ヤン・ウェンリーは、首都シャオリンにある高級士官専用の住宅に久々に帰ってきた。彼にとって、3ヶ月ぶりの帰宅だった。そして、その住宅に灯りがついているのを見て、安心していた。
「チュンリーは、帰っているみたいだな。ただいま。」
「お帰り、兄さん。それと、おめでとうといっておいたほうがいいかしら。少将閣下殿。」
満面の笑顔でチュンリーは迎えた。
「まったく、帰ってきたときに、その言葉かい。私が軍人嫌いというのを知っているくせに」
「でも、それと能力は関係ないわよ。ニュースみたわよ。二人の英雄、またしても海賊艦隊を撃滅って、しかも、ニ倍の兵力をやぶったのでしょう。すごいわ。それは、素直に思っているのよ。」
チュンリーは、紅茶を用意しながら言った。
「まあね。二人の英雄ね。確かにローエングラム大将閣下は希代の英雄だ。実際に彼の軍事的才能や器量には驚かされるよ。だから、私も彼の部下として安心して働けるな。」
「そうよね。兄さん、ローエングラム閣下の貴下に入るまでは、色々上司と衝突していたし、やっと働き場ができたみたいね。もっとも、軍人としてだけどね。」
チュンリーは 最後の軍人という言葉を強調した
「チュンリー、私が軍人なのは、そんなに嫌か。でも、今の状況は私を退役させてくれるとは思えないな。」
「違うわ。私は兄さんが私のために夢をあきらめて、軍人になったことが嫌なの。感謝はしているけど……ごめん。私のわがままよね。それより、もうすぐ、士官学校卒業して私も少尉になるし、副官を私にさせてくれない。たぶん、役に立つわよ。」
少し顔を伏せてから自信を込めていった。
「さあ、それは、わからない。何しろ、私に軍事の人事権があるわけではない。そのてのコネもないしな。」
ヤンは頭をかきながらぶっきらぼうに答えた
「うーん、そうね。直接の上司であるローエングラム大将閣下に頼んでみるわ。だって、彼はウォン愛人の弟君でもあるし、一人の少尉の配属先なんて、なんてこないわよ。」
「ちょっと、待ってくれ。それについては、私が考える。突然、大将閣下に頼まれても困る。」
ヤンは慌てたように言った。
「そう、じゃあ、兄さんに任せるわ。それより、ニ倍の兵力を破った戦術にどうやって、勝ったの?魔術師ヤンのお手並み拝見したいわ。」
「魔術師ヤン?なんだ、それは。そんなこと聞いたこと無いぞ。」
「ほら、どこにでも出ているわよ。」
立体映像テレビをつけて、チュンリーはニュースを見せた。
そこには、ハニア連邦史上最大規模の海賊艦隊をやぶるという大きな見出しとラインハルトとヤンの二人の顔写真やこれまでの戦歴を示した特集番組が行われていた。
そして、その映像の最後にラインハルトがインタビューを受けていた。
「彼の作戦は、俺がこれまで見てきたなかで、もっとも、芸術的なものだった。自分が指揮していてこれほど、楽しい作戦はなかった。魔術師のようなものだった。もちろん、どんな作戦は、軍事機密だが、私の彼に対する評価はそんな感じだ。」
チュンリーは、それを見せていった。
「ねえ、魔術師ヤンの作戦、私も聞きたいわ。軍事機密なんていわないで、私には教えてくるよね。」悪戯っ子の笑みで言った。
「わかったよ。まあ、チュンリーも士官学校次席の優秀な生徒だ。理解してくれよ。」
ヤンは、仮想窓を使って、わかりやすく説明した。
「……なるほどね。それにしても、ローエングラム大将閣下も兄さんもすごいわね。普通、こんな作戦絶対に考えないし、指揮官としては採用しないわよ。常識的に考えれば、罠と気がついた時点で援軍を呼ぶわ。例え、時間がかかってもね。」
そういいながらも兄を尊敬の眼差しで見つめるチュンリー
「そうかな。でも、私は、色々な……とはいっても、主にアーヴ帝国の戦争の歴史から色々学んだよ。平面宇宙における戦術では、彼らの戦い方はじつに参考になったし、今回のも少し状況は違うけど、似たようなケースがあったしね。」
もっともらしくヤンは解説した。
「戦史と歴史に学べか。兄さんの口癖ね。それにしても、いつも思うけど、そんなにアーヴ帝国の歴史は面白いの。」
「ああ、面白い。タウロンおじさんが、アーヴ帝国の大使となってから、色々と歴史の情報くれるので、最近では一番の研究対象だ。」
「本当は、アーヴな綺麗なお姉様方の映像が見たいだけじゃないの。」
その言葉に少しすねた様子で答えた。
「確かに、綺麗だが、チュンリーも負けていないよ。まあ、彼らの一族の容姿については、他の方々に研究を任せるとして、とにかく、実際、戦争をやるには、連邦軍はこれまで、大規模な戦争を起こしていない。せいぜい、地方叛乱程度だ。でも、あのノヴァシチリア条約のおかげで、戦争の可能性が高まっているのは事実なのが実に残念だよ。」
ヤンは、今後、アーヴ帝国との戦争の可能性を示唆していた。
「そうね。でも、勝てると思う。兄さん、連邦軍の上層部はかなり、楽観的だけど、私はそう思えないわ。何しろ、戦争の経験が違うし、この国で実際に戦争を経験したものなんて、ほとんどいないのに。」
チュンリーは、状況を冷静に捉えていた。
「そうだね。このまま、いけば、確実に負けるだろうね。アーヴ帝国がなぜ、強いかわかるかい?」
「うーん、戦略的に見れば、ラクファカールがあることかな。あの八つの門の首都はやっかいよ。」
「ほぼ、正解かな。あとは、もう一つある。長期戦にはめっぽうアーヴ帝国軍は強い。理由は、彼らが不老ということも大きく左右しているし、ラクファカールさえ、陥落しなければ、他の門からいくらでも補給を行い、長期戦を維持できる。」
「あ、そうか。確かに下手すると現役を100年以上も続けられる。それは、それだけ、戦場での経験も知識も積み重ねることができる。それに対して、100年後には他の国の兵士は使い物にならなくなるということか。」
「あとは、士気の問題かな。彼らアーヴは、負けたら自分たちが一人残らず滅びると本能で感じ取っている。つまり、戦争は利益や権益を守るということより、自分たちの存亡そのものを常にかけていると思っている。これは、意外に大きいことだよ。チュンリー」
「兄さん。でも、アーヴだけでも戦争は無理でしょう。国民といわれている地上人もいるんだし、その辺りをつけば、勝算はあると思うわ。」
「軍艦の操縦がアーヴの手によるものだとしてもかい。アーヴの船は、基本的に空識覚がない連中は、操縦できないものだ。その時点で叛乱を起こすやつは、いないさ。軍艦が動かせないんだ。どう考えても無理だよ。」
ヤンは、チュンリーの言葉を興味深く反論した。
「そう、でも、なんとか、その辺りをつかないといけないのでしょう。魔術師ヤンならなんとかならないの?」
「今のところは、何もないさ。それにタウロンおじさんから聞いた話だと国民には税金はないみたいだよ。士族にも。これは、おおいなる魅力だと思うよ。宮使い以外には。そして、税金を払っているのは、貴族のみ。画期的な支配システムだ」
ヤンは感心した風に言った。
「国民には税金がないの。貴族だけが払うなんておかしなものね。ハニア連邦は税金をごまかしている名門豪商や特権階級は多くいるのにね。」
「まったくだ。アーヴ帝国と戦うならまだ、他の3ヶ国と戦ったほうの勝算があるよ。さてと、ヤン・ウェンリーによる戦術、戦略講座はここまでだ。早く、料理を作ってくれよ。今回の会戦で一番の褒美をもらいたいからな。」
「わかったわ。そうだ、兄さんにもソウソウ(猫)にも餌をやってね。私は、準備してくるから。」
「わかったよ。私に世話できるのは、ソウソウくらいか。どっちかというと私がチュンリーに世話されているみたいだ。」
そういって、台所に嬉しそうに向かっているチュンリーの後姿を眺めた。
「にゃーん」
そのとき、足元に灰色の猫がすりよってきた。
「わかったよ。餌だろう。まあ、主人を覚えているのは、よいことだ。」
そういって、戸棚にあった猫の餌を用意して、猫の喉をヤンはなでた。
しばらく、猫とヤンがじゃれあっていると、彼の家に通信が入った。それは、ラインハルトからであった。
「ヤン少将、突然、すまないが3日後、卿の家にお邪魔してよいか。重大な話がある。聡明な卿のことだから、予想がつくと思うが、夜7時の時間を空けて欲しい。では、用件は、これだけだ。返事はなるべく、早く頼む。」
ラインハルトは真剣な表情でその言葉を伝えていた。
「3日後か……ちょっと、きついな。その日はチュンリーの誕生日だ。二人だけで祝う予定だったのに、どうしようか」
その伝言を見て、ヤンは独り言をいいながら考えた。
「兄さん、料理できたわよ。あれ、どうしたの、難しい顔をして。」
料理運搬用の自動機械を引きつれて、チュンリーは、尋ねた。
「噂のローエングラム閣下からの会見要請だ。しかも、チュンリーの誕生日の夜に会いたいということだ。まあ、今回は、断ろうかと思う。チュンリーも楽しみにしていたしね。」
「なぜ、断るの。ウォン愛人の弟君であり、上司である閣下の要請を断るなんて、兄さんも意外に大胆ね。私は別にかまわないよ。その話がそんなに長引くわけではないでしょう。そうだ、ちょうどいいわ。そのとき、私の人事について、お願いするわ」
「ちょっと、待ってくれ。それは、絶対にしないでくれ。」
ヤンは慌てたように言った。
「どうも、兄さん、その話になると、言葉を濁すのね。もしかして、何か考えがあるの。」
「まあ………とりあえず、その話は保留ということにしておくてくれ。」
「ふーん、わかったわ。じゃあ、その日の会見受けてよ。兄さんの様子だとかなり、大事な話なんでしょう。そうしたら、この問題は兄さんに任せるから。それに、噂の『金髪の貴公子』にあってみたいしね。」
そういって、チュンリーは満面の笑みを浮かべた。
「わかったよ。さてと、待ちに待った食事をするかな。3ヶ月ぶりのチュンリーの料理だ。じっくり、味合わせてもらうよ。」
こうして、ラインハルトが3日後、ヤンの家に訪問することになり、その妹であるチュンリーも重要な話を終えたあと、自分の誕生の晩餐に誘うことにした。それを、ラインハルトに伝えると、ラインハルトも快く了承した。
3日後
「まずは、急にこのような会見を要請したことにわびをいれよう。妹の誕生日だったみいだな。でも、俺としてはなるべく、早く卿にこのことを話したかったのだ。」
「恐縮です。ローエングラム大将閣下にそのように言われるとは思いませんでした。」
ヤンは深く頭を下げて答えた。
「ヤン少将閣下、ラインハルト様の話を真剣に聞いてください。これは、我々の未来、いえ、この連邦の将来にかかわる話です。」
キルヒアイスは、真剣な表情で言った。
「わかりました。」
そういって、ヤンはアーヴの世界でも上位のそれ以外の人々にとっては、至高の芸術品といわれているほどのラインハルトの美貌を見つめた
「卿は、このハニア連邦をどのように思っている。特に、永久最高議長であるウォン・クーロンと名門豪商48家の支配について、卿の意見を聞きたい。」
「そうですね。この国の建前は、民主共和制とうたっていますが、豪商48家の支配階級とそれに尻尾をふる既得権益集団による支配に変りはないです。そして、そのリーダーたるウォンは、もはや、過去の人でしかない。30年前なら希望を持てますが、いまや、この国の経済的不況や社会的歪みは、いつ、大混乱を招いてもしかたないです。現にここ数年の大規模な海賊の出現は、それを如実に物語っています。」
ヤンは自分の考えを伝えた。
「そうか、卿自身は、それはどのようにするべきであると思う。」
「私個人としては、軍人としての職務を給料分、果たすだけと、選挙に投票する、あとは、友人の政治家がいるのですが、彼に求められたとき、忠告をするくらいです。」
「そうか、では、卿は、それで、この国が救えると思うのか?いや、単刀直入に聞く、その手段で近い将来起きると予想されるアーヴ帝国との戦争に勝てるのか?」
「それは、無理でしょうね。たぶん、負けるでしょう。ノヴァシチリア条約機構連合軍とはいっても、その二番目に巨大なこの国がこの現状では、最終的には負けるでしょう。このままでは。」
「そうだ。国内の海賊にさえ、手をやいているやつらの名門豪商だ。あいつらが政権を維持している限り、アーヴには勝てるとは思えない。だからこそ、この国は改革しなければならない。通常の手続きではなく、力を使った手段で。言いたいことは、これでわかるだろう。だから、卿は私のために力を貸してくれないか」
「でも、あなたが、政権を奪取したあと、暴君にならないとは限らないでしょう。古来、そのような例はいくつもあります。それに、真の本音を私に言っているとは思えません。」
ヤンはまっすぐ、ラインハルトを見つめた。
「ラインハルト様、やはり、ヤン提督は気付いたみたいです。」
澄んだ瞳で諭すようにキルヒアイスは言った。
「そうか、わかった。俺が卿に力を借りたいのは、ウォン・クーロンから姉上を救うためだ。そのためには、彼と彼を支持する支配階級を打倒しなければならない。そして、打倒した後にもこの国をよりよい道に導き、民衆を解放する。自分の誇りと矜持にかけてだ。」
「その言葉を聞きたかったです。わかりました。微力ながらこのヤン・ウェンリーは、閣下のお力になります。」
「卿は、さすがだな。しかし、私が独裁者どころか、皇帝や王を目指したらどうする。卿は曲がりなりにも民主共和制とやらをこれまでの言動で信じているみたいだ。」
「それは、やらないでしょう。ローエングラム閣下は、自分のまだ見ぬ産まれてくる息子に民衆の未来をかけさせたいと思いますか?」
「……確かにそうだな。卿の発言には感心させられる。王や皇帝などという地位をつくったら、ただ、私の血を引いていたというだけで、最高権力者にさせるなど具の骨頂だ。それこそ、名門豪商48家のやつらと同じことだ。やつら、あの家にうまれただけで、権力を得ることになるのだから。」
「それに、キルヒアイス准将がそばにいます。彼が絶対に反対するでしょう。実は言うと、私があなたに個人的に力を貸したいと思う一番の理由は、キルヒアイス准将です。彼が側にいる限り、あなたは名将でもあり、将来のハニア連邦史上最高の指導者になれるでしょう。」
ヤンは、この後ラインハルトとキルヒアイスについて、自分の見識を伝えた。
ラインハルトの軍事的才能と実行力、そして、何よりその覇気と見識眼は、銀河の動向と状況を見ていて、その器量も底知れぬ人物であり、なおかつ、その印象は好印象を持っていた。何より、普段やる気のない自分に対して他の上司とは違い、評価したのであった。
そして、キルヒアイスも戦術家としての力量、そして、状況の分析力、決断力、判断力、それもずば抜けていた。
実際、ヤンが彼らの艦隊に士官として来た時、艦隊で楽をさせてもらっていた。二人がいれば、小規模の海賊を殲滅するときは、充分であった。その手腕を横目で見ながら、ヤンはその力量を感じていたのであった。
さらにヤンは、二人の関係について好印象を感じていた。立場では、ラインハルトが君主でキルヒアイスが家臣のように表面上に振舞っていたが、ヤンにはそれ以上のものを感じていた。そして二つで一人、互いに半身であるというような想いで共に行動しているのを感じた。そして、そのときに対するキルヒアイスの振る舞いがとても、美しくもあり、彼にぜひとも力を貸したいと思ったのであった。
「つまり、卿は、私ではなくキルヒアイスのために力を貸すということのなのか。」
その言葉にラインハルトは、少しむくれた表情をした。
「私は、どうも甘い人間でして、それ以上に優しいキルヒアイス准将なら、たとえ、政権を握っても残虐な行為をローエングラム閣下に反対するだろうと思うので、さらにいえば、閣下、もし、彼の忠言を聞かなくなったと思ったとき、私はあなたと離れるでしょう。」
最後は、真剣な表情でヤンは伝えた。
「ふ、キルヒアイス、お前の力は偉大だな。ヤン提督を射止めたのは、キルヒアイスの優しさだ。しかし、キルヒアイスをここまで認めてくれたのは、ヤン・ウェンリーのみだ。他のロイエンタールやミッタマイヤーでさえも、キルヒアイスを俺の付属物としか見ていなかったからな」
その答えにラインハルトは嬉しそうに答えた。
「ラインハルト様…。そうですね。しかし、あなたは、本当に恐ろしい人です。あらためて、味方となってくれて、助かりました。ラインハルト様とわたくしの関係をこの数ヶ月で見ぬくとは、思いませんでした。」
「いいえ、私がそれに気付いたのは士官学校時代に二人にあったときです。今でも印象深いですからお二人との出会いは。」
ヤンは懐かしそうにつぶやいた。
「そうか、あのときにすでにわかっていたのか。私もあのとき以来、卿のことは、調べたぞ。数年後には、シャンリューイの英雄として現れたがな。」
「その称号を言われると背中が痒くなるのでやめてくれるとありがたいです。」
「そうか、なら、今後は魔術ヤンといわれるのが、決まりだな。見たか、あのニュースの映像を。」
笑いをかみ締めながらラインハルトは言った。
「まったく、困りますよ。今後は、なるべく、言わないようにお願いします。」
「そうですよ。ラインハルト様、ヤン提督も困っています。」
「そうだな。今後は違う名前にしよう。」
そういって、悪戯っ子の笑みをラインハルトは浮かべた。
「ローエングラム閣下」
「ラインハルト様」
二人同時にいさめるように言った。
「わかったよ。それより、乾杯しよう。三人の未来とハニア連邦の将来に向かって。」
杯を上げようとするラインハルト
「ラインハルト様、今日は、ヤン提督の妹さんの誕生日なのですよ。その前に乾杯をするのは、どうかと思います。」
「そうだったな。それより、もう一回確かめたいことがある。ヤン少将、卿は、俺に何を望んでいるのか。権力を握ったら、何かして欲しいことがあるのではないか。」
「そうですね。戦争をしないようにお願いします。ただ、それだけです。」
「つまり、ノヴァシチリア条約から脱退しろということか。わかった。卿の願いをいれよう。」何か含むことを感じたらしく、ラインハルトはうなずいた。
その後、ヤンは、ラインハルトとの会見が終わったことを妹に伝えて、料理を持ってくるように言った。
「ローエングラム閣下、キルヒアイス准将閣下、はじめまして。ヤン・チュンリーです。今は、士官学校の最上級生です。兄さんが閣下にお世話になっているみたいで恐縮です。」
人の気持ちを明るくさせるような眩しい笑顔を二人に向けた。
「そうか、今回は、卿には、迷惑をかけたな。誕生日の席におしかけたみたいだ。」
「そうですね。ラインハルト様。それでとりあえず。ミス・ヤンにお詫びというか、その誕生日プレゼントです。」
そういって、キルヒアイスは、持ってきた袋の包みから鉢入りの花をプレゼントした。
「キルヒアイス准将閣下、ありがとうございます。ですが、ミス・ヤンという呼び方はちょっと、辞めてもらえませんか。チュンリーでいいです。今回のことも私的なものでしょう。」
「しかし……その女性を名前で呼ぶ機会は、滅多に無いものですから。」
赤毛の青年は、困った表情を浮かべた。
「チュンリー、キルヒアイス准将閣下は困っているから、やめなさい。それより、私からの贈り物だ。20歳のときは、ペンダントが欲しいといってきたから買ってきたよ。」
「ありがとう。大きさも頼んだとおりね。この中に家族の写真をいれておくわ。」
そういって、箱の中身をあけて、写真を入れて、チュンリーは満足そうな笑みを浮かべた。
その状況を見て、一人、居心地悪そうな表情をラインハルトは浮かべた。
「キルヒアイス、お前は、なぜ、用意していていたのだ。私も教えてくれたら何か考えていたのに。」
「ラインハルト様なら、それくらい用意していると思いましたけど。」
いかにもすまなそうに言うキルヒアイス
その言葉でラインハルトは、謀られたと思った。確かに、彼の人生に常に政治や軍事やことばかり、考えていたのだが、ちょっとした、日常的な行事や出来事に関してはまるで、無頓着になりつつあった。それを考えさせるためにもキルヒアイスは、あえて、今回は、言わなかったということを理解した。
「ローエングラム閣下、ここで、誕生日の贈り物を要求するのは、失礼かと思いますが、あえて、させていただきます。私を兄さんの、いえ、ヤン少将の副官にお願います。そのように人事をはかってください。」
そのとき浮かべた笑みは、不敵と意思の強さを示していた。
「ほう、これは、驚いた。確かに卿の望みは、私の力で何とかなるが、卿がヤン少将に役に立つと思うのか。」
その表情を興味深く眺めると蒼氷色の瞳で挑むように言った。
「そうですね。それは、兄さんに聞いてください。私が役立たずと思えば、断るでしょう。」
そういって、黒い瞳で兄を見つめた。
その様子を見て、ヤンは頭をぼりぼりとかきながら、困ったような表情をしながらいった。
「本音を言えば、連邦軍の中で私を補佐するとしたらチュンリー以上の者はいないでしょう。」
「閣下、兄さんも言っていますし、お願いします。」
今度は、真剣に懇願するように言った。
「わかった。それにしても、ヤン少将、卿の妹はなかなかの逸材といえるな。それを誕生日の贈り物とするでしょう。」
「はい、恐縮です。それより、妹の料理を食べてください。それと、乾杯もしましょうか。」
こうして、ヤン兄妹、ラインハルトとキルヒアイスは歴史的な会見にたちあった。これが、後のハニア連邦の情勢に多大な影響を与えたことは間違いなかった。