エネドラが引いた後にC級隊員の援護に向かった共也は敵の大将であるハイレインに丁度出水が倒された直後だった。そして戦闘は始まり……
無傷で立つ共也と左腕が撃ち抜かれたハイレインがいた。
「アレクトール」
「ハウンド」
共也は右手から出したトリオンキューブを粒子にしてばら撒き鳥の弾丸にぶつける。ぶつかった鳥の弾丸はキューブ化しようとするがトリオンが少なすぎて変化途中に消滅する。
「(先程の射手もかなりの使い手だがこちらの射手とはかなり相性が悪いな)」
共也の周囲には霧と言える密度の弾丸粒子が覆っている。アレクトールは物量差で封殺されているのだ。射手は弾丸を細かく弄れる利点を使い威力・射程を捨てて弾数重視で気体レベルの弾丸数を作った。勿論、そんな攻撃ではトリオン体に当たってもまともにダメージが与えられない。
しかし被弾した物がトリオンで出来たものであれば無差別にキューブ化する性能が災いした。弾丸で出来た気体に当たればトリオン量の少なさでキューブ化出来ずに消滅してしまうのだ。そしてハイレインには気体レベルに細かい弾丸など作れない。キューブ化するのに必要な最低限度の大きさが蟲サイズなのである。
先程から殺虫スプレーを吹き掛ける様に気体をばら撒いて弾丸を引き剥がしてもう一つの腕から弾道を自在に曲げられる弾丸で削られてるのだ。回復する為のキューブも作れずこのまま戦えば確実にやられてしまうだろう。
「バイパー」
先程と同じくハイレインに気体をばら撒いた上で弾丸で削ろうとする。
『ミラ』
『はい』
ミラが虚空に開いた穴から出てきて撃ち抜こうとしたバイパーを新たに出現させた黒い穴が呑み込む。
「!?」
共也は向こうの意図が分かり背後に開いた黒い穴から出たバイパーを目視せずに避ける。
『『(初見で避けた!?)』』
ハイレインとミラは驚く。弾をワープさせる技はまだ使って無かったのに初見で避けられたからである。
「(流石に危なかったな)」
表情には出さずに冷や汗を流す共也。サイドエフェクトで同調してなければ分からなかっただろう。相手のトリオンの流れを同調することでおおざっぱにだが敵の意図が読める。今のは直感で【背後から奇襲】というイメージが浮かんだので避けれたのだ。
「まさかアフト最悪のワーブ女が来るとはついてないな」
「貴方達には私の情報がどう渡っているのかしら?」
「筋骨隆々なマッチョに変身する化物女」
「何よそれ!」
「アフトクラトル調べたら真っ先に出たのがトリガー角で肉体変形を可能にした容姿だったし」
ほらと共也はデバイスで立体人物像を出すと子供を踊り食いする赤いショートヘアーなゴツい筋骨隆々の人物が……
「ぶふっ!?」
「隊長!?」
思わず吹いてしまったハイレインに驚くミラ。筋骨隆々ではち切れそうな姿を除けばそっくりだからだ。
「ふふふ、そういう事だったのね。隊長は金の雛鳥をお願いします。私はこの子を殺らなきゃいけないので……」
「あ、ああ…頼んだ…」
ハイレインは威圧的なミラに物怖じしながら頷いて離脱する。そして歪んだ笑みを浮かべ、それは共也に向けられる。
「来いよ!化け物女!ワープなんて捨ててかかって来い!」
「殺す!殺す!殺してやるわ!」
何か黒いオーラを纏ったミラが殺意剥き出しで俺の近くに黒い球体を展開して釘を伸ばしてくるが籠手で弾く。
「ハウンド」
分割しない誘導弾をミラへ向けて共也は飛ばすが黒い窓を二つ作って片方に弾丸を入れてもう片方から共也に向けて射出させる。
「甘い!」
「!?」
人指し指で円を描くと弾丸はUターンしてミラの足を貫く。ハウンドには探知誘導と視線誘導があるが後者の強みは撃った後に弾丸の軌道を弄れる点である。視線だけで弾丸の軌道を操作出来るならバイパーみたいに弾道が引けるのではないかと思って開発した試作品だ。ハウンドの弾丸をタッチパネルの要領で操作が出来るパッチを作ったのだ。
「ハウンド・バイパー」
今度は両攻撃で右手のハウンドと左手のバイパーをそれぞれ16分割して合計32個の弾丸を別々の軌道で射出する。ミラは変幻自在に軌道を曲げるバイパーではなくハウンドを跳ね返そうと3つの窓を設置するが右指をスライドさせて窓を避ける様に軌道を曲げて向かわせる。ミラは跳ね返せないと判断して自身をワープさせて回避する。
「(やはり一度に出せるワープゲートには制限があるな。それにバイパーを始めから無視した辺り軌道を読むには集中する必要があるから外す判断力もある)」
弾道を自在に引けるバイパーではコースに設置するタイプだと相手の思考でも読まない限り成功は無理だろう。そして出来たとしてもかなりの集中力が必要であり無防備になりかねない。そして向こうは攻撃に棘と跳ね返しにしか使ってこない事から攻撃力に欠けるのだろう。
「メテオラ」
ガシャンと薬莢としてメテオラを左手の籠手に装填して共也はミラへ向けて駆け出す。ミラは棘で阻止しようとするが手足にガントレットの装甲を作った籠手とすね当てで弾きながら接近する。
「くっ!?」
ワープでまたも自身が離脱する。
「ハウンド+メテオラ=サラマンダー」
使わなかった左手のメテオラを籠手から排出させ、右手のハウンドと俺の背後で混ぜ合わせてそのまま射出させる。
「なっ!?」
俺の背後に回り込もうとして上半身を窓から出したミラに飛んで炸裂する。優位に立ちたい奴は背後を取りたがる傾向があるから放っておけば後は誘導してくれると踏んで狙ったのだ。特にワープ直後は景色が変わるから誤差が生まれるので思いのほか決まってくれた。背後を振り向くと致命傷は避けたがトリオン体に罅が入ってトリオンが漏れていた。
「咄嗟にワープゲートを出して致命傷への爆風を逃がしたか……」
「ここまで追い詰められたのは久しぶりだわ」
「変身しなきゃ支援系で戦闘向きじゃないな」
「だから変身しないわよ……」
何故かはしらないが変身はする気がないらしい。ハウンドで止めを刺すべく射出するもののまた自身をワープされて避けられる。今度は虚を付くのが難しいと考えて速射で合成弾は放たず何処にいるかをウルの強化嗅覚で感知しようとかぎわける。しかし辺りにワープ女の匂いは無かった。
「妙だな。何故近くにいない」
何故離れたかを考える。周りには他の気配も無いから集中出来る。そして思い付く。
「あのワープ女、逃げたか……」
不利と感じて撤退するのは良い判断だが嘗められたものである。感知を広げると丁度本部基地にいたハイレインと一緒らしい。
「久しぶりにやるか」
ノーマルトリガーを解除して黒トリガーの換装に戻る。狙うはハイレイン。右腕を狼の頭身を作り上げて正拳突きの構えをとって右腕を引く。
「拳砲(けんぽう)・牙狼(がろう)」
右腕を勢い良く振り抜き、正面へ向けて空を切る。その拳は音を置き去りにした……
基地本部へ一直線に向かった狼の衝撃波は生物弾を弾いて向かい、基地本部にいたハイレインの左半身を喰いちぎっていった。
「隊長!?」
「油断大敵だ」
ミラの背後から透明化を解いて突如出現した白夜がミラの首をはねる。トリオン体が解除された生身へすかさずブレードで斬り殺そうとするがハイレインの生物弾が向かってきたので距離を取る。ハイレインが生物弾で壁を作りその隙にミラを抱えて逃げるつもりらしい。逃がすつもりは無いので虚空を掴んだ左腕を振るおうとするが共也から無線で必要ないと言われる。
『あれは当主だから殺すとアフトクラトルが本格的に攻めてくる恐れがある』
「深追いは火傷を負うって事か…」
白夜は追撃を止めて見逃す。流石に戦争を激化させて身内を危険にさらすのは避けたいからだ。
「ん…怪我人がいるな」
近くには血を流して倒れていた修がいた。先程ワープ女に生身で串刺しにされてたなと思い出す。
「生身で無茶するなんて痛みを背負う覚悟は持ってるって事か。お前ならば俺や共也と同じ……」
何かを期待する白夜だったが首を振って今は応急処置が必要だろうと手当てをした。そして白夜は祈る。願わくば自身を曲げない狂気で修羅道へ落ちない事を……
三門市に隣接する町のビルから見ていた人影がいた。
「ハハッ、玄界も中々やるじゃねぇか。暇潰しにアフトクラトルをけしかけたが良い余興だったぜ」
人影は全身が黒い霧で覆われており、霧には王の証である重瞳の紋様が複数浮き出ていた。
「だが個人の実力はお粗末だな。防衛では良いかもしれんが数的不利に陥りやすい遠征じゃあ物量で潰されるのが落ちだ」
ホーム戦だから有利に戦えたに過ぎないと男は切り捨てる。ボーダーの遠征部隊は黒トリガーに対抗できる事が条件だが近界で生き延びるならば対抗ではなく倒せる実力が必要なのだ。貴重と言っても持ってる奴は意外と多く、遭遇した相手が黒トリガー使いだってあり得るのだ。
「ワープ女に一太刀入れた奴は筋が良い、共也以来だがボーダーの警備はザルだな。情報収集はこの程度で良いだろう」
霧の中の男は目的を果たし、正面に門を開く。
「さて戻るかヴァルハラに……」
男は門を潜り抜けて玄界を立ち去った。
どんな苦行だろうが投げ出す事なく貫くのは狂気が必要だという話です。昔プロのスポーツ選手は吐く程の激しい練習を習慣で行うから並大抵の覚悟じゃ挫折するとか聞いた事から一種の狂気でも無ければ貫けないとしています。それが善悪なのかは人それぞれですが……
白夜は自身の痛みや死を省みずに戦った修へ親近感を持ちました。修のお節介は例え自身が死ぬことになろうが自身を曲げない理念は一種の狂気だとしています。
ワートリの修は多分文字通り血反吐吐く様な修行や死亡率高い修行だろうと必要ならばやりそうな気がするんだよなぁ。