WORST TRICK   作:和久井 誠

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 レプリカ&三輪隊と絡みます。


第17話 三輪隊

 

 弓手町駅……ボーダーが基地警戒区域外縁におく六つの支部のうちのひとつ、弓手町支部にある無人駅。第一次大規模侵攻以降、基地警戒区域が設定されたため、その中に設置されていたこの駅はすでに移転されており、今では使われなくなった駅のホームと線路のみがその姿を残している。

 警戒区域内に現れたトリオン兵、バンダーを共闘で倒した神凪陽平と三雲修は、そのすぐ傍らにいた空閑遊真と、ついさきほどまで遊真と一緒にいた少女の四人で、この今では廃線となった弓手町駅へときていた。

 修の紹介で、その少女は雨取千佳という名前だと教えられた陽平は、千佳の年齢と学校名を聴いて『あーちゃんと同級生か』などと考えていた。

 

「カナちゃん。陽平が空閑くんたちと合流したよ~。三雲くんと、さっきの女の子も一緒。たぶん当分、陽平は通信できないだろうから、私から連絡するね~」

 そんな四人から離れたビルの屋上に、榊隊隊長、榊真由美はいた。真由美は変わらず、イーグレットのスコープ越しに遊真の監視を続けている。

『了解。まあ、陽平のことだから下手なことはしないと思うけど、いちおう警戒はしておいて』

「は~い」

 

「そりゃー、トリオンだろ」

 修の疑問に遊真がそう答えた。

「トリオン? トリオンが何で関係あるんだよ?」

「関係あるも何も、こっちにくるネイバーの目的なんて、だいたいトリオンだよ」

 だが、遊真はなおもそう断言する。

 事の発端は、修が持ちかけた相談からだった。

 

 雨取千佳。修の幼馴染み。十三歳。三門第三中学校二年生。体躯こそ同年代の者よりは小柄だが、それ以外は特に特出すべきことの見当たらない、言わば普通の女子中学生というのが陽平の印象だった。それ故に、修の相談内容が、目の前の少女……千佳の印象には重ならないように感じた。

「千佳はネイバーに狙われやすいんだ」

 それが修の相談だった。

「狙われやすい? それはつまり、どういうことなんだ?」

 そう聴き返す陽平に修は、

「千佳はどうやら、ネイバーを引き寄せる体質らしい」

 と、そう答える。

 ネイバーを引き寄せる……果たして、そんなことが実際に起こるのか。

「ただの偶然じゃないのか? たまたまネイバーが出現するところに出くわしただけとか」

 もしくは被害妄想なのでは……という言葉を、しかし陽平は寸でのところで飲み込んだ。

「ぼくも最初はそう思った。けど千佳の話をちゃんと聴くうちに、これは気のせいなんかじゃないって思えるようになった」

「けど……」

「現にさっきのネイバーだって、千佳の存在に気づいてからは、ぼくたちのほうなんて見向きもしないで、千佳を狙っていた」

 確かに、修の言うことには陽平にも心当たりがある。なぜバンダーは突然、目の前で攻撃をしてくる自分に背を向けて、進路を変えたのか。その先に何があったのか。いや、確かにその先には千佳がいた。それは陽平も視認している。視認していたからこそ、あれほど必死でバンダーを食い止めようとしたのだ。

「なあ、空閑。空閑なら、思い当たることがあるんじゃないか?」

 だが、陽平にもその答えはわからない。もしわかる者がいるとするなら、ネイバーである遊真だろう。その修の判断には、陽平も同意だった。

「そりゃー、トリオンだろ」

 そして遊真はその問いかけに、あっさりとそう結論づけた。

「トリオン? トリオンが何で関係あるんだよ?」

 修がなおも尋ねる。

「関係あるも何も、こっちにくるネイバーの目的なんて、だいたいトリオンだよ」

「待て、待て、遊真。順を追って説明しろよ」

「ふむ。ネイバーがこっちの世界にきて人をさらっていくのは、こっちの世界の人のトリオンを集めるためなんだ」

 遊真の説明によると、ネイバーがこっちの世界に侵攻してくる目的は、ひとえにトリオンを集めるためらしい。集めた人間のうち、トリオン能力の高い者は兵隊にするため生け捕りに、逆に低い者はトリオン器官のみを集める。そして集めた兵隊とトリオンを戦争に使う。つまりはそういうことらしかった。

「こっちの世界のほうが人間の数が多いし、よりたくさんの兵隊やトリオンを集めることができる。それに戦争に使うなら自分の国の人間よりも、見ず知らずの人間のほうが気が楽ってことだな」

 遊真の返答に、しばし三人は言葉を失う。戦争が日常にある世界。それがネイバー・フッドということだ。

「まあ、こっちの世界だって戦争を日常的にやってる国はあるみたいだし。日本みたいに平和が当たり前な国のほうが珍しいんじゃないか?」

 そしてそう続いた遊真の言葉に、修や千佳、そして陽平も、紛争地域を『当たり前』のように生きてきた者のみがまとう凄みみたいなものを感じ取った。

「けど、本当に雨取さんがネイバーを引き寄せる体質なのか、確かめようがないからな」

 トリオン……それは、心臓の横に存在するという見えない臓器“トリオン器官”で生成される生体エネルギーであり、ボーダー隊員が使用する武器や防具であるトリガーや、換装後の戦闘体、基地の外壁や訓練ルームなどはすべて、このトリオンで作られていた。そして、トリオン器官で生成されるトリオンの量はトリオン能力とも呼ばれ、それは基本的にその人の戦闘力にも直結し得る能力といえる。故に遊真の言うことは理に適ってはいるのだが、ボーダー本部にでも行かないかぎり、千佳がネイバーに狙われる原因が果たして、本当に千佳のトリオン能力に起因するのかどうか、ここでは調べようがなかった。

「それなら実際に測ってみよう。そうすれば、はっきりする」

 それは陽平にとっては聞き覚えのない声だった。突然、遊真の左手人差し指にはめられた指輪から『にゅるっと』黒い物体が姿を現した。

「はじめまして、チカ、ヨウヘイ。私はレプリカ。ユーマのお目付け役だ」

 レプリカと名乗ったその黒い物体は、それがまるでテンプレだとでもいうように、いつもの挨拶を口にする。

 それに倣い、千佳と陽平も挨拶を交わしたあと、レプリカは何やら帯状のものを口から出した。レプリカいわく、それは“測定索”といい、その先を握った人のトリオン量を測定することができるのだという。

「でも、ちょっと怖いかな……」

 躊躇う千佳に、

「レプリカ、ぼくが先に測ってもいいか?」

 修はそう言って、その測定索に手を伸ばした。

「了解だ」

 レプリカはそう答えるや、修が測定索を握るのと同時に測定を開始する。が、ものの数秒でその作業は終わった。

「計測完了」

 レプリカの言葉とともに、修の目の前には光る立方体が姿を現した。

「レプリカ、これは?」

「このキューブは、修のトリオン能力を視覚化したものだ。キューブの大小がトリオン能力のレベルを表している」

「で、この大きさだとどのくらいのレベルなんだ?」

「う~ん。ネイバーに狙われるためには、この三倍は欲しいかな」

「べつに狙われたいわけじゃない!」

 どうやらその立方体がトリオン能力の大小を表しているらしい。しかし基準となる大きさが掴めないため、それを視覚化したところで明確に自分や他人のトリオン能力を把握できるというわけではなさそうだ。修のトリオン能力が低いことは陽平も気づいていた。それは今日のバンダー戦でも明らかだ。B級に昇格し、正隊員となり、防衛隊員用のトリガーを使い、確かにそれまでとは比較にならないほどには成長した跡は見える。しかし、まだまだそれでも大目に見てB級下位レベルというのがやっとだろう。もっとも実際にB級下位なので、ある意味それは自分の立場にあったレベルといえるのだろうが……。

「千佳、おまえも測ってもらえ」

「う、うん……」

「大丈夫だ、千佳。」

「わかった。修くんがそう言うなら」

 千佳は頷くと、ひとつ深く深呼吸をし、レプリカの測定索を左手で握った。

 甲高い機械音が鳴る。

 修のときはすぐに結果が出たのだが、千佳の場合は少々時間がかかりそうだ。

「少々時間がかかりそうだ。楽にしてくれ」

 レプリカも千佳にそう促し、千佳は「うん」と返事をするとベンチに腰かける。もしかするとトリオン量に比例して計測時間も長くなるのかもしれない。そんなことを考えながら、陽平はふとある疑問をいだいた。

「なあ、三雲。雨取さんをボーダーで保護するわけにはいかないのか?」

 ボーダーは言わば、ネイバー撃退のスペシャリストだ。戦闘防衛はもちろん、それを支えるエンジニアの技術も最新鋭だと言っていい。またボーダーにしても、千佳がいることでよりゲート誘導システムの精度を上げることができるかもしれない。トリオン能力が高く、ネイバーを引き寄せる千佳の存在は、ボーダーにとってもいろいろなメリットがある。言い換えれば、もしネイバーに千佳をさらわれたとすれば、その膨大なトリオン量はボーダーにとって脅威にすらなり得る。であれば、ボーダーとしても千佳を守ることは必需であり、逆に千佳にとっては利害の一致した優秀なボディーガードとしてボーダーを利用すればいい。ボーダーで千佳を保護する……これはお互いの利益にも繋がる最善手ではないか。それが陽平の考えだった。しかし……。

「ボーダーには頼りたくないらしい」

 修はそう言って、陽平の案を否定する。

「ボーダーには頼りたくない?」

「ああ」

「何で?」

「それは……」

 陽平の疑問はもっともだろう。ボーダー隊員なら、それ以上の妙案はないとすら思えた。だが、修が口にした千佳の真意は、それもまたボーダー隊員でない者にとっては必ずしも理解できないそれではなかった。

「千佳がネイバーに狙われ始めた頃は、まだボーダーも基地はなく、ネイバーの存在すら公には知られていなかった。だから救けを求める千佳の言葉を信じる者はいなかった。誰も千佳の言葉を本気にはしなかったんだ。そんな中、たったひとり、千佳の言葉を真剣に聴いてくれる友だちがいた。その子だけは、千佳を信じてくれた。だけど、ある日突然、その友だちは姿を消して行方不明になった。原因はわからない。でも千佳は、それをネイバーの仕業だと言っている。そして、ネイバーを引き寄せる自分のせいで、その友だちは巻き込まれたとも……」

「じゃあ、雨取さんがボーダーを頼りたくないって言うのは、他人を……俺たちボーダー隊員すら巻き込みたくないってことか?」

「ああ。そのときのことは、今も千佳にとってトラウマになってる。あいつは怖いんだよ。救けを求めることも、そのせいで他人を巻き込んでしまうことも」

「けど、この先どうするんだよ? 今までひとりで逃げてきたからって、これからもひとりで何とかなるなんて保証はないだろ」

「他人を巻き込むくらいなら、ひとりで逃げ続ける。あいつは、そう言ってるんだ」

「けど……」

「それに千佳は、わかるらしいんだ。自分を狙うネイバーの居場所が」

「ネイバーの居場所が?」

「ああ。今まで半信半疑だったんだけど、空閑や迅さんに会って、もしかしたらって思えるようになった」

「それって、つまり……」

「うん。サイドエフェクトだ」

「サイドエフェクト……か。それなら辻褄は合うな。もし雨取さんのトリオン量が実際に大きいのなら」

「それももうすぐ、はっきりする」

 修はそう言って、測定索を握る千佳に視線を向ける。

「そうだな」

 陽平もそう返し、修と同様に千佳に目をやった。

「計測完了だ」

 レプリカがそう言うや、千佳の目の前に修のときと同様、光る立方体が姿を現した。だがその大きさは、修のそれとは比較にならないほどだった。

 修は口を開けたまま、しかし言葉を失っている。遊真も、口から出る言葉は驚きを表すようなものだけだった。そして陽平は……。

「ざっと三雲の三倍……くらいか」

 と、どこか冷静にそのキューブを見ていた。

「なあ、レプリカ」

「何だ? ヨウヘイ」

「このくらいの大きさだと、あっちの世界じゃどのくらいのレベルなんだ?」

「尋常ではないな。これほどのトリオン器官は、あまり記憶にない。素晴らしい素質だ」

 そしてその陽平の問いに、レプリカも淡々と答える。

「なるほどな。つまり、これで雨取さんがネイバーに狙われる理由は、ほぼ確定だな」

「ああ。千佳のトリオンが目的。空閑の言ったとおりで間違いないだろう」

 ネイバーはトリオンに反応して人間を襲う。そのトリオンが桁外れに多い千佳は、故にネイバーに狙われやすい。それはまさに、遊真が指摘したとおりだった。

「で、これからどうするんだ?」

 遊真はそう問いかける。原因はわかった。しかし対策を立てなければ、それも意味を成さない。

「最も現実的な手立ては、やはりボーダーに保護を求めることだと思うが」

 レプリカはそう提案する。

「でもチカはそれ、イヤなんだろ?」

「うん。あまり他の人に迷惑かけたくない。私なら大丈夫だよ! 今までだって、ひとりで逃げてこれたんだし、これからだって……」

「おまえ、そんなわけ……」

 

『陽平! 三輪隊がくるよ!』

 

 千佳をこれからどうするか。その話し合いが始まった矢先、陽平の無線に真由美の声が届いた。

 

「動くな! ボーダーだ!」

 

 それは突如、周りの空気に緊張を走らせる声だった。

「間違いない。現場を押さえた。ボーダーの管理下にないトリガーだ。ネイバーの接触も確認。任務を遂行する」

 携帯電話を耳から外すと、それを合図とするかのように、陽平の目の前に現れた二人の高校生は、トリガーを取り出すと、

 

「トリガー・オン!」

「トリガー・オン!」

 

 それを起動し、一瞬で戦闘体へと換装した。

 そしてその胸元には、二匹の蛇が銃弾に絡まっているエンブレム。その上には、“A”の文字と“07”のナンバリング。それはボーダーに九組しかいないA級部隊のひとつである証だった。

 

『カナちゃん! 陽平たちに三輪くんと陽介くんが接触したわ』

 即座に真由美は奏恵に報告する。

『了解。二人がきたってことは、たぶん奈良坂や古寺も狙撃位置に着いてるわね。警戒しておいて』

『わかった』

 陽平たちの前に姿を現したのは、A級7位、三輪隊。隊長で近・中距離戦闘をこなすオールラウンダー、隊長の三輪秀次と、槍型の弧月というオーダーメイドの武器を使うアタッカー、米屋陽介だった。そしてこの部隊は、奈良坂透、古寺章平という二人のスナイパーを擁する特殊な編成のチームでもある。

 

「さて、ネイバーはどいつだ?」

 笑みを隠さず、陽介はそう口にする。そしてそれに三輪も、

「今、そのトリガーを使っていたのは、そっちの女だ」

 と、そう答えた。

「おいおい、初の人型ネイバーが女の子か~。ちょっとヤる気が削がれるな~」

「油断するなよ、陽介。どんな姿だろうと、ネイバーはみな、人類の敵だ」

 どうやら三輪は、測定索を握っていた千佳をネイバーだと誤解しているようだ。

「ちょっと待ってください!」

 慌てて修は否定する。

「どけ。ネイバーをかばうと、おまえまで処分の対象となるぞ」

「違うんです! こいつは……」

「違う、違う。ネイバーはおれだよ」

 だがそれを、今度は遊真が制した。自らネイバーだと名乗ることで。

「ネイバー? おまえがか? 間違いないんだろうな?」

 それに再度、三輪はそう確認する。

「間違いないよ」

 

 ドン! ドン! ドン!

 

 それはほんの一瞬だった。三輪は左手に持ったハンドガンで、遊真目がけてアステロイドを放つ。その衝撃で、遊真は後方へと吹き飛んだ。

「何してるんですかーっ!」

 その信じられないような突然の光景に、修は狼狽え、そしてそう叫んだ。だが、それに対する三輪の対応は少しも躊躇う様子がなく、冷静な、いや冷淡な態度そのままだ。

「ネイバーを名乗った以上、見逃すわけにはいかない。ネイバーはすべて殺す。それがボーダーの務めだ」

 それが三輪にとっての正論だった。

「遊真、まさか死んだわけじゃないよな?」

 しかし陽平はそんな三輪の言動に、少しも驚くことなく遊真にそう尋ねる。

「えっ!?」

 修は陽平のその様子にも驚きを隠せなかった。当然だろう。至近距離で射撃を受けたのだ。しかも弾はアステロイド。射撃トリガーの中でも威力重視の通常弾だ。

「まあな。けど、おれが一般人だったら、どうする気だ? いきなり乱暴だな~」

 それでも遊真は、陽平の呼びかけにけろっとそう答え、まるで傷ひとつ負っていないとでもいうように、ぱんぱんとズボンをはたきながら立ち上がった。

「うおっ! マジか!? この距離で防いだ!」

 陽介は素直にそう驚く。

「あのさ、ボーダーに迅さんっているだろ? おれのこと聴いてみてくれない? いちおう知り合いなんだけど」

「そっ、そうです! 迅さんに聴いてもらえればわかるはずです! こいつが他のネイバーとは違うって!」

「ああ……。遊真、修、その回答はここでは無意味だ」

 迅悠一は遊真や修にとってボーダー隊員の中でも、特に信頼のおける存在だった。故の、二人にとっては切り札だったのだろう。咄嗟にとはいえ、迅の名前を出せば話を聴いてもらえると考えていた。だが陽平は、そうではなかったようだ。陽平の言葉に驚く遊真と修に対し、三輪の回答は、

「迅……だと? やっぱり一枚噛んでたか。裏切り者の玉狛支部が」

 と、その指摘どおり、やはりどこまでも冷淡そのものだった。

「退け、三雲! おれたちは城戸司令の特命で動いている。これ以上、邪魔をするようなら実力で排除するぞ!」

「退きません! ぼくは……」

「さがってろ、オサム。こいつらが用があるのは、おれだけだ。こいつらとは、おれがやる。オサムはチカについててやれ」

 そんな三輪の態度に、しかし遊真もまた淡々と相対する。と、同時に遊真の体が光り、その体は黒いスーツで包まれた。遊真もまた、トリガーを起動したのだ。

「はあ~、やれやれ……」

 陽平は、半ば面倒臭そうに頭をかきながら、それでもどこか楽しそうに口角を上げて、遊真の隣へと並び立つ。

「空閑? 陽平?」

「三雲、遊真の言うとおり、今は雨取さんについていてやれ。彼女が『巻き込まれない』ように」

「いやいや、ヨウヘイ。もう巻き込んでるだろ。悪いな、チカ」

 遊真はどこまでも冷静に、陽平はなおも頬を緩めながら、三輪と陽介に対峙した。

「神凪弟、どういうつもりだ。俺たちは城戸司令の命令で動いている。俺たちに歯向かうというなら、それは命令違反と同罪だぞ!」

 三輪は陽平を睥睨し、そう恫喝する。それでも陽平は顔色ひとつ変えず、

「命令違反ってことにはならないと思いますよ」

 と、あくまでも淡々とした口調で言い返した。

「何だと!?」

「ボーダーには命令の重複を避けるため、直属の上司のみが命令権を有するという規則がある。三輪隊は城戸司令の直轄部隊だから、城戸司令の命令で動くのは当然でしょうが、俺たち榊隊の直属の上司は忍田本部長ですから。忍田本部長以外、俺たちに命令できる権限を持つ人はいませんよ。たとえそれが、城戸司令であっても」

「また、おまえはそんな屁理屈を……」

「そして俺たちは忍田本部長から、このネイバー……空閑遊真の監視を命令された。今の遊真は俺たちにとって監視対象者だ。その監視対象者に危害を加えるというなら、俺にはそれを全力で阻止する責務がある」

「そういうところは、本当に姉貴にそっくりだ。つくづくイライラさせられる」

「それはどうも。で、どうします? ここは退いてもらえるとありがたいんですが」

「ふざけるな! ネイバーはすべて殺す。それがボーダーの使命だ。それに歯向かうなら、誰が相手でも容赦はしない!」

「じゃあ、交渉決裂ということで」

 陽平の目が鋭く光る。と、同時に右手にアステロイドのキューブが現れた。

「なあ、秀次。ひとまずネイバーは、おまえに任せる」

 そんな陽平を見て、陽介もまた笑みを浮かべた表情を作った。

「陽介! これは遊びじゃない。勝手な……」

「こいよ、陽平! 俺が相手になってやる!」

 三輪の制止を振り切り、陽介は陽平目がけて槍を突く。だが、これは陽平にあっさりとかわされた。刹那、今度は陽平の右手のアステロイドが、陽介目がけて放たれる。が、これもまた陽介は軽くかわした。

「ウォーミングアップはこのくらいでいいでしょ?」

 まるで挑発するかのように、陽平がそう言い、

「だな~。んじゃ、お互い様子見はこのくらいってことで」

 と、陽介もあえてその挑発に乗るかのような口調をしてみせる。

 陽介は再び槍を構え、陽平はアステロイドを両手に生成した。

「ほう。いっちょまえにフルアタックか」

「片手じゃ、やられてくれないでしょ?」

「両手ならやれるってか? 甘いんじゃねえの?」

「さあ、やってみなくちゃわからないでしょ?」

「じゃあ、撃ってみろよ。だいたいおまえ、サシで俺に勝ったことあったけ?」

「それ、お互いにB級だった頃の話ですよね?」

「そーいや、そーか。俺たちがA級に上がってからは、サシで勝負したことなかったか」

「じゃあ、そのときのリベンジさせてもらいます」

「させるかよ。さあ、本気で相手になってやる。こいよ!」

 陽平は陽介にアステロイドをフルアタックで放つ。が、陽介はいったんシールドでそれを受け高く跳躍すると、今度は上から陽平目がけて槍を突き出していた。しかし、陽平はその槍を右手に生成したスコーピオンで受け、いなす。

 陽平と陽介が闘う中、それを横目で見ながらひとつ嘆息し、三輪は遊真に対峙し直した。

「まったく、あいつは……。仕方ない。おまえは俺が、ひとりで始末する」

 そしてそう言いながら、なおも遊真を睨みつけた。

 三輪の言葉に、遊真の瞳が鈍く光る。その表情には、うっすらと笑みを作って。

「ひとりで……? へ~。おまえ、なかなか面白い嘘をつくね」

「おまえ……。そうか、やはり只者じゃないな」

 弓手町駅……ボーダーが基地警戒区域外縁におく六つの支部のうちのひとつ、弓手町支部にある無人駅。今ここで、遊真と三輪の、そして陽平と陽介の、闘いが始まった。





 次回、陽平VS陽介です。
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