ハイスクールD×D ~竜の聖女は決闘者~   作:アバター教信者

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第2話

 その少女と出会ったのは、俺が旅を始めて3ヶ月もしない……まだ表の人間界にいた頃だったか。見渡す限りの平地が続く荒野を当てもなくD・ホイールで走っていたら、車すら滅多に通らない場所だというのに、そこをドデカいトラベラーズリュックを背負って徒歩で歩いている少女がいたのだ。

 余程の人でなしでなければ声を掛けるだろうし、実際に俺は声を掛けた。

 

 

 

 少女は、『アーシア・アルジェント』と名乗った。

 

 

 

 アーシアを見て、まず驚いたのが外見だ。憑依男の知恵袋によるとだが、どう見ても中学生程度にしか見えないのだ。年齢を聞いてみればもの凄く下手な誤魔化し方をされたが、粘り強く聞いてみれば14だと白状した。

 次に気になったのは恰好。修道服を着ていたのだが、頭のベールからブーツの先まで余す所無く泥や……その……汚物で汚れていた。おそらく服の下もそうだろう。本来は天使の輪が見える程に艶があったであろう金色の髪の毛も、くすんだ黄土色に見えてしまう程に薄汚れてしまっている。

 よくよく見なくても手はボロボロ、唇は割れてガサガサ、エメラルドの如き瞳は虚ろで何処を見ているのか分からない。だけど顔には貼り付けたかのような不気味な笑み。

 

 ダメだこの子、早く何とかしないと……! と思い、D・ホイールに乗ってもらう為にボロッボロのリュックを降ろしてもらえば異様に軽い音が。無礼を承知で中身を確かめてみれば、金は硬貨1枚も無く着ている物よりズタボロの修道服が2着と中身の無い500mlペットボトルのみ。

 逆に俺が発狂しそうだった。

 

 荷物は全て持っていく事も出来たが、アーシアの荷物は持っていく価値が無かったのもあって、リュック――中身込み――は捨てていくことになった。それにしても自分の荷物を捨てる事に、一切の躊躇いが無かったのにはとても驚かされた。

 後に聞いたところ、あの頃は何もかもがどうでもよかった、との事。

 

 その後はD・ホイールの後ろに乗ってもらい、俺が元々行こうとしていた次の町にある大衆浴場まで引っ張って行った。道中はもちろん入浴中ですらどこまでも無気力なままで、放っておいたら飯も食わずに餓死しそうな勢いだったので、こんな様子じゃしばらく目を離せそうにないなと思い、長期で滞在する事になったペンションの一室で泥のように眠るアーシアを見ながら彼女の世話を見ることに決めた。

 因みに風呂では髪も身体も全身余す所無く汚れていたが、全く動く気配を見せない彼女の代わりに俺が全身を洗ってやり、新しい服も買い与えた。……こんな所で同性である事が役立つとは思わなかった。

 あ、いや、女扱いというか、女だからって理由で馬鹿にされたり侮られるのが嫌なだけで、俺は身も心も女ではあるのだ…………一応。

 

 

 それから約1ヶ月、アーシアは相変わらず無気力なままではあったが、世話になった恩を返そうと思っているのか、何をするにも後ろについて来るようになったのだ。鬱陶しいとは思わないし、生活する金にも余裕はあるのだが、ちょっと困った事になったとは思った。

 

 

 話は変わるが、悪魔や堕天使や天使といった人外達は、表の世界といえど少なからず……人間に友好的な者から害を及ぼす者まで、思っているより身近に存在している。

 当たり前の話だが害を及ぼす者に対しては、それに対処する者達が存在する。その者達の中には同じ人外同士はもちろん、一部の特殊な力を持った人間も存在している。

 そして人間に害を為す主な人外とははぐれ悪魔と呼ばれる存在で、そいつらには懸賞金が掛かっている。

 そんな奴らに対して俺はデュエルという手段を取れて、カードの力を具現化出来る『サイコデュエリスト』の様な力も持っている。

 ここまで説明すれば分かるだろうが、俺は人間にとって害となるはぐれ悪魔を狩って金を稼いでいるワケだ。

 

 話を戻そう。

 アーシアが俺について来るという事は、裏の仕事にまで首を突っ込んでしまう事にも繋がる。かと言って彼女を1人にする訳にもいかない。

 となればどうするか……と悩んでいたところ、大変珍しい事に興味深く俺のデッキを見ていた彼女の様子から、とある良い考えを思い付いた。

 そうか、『アーシアにも『遊戯王』を教えればいいんだ』と。

 そこから先は早かった。カードを持たせてルールを教え、時に『コンマイ語』なる謎の言語に苦戦しながら、何度も何度もデュエルを繰り返した。

 

 

 繰り返した結果、1ヶ月後……気付けばアーシアは日本語を覚えていた。

 

 

 まるで意味がわから……なくはない。『遊戯王』は様々な言語でカード化されてはいるが、『~時、~できる』や『~場合、~する』といった表現は日本語の方が説明しやすい。それに憑依男の影響かは知らないが俺は日本語を話せる。アーシアが日本語を覚えるのも時間の問題だったんだろうから、早めに覚えておいて損は無いだろうと結論付けた。

 しかしデュエルは『決闘』と書いて『デュエル』と読む勝負事。普段の生活で分かった事だが、彼女は相手を傷付けるような行為が苦手だ。

 故に単純に相手を殴り倒す『ビートダウン』や、直接相手に効果ダメージを与えて倒す『バーン』は合わないという事で、相手に攻撃すること無く倒せる『特殊勝利』型のデッキを勧めた。

 

 

 更に1ヶ月後……俺は選択肢を間違えた。

 

 

 繰り返すようだが、アーシアは相手を傷付ける行為が苦手だ。だからこそ『特殊勝利』を勧めたが、『遊戯王』……『デュエルモンスターズ』はそれだけでは勝てない。

 このデッキにはこういうカードが入ってる。あのデッキはあのカードを組み合わせれば厄介になる等、他のカード知る事が重要だ。

 だからこそ他のデッキを実際に回させた。

 

 回させて『しまった』。

 

 『遊戯王』のデッキタイプは、『ビートダウン』1つ取っても幾つかの種類がある。

 とどのつまり――

 

 

 アーシアが『1キル』に目覚めた。

 

 

 今思い返しても、明らかに渡したデッキを間違ったと思う。

 アーシアと出会ってから約3ヶ月。常に側に居て試行錯誤しながら心と身体の両方のケアをした結果、控えめながらも貼り付けたような不気味なモノではない、心からの笑みを薄らとだが浮かべるようになっていた。

 その彼女が笑ったのだ。しっかりと『微笑み』を浮かべたのだ。1年半程前の出来事なのだが、憑依男の出来事と同じくらいの衝撃だった。

 

 それはアーシアの実力が、自衛するだけなら十分だと考えて裏の仕事に連れて行き始めた時の事だ。彼女が俺の代わりにデュエルをしたいと申し出てきた。

 裏の仕事自体は既に何回か連れて行ってるし、その時彼女に渡していたデッキなら負ける事は無いだろうと踏んで、代わりにデュエルを受けさせた。

 

 それが分岐点だとは気付かずに……。

 

 

 

 ◆ ――約1年半前――

 

 

 今日の相手は結構な額が掛かっている賞金首で、並の賞金稼ぎでは歯が立たないはぐれ悪魔。だがそれは普通に戦った場合の話だ。

 

「クックック、極上の獲物が自分からやって来てくれるとは、俺も随分とツイてるなぁ」

「それはこのアキラさんのデッキに勝ってから言うべきだと思います」

 

 人外の中ではデュエルは何よりも重要視される、ある種の儀式とも言える。

 だから俺達はそれを逆手に取って、はぐれ共を狩り続けているのだ。

 

『デュエルに勝てば、この身も心も全てお前に捧げよう』と。

 

 俺はともかくアーシアはとても見目が良い。毎日3食しっかり食べてしっかり寝るようになってからは、出会った頃の面影は見えなくなり、代わりに髪には天使の輪が見える程の艶が戻り、肌はツルツルで木目細かくささくれ1つ見当たらず、鮮やかなエメラルドカラーの瞳は光を反射して宝石の如く輝いている。本人は否定するが、美の女神に愛されていると言っても過言ではない。

 この誘いを断るとすれば、ゲイか年増好きかそれ以上に特殊な性癖を持っている変態くらいだろう。

 

 だからこそ相手はホイホイ誘いに乗ってきたんだがな。

 

「「デュエル」です」

 

アーシア  LP4000

 VS

はぐれ悪魔 LP4000

 

「俺の先攻だ。チューナーモンスター、≪復讐の女戦士ローズ≫を通常召喚」

 

≪復讐の女戦士ローズ≫

レベル4 ATK1600

 

 黒い軽鎧を装備した赤髪の女戦士が颯爽と降り立ち、アーシアとその隣にいる俺に剣を向けてくる。

 戦士ということは……何が出てくる? 俺は神様から叩き込まれた知識と憑依男の知識のおかげでかなり詳しくはなっているが、全てのカードを知っている程カードの造詣が深いワケではないのだ。

 

「次はこれだ。魔法カード≪二重召喚(デュアルサモン)≫発動。俺はこのターン、もう一度通常召喚を行える。≪荒野の女戦士≫を通常召喚」

 

≪荒野の女戦士≫

レベル4 ATK1100

 

 フィールドに現れたのは茶色の帽子とマントを身に着けた金髪の女戦士。どんだけ女戦士好きなんだよ……。

 それは置いといて、相手のフィールドにはレベル4のモンスターが2体……エクシーズか、それとも片方がチューナーモンスターだからシンクロか、戦士族は幅が広くて面倒だな。

 

「俺はレベル4の≪荒野の女戦士≫にレベル4の≪復讐の女戦士ローズ≫をチューニング」

 

 あ、シンクロ召喚か。面倒なのが来なければいいが……。

 

「さあ、解体の時間だ。現れろ≪クリムゾン・ブレーダー≫」

 

≪クリムゾン・ブレーダー≫

レベル8 ATK2800

 

 シンクロ召喚特有の光の柱から飛び出てきたのは、両手に剣を持った赤い細身の剣士。攻撃力は申し分無いし、1ターン目からこの壁はそこそこやるなとも思う。だが≪クリムゾン・ブレーダー≫はモンスターを戦闘で破壊した場合、次のターンに相手はレベル5以上のモンスターを召喚・特殊召喚できなくさせる効果を持つ後攻型のモンスターなのであって、1ターン目に出すモンスターじゃないだろうが……。

 おい、俺の期待を返せよ。とんでもなく厄介なヤツでも来るのかと思っちまったじゃないか。

 

「俺はこれでターンエンド。今までこのモンスターに勝った者は居ない……つまり、ここで俺の勝利が確定したわけだ。じっくり甚振りながら細切れにしてあげよう」

 

 おいおい、今まで相手してきた連中はどんだけ弱かったんだ……? まさかバニラフルモンだったとか言わないだろうなぁ?

 

アーシア LP4000

手札5枚

フィールド

 なし

 

はぐれ悪魔 LP4000

手札2枚

フィールド

 ≪クリムゾン・ブレーダー≫

 レベル8 ATK2800

 

「私のターンなので、ドローしますね」

 

 相手の言葉に反応を返すのは控えめにしておけと、予め言ってあったのもあるが見事なスルーだ。

 

 因みにアーシアが今使っているデュエルディスクは、俺が≪機械複製術≫なる魔法カードで神特製のデュエルディスクを複製した物で、元々自由に本体の色を変えられる機能も付いていたので、色も彼女の瞳と同じ系列の翡翠色に変更してある。

 

 デュエルの流れは、先攻を取ったクセに攻撃力2800のシンクロモンスターを召喚して満足してしまったのか、リバースカードを1枚も伏せずにターンを渡してしまった。

 アーシアに渡したのは純粋に火力が高いデッキだから、奴の実力を鑑みれば彼女の勝利は確実だろうが油断は出来ない。プレイングミスをすれば一気に負ける事もあるのだ。

 そう考えながら彼女の手札を見て……察した。

 

「私は、魔法カード≪パワー・ボンド≫を発動します。このカードは私の手札、フィールドから融合モンスターカードによって決められた融合素材のモンスターさんを墓地に送って、機械族の融合モンスターさん1体を融合召喚扱いとして特殊召喚します」

「ほう、融合か。食前の運動としてはちょうど良さそうだな!」

 

 残念なお知らせだが、お前はもう2度と食事は出来ない。

 

「私は、手札の≪サイバー・ドラゴン≫さんを『3枚』墓地に送って、≪サイバー・エンド・ドラゴン≫さんを特殊召喚します!」

 

≪サイバー・エンド・ドラゴン≫

レベル10 ATK4000

 

 光の中から姿を見せた3つ首の機械竜は、アーシアをはぐれ悪魔から守るかのように咆哮を上げる。……ってあれ? 俺の気のせいじゃなければサイバー・エンドさん、具現化してません?

 

「こここ攻撃力よよ4000んんん!? な、何なんだそのドラゴンは!?」

「そして、≪パワー・ボンド≫第2の効果が発動します。このカードの効果で特殊召喚したモンスターさんの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップします。なので≪サイバー・エンド・ドラゴン≫さんの攻撃力は倍になります」

 

≪サイバー・エンド・ドラゴン≫

ATK4000→8000

 

「――――――!!」

 

 声にならない叫びを上げる気持ち……分かる、分かるぞぉ!

 だがお前は既に何人もの人間を喰っている。故にはぐれ悪魔死すべし慈悲はない。

 

「では苦しませないように一瞬で終わらせて差し上げます。≪サイバー・エンド・ドラゴン≫さん、あのお方に慈悲の一撃を……!」

「ま、MA☆TTE!! ぎゃあああああああ!!!!」

「せめて安らかな眠りを……」

 

 じひをあたえるなんてあーしあはなんてやさしいんだ……。

 

はぐれ悪魔 LP4000→0

 

 賞金首のはぐれ悪魔は、魂諸共消し飛んだ。

 これは『遊戯王』で言うところの『闇のゲーム』。はぐれ悪魔はどうだか知らんが俺達は本気で命を賭けている以上、負けた側に明日の朝日を拝む権利は無いのだ……。

 

「……アキラさん」

「ん、どうかしたか?」

 

 何かを堪えるようなアーシアの声に少し心配になるが、いつも通りの声音で反応する。

 

「デュエルには……この様な勝ち方もあるのですね……」

 

 そう言って慈愛に満ち溢れた微笑みを浮かべる彼女の手札には、≪リミッター解除≫と≪サイバー・ジラフ≫が握られていた。

 

 こ れ は ひ ど い。

 

 ≪パワー・ボンド≫は発動したターンのエンドフェイズ時に、効果で上昇した分のダメージを受ける効果もあるのだが、≪サイバー・ジラフ≫はフィールドに存在している自身をリリースすることで、ターン終了時まで効果によるダメージが0になるモンスターなのだ。つまりアフターケアも万全、と。

 ≪リミッター解除≫は……見なかったことにしよう。

 

「ああ……」

 

 俺は目の前の現実を受け止めきれずに空を見上げようと顔を上げて……もう1つの受け入れ難い現実を見てしまった。

 そう、デュエルが終わったのにも関わらず、ソリッドビジョンではない≪サイバー・エンド・ドラゴン≫が、俺達を見下ろしているのだ。

 

「え、あ、えっと……デュエルが終わったら、ソリッドビジョンは消えるのでは……?」

 

 あー、うん。オロオロしているアーシアを放っておくのも酷だし、何とかしてやらないとな。ま、お前がそれで良いならちょろいとは思うけど俺に止める理由はない。むしろ彼女なら太鼓判を押すね!

 だがその前に彼女の疑問を解決するのが先だ。質問に質問で返すのはマナー違反だとは思うが、今は目を瞑って解決の近道として使わせてもらおう。

 

「その疑問には……そうだな、アーシアは裏の世界の住人が単なるカードゲームである『デュエルモンスターズ』を、命と同じくらい重要視している事を疑問に思うだろう?」

「それは……はい」

 

 疑問を自覚させて、頷いたのを確認してから話を続ける。

 

「アーシアは『デュエルモンスターズ』に触れて日が浅いし分からないと思うけど、この『デュエルモンスターズ』のカードには特別な力があるんだ」

「特別な、力……ですか?」

 

 特別な力と言ってもアニメのように精霊界があるわけでもないし、(いにしえ)から続く儀式に使われていたとかでもない。謎の運命力とでも言えばいいのだろうか。理論付けた説明が難しいと言うか、言語化するのが不可能なのだ。

 これも多分、憑依男が神に願った結果なのだろうか?

 

「ああ、そしてカードの中には自我のようなものを持っているモノも存在する」

「……なるほど。ではここにいる≪サイバー・エンド・ドラゴン≫さんは……」

 

 ほう、荒唐無稽過ぎて受け入れるのに時間が掛かると思ったが、この短時間で納得するとはな。

 

「そう、所謂カードの精霊と呼ばれる存在だ。そしてアーシア、キミはこのデッキを司る≪サイバー・エンド・ドラゴン≫に、≪サイバー・ドラゴン≫達の主として相応しいと認められた。よって今この瞬間からそのデッキはアーシアの物だ」

「……え? そ、そんな!? わ、私のような未熟者がこのような素晴らしい機光竜の方々の主となるなど分不相応にも程があります! 今一度お考え直しを……!」

 

 たし蟹いきなりこんな事を言われれば混乱するのも無理ないか。

 でも≪サイバー・ドラゴン≫達が認めちゃったし、断られると俺が困るんだよな。ドラゴンって気難しいのが多いから慰めるのが大変なんだよ……。こいつらマジ個性強すぎッスよ! 

 

「ん゛ん゛っ、聞いてくれアーシア。このサイバー達はな、自分達をしっかりと『リスペクト』してくれる者を主と認めるんだ。アーシアがサイバー達でデュエルするのは初めてだけど、カードを扱う手つきから呼び方に至るまで、敬意を以って接していただろう。そして相手は人を喰った悪魔であるというのに尊重する心を忘れず、せめて苦しませないようにと慈悲を以って相手を下した。≪サイバー・エンド・ドラゴン≫はソレを見て、このデュエリストならば自分達の全てを引き出してくれるだろうと決心した。その想いを受け入れてはもらえないだろうか」

「アキラさん……≪サイバー・エンド・ドラゴン≫さん……」

 

 曲がりなりにも竜の運び屋なんぞをやっているんだ。真面目な雰囲気を出しても怒られないだろう……きっと、たぶん、おそらく、めいびー。

 

 アーシアは俺とサイバー・エンドを交互に見つめ、答えを出した。

 

「分かり、ました。私が≪サイバー・ドラゴン≫さん達の主になるには、まだまだ実力が不足していると思います。ですが、その想いを無碍には出来ません」

 

 最初は迷いがあった表情が、徐々に決意を籠めたモノへと変わり――

 

「私、アーシア・アルジェントは、『サイバー』の名を司る機光竜の主となる役目を、身命を賭して務めさせていただきます」

 

 サイバー・エンドを背にした俺に対して、王から剣を賜る騎士を彷彿とさせる恭しい礼をとった。

 

 何なのだ、これは! どうすればいいのだ!? 後で慰めるのが面倒だからという理由で説得したら、ガチで命懸けそうな勢いでデッキを受け取ってもらっちゃったんですけど……。と、とりあえず流れに乗ってみよう!

 えぇと、そういやサイバー・エンドは機械族なんだよな。だけど竜のカード扱いされてるから問題はない。なら同じ光属性のドラゴンで囲んで、それっぽい雰囲気を演出してみよう。デュエルディスクをデュエルをしないフリーモードで展開して、『特典』の『サイドポーチ(四次元ポケットもどき)』からカードを取り出して。

 

「その決意、認めましょう。出でよ、≪エンシェント・フェアリー・ドラゴン≫、≪銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)≫、≪究極宝玉神 レインボードラゴン≫、≪青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)≫」

 

 意思を持つ光属性のカードの中でも、特に強い輝きを放つドラゴン達を召喚する。『遊戯王』を知っている者なら、名前を聞いただけでその姿を想像出来るであろう光のドラゴンだ。神々しくない筈が無い。現にアーシアはその美しさに礼をとっていた事も忘れ、ポカンと口を開けて見上げている。ドラゴン達は俺の後ろに顕現しているからまだマシだが、直接見たら俺もこうなりそうだ。

 

「アーシア」

「――――はぅ」

 

 へんじがない、ただのしかばねのよう……ではない。うっとりした表情を浮かべるアーシアは……色々とヤバいです。

 

「アーシア!」

「は、はい!? あっ……申し訳ありませんっ! そ、その、竜の方々のお姿があまりにも美しかったもので……」

 

 だろうね、危うく昇天しかけてたもの。……とは彼女の為にも口に出さない。

 

「俺もドラゴン達もそれくらいじゃ怒りはしないよ。むしろアーシアみたいな良い子に美しいと言ってもらえて光栄だよ。な?」

 

 後ろのドラゴン達に伺いを立てながら振り向いて……危ない危ない、トぶところだった。同時に何故社長が『ふつくしい……』と言ったり、ナンバーズハンターが魂と称したのかが分かった。これは人を惹き付ける魔性の竜だ。基本は正の方向に向いてはいるが、一歩間違えたら反転してしまう程に危険なヤツだ。

 っとと、気を取り直して彼、彼女らの声に耳を傾けよう。……返ってきた意思は肯定。

 

「てなワケでだ。……アーシア・アルジェント」

「はい!」

 

 うう、ただ格好付けてるだけなのに、まるで『私の(救い)はここにあったのですね……!』とでも言いたげな視線は、俺の心に≪ファイヤー・ボール≫の様な小さいけど決して無視出来ないダメージを与えてくる。

 ええい、ならば最後までやり通してやろうじゃないのさ!

 

「汝を『サイバー・ドラゴン』の主と認め、デッキを授けよう。≪サイバー・エンド・ドラゴン≫!」

 

 名前を呼んだだけで察してくれたらしいサイバー・エンドは俺の後ろからアーシアの後ろに回り、真ん中の首をアーシアの前に回し視線を合わせる。

 

「これより≪サイバー・エンド・ドラゴン≫は私の下を離れ、汝の守護竜となる! 今ここに、我等の仲間が相棒と呼ぶべきデュエリストの下へ渡った! さあ、祝福の咆哮を上げよ! これは良き門出なるぞ! 啼け! 啼け!!」

 

 拳を突き上げて、咆える。自分でも何言ってんのか分かんないけど楽しくなってきた!!(ぐるぐる目) サイドポーチの中にある他のドラゴンのカードも咆哮を上げてる気もしてきたゾ!

 

 テンションが上がりすぎてヤバいけど、アーシアとサイバー・エンドを祝っているのは事実。何せ竜の運び屋を自称し始めてから、初めての譲渡達成。それも渡す側、渡される側の両方がとても良い関係を築けること間違いなしの、考え得る限り最高の条件でだ。こんなん嬉しいに決まってる!

 

「あ、ああっ……!! わた、しぃ……! あぁ!!」

 

 俺達の咆哮が本気で祝福しているのが伝わったのか、胸の前で手を組み、今まで溜め込んできたドス黒い何かを吐き出すかのように声を上げて涙を流すアーシア。

 

 今の俺は彼女の境遇を知らない。だから何も言わない。お前の声は俺達が掻き消してやるっ! だから泣け!!

 

 

 

 

 

 一頻(ひとしき)り『な』いた後、この場を纏める為にアーシアに声を掛けた。

 

「アーシア、サイバー・エンドをよろしくな」

「はい! ≪サイバー・エンド・ドラゴン≫さん、これからよろしくお願い致します!」

 

 憑き物が落ちたような清々しい表情で深くおじぎをする彼女に、サイバー・エンドは『こちらこそ』とでも言いたげな咆哮を上げてデッキの中に消えていった。

 そして気付けば俺が召喚していたドラゴン達も、勝手にサイドポーチの中に戻っていた。やっぱりお前ら自由過ぎだろ! つかエンシェント・フェアリーさん、貴女そんな性格でしたっけ?

 

「ん~! っふぅ……。さて、戻るか」

「そうですね。……アキラさん」

 

 背伸びで気分を切り替えて歩き出した俺に、後ろから付いて来ていたアーシアが声を掛けてきた。声は返さず首だけ振り返って続きを促す。……シャフ度ってマジキツイ。

 

「宿に帰ったら、私の過去についてお話ししたいと思います。その時は、お時間を作っていただけませんか?」

「……いいよ」

「ありがとうございます」

 

 そう言って頭を下げる彼女を見て、良い方向に変わってくれたなぁと思いながら俺達は帰路に着いた。

 

 

 

 ◆ ――現在――

 

 

「なあなあシアシア」

「はい、何でしょうか?」

 

 今日のデュエルを終え、酒場兼宿屋の2階の一室にあるベッドでごろごろしている俺は、ロッキングチェアに座って自分のデッキを検めているシアに質問をする。

 

「『1キル』、好き?」

「はい!」

 

 それはそれは優しい微笑みを浮かべながら、それはそれは元気な返事が返ってきた。

 

 あの日、相手に苦痛を与えること無く()一瞬で終わる『1キル』に目覚めたシアは、サイバーデッキの譲渡以降も幾度となくデュエルを繰り返し、めきめきと実力をつけていった。

 その結果、賞金稼ぎ達の間で『機光竜の聖女』と呼ばれ恐れられるようになり、何故か俺まで『神竜の聖女』と呼ばれ、シア以上に誰も寄り付かなくなった。

 恐らく光のドラゴン達を召喚する所を見られたのだろう。そうでなくとも神々しいドラゴン達が俺達を守るように囲んで、祝福の咆哮を上げていたのだ。……まあ、そうなるな。

 

 んで、更に2人揃って『竜の聖女(ドラゴンズ・セイント)』と呼ばれるようになってから、変な男に付け狙われるようになった。思い出したくもないし、思い出せそうにもないのだが、確か……ディオなんとかって名前の気持ち悪い気配のする優男だった気がする。……うん、アイツはシアと会わせなくて大正解だ。

 このままキモい優男に付き纏われてはドラゴン達の相棒を見つける事が出来ないと考え、俺達は裏の仕事場から姿を消した。

 幸いにして、はぐれ悪魔狩りで手に入れた金に殆ど手を付けてなかったので、貯まりに貯まっていた金を使って諸国漫遊の旅に出る事にした。

 

 そんな楽しい楽しい旅行――相棒探しもちゃんとやっていた――の途中、『ミルたん』という魔法少女を目指す情熱的な人と出会った。

 一目見た時は同じ人間か疑ってしまったが謝ればちゃんと許してくれた上、旅の共をしてくれたのだ。彼、いや彼女……いや、ミルたんは自分が魔法少女を目指し、魔法少女になる夢を叶える為に旅をしているのだと語ってくれた。

 たった1週間にも満たない間だけの共だったが、俺達の間には絆が生まれていたのは確かだ。故に俺とシアは胸を張って言える。ミルたんは大事な親友である、と。その親友の旅路を応援する意味も籠めて、≪白魔導士ピケル≫と≪黒魔導師クラン≫のカードを渡したらとても喜んでくれた。

 

 そしてミルたんは、俺達に冥界への道を開いてくれた人でもある。俺達がキモい優男に付け狙われていると知ったミルたんが、路地裏の壁に向かって裂帛の気合と共に冥界への扉を造りだしてくれたのだ。――正直言って神の領域に片足突っ込んでいるんじゃないかと思う。

 ともあれミルたんとはそこで別れる事になってしまったが、「これは一生の別れじゃないにょ」と言ってくれたミルたんに、思わず涙が出そうになってしまった。

 俺達3人は『またにょ』と言って別れ、俺とシアは冥界へ、ミルたんは……分からねぇや。でも今日もどこかで魔法少女を目指していることだろう。

 

「なあシア」

「何でしょうか?」

 

 酒場兼宿屋の2階の一室にあるベッドに寝ている俺は、同じベッドの中に寝ているシアに質問をする。

 

「ミルたん、元気かな」

「あのお方なら、D・ホイールに走って追いつけるくらい元気だと思いますよ」

 

 囁くような声で肯定してくれた。

 

「そうだよな……あれ?」

 

 D・ホイール……ランニング……うっ、頭が。……寝よう。

 

「おやすみ、シア」

「はい、おやすみなさい」

 

 そろそろ、この町を出る頃合いか。ちょうど帰還の目処も立ったし、ここらで人間界に戻るのも悪くないかもな。

 

 そう考えた辺りで眠くなってきたので、護身の為に俺とシアに≪安全地帯≫を発動し、更に≪聖なるバリア-ミラーフォース-≫をセットして眠りに就いた。

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