連邦暦・1040年、ハニア連邦は、人類統合体、拡大アルコント共和国、人民主権惑星連合体とノヴァシチリア条約(軍事同盟)を結んだ。しかし、その年、10歳のある少年の災難が、ハニア連邦にとって、それ以上に大きい変革をもたらすとは、誰も知る由も無かった。
だが、歴史はそれを知っていたのかもしれない……
連邦暦・1050年、ハニア連邦、クルド星系に突如、大規模な海賊艦隊が現れた。
そして、その海賊艦隊に惑星クルドが事実上制圧され、ハニア連邦軍辺境守備艦隊司令部のチーシン区辺境要塞「ガーディアン」にその海賊急襲から3日後、そのことが伝えられた。
その要塞に抑留中の一つの白い戦艦<ブリュンヒルト>に二人の青年であるラインハルト・ローエングラム中将とジークフリード・キルヒアイス大佐が司令室で静かに話していた。
「ラインハルト様、どうやら要塞司令官のドゥ・ハンリュウ大将から、命令です。海賊艦隊を殲滅せよ。ということです。」
副官のジークフリード・キルヒアイス大佐は、穏やかな笑みで伝えた。
「ふ、あいつらは、また、面倒をおれたちに押し付ける気だな。もっとも、戦場行きたいものなど、スーメイ人の名門豪商一族には、いないはずだがな。あいつらは、平和ぼけのぼんくらどもだ。」
金髪の髪で碧眼の美貌の青年は、赤毛の長身の青年につぶやいた。
「そうですね。ラインハルト様、しかし、このところ、宇宙海賊が頻繁にでています。ここまで、治安が乱れるとは、ハニア連邦も末期的症状ではないでしょうか?」
「そうだな。何が共和主義だ。自由主義だ。結局は、クーロンの独裁ではないか。しかも、20年前のやつなら、まだしも、今は、無能で役立たずの老害以外の何者ではない。」
拳を握り締めながら金髪の青年はつぶやいた。
「ラインハルト様の言うことも、わかりますが、なればこそ、ラインハルト様が改革の必要があるというものです。そのためにも一刻も早く、それ相応の地位につくべきです。」
穏やかにキルヒアイスは答えた。
「キルヒアイス、そうだな。まあ、今は目の前の作戦に集中するか。ところで、あの男は、今回の作戦で何か意見をいったか?」
「ヤン准将のことでしょうか?」
「そうだ。私があの男と称するのは、決まっている。」
「いいえ、とくには、何も言っていません。ラインハルト様と私に任せるとのことです。」
「ふ、あの男はどうやら、また、怠けるみたいだな。もっとも、命令を出せば、しっかり働くだろうと思うけどな。」
「ラインハルト様、お言葉の割には、うれしそうですね。少し妬けますね。」
「キルヒアイス、心配するな。お前が一番の親友……いや、俺の半身だ。確かにヤン准将に対して好意的だが、だからといって、妬くことではないだろう。」
そういって、ラインハルトは、赤毛の髪をさすっていた。
「とにかく、入ってきた平面宇宙の直前情報を出しますね。でも、ここには、海賊艦隊らしきの時空泡群は、映っていません。」
そういって、キルヒアイスは司令官個室にある仮想窓を開いて、見せた。
「なぜだ、キルヒアイス、それでは、敵の正確な数がわからぬではないか。」
「はい、この辺りの周辺航路図や平面宇宙の時空泡の認識情報は、クルド星系に航路交通局第7支部に一括されています。だから、これまで、通った船や艦の断片情報しか、手に入っていないのです。そのため、48時間ほどの空白があります。」
「なるほどな。とすると、敵は、この門の中で48時間以内に来ることができる場所から現れたという可能性が大きいな。キルヒアイス、お前のことだ。すでに、候補は見つかっているのだろう」
「はい、たぶん、この可能性が高いと思います。もともとは、資源採掘用の軌道工場多いハルセオン星系があるハルセオン門、そして、もうひとつは、旧船舶工場であったミリタウス星系があるミリタウス門、どっちも、小惑星帯で、海賊艦隊が根城にするのは、うってつけです。」
「さすがだな。それにしても、妙だな。惑星一つを制圧するには、最低でも半個分艦隊は必要だ。それが、常識だ。それだけの海賊艦隊の規模も珍しいが、ここまで、計画的にしかも、我々が迎撃するように都合よく現れるのは、少しおかしい。そして、何よりおかしいのが48時間の空白時間を作り出して、航路局の支部が一括している惑星を制圧するのは、よほどの情報分析をしていないとできないことだ。」
「つまり、これまでの無秩序な寄せ集めの海賊艦隊とは違う可能性があると、ラインハルト様はいいたいのですね。」
「そうだ。誰かの作為的意図を感じる。もし、我々が率いるのがこの『ガーディアン』から最高で1個分艦隊相当と理解したら、ある程度の戦力が用意できる敵ではどうする?」
ラインハルトは自分の考えを深めた。
「そうですね。まあ、48時間の空白時間の利用と、仮に私が示した門から出てきて、クルド門に向かう時間を考えると、2個分艦隊を用意するのが限度でしょう。それ以上では、艦隊規模が多すぎて、時空泡群の移動に手間取り、この48時間を空白にすることは、不可能です。」
「そうだ、まあ、このことに我々が気がついていないと考えたとすると、わざと一つくらい連絡艇を放って、艦隊規模を教えるようにすることにより、いっそう、我々を陥れやすくなるとだろう。」
そうラインハルトがつぶやいたとき、通信が入った。
占領されたクルド門から辛くも脱出した連絡艇が補給を何回かしながら、こっちについたということだった。そして、その規模は、敵海賊艦隊は、半個分艦隊相当ということであった。
「キルヒアイス、どうやら、敵は、この俺に罠をしかけたみたいだ。しかも、かなり幼稚ではあるがな。どうしようか……。そうだ、あの男に作戦を立てさせよう。我々の元へ来てから、あまり働いていないからな。」
「そうですか、わかりました。では、お呼びしますね。ヤン准将閣下、ローエングラム中将閣下がお呼びです。どうか、司令部まで来てください。」
そういって、通信機をつかって、キルヒアイスは、ヤンを呼び出した。
司令官室に来たその青年は、中肉中背で黒い髪に黒い目、そして、見る人がみれば、ハンサムに見えなくもないという基準の容姿で、まだまだ、助教授までは手が程遠い三流の歴史研究家に見えなくも無かった。
「ご意見はなんでしょうか。私は先ほどの作戦会議では一言も言いませんでしたが、それが中将閣下のご機嫌に触ったのでしょうか?」
と敬礼しながらもっともらしくヤンは言った。
「うん、別にそうではない。あのときは、まだ、情報を分析しきれていなかったので、考えがまとまっていなかったのだろう。俺も実際は、そうだ。現にこれまでは、敵を殲滅というより害虫駆除のようなものだったからな。」
そういって、蒼色の瞳でヤンを鋭くラインハルトは見つめた。
「ということは、何か気付いたのですね。私が働く余地があるということなのでしょうか?」その言葉にヤンは興味を持ったらしく、頭をかきながら、控えめに言った。
「そうだ。キルヒアイス大佐、これまでの情報を伝えてくれ。そして、ヤン准将の意見を聞きたい。」
その後、一通り、情報をヤンに与えた。それは、ラインハルト達の考えをいわずにただ、情報を伝えただけであった。すると、ヤンは確信したように言った。
「これは、完全な罠ですね。敵は、我々の状況と戦力を理解した上でのクルド星系の占領を行ったのです。つまり、勝てるだけの戦力をそのクルド門以外に配置している可能性が高いです。ただ、時空泡群の短時間で大艦隊の移動はできないので、それほど、大兵力は無理だと思います。」
「そうか、ヤン准将もそう思うか。なら、その作戦案を考えてくれ。これは、命令だ。たまには、卿の言う通り、給料に見合う働きをしてくれよな。期待しているぞ。それと、キルヒアイス大佐、さきほどの情報より詳しいものを伝えてくれ。」
キルヒアイスは、ヤンにできるだけ門周辺の状況やそして、推定戦力の情報について、説明した。
「ところで、増援要請はしないのですか?敵がこっちの2倍の数なら、こっちがより数をそろえれば、勝てるでしょう。単純な計算です……とはいっても、戦場に行きたがる者は、この区域では、少ないか。特に将官になればなるほど。」
自分の言葉が現実的ではないと感じてヤンは思わずため息をついた。
「そうだ。俺もそれを考えたのだが、たぶん、色々な問題で時間がかかる。そのたびに、罪もない民衆が海賊たちによって、不当な扱いを受けている。それより、我々はまだ、負けたと決まったわけではない。それも、わかるだろう。」
自信の笑みをラインハルトは浮かべていた。
「そうですね。敵がこちらを罠にかけていると思っているうちは、勝てる可能性は大きいです。まあ、作戦は考えます。あとは、それぞれの指揮官がこっちの思惑どおり、動いてくれるかでしょう。」
「それは、大丈夫だ。実は、今回の戦闘には私が選んだ指揮官を配置している。これまでのように足をひっぱるような連中は、はずしている。これまでの名門豪商の坊ちゃん共とは、違う有能なものたちだ。」
平面宇宙の中で艦隊としての秩序ある行軍をしながら、作戦開始3日前、ヤンは作戦を立案して、それをラインハルトに見せた。
「さすがに、ヤン・ウェンリー提督だ。卿が俺の味方でよかった。敵にはまわしたくないな。」
作戦の立案書を眺めたとき、ラインハルトは、とても感心したのであった。
「お褒めをいただいて、光栄です。それでは、少し頭を使ったので、休ませていただきます。」
「ああ、わかった。では、15時間後に、この艦隊の指揮官を集めて、作戦を説明する。卿も出席するように。」
「はい、了解です。では、」
ヤンはぎこちない敬礼をして、自室へ戻っていった。
ヤン・ウェンリーは、部屋に戻ると、自分用のアドレスに手紙が着信していることに気がついた。そして、そのあて先を見て、嬉しいような困ったような表情をした。
それを仮想窓に再生させた。
そこには、ヤンと同様に黒髪と黒い瞳ではあったが、雰囲気がまったく違う聡明で意思の強そうな美少女が笑顔で映っていた。
「兄さん、元気ですか?私は、元気です。私の料理が食べられなくて、たぶん、困っているんじゃないの?まあ、そんなことないか。兄さんだしね。」
ヤンは、その言葉を聞いたとき、ぽつりといった。「確かに、困っていないけど、チュンリーの料理は恋しいよ。」
「それより、ウォン愛人(愛妾夫人の略称)の弟君を怒らせないでよ。兄さんのことだから、権力者の親戚なんて、嫌いだから、相性とか悪そうだし、でも、自分より若い上司なんて、どんな気分なんだろう?まぁ、いいわ。それより、聞いて、ついに士官学校の次席まで成績は上がったわ。どう、すごいでしょう。とにかく、努力すれば、なんとかなるということを忘れないでね。では、またね。」
そういって、敬礼しながら悪戯っ子の笑みで映像は消えた。
「それは、すごい。まったく、万年落第ギリギリだった。私とは比べ物にならないよ。とにかく、この作戦をおえて、早く帰るよ。」
頭をかいて、ヤンは、苦笑を浮かべていた。
旗艦<ブリュンヒルト>作戦室
ヤンが発案した作戦の説明をするために、各戦隊の指揮官が集められていた。
「こ、これは、どういうことです。ローエングラム中将閣下、2個分艦隊相当の敵を予想しながら、あえて、1個分艦隊で攻撃するなど……」
ロイエンタール准将は、冷徹に尋ねた。
「そうだな。確かに、兵法の常識としては、無謀だな。救援を呼んだほうがより、勝てると思う。だが、それを呼ぶには、まず首都のあるスーメイ星系までいかなくてはならない。時間は1週間以上もかかる。それでは、占領された民衆もより苦しむことになる。」
自信ありげにラインハルトは説明した。
「確かに、この作戦どおりにいけば、上手くいくかもしれません。でも、それは敵が我々の予想通り踊ってくれればの話です。」
ロイエンタールと同じくミッターマイヤー准将も反対した。
「ミッターマイヤー准将、ロイエンタール准将、ローエングラム中将閣下の命令をしっかりと聞いたほうがいいぞ。卿らは、司令官を信じていないのか。俺は戦いに行けと命令されれば喜んでいくぞ。いくら、敵がどれほど多くてもな。」
ビッテンフェルトは、血気盛んに言った。
「しかし、かなり難しい。特にこの囮役は誰がやるのだ。この艦隊の動き次第では、敵に我々の意図を察知される可能性もある。」
作戦図を見ながらロイエンタールは指摘した。
「それは、私がやるさ。この策を考えたのも私だからね。まあ、大丈夫さ。それより、君達はいち早く、敵を撃破して助けにきてくれよ。そうしないと、私がやられてしまうからね。」
ヤンは、三人の准将たちにせいっぱい、愛想をふって、答えた。
「大丈夫だ。彼らは優秀だ。ヤン准将の予想より速く敵を倒す。では、それぞれの配置につけ。これは、俺達の戦いにとって、意義のあるものとなる。」
そういって、ラインハルトは、作戦会議を終了させて各旗艦に戻るように命令をだした。
作戦室の各将官が自分の旗艦に行くと、キルヒアイスは、落ち着いた様子で声をラインハルトにかけた。
「どうやら、将官の方々も納得されたみたいですね。一番困難な役をヤン准将がひきうけるということがそう思わせたのでしょう。私としてはできれば、その役を自分がやりたがったのですが……」
キルヒアイスは、ラインハルトを探るように言った。
「そうだな。それも考慮した。だが、今回はあの男……ヤン准将最初から最後まで任せたい。キルヒアイス、お前にはまた次の機会を与えるさ。今回は彼の力量を調べたい。できるだけな。」
その瞳には、意思の強さが光っていた。
作戦開始時間になり、キルヒアイスは、アーヴ帝国では、戦列艦といわれていて、連邦軍では、宙雷艦と呼ばれている部隊を門付近で展開させて機動時空爆雷をクルド門へ向けて、発射した。このとき、ヤンの提案により、本来の宙雷艦の単艦時空泡と同じ大きさの擬装用の艦を多数用意した。これは、民間の輸送船に同質量分の岩石をつなげて、時空泡を大きくしたものであった。その結果、数において、実際の5倍の宙雷艦隊に見せかけることができた。
クルド門沖には、連絡艦が何隻か配置されていたが、ラインハルトの艦隊の機雷が接近するにいたって、クルド門にひっこんだ。海賊艦隊は明らかに門にこもって迎撃する体制であった。
「予定通りですね。ラインハルト様」
敵艦の状況を見て、司令官の席に座っていたラインハルトにキルヒアイスは声をかけた。
「まあ、まともな指揮官ならそうだろう。それに、敵が機動時空爆雷を持っていなかったも予想通りだな。対抗雷撃をしないのがその証拠だ。もっとも、海賊艦隊に機雷があったら、それこそ、問題だな。あれは、1社による独占製造だ。盗まれた情報もない。それこそ、密輸でもしない限り手に入れるのは難しいからな。」
ラインハルトは、敵の行動を見て、不敵な笑みを浮かべた。
「そうですね。機雷があること自体、軍部もしくは、それ以外に手引きしている大きな証拠となります。もし、ラインハルト様をこの海賊騒動で殺すもしくは、敗退させて、勢力をおとしめるなら、首謀者が割れるようなことは、しないでしょう。」
キルヒアイスも今回の戦いで何か、海賊とは別に意図をあることを感じ取っていた。
「そこで、敵は考える。機雷を迎えるには、通常宇宙の方が守りやすい。そして、こちらの機雷が尽きてから、反撃をしようとする。もっとも、敵は半個艦隊だ。門にこもるなら充分な戦力だ。だが、こちらは、動き鈍い宙雷艦隊は、ここにおいて、敵のいると思われるハルセオン門、ミリタウス門を急襲する。」
このあと、ラインハルトはもう一度、ヤンの考えた作戦を思い返した。
ヤンが考えたのは、まず、敵の罠の意図を理解することであった。
敵が考えた罠は、連邦軍のラインハルト艦隊がクルド門に攻勢をかけていて、他のハルセオン門、ミリタウス門に隠れていて、機雷がなくなったときに3方向から逃走経路なくすように囲む意図があった。その二つの近くの門で予想逃走経路の先には、補給基地と軍事基地があることからも、ラインハルトたちの艦隊の逃げ場をなくす効果があった。
逆に、その罠を利用するということがこの作戦の主旨だった。まず、最初にクルド門を攻撃する。しかし、それは、機雷でのらりくらりと、向こうが動けない程度にかつ、弾数を抑えながら、時間を稼ぐものであった。その間に敵の予想艦隊数が0.75分艦隊でこもっている門を足の速い戦艦や駆逐艦と護衛艦で一気に襲撃するものであった。いうなれば、三つの門にこもる2個分艦隊の敵を各個撃破するのが作戦の目的だった。
そして、そのハルセオン門とミリタウス門には、民間船らしき時空泡がまるで、戦場が始まったのを慌てたように入っていくものを見て、ラインハルトは確信したのであった。敵が偽装させた民間船を使って、門の中に情報を与えたことを。敵は、こちらの宙雷艦隊が予想以上の数が残っていることで警戒して、ハルセオン門やミリタウス門から出る時間は遅れるはずであり、こっちが機雷をつきるのを待つ必要があるからであった。
この作戦の最も大きな要は宙雷艦隊の囮役だった。いかに、敵をクルド門沖に封じこめるのが、この作戦の主旨であった。ヤンが宙雷艦隊を指揮して、しかも、宙雷艦の偽装艦隊まで用意して、クルド門沖に対峙していた。
「さてと、とりあえず、第1段階は成功といいみたいだ。あとは、ローエングラム中将閣下を信じるしかないな。」
頭をかきながら、ヤンは平面宇宙を見つめていた。
「では、キルヒアイス、行こうか。これからは、時間との勝負だ。まずは、一番近くのミリタウス門から攻撃する。いいな。よし、宙雷艦隊を抜く全艦隊、出撃。」
そういって、旗艦<ブリュンヒルト>を発進させた。
「はい、ラインハルト様、了解です。」
そのまばゆいばかりの様子にキルヒアイスは、心が踊るような気がしていた。
ミリタウス門に機雷攻撃と同じにローエングラム艦隊は突入した。その突然の襲撃に敵である海賊艦隊はかなり狼狽と恐怖を抱いた。
本来、門にこもる方が平面宇宙の戦いにおいて、圧倒的に有利であった。それは、門から出現するさいに確率論的に艦隊が出現するという平面宇宙の物理法則のために、編成を組んでも無意味であり、それが敵につけこめる隙であった。しかし、これに関してラインハルトは、効果的な方法をとった。
出現場所によって、艦隊の集合場所を決めて、そこであらためて、臨時の編成を行い、敵を攻撃するという戦術だった。
そして、そのために、機雷によって、一時的に敵をなぎ払った隙に、旗艦と護衛の艦隊をまず、橋頭堡して送りこんだ。ミッターマイヤー、ビッテンフェルト、ロイエンタールである。そして、その三つの旗艦の周りに出現場所の近くに各艦隊は、行くことを命じていた。
多少の誤差はあるけど、それによって、より早い編成を行い効果的に用兵家としての彼らの能力を発揮したのであった。その三人の准将の攻勢は苛烈であった。彼らが<門>周辺から一気に制宙圏を手に入れると、そこにゆっくりと、ローエングラム貴下の主力艦隊が悠々と編成をおこなった。そして、本来、寄せ集めである海賊艦隊は、その巧みな艦隊編成と圧倒的な艦隊運動の連携と射撃の正確性、統一的な集中砲火にあっという間に撃滅されていった。そして、2時間もしないうちに、完全なる勝利を手に入れたのであった。
被害は驚くほど軽微であった。
ミリタウス門の海賊艦隊を殲滅したラインハルトは、次の獲物へ向かった。そのときの艦隊の士気は否応にもあがり、それは、次の獲物であるハルセオン門の海賊艦隊にも効果的に働いた。艦隊としての指揮系統の統一性も兵士としての熟練度も艦隊において向上し、どこの部分が弱点であるということを先ほどの戦いで明確に理解したラインハルトやそれ以下の将官は、ミリタウス門以上に効果的に殲滅をした。このときの敵もまったく、こっちの動きを予想していなかったごとく、狼狽し、もろく敗れ去ったのであった。
その頃、ヤンは、もうすぐ機雷がつきかけていて、囮役も限界だなと思っていた。
「さて、どうしようか。このままだと、こっちの意図もばれるのは間違い無いな。撤退するか。まあ、それでも、大丈夫だろう。すでにローエングラム中将閣下は、二つの敵の艦隊を撃滅したみたいだ。数は、それでも0.75分艦隊は、残っているみたいだ。指揮においても兵士の熟練度においても、こちらが勝つだろう。」
平面宇宙を眺めながら思案していると、ふとヤンは思いついた。
「まあ、もう少し、やってみるか。効果のほうはわからないが。これは、いささか小細工に労することだが、自分には似合っているだろう。」
各連絡艇でヤンの意図を指示すると、各艦は行動に出た。民間船の輸送船をいくつか時空融合させて、重りとして使っていた岩石に爆弾をしかけて、輸送船にのっていた人員を全員引き払いさせて、とりあえず、門から一定の距離を測り、撤退を図った。そして、ある程度離れると、偽装宙雷艦として時空泡を後にして、ローエングラム艦隊の元へゆっくりと撤退を図った。
機雷がなくなったことにより、しばらく、門にいた半個艦隊は連絡艦を送って、平面宇宙の様子をうかがったが、ヤンが指揮する宙雷艦隊が撤退中であり、そのはるか遠くに主力とおぼしき艦隊がいることに気がついた。
そこで、敵は機雷のなくなった宙雷艦を撃破して各個撃破を図ろうとした。わざわざ不利な平面宇宙まで進出しても、それは、魅力であった。あまりにも動きが鈍いものであったからだ。
彼らの意図としては、宙雷艦の動きが遅いので、ある程度撃破しても、主力艦隊から撤退して門にこもれる。しかも、予定時間では、もうすぐ他の二つの門から艦隊がでてきて、挟撃するということも期待していた。
しかし、彼らが一斉に時空融合すると、おかしなものがあった。後方の宙雷艦の単艦時空泡とおぼしきものに時空融合してみると、民間の輸送艦とそれをつなげている巨大な岩石しかなかった。
このとき、彼らは自分たちが騙されたと思った。そして、その怒りの矛先は、輸送艦に向けられた。無防備な輸送艦を破壊したのであった。それが、引き金だった。彼らはその囮が実は5分の4ほどの数もあり、輸送艦を破壊すると、それに連結されている鎖が、破壊されて中に岩石に産めこんだ爆薬が起爆した。狭い時空泡の中に巨大な岩石が何個も爆発して破片を散らした。それは、無重力では巨大な凶器となり、様々な海賊艦隊に無視できない損害を与えたのであった。
時空融合を果たした各艦隊から被害をもたらされると、海賊艦隊の乗員は悲鳴を上げていた。そして、偽装宙雷艦を攻撃することは愚かなことと知り、多大な損害を出しながら、攻撃を中止して、クルド門を撤退しようとしたとき、さえぎるように駆逐艦を中心とした艦隊が接近していた。
それは、後に疾風ウォルフという異名をとるミッターマイヤー准将の指揮する艦隊だった。その艦は、機雷のないことを利用して、動きの鈍い戦艦に時空融合とはせず、護衛艦や駆逐艦を好んで襲撃した。そして、多大な戦果を上げた。
そのため、ミッターマイヤー准将の機動戦術に恐れて、それに備えるためにクルド門に逃走用に単艦時空泡にしていた艦隊陣形を半個戦隊時空泡にして、防御を重視した。
それは、ラインハルトの作戦であった。それによって、動きが鈍っている間にすでに、ローエングラム艦隊は、クルド門に撤退する航路に艦隊を編成しなおして待ち構えていた。
その後、結局、数の差と艦隊運用の巧みさによって、平面宇宙において、その効果を最大限に発揮して、残りの海賊艦隊は殲滅させられて、ほとんどの海賊は降伏した。
後にこの戦いは、クルド門沖海賊掃討会戦といわれるようになった。そして、その見事な戦術と戦いぶりは、ハニア連邦全土に広がって、彼の実力と名声はゆるぎものとなった。
この罠のしかけをしたものにとっては、逆にラインハルトに力を与えるだけとなったのである。何より、ニ倍の敵を倒すという快挙は、ハニア連邦軍創設以来ないものであった。(もっとも、この軍が出撃したのは地方叛乱くらいでしかなかったが)
ラインハルトは、この功績により、大将まで昇進した。そして、それ以下の幕僚も昇進に値する働きとしてヤン、ミッターマイヤー、ビッテンフェルト、ロイエンタールは少将に、そして、キルヒアイスは准将に昇進した。
首都シャオリン ウォン・クーロン私邸
「姉上、お久しぶりですね。任務を終えて今回も無事帰ってきました。」
「アンネローゼ様、わたくしも無事に会えて嬉しいです。」
「ラインハルト、ジーク、二人とも相変わらずですね。でも、元気そうでなによりです。それより、二人はもう子供ではないのですから、ワインの方がよかったかしら。」
金髪と陶器の白い肌と聡明な瞳を持ち、笑顔で二人をアンネローゼが迎えた。
「いいえ、姉上の作る手料理ならどんなものでも大丈夫です。」
「あら、お世辞だけは上手になったのね。」
「いや、キルヒアイスが姉上の料理は最高だといつもいっているので、その影響でつい。」
「ひどいですよ。ラインハルト様」
「ジークをからかうのではありませんよ。ラインハルト。それより、地下の倉庫にワインをとってきてくれないかしら。連邦軍の大将閣下に雑用を頼むのは、失礼だけど」
「姉上こそ、私をからかうのですね。いいですよ。雑用でも何でもうけてまいります。」
そういって、笑顔でラインハルトは、その場を離れた。
「ジーク、いつも弟が世話をかけて、ありがとう。」
「いいえ、アンネローゼ様、こちらこそ、お世話になっています。」
「いいえ、ジーク、ラインハルトは、言葉こそ出さないけど、あの子はあなたを頼りにしているわ。本当よ。私にはわかる。あの子は、確かに誰にも負けない才能がある。でも、あの子の見ている先は常に遠いところ、足元を見ることなどない。そのとき、ジークあなたにお願いするわ。」
「アンネローゼ様、まかせてください。」
「いつも無理なことばかりお願いして、すまないわね。でも、ジーク、私が頼りになるのはあなたしかいないの。」
「わかりました。この身にかえましても、ラインハルト様をお守りします。」
この後、ラインハルトとキルヒアイスは、久々のアンネローゼとの団欒のひとときを楽しんだ。