原菌が蔓延したと大騒ぎになった。
これにより玄界は零という意味だが侵入者に厄災を招く魔境の星と恐れられた事で不容易に行くものが激減した。他にも遥か昔にグランドトリガー使いと偶然出くわして全滅したりと遠征する度に偶然が重なり脅威を与えたのだ。玄界はトリオン反応すら感知させない災厄の星なのかと噂が独り歩きした結果である。
しかしボーダーが近界より劣ったトリガーでトリオン兵を倒した事で玄界はトリガー技術が劣る国として近界中の被害妄想は掻き消えて侵攻が増えたのは皮肉な話である。
そして玄界を嘗めてかかり犠牲になった者がここにも一人いた。
「ふう…杞憂だったみたいだな」
深夜の森で頸動脈を切り裂かれて血を流して倒れる近界のトリガー使い。危険区域と言われた玄界のあまりの拍子抜けにトリオン体を解いた瞬間を奇襲されたのだ。
「これで三件目、外見は全く変わらないのに銃弾をものともしない耐久力があるかと思えば突然弱くなりこうしてナイフ一本で殺せる脆弱な人間だし不思議なものだ」
ナイフを片手に持つ少年、白夜は返り血の付いたナイフの刃先を紙で拭う。
「服装があまりにもおかしい。まるで異世界からやって来たみたいだな」
殺した男の所持品を調べると一つのホルダーが見つかる。
「これでさっきのビームサーベルみたいなのを出してたのか?後で調べる必要があるな」
白夜は夜の闇に消える様に姿を溶け込ませて森を立ち去る。近界のトリガー使いの仲間が駆けつけた時には証拠すら見つけられなかった。
「ふわぁ、おはよう…お兄ちゃん」
「おはよう奏」
寝惚け顔で二階から降りてきた亜麻色髪の妹である奏に白夜は笑顔で答える。奏は無自覚だが彼の価値観を変えてシスコンにした切欠なのだ。年不相応で生きる意味すら見出だせなかった白夜の光明である。
「ほら、朝ごはん出来てるぞ」
「本当!いただきま~す」
テーブルの席に座って朝食を食べる奏を見ながら白夜は妹だけは何があっても守ると誓った。
仙が学校生活を過ごす上で共也は暗躍してましたというお話。別に仙が大袈裟に体質があったわけではないけど巻き込まれる機会があったから気付かれない様に処理したつもりです。そして共也は自覚してないけど仙にバレています。
殺人拳覚えた共也と同類とはそういうことです。白夜もある事情を抱えています。