ラインハルト・ローエングラムが生まれるはるか昔、地球を飛び出した人類が、太陽から0.3光年離れた空域で不思議な素粒子を発見した。質量は陽子の1000倍ほどで、それでもじゅうぶんに異常な粒子だったが、さらに、約500ワットのエネルギーを放出したのであった。
そのエネルギーは、どこから来ているものか、当時誰もしらなかった。
その頃の人類は、恒星間旅行を目指すためにいくつかの研究がなされていたが、質量比の問題のために、苦悩していた。結局、隣の恒星にいくのにも船と積荷の何百倍以上の重さの燃料を積まなければならなかった。
それを解決したのが、その未知の粒子であり、後にユアノンと命名されるものであった。
このユアノンを筒型の宇宙船につなげて、エネルギーの奔流をコントロールすることにより、質量比の問題を解決する宇宙船を製造することができた。
人類初めてのユアノン推進船<開拓者>が他の星系に殖民して以降、他の星でもユアノンを発見することができ、次々と人類は太陽系の外へ進出することになった。
その一つのスーメイ人と呼ばれる民族の一部が名づけて、のったユアノン推進船<長征>がスーメイ星系に降り立ったのは、スーメイ星系政府誕生となりスーメイ暦1年であった。
このスーメイ星系にある惑星は、まさしく、奇蹟のような確率で惑星改造することなく、彼らの祖先が住んでいた地球という星の環境に酷似していたのであった。
そして、彼らは、その星の名をシャオリンとして、首都名も同様に記した。
最初は、7000人しかいなかったスーメイ人もスーメイ暦500年頃には、人口も5000万人まで、増加していた。
スーメイ人による民族的な意識が強かったためか、人口増加に国家の政策の主軸を大きく目標にしていたこともその人口の増加につながった。そして、その年、時期は異なるが、同じスーメイ人がのったユアノン推進船<同志>がこの惑星の軌道上につくことになった。
そして、この中に入っていた人々の中に後に平面宇宙の航行に可能性を秘めた理論「ユアノンのエネルギーの照射に対する複合理論」を持参していた。
スーメイ暦512年であった。
この理論にしたがえば、ユアノンを通過して、異質の宇宙へ通過することが可能というものであった。
これを発見したウォン・ランレイ研究者は、この推進船でユアノンを日々研究していた。そして、その船には、彼女を中心とした48人の研究部署でそれは、なされており、その発見がスーメイ人の行方とさらには、銀河の人類社会に劇的な変化をもたらすとは当時、この船が着く前のスーメイ人には誰も思わなかった。
この研究部署で理論を発見したウォンは、スーメイ星系政府に48人の知的財産として、「ユアノンのエネルギーの照射に対する複合理論」認めさせることに成功した。
後にこの知的財産は、一人の子供だけに継ぐことができるようにもした。それは、莫大な利益を48人の研究者の子孫にもたらし、それが名門豪商48家となるのは、実際に平面宇宙を発見してからの話である。
それは、ともかくとして、この研究者たちが持ちかえった理論を実践で試すことに関して、当時のスーメイ星系政府は、あまり好意的ではなかった。何より、それを行うための資材や基礎技術もなかったのである。
しかし、彼らは幸運だった。その星系政府がその問題を討議しているときにアーヴの宇宙船が交易にこの星系に向かっていることが判明した。
そして、そのアーヴたちから資材や基礎的技術を購入することに成功した。
スーメイ暦520年の星系政府議会で、研究者のリーダーであったウォン・ランレイは、その議会で整然と主張した。
「アーヴたちが来たことは、私達にとって、幸運以外のなにものでもありません。この時期を逃したら、後の人類の人々は、私達を笑うでしょう。未知の一歩を踏み出せない臆病者と。人類史上最大の発見までもう少しなのです。今こそ、全ての星系市民が一丸となってこの事業にとりくむべきです。」
この発言は、議会に人々に多くの賛同を得た。特に人類史上の最大の発見ということの実験の証明が彼らをかりたてたのであった。
実験は、多大な労力と研究の末、スーメイ暦550年、見事にユアノンを開くことに成功した。
これを門と名づけた。偶然にもそれは、後にアーヴが開いたユアノンを称する言葉と一致することになるが、それは、そのときには、誰も知るよしもなかった。
そして、すでに、この当時、亡くなっていたウォン氏の理論どおり、別の宇宙が存在することがわかった。
スーメイ人の人々は、この宇宙を発見した日を国家記念日として、ウォン・ランレイの発見記念日として、今も祝日にしている。
通常宇宙とは違い、二次元の空間と一次元の時間で成り立つ別の宇宙、その中に航行可能な宇宙船をつくりだすのにはさらに10年の歳月をようした。
そして、その翌年スーメイ暦561年には、ついに平面宇宙側からユアノンを開くことにも成功した。
ここにいたって、スーメイ人による大航海時代を彼らは予見することができた。
しかし、ここで問題が起きた。この平面宇宙航航行理論、別名「ウォン・ランレイの発見」をどのようにして、他の星系に売るかということだった。
このあと、アーヴがこの技術を発見するのだが、スーメイ人には独占しようという気持ちは少しも無かったのである。
スーメイ星系政府が色々と考えた結果、もし、門を開いて他の人類が住んで居る星系に現れたとき、この技術を売ることに決めた。そして、その代価は、紙幣や現金などではなく、平面宇宙航行に必要な材料や物資の多大な要求であった。
特に平面宇宙航行船に関する資材は、最優先事項で代価として要求した。
このことにより、技術はあっても資材を得ることを他の星系でも遅らせれば、有利に大航海時代の交易に入ると考えたのであった。
星系政府の思惑は成功して、通算で20もの星系に技術を売ることができたが、代価の要求により、最初の頃は、他の星系では、『門は開けど船は造れず』という状況が起きたのであった。
この頃になると、平面宇宙航行による交易のおかげで、スーメイ人に様々な利益をもたらし、それが他の居住化可能の惑星へ投資にもつながり、さらに、人口増加政策も行われて、スーメイ人は、徐々にその居住権を拡大していった。スーメイ連合星系国の誕生であった。
「ユアノンのエネルギーの照射に対する複合理論」を最初に発見してそれを知的財産権とした48人の研究者たちの子孫は、この頃になると、莫大な収益を上げていたのであった。
特に、政府から受ける門使用料金からの利益や平面宇宙航行船に関する権利料などが大きかった。
彼らは、その頃から名門豪商48家といわれるようになった。何しろ、彼らは何もしなくても祖父母の代で発見された知的財産だけでも、かなりの利益を上げていたが、その財産を有効に理由するために、平面宇宙航行船関連の会社を次々と買収していった。
つまり、技術からの利権だけはなく、船の会社による収益もあげるようになっていた。
その当時、48家のリーダー的存在となったリュウ・シンカイの言葉に次のようなものがあった。
「船と門を得るもの、スーメイを制する。」
スーメイ暦650年、すでに、ユアノンを開いて平面宇宙に門を開いてから100年の歳月がたっていた。この頃になると、スーメイ人だけではなく、他の星系の国家も平面宇宙に進出していて、ますます、平面宇宙での状況は混沌としていた。
スーメイ連合星系政府もすでに、17の星系を手中にしていた。しかし、他の国家の存在は彼らに脅威をもたらしはじめていた。そして、この年のはじめにスーメイ連合軍をつくることが予定されていた。
この頃、国内の状況では、48家が財界だけではなく政治的に力を持つようになっていた。そのため、大航海時代によって、貧富の差が出てきた民衆の中には彼らに対する不満がつもっていたのは、渾然たる事実であった。
特に、ユアノンを開いてから100年たっても、平面宇宙に関する様々な知的財産権を所有していて、それによって、利益を得て力を拡大していることに最初に植民したスーメイ人の子孫も懸念を抱いていた。
この空気を敏感に名門豪商48家は感じ取っていた。
スーメイ星系政府が彼らの平面宇宙航行理論に関する知的財産権をなくし、完全に自由解放することを決めようとしていたとき、突然、異変が起きた。
設立されたばかりのスーメイ連合軍が政府にクーデターをしかけたのであった。それは、まさしく、電撃的な様相であった。
スーメイ連合軍の設立は、48家の一人のミン・シュウハイの提案ではあったが、実はそれは、クーデターを起こすための隠れ蓑ということにスーメイ連合星系政府はまったく気がつかなかったのである。
設立当初のスーメイ連合軍は、志願兵であった。軍人というものは、その頃までスーメイ星系政府にはなかったのである。平面宇宙にその他の星間国家が現れて初めて、設立されたのだが、多くのスーメイ人は、軍人よりも交易者を目指していたし、それが無理なら新しい土地の農業経営者などを目指すのが多かった。
そのため、提案者のミン・シュウハイがお金を出して、さらには、自分の会社の社員に命令して集めたのが、最初のスーメイ連合軍であり、後にハニア連邦軍となるのだった。
その現状をスーメイ連合星系政府は甘く見ていたのであった。
結局、武力によるクーデターは成功した。実際、宇宙艦隊に挑む自殺志願者は、星系政府にもそれを支持する人々にもいなかったのである。
星系政府の議会は解散させられて、貴賓院という行政機関を設立して、国名もハニア連邦とあらためることになった。事実上、名門豪商48家によるハニア連邦の支配がここに確立した。そして、この年を持って年号をスーメイ歴から連邦歴に変更することになった。
それから、ハニア連邦が設立して100年後、ついに平面宇宙にアーヴ帝国が現れた。このとき、ハニア連邦はアーヴに対して、自分たちを含めた星間国家の既得権益を主張した。
そのため、ハニア連邦すなわち、スーメイ人が技術を売った星系に対しては、アーヴからは攻撃しないことを認め、アーヴ帝国は他の星系の支配に乗り出すのであった。
そのときの行動がハニア連邦を認めさせて、いっそう、豪商48家の支配が強まり続くのであった。
そして、時は流れ、ラインハルト・ローエングラム少年は、惑星シャオリンの大地で宇宙に広がるスーメイ門を見つめていた。
「姉さんを取り戻すには、力が欲しい。姉さんを奪ったやつらを凌駕する力が。俺は誓う。絶対に取り戻す。待っていてくれ。姉さん。」
その蒼氷色の瞳には野心と決意の炎を静かに燃やしていた。