「おかえり。お疲れさま。」
「ああ。」
今日も応える声はそっけない。必要以上の会話はないが、いつもの、があるだけ私たちは近い関係になれてるのかもしれない。
大倶利伽羅。彼はこの本丸にきた最初の太刀だった。「だった」というのは今は打刀としてここに在るからで。
ようやく戦力も整ってきた本丸。彼には立ち上げから世話になりっぱなしだった。他の刀剣たちも練度の高い大倶利伽羅には一目置き、「馴れ合うつもりはない」と言いながら周囲をよく見て動く彼を慕っていた。そして私も。政府と刀剣の板挟みで押しつぶされそうな時、彼のさりげない優しさに幾度となく助けられた。
そんな、夏本番まであと少しの時期だったか。政府から刀種変更知らせが届いた。「太刀から打刀へ」言って仕舞えば簡単で。勿論それが何を意味するのか、数字上の違いは通告されたが、彼は「彼」であれるのか、私にはわからない。不安で、心配で仕様がなかったが、それを外に出すわけにはいかない。
その日の職務は全くと言っていいほど進まなかった。文字を書いても間違うばかりだ。ともに書類を片付けていた長谷部が珍しく、仕事を明日に回そうと提案してきた。あの長谷部がその日の仕事を翌日まで持ち越すことを自ら言ってくるとは…自分が思っている以上に私は「わかりやすい」のかもしれない。
ひとまず水でも飲もうと部屋を出て歩くと、縁側にひとり座っている大倶利伽羅を見つけた。政府からの通達はすでに知らせてある。
「倶利伽羅、隣いいですか?」
思わず彼の隣に腰かけたものの何を言っていいかわからない。気の利いた言葉のひとつやふたつ、言えたならいいのだろうが言葉を発してしまえば全て弱音になってしまいそうだ。目が合ったまま間抜けに口をパクパクさせる。
と、その時感じる頭へのわずかな重み。心配するな、というように大きな掌が数度髪を撫でつけた。彼が直接触れてくるのは初めてのことだ。
はっとする。本当に不安なのは彼ではないか。自身の身に実際何が起こるのかわからない状況で気を使わせてしまったことに罪悪感を覚える。
「戦えればそれでいい。あんたが気負う必要はない。」
変わらない優しい言葉とそこに見え隠れする不安。違う。優しい言葉が欲しいのではない。私は私のやり方で、彼らを守りたい。
「倶利伽羅、手を…貸して下さい」
答えを聞かずに自分の頭の上にあった手を、自らの両手で包み込む。
「必ず、あなた方をお守りします」
誰かが言っていた。不安ならば手を繋げばいい。凝り固まった薄暗い思いは人の温度で溶けるのだ。
それから戦いの前後はよく手を繋ぐ。緊張、不安、後悔、悲しみ。刀である彼らの日々に生まれてしまったもの。溜めて溜めて壊れてしまわないように、溶かし出すのは私の役目だ。
そして今日も。
何も言わなくても触れているだけで黒いものが溶けて温かくなるのがわかる。
彼の手はこんなにも温かかっただろうか?
そこに役目以上のものを自覚するのはまだ先だ。
お久しぶりです。