入隊半年で仙が強くなりたいと言って来たので修行をつけて更に半年が立ち、必要な基礎と強者との経験を充分に詰んだので応用を教えることにした。
「じゃあ今日はスコーピオンのテクニックを教える」
「お願いします!」
仙もやる気が入っている。頭を下げて来たときは短期間で強くなるなんて無理だ、やるならみっちりやる。中途半端になる位ならやるだけ無駄だと最初は突き放したが仙はどんな事でもやると宣言したので俺は半月かけて基礎を叩き込んだ。
「既に必要な基礎は充分に叩き込んだ。今から使う技も使うことは出来るはずだ」
「はい!」
「まずはウィップブレード」
スコーピオンをしならせて離れた的を切り裂く。
「これは影浦先輩の!?」
「本来攻撃手はブレードを硬化させるがこれは敢えて硬化を崩して先端付近に集中させて振るう事で可能とする。但し殆んど硬化してないから受け太刀は出来ないし、刃先を上手く当てる必要があるから難しい。まずは硬化せずに紐状にして出してみろ」
「こうか?」
仙は紐状にしたスコーピオンを出す。
「原理は閃空弧月に近い、先端ほど切れ味が増すからなるべく先端を当てないといけない。違いはスコーピオンだと先端以外は脆くて壊れる事だ」
切れ味を先端に集中させて後は振り回して壊れない強度に硬化しているのだ。
「課題はこの紐スコーピオンの先端を尖らせた物で毎回的が切れる様に当てれる様にしろ十回やって十回当てれたら次に進める」
「分かった」
仙は的へ向けてスコーピオンを振るう。だが基礎をみっちりやってあるのですぐにコツを掴んで上達する。
「こんなに早く……!?」
「上達が遅い理由の大半は会得するだけの基礎が出来てないからだ。だから今の仙はすぐにテクニックを習得出来るだろう。動いてる相手に当てるとなるとまた訓練が必要だ。まずは個人ランク戦で自分と誤差100ポイント以内で試して磨け」
「はい!」
そして俺は次々と教える。ブレードが二つある様に見せかける『枝刃(ブランチブレード)』、足から地面にスコーピオンを伸ばす『もぐら爪』、足に纏わせる『足ブレード』などランク戦で主に使われるテクニックを教える。
「じゃあ次だ」
「え、さっきので全部じゃないのか!?」
「ウルの強化聴覚でスコーピオンのデータから可能な情報から出来る事も幾つかあった。その中で仙に合う技を一つだけ教える」
「一つだけなのか?」
「今教えた技もマスターしないといけないし、中途半端だと見切られるのがオチだ。といってもこれはただの合成技だかな」
「合成技?」
「今から見せる」
俺は両手を合わせて一つのトリオンキューブを出しスパイダーを起動してワイヤーを張る。
「スパイダー?」
「指で弾いてみろ」
「分かった」
仙は言われた通りに指で弾こうと人差し指を当てると指先がポロっと切断されて落ちる。
「指が切れた!?」
「斬鉄糸っていう切れる糸があるんだがスパイダーとスコーピオンを一定の比率で混ぜると可能になる」
「攻撃としても罠としても強力じゃないか!?」
「と言っても切れ味を上げたから踏み台には使えないし強度が上がったわけじゃないから斬られる事もある。とにかくやってみろ」
仙は試してみるが合成技自体が難しくて難航している。
「あ~、合成技の基礎は教えてないから時間かかりそうだな。これは追々訓練してやるからまずは他を使いこなせ」
「ああ、分かった……」
出来なかったからかシュンと落ち込んでいる仙。
「お前の強みは基礎で積み上げた隙を見せない対応力と困難でも挑み続ける不屈の集中力だ。お前なら俺と同じあれを教えられる」
「あれって?」
「確かに仙には見せて無かったな。プロのスポーツ選手がごく稀に入れると言われる……
"ゾーン"だ」
集中力100%の潜在能力を引き出せる状態。人はどんなに頑張っても100%の集中力は難しい。それに出来たとしても消耗が激しい欠点もある。
「まあその段階ではないしその時が来たら教えるよ」
「本当か!?絶対だぞ!」
「約束だ」
俺達は訓練を再開した。
個人戦ブースで俺は仙の戦いを見ている。
「うお!?すげぇまた瞬殺だぜ!」
「止まらねぇ!これで50人抜きだぞ!?」
「マスタークラスが次々とやられてる!これ6000台の動きじゃねえよ!」
C級やB級のソロが騒ぐ中で仙は今まで個人ランク戦で勝てない敵に挑んで減っていたポイントをすぐさま取り返していく。攻撃手で仙に勝ち越せるのは太刀川さん、風間さん、影浦位だ。村上さんも良い勝負だが潜在能力の差で勝ち越せずにいる。中距離の銃手や射手だと更に減り二宮さんか俺だけになるし、万能手だと近接に持ち込まれると確実に狩れてしまう。
「天才よりも怖いのは壁を乗り越えてくる凡人だ」
一種の狂気と言って良いだろう。そういう奴は殺すまで手足をもごうが地べたに這いずろうがこちらを殺そうと最後まで足掻いてくる。努力しただけの天才ならば勝ち目が無ければ諦めるが血反吐を吐く様な努力をし続けた凡人は違う。決して信念が揺らぐことがないからこそ恐ろしいのだ。努力と血反吐を吐く様な努力はイコールではないと思っている。そして仙も後者をしてきたからこそ今の結果がある。
「お疲れ仙」
「ありがとう共也」
スッキリした表情で仙はこっちに歩いてくる。まだまだお前は強くなるだろう。やはり仙は生き生きしてるのが良いと俺は思った。
狂気の沙汰と言える努力をした凡人は怖いのだ!というお話です。仙は入隊当時、普通の女子中学生だったので戦いのセンスの欠片も無かったです。トリオン量には恵まれてたのですぐにB級昇格こそしましたが共也とチームを組んでチームランク戦だと素人だから半年間落とされ続ける苦行を受けました。そして半年で徹底的に鍛えて今の強さが出来上がりました。どちらかというとトリオン量除けば実力で上がったわけではない修に近いです。
仮に共也が修を弟子に取ったら同じく狂気の素質があるので劇的に変わるでしょうね(目そらし)。