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一話:既視感
ーその男、ロイ・マスタングは思わず歯軋りしていた。
そして何故この現場を目の当たりにしているのかを思い返していた。
今、彼は今国家錬金術師の採用試験会場にいる。
この試験、少し前までは月に一度あるかないかの頻度だったのだが、国を巻き込んだある事件が起きてからというものの、ほぼ週一ペースで試験は開かれていた。
ロイはその事件の尻拭いに、事務仕事ばかりをしていた。
試験の頻度が上がったことはロイにとってちょうどいい気分転換であった。
そして今日もいつものように「気分転換」として試験を見る予定だった。
今日一人目の術師。
錬金術師にしては珍しい女性だった。
いや、女性というよりも少女と表す方が妥当であろう。
さらに特徴を上げるとするならば東洋系の顔だ。
その少女は周りの軍人を睨めあげるような目つきで見ていた。
まるで彼らの器量でも量っているかのように。
ロイは妙な既視感を覚え審査書類に目を通した。
彼女の名前は《コガネ》となっていた。
もう一度彼女をみる。
彼女の手には錬成陣を描く道具など握られていない。
ましてや錬成陣などが彫ってあるようには見えない。
そこで既視感の正体は解けた。
冷や汗が体全体から吹き出る。声が声にならない。
繰り返してはならない悲劇はまた起きていた。
彼女は試験開始と同時に手を合わせたのだった。