ボーダーで最も強いのは誰か?規格外のトリガーである黒トリガーは除くとして最強を論議した時、ボーダーでも意見が分かれる。
C級やB級などの大多数は個人総合1位の太刀川を指名するだろうし個人総合は最もポイントが高いので当然である。しかし攻撃手の大半は共也だと言うだろう。個人ランク戦でメテオラの情報で射手は近付けば怖くないカモだと思った攻撃手は安易に対戦を申し込み要塞砲と呼ばれる拳で沈める修羅と遭遇してポイントを搾り取られたからである。僅か一日でマスターランクの8000からポイントの高い攻撃手ばかりに挑んでは蹴散らして個人総合1位を勝ち取った化け物なのだ。ステルスで近付けば裏拳で頭を砕かれ、シールドを張ればシールド諸とも身体を抉るパンチを仕掛けてくると射手は近距離に弱いという事実を覆す大進撃だった。
残るは遠征部隊やボーダー創設期の人間は忍田本部長を言うだろう。太刀川に剣を教えた師匠であり、上層部ではノーマルトリガー最強の男と呼ばれる使い手であるからだ。
最強候補と呼ばれる共也ならばどうかと仙はブースで休憩中に尋ねた。
「本人は目立つの嫌ってるが白夜だろうな。あいつのサイドエフェクトの【トリオン認識阻害】は反則と言っていい性能だからな」
【トリオン認識阻害】とはトリオンで出来た物での認識を阻害するステルスである。回りから見ればカメレオンと変わらない光学迷彩なのだが恐ろしいのはトリオンで作られた物ならレーダーはおろかトリオン体の五感ですら認識不可能になるという阻害力だ。おまけに自身のトリオンで作った武器にも付加が可能なのでカメレオンみたいに攻撃出来ない欠点はない。触覚も遮断するからベイルアウトされるまで攻撃された事すら気付かれない暗殺者向きの能力である。
「五歳の頃にナイフ一本で軍事施設に襲撃かけて皆殺しにする化け物だ。技量だけでも間違いなくトップクラスだろう」
「ああ、そういえば共也も戦地で拳一つで軍隊を壊滅させる奴だったな。普通に考えて同格と言ったらそれぐらいしてないとおかしいな」
遠い目でそんな事を言う仙。鳴神家は一人で一個大隊の戦闘力を保有する修羅であるとかふざけた家訓があるので逃避する事にしているのだ。
「と言っても奏が義妹になってからは落ち着いたし、ランク戦だとサイドエフェクトは使えないからボーダーで最強の代名詞は付かないだろう」
「ん、どうして使えないんだ?」
「レーダーでも感知不可な様に本部の機材で仮装戦闘データまで遮断するから使った途端にデータが消滅する」
「ああ……」
ランク戦だと戦闘でやられるとベイルアウトして反応が消滅する。バックワームを着けていればレーダーの反応は隠せるが仮装戦闘マップでは表示される様に内部からは反応可能としているのだ。しかし白夜のサイドエフェクトは反応を完全消滅させてしまうので使った途端に機材が反応してくれずにベイルアウト扱いにされてしまうのだ。使った途端に敗北扱いされるとかあり得ないので白夜はランク戦でサイドエフェクトを使えないのだ。
実戦なら黙視不可な上に触覚遮断のスパイダーやメテオラ地雷とか悪夢なのだがランク戦では使えないので残念だろう。
「後は俺の師匠かなぁ」
今ランク戦では次々と個人ランク戦でレイガストの大剣で無双している師匠がいる。本来重いはずのレイガストをスラスターの奮進力と韋駄天の加速で文字通り高速駆動で瞬殺しているのだ。おまけに何故かレイガストがトリオンのブレードなのに摩擦熱で発火しており爆炎を纏っている。近界で【流星】の二つ名が付く神速剣の使い手は伊達ではないのだ。
「もはや蹂躙だな……」
「あれで元No.2攻撃手らしいから忍田さんも化け物なんだろうなぁ」
今戦っているのは太刀川さんなのだが二刀流なのに手数で推されている。二刀の剣を振るえば四つの太刀筋で返すというふざけた剣術で攻勢に出られないのだ。攻撃の激しさに距離を離そうと後退した瞬間、一点集中の高速の突き技でトリオン供給器官を撃ち抜いて倒した。太刀川さんがベイルアウトすると10:0で勝利のアナウンスが流れ、新人や師匠を知らない隊員とかがその結果に唖然としている。
「流石に強いな~カグヤさん。全然歯が立たなかったわ」
「いやいや、太刀川くんも随分と腕を上げたものだよ」
ブースから出た二人は談笑しているが周りはそれどころでは無いだろう。中には麗人と言える美貌の師匠に一目惚れする男性隊員が続出しているが彼らは御愁傷様だ。何故なら師匠は男なのである。かぐや姫の再来と言われる程の黒髪ロングでスレンダーだが男であり、同性愛でしか無いからである。
実は本部最初の狙撃手である東さんも一目惚れしかけた秘密もあるのだがそれは他言無用である。
「いや~、二年ぶりのボーダーは随分と隊員が育って嬉しい限りだよ」
「鬼怒田さんとか早く本部に腰を下ろせと嘆いてましたよ」
「私は縛られるのは嫌いだからね。研究だって趣味の延長でしか無いんだよ」
自由奔放な人であり無理に拘束すれば逃げ出すことは確実なのでボーダーとしては例外的に単独行動を許可している。理由としては戦闘力と技術提供で大いに貢献しているからであろう。他にも近界の行く人助けなどもしているからか好意的な国家すらある。特にレオフィリオとか国家存亡の危機に助けたからか神聖視させれてるし……
「それで師匠はエルガデスが近付くまでは滞在するって事ですか?」
「そうだね。エルガデスに行くまではまでは同行するけどこっちも用事があってね」
「用事って何時もの人助けですか?」
今の近界で打算の無い人助けは珍しい。何せ何処もが他国からの侵略などで戦時中と言っても良いのだ。助けるにしても恩を売って自国の兵士にするとかならまだ納得出来るがこの人はそういうのとは無縁で人助けをするのだ。まあ流石に慈善活動だからか大国が小国を本格的に滅ぼすとか自身の器量でどうにかならない問題とかは命の危険から放置したりはするけど……
「いやいや、今回は真面目だよ。ヴァルハラが攻めて来るとか冗談じゃ済まないからね」
「は!?」
「ヴァルハラって共也が近界で一時的に所属していたっていう組織……」
まさかの言葉に唖然とする。仙が言った通り俺は第一次大規模侵攻でボーダーが表舞台に現れる前にトリオン兵に拉致されて運良く自力で帰ったのだが遠征挺を購入するための資金調達目的で一時的に所属したのがヴァルハラである。
傭兵国家ヴァルハラ、近界で国に所属しないフリーの傭兵や訳ありで前科持ちのトリガー使いなど後ろ楯が無く食い扶持を稼ぐ為など仕事を求めてやって来て仲介する依頼斡旋所的な国家てある。しかし依頼の大半が傭兵向きの戦争系なので必然的に実力が必要であり、トリガー使いの質は近界でもトップクラスの国家だ。
軍事力の観点からだと流石にトリオン兵を量産しないからか一大国扱いではあるが中には黒トリガーの国宝レベルや黒トリガーを打倒するノーマルトリガー使いだっているのだ。
「何故ヴァルハラが態々玄界みたいな小国へ来るんだ?」
元々後ろ楯が欲しくて来たフリーの傭兵は他国から恨みを買うほどの戦果を上げているとなるとかなりの実力者なのは当然だし、訳ありの前科持ちなどは逃亡するのに国家は全力で始末するべく精鋭を差し向けるので無事に逃げ出すには相応の実力とタイミングを計る慎重性を備えているので実力者なのは当然てある。ヴァルハラに来れる段階で既にふるい分けされてるのと同じで弱者は骸と成り果てているだろう。
そして主な仕事が国の防衛上大規模戦力を導入しづらい遠征や大国間の戦争する際の戦力補充など実力者が必要な依頼を受けているのである。そして彼らの依頼料も相応なので小国程度に傭兵を雇うとは考えづらい。ボーダーがあるとはいえ民営組織規模でしかないので軍事力も財力も近界の大国と比べると明らかに劣っている。
現にアフトクラトルの大規模侵攻も拉致目的だから破壊活動も消極的だからあの程度で済んだが侵略だった場合、モールモッドやバドと言った弱卒トリオン兵などを爆撃イルガーの量産に回して絨毯爆撃でもすれば三門市はかなりの死者が出てただろうし都市機能も壊滅させられてただろう。
組織内ではボーダーは近界民でも戦えると謳っているが現状は強者の余裕で見逃されている小国家の一つでしかないのだ。
「それは分からないが玄界侵攻の依頼料が前払いな上にかなりの大金だったらしい。少なくともそれだけ用意周到だと浅からぬ因縁なのだろうさ」
「登録と直属のどっちの方かボーダーの存亡に関わるな……」
共也はため息を吐く。ヴァルハラに所属する傭兵は二種類あり、依頼を受けるが国家直々の依頼を強制されないギルド登録型の傭兵と国家直々の依頼は強制が掛かる代わりに待遇が良い直属の傭兵がいる。直属は国家から登録型の傭兵からスカウトされた者達なので実力は上位である。
「そういえば傭兵はどうしてヴァルハラ直属になりたいんだ?」
共也から直属が凄いとは聞いている仙は強制を嫌うフリーが何故直属にスカウトされて受けるのか疑問に思った。
「登録型でもヴァルハラ内と依頼中は国家が保護してくれるんだが直属の待遇は桁違いと言って良い。直属なら国外にいても有事の際に国が後ろ楯になってくれるし、ヴァルハラの傭兵を利用する同盟国などを行き来出来るフリーパスも発行されるから旅をするならヴァルハラが一番安全だろうからな」
「基本他国から侵略行為が頻繁な近界だから外から来た者は警戒される上に一触即発で心身共に疲弊しやすいけど直属は身分証明みたいな者だから同盟国なら優遇してくれる所もあるしね」
素性が分かる者とそうでない者の対応が違うのは当然であり、後者だと治安の為に武力行使で排除する国家も珍しくないので旅の危険度がかなり違うのだ。
「遠征は基本同盟国とか交友が無いと密航になって見つかったら襲われる命懸けだからな。後はお人好しを連れてくと危険度がぐんと上がる」
昔ヴァルハラにいた頃に依頼で敵対国に密航で不法入国した際にお人好しが原住民に虐めを受けてた子供を助ける為にトリガーを使ったせいで見つかった時があった。助ける事自体は素晴らしくても時が時であり目立つ行動は厳禁で今回は見てみぬふりをすべきなのにそのお人好しは正義感から静止を無視して独断専行した挙げ句に見つかり仲間を危険に晒した時には殺してやろうと思った程である。
まあそいつは見つかって追手が迫って来るときに対話をすれば分かり合えるとかほざいたので追手の方へ向かわせたら言葉を発する前に敵兵に射殺されたが……
不法入国なんてしてる時点で悪意があるのにそんな奴が許してもらえるなど楽観視だとお人好しは自身の命を持って分かったのだろう。
戦場にいるときに味方を危機に晒すのは無能な指揮官と時と状況を考えないお人好し奴だと実感したものである。
「脱線したけど直属の方がメリットが大きいから所属したがるのが現状だ。俺や師匠もヴァルハラ直属になった事があるしな」
流石に俺は玄界へ帰る際に隠居みたいな形で身分証は返還したが師匠は今でも持っているからヴァルハラと敵対は出来ない。すれば戦力を持って排除されるだけだからだ。
「もしヴァルハラが攻めてきたらボーダーは勝てるのか?」
「無理だね」
「無理だ」
「速答!?」
仙は驚くがヴァルハラは他の大国と違って痛覚遮断をoffにして痛みを受けながらも戦える修羅が集うのだ。心身共に鍛え方が違いすぎてボーダーでは大きく劣ってしまうのだ。
「特に【三傑】と呼ばれるヴァルハラ最強格が来たら勝敗問わず三門市が終わる」
「いやヴァルハラの獲得資金ランキング10位以内は条件さえ整えば一人で百のトリガー使いに匹敵する戦闘力を持つから彼らが来た時点で防衛が困難になるね」
「脱退してないなら師匠もその一人でしょう」
「元トップランカーの君には劣るさ」
頭を抱える二人。どいつもキチガイ連中なので大惨事になるのは目に見えているからだ。
「一番キチガイなアリシアが来ませんように…」
「残念ながら第一希望だから間違いなく来るよ」
「orz……」
共也は目の前が真っ暗になった。脳裏をよぎったのは返り血浴びながら笑顔で十字架の鈍器で撲殺する撲殺シスターだった。
共也やカグヤが頭を抱える程の戦闘民族国家ヴァルハラが登場。三門市の明日はどっちだ!