WORST TRICK   作:和久井 誠

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 遊真VS三輪戦です。このあたりは、ほぼ原作沿いですね。


第19話 空閑遊真VS三輪隊

 

『ちょっと! 真由美!』

 無線から聴こえる春瀬奏恵の声に、榊真由美は自分が我を忘れていたことに気づく。神凪陽平と米屋陽介は、同期で入隊して以来、ともに切磋琢磨してきた好敵手。他の誰よりも、互いとの戦いにおいては一対一での勝負にこだわってきた。故に結果がどうであれ、それを知る真由美は二人の闘いに水を差すような真似をしないよう努めている……つもりだった。

「ごめん……」

 しかし、目の前で陽平がやられ、ベイルアウトとなった。勝負は陽平の敗北、それは明白なこと。その事実が、思わず真由美にイーグレットの引き金を引かせてしまった。

『とにかく、そこから逃げな! 三輪も奈良坂も、それとたぶん古寺も、真由美の居場所に気づいたはずだよ』

「わかった」

 奏恵からの指示に、真由美は急いでその場を後にする。スナイパーは居場所を知られれば命取りとなる。そして居場所を知られるのは狙撃直後が多い。そのため中には、わざと隙を作り狙撃させることで居場所を割り出すという戦法をとる者もいるくらいだ。

 真由美は即座に狙撃位置を変えるため、走った。いつ奈良坂たちが狙撃をしてきてもおかしくない状況で、しかしそのときはこない。

「撃ってこない?」

 自分の存在も、居場所も、知られていることは確実だ。にもかかわらず、三輪隊のスナイパーが撃ってこない。その理由があるとしたら……。

「空閑くん?」

 それは、今の自分より警戒すべき対象がいるから。

「とにかく空閑くんたちが見渡せる場所まで急がなくちゃ」

 本来であれば監視対象の遊真を危険にさらした状況は好ましくはないが、奈良坂たちの目を引きつけられるなら、今はその隙をつくしかない。ひとまずはそう判断し、真由美は移動を急いだ。

 

 

 ボーダー本部、榊隊作戦室のドアが開く。ベイルアウト用のベッドが四つ並ぶ部屋から、奏恵のパソコンを置く“オペレーター・ルーム”と呼ばれる部屋へと続く自動のドアをくぐると、陽平は開口一番、

「いや~。敗けた、敗けた」

 と、努めて明るくそう言いながら笑ってみせた。

 しかし、陽平を待ち受けるチームメイト、神凪朋香と和堂朝美はそんな陽平を厳しい表情で出迎える。

「陽平、油断したでしょ?」

 最初に口火を切ったのは、陽平の姉、朋香のほうだった。

「油断?」

「そう、油断」

「油断なんて……」

「今じゃ幻踊は、陽介の代名詞みたいなオプショントリガーだからね。警戒するのは当然だし、穂先の形状は変えても刀身を伸ばすわけじゃないから、不意打ちのバイパーで陽介の機動力を奪った上で、槍の届かない位置から大弾のギムレットでとどめを刺すっていうのは、シューター寄りのアンタには定石の戦法だと思う」

「ご丁寧な解説どうも。で、定石ってどういう意味?」

「つまり、誰でも考えつきそうな戦法ってこと。もちろん闘ってる相手の陽介にもね」

「だからそこを旋空で返された……と?」

「さあ。むしろ幻踊を囮にして、合成弾を作る隙をアンタに与えて、無防備な瞬間を狙い撃たれたのかもね」

 確かに陽平には、陽介が旋空を使うという前提はなかった。幻踊には細心の注意を払っていたものの、陽介と旋空……この二つに、繋がりを想像できなかったのだ。

「バイパーで裏をかいたつもりが、あえてそれを受けて合成弾を作らせる状態を作らせたってことか」

「そりゃー、ちょっと前まではさ、旋空は一部の弧月使いのみしか使っていなかったけど、どっかのアタッカー1位(仮)がむやみやたらに使いまくったせいで、今じゃ弧月に旋空の組み合わせはデフォルトみたいな風潮になった。だから弧月を使う相手と闘うときには、たとえ情報がなくても旋空も警戒するべきだよ」

「“(仮)”って……。太刀川さんは正真正銘のアタッカー1位だよ」

「あたしは認めてないけどね」

 朋香の個人的感情はさておき、しかし旋空に対する認識はやはり朋香とは相違がある。陽平は朋香の指摘に、そう感じた。陽平は、今まで弧月と旋空をセットで考えたことはない。旋空は弧月専用のオプショントリガーだが、使いこなすにはそれなりの技術やセンス、視野の広さや空間認識能力などが必要となる。弧月を使う者なら誰でも……と言いきれるほど、使い勝手の良いオプショントリガーとは言い難いだろう。

「まあ、確かに陽介先輩が旋空を使うなんて発想はなかったし、たとえあったとしても、たぶん幻踊ほど警戒はしてなかっただろうね。それを油断と言われるなら、返す言葉はないんだけど……」

「で、どうするの?」

「どうする?」

「B級時代のリベンジならず。A級に上がっても、敗けっ放しでいいわけ?」

 試すように笑ってみせる朋香とは対照的に、陽平の表情が厳しく曇る。スコーピオンから始めて、自分の弱点を自覚して、それを補うため射撃トリガーを覚えた。中でも特に難しいとされるバイパーのリアルタイム・コントロールを得とくし、かついくつかの合成弾も使えるようになった。だからといって、それが対上位ランカー戦において目覚ましいほどの勝率に繋がったかと聞かれれば、もちろんそうと言えるほど結果には結びついてはいない。バイパーは弾速を重視すると威力が落ちるため一撃必殺というわけにはいかず、合成弾は二十秒という無防備な時間を必要とするため一人で使うことが難しいからだ。しかし、ことチーム戦術に目を向ければ、少なくともチームとしての勝率向上には貢献できているという自負はある。たとえ自分で点を取れなくても、いや、自分で点を取る必要がないからこそ、そこをチームメイトに任せることで逆に自分にしかできない役割を見つけることもできた。それが今の陽平の闘い方だ。だけど……。

「まあ、いいわけはないよね」

 やはり、だからと言って、サシでの勝負に魅力を感じないわけではない。自分より強い相手と全身全霊を賭して闘うことを、楽しいと感じてしまうこともまた事実だ。そしてたとえどんなに相手が格上であったとしても、敗けたときには悔しいと感じてしまうことも。

「悔しい?」

「ああ……。悔しい」

 何度敗けても、それが同じ相手とばかりならなおさら、その悔しさに慣れることはない。それもまた、現実。

 

「ねえ、真由美! ちょっと! 真由美!」

 

 しんみりとした空気の中、突然それをつんざくような声が上がる。

 奏恵がパソコンを凝視しながら、真由美との通信を試みているものの、真由美からの返答はなかった。

「どうしたの? カナさん」

 陽平の問いかけに、奏恵は険しい表情のまま、

「それが……真由美に通信を切られたみたい」

 と、力なくそう呟く。

「通信を切られた?」

「何度呼びかけても返事がないの」

 パソコンの画面を奏恵の後ろから、三人が覗き見ると、真由美のものと思われるレーダー反応(真由美タグ付)と同じ場所に、もうひとつレーダー反応が映っていた。

「真由美さんの今の状況って?」

 陽介との戦闘から緊急脱出して基地に帰還した陽平は、その後の状況を知らない。

「陽平がベイルアウトした後、真由美さんが陽介を狙撃して、陽介もベイルアウト。で、真由美さんは狙撃位置を変えるべく奔走中……のはずなんだけど」

「狙撃……したんだ。はは」

「何がおかしいんですか? 陽平先輩」

 朋香の説明に、ふと笑みをこぼす陽平に、朝美は不思議そうに尋ねた。

「いや。たぶん陽介先輩は真由美さんの狙撃は想定外だったろうから。きっとベイルアウトするときに『でもサシでの勝負は俺の勝ちだ~』とか言ってたんじゃないかなって」

「あ~、陽介なら言いそう」

 そして陽平の回答に、朋香も思わず口角を上げる。

「けど……」

 再びパソコンの画面に目を移しながら、陽平はそう言葉を続けた。

「このレーダー、誰なんだ?」

「奈良坂先輩か古寺先輩とか?」

「いや、あーちゃん。それはないよ。スナイパーの二人が真由美さんを狙撃するなら、わざわざバッグワームを外して接近する必要はないし、それだと逆に自分のほうが危険だよ」

「けど、陽平。当然、三輪でもないよ。こっちのレーダーがたぶん三輪だもん。ちょうど今、遊真と交戦している場所と一致するし」

「じゃあ、三輪隊以外の人ってこと?」

 パソコンの画面を睨みつけ、まるでパズルでも解くかのように、三人首をひねる。

 

『カナちゃ~ん』

 

 それでも何度か通信を試みた奏恵の耳に、若干間延びした声が届いた。

「真由美!?」

『ごめん。ちょっと不測の事態が起こってさ、通信切ってた』

「不測の事態!?」

 

 

 三輪隊が遊真を相手にしている隙に、建物で射線を遮るように走る真由美の前に現れたのは、玉狛支部所属のS級隊員、迅悠一だった。

「ぼんち揚げ食う?」

 と、彼にとってはそれがまるで常套句とでもいうかのように、お決まりなセリフとともに袋を差し出しながら、軽い調子で手を挙げている。

「迅くん!?」

「実は榊に頼みたいことがあるんだけどさ~」

「頼み?」

「そう。今、遊真が三輪隊と交戦してるだろ。あれを止めたいんだが」

 そう言って、しかしそんな緊迫した言葉とは裏腹に、迅は変わらずぼんち揚げを口に運んだ。

「そうね。私も止めたいんだけど。空閑くんが三輪くんたちにやられる前に」

「ああ、そういう心配なら大丈夫だろ」

「大丈夫!?」

「そう、大丈夫だ。三輪隊は確かに腕の立つ連中だけど、遊真には勝てないよ。なんせ、あいつは特別だからな」

「特別……って。今、見てたでしょ。私が陽介くんを撃ったのに、奈良坂くんも古寺くんも私を狙撃してこない。それは二人が空閑くんを狙撃するためよ。特に今は近距離攻撃は三輪くん一人だし、スナイパーで空閑くんを仕留めるつもりなのは明白じゃない。それは三輪隊のいつものスタイルだわ。たとえ陽介くんが欠けても、一人でその三輪隊を相手にするなんて、いくら空閑くんでもムリよ」

「そう思うなら、なおさら手を貸してくれ。けど俺がこの闘いを止めたい本当の理由は、三輪を守るため……なんだけどな」

「三輪くんを? どういうこと?」

「それは……」

 そして迅は、それを告げた。たとえ一対三の状況でも、三輪隊が遊真一人に敗ける理由を……。

 真由美はイーグレットをかまえ、スコープ越しにホームを見る。遊真が三輪と闘っている。戦況はかなり不利だ。三輪に押されている遊真の姿に、真由美はそう感じる。しかし迅の言葉が正しければ確かに、この不利な戦況すらひっくり返す奥の手がきっとあるのだろう。

「わかったわ。迅くんを信じましょう。で、私は何をすればいい?」

「榊なら、そう言ってくれると思ったよ。じゃあ……」

 

 

「わかった。迅がそう言うなら、それが最適解なんでしょ。まあしょうがない。信じ難い話ではあるけど、あいつは隠し事はするけど嘘は言わないからな」

 真由美からの連絡を受け、奏恵はそう返す。

『うん。とにかく私は古寺くんのところへ行くわ。迅くんは奈良坂くんのほうへ行くって言うし』

「そうか。まあ、気をつけてな。しかしこの状況で、三輪隊のスナイパー二人の場所を割り出すなんて、あいつはいったいどんな情報網なんだ」

『二人が狙撃する未来が視えたって』

「いくら未来視っつても、そこまで都合よく視えるもんなのかよ?」

『まあ、迅くんだから』

「まあ、迅ならそうかもしれないけどさ……」

 けっきょくそれが、どんなに辻褄の合わない不可解な言動であったとしても『迅なら』の一言で納得せざるを得ない心境にさせられる。それが迅悠一なのだろう。

 その、迅からの情報による古寺の場所へと移動する真由美タグ付きのビーコンを見ながら、奏恵は「ふー」とひとつ息を吐いた。

「遊真がね~」

 朋香は真由美と奏恵のやりとりを聴き、意外そうにそう呟くが、陽平は逆に納得した表情を浮かべる。

「なるほどね。一撃粉砕されたバムスターに、訓練生用トリガーで撃滅された二体のモールモッド……か。なんだか今、すべてが腑に落ちたよ」

「あの……、陽平先輩、さっきの迅さんの話って?」

 しかし朝美は、ただ一人、首を傾げた。その聴き慣れない言葉に。

 

 

 ふたつ並ぶビルの屋上がピカッと光る。と、同時に二発の銃弾が遊真を襲った。一発は紙一重で遊真から逸れたものの、もう一発は遊真の右腕をもぎり取る。

『今、当てたほうが奈良坂だ。そっちは俺が行く。榊はもう一発のほうを頼む』

 迅からの無線が入る。

「うっわ。本当に撃った」

 真由美はそれに驚きつつも、

「たぶん奈良坂くんは狙撃位置を変えると思うよ。あの位置からは、もう当たらないって考えてるはずだから。反応しても避けられない位置まで近づくと思う」

 と、いたって冷静に迅に指示を出しながら走った。

『了解だ。じゃあ、急ぐか。古寺はどうだ?』

「古寺くんは大丈夫。奈良坂くんが移動するなら、その間牽制のために却って動かないはず」

『ほ~う。さすがはスナイパーだな、そのへんの読みは』

「そんなのんきなこと言ってないで、ダッシュ! ダッシュ!」

『はいはい』

 それにしても……と、真由美は考える。本来、スナイパーはアタッカーと連携する場合、ふたとおりの闘い方がある。アタッカーが障害物の影響を受けない位置、たとえば遮蔽物のない高台などへとおびき寄せ、そこを狙い撃つ。もうひとつは、逆にスナイパーが狙撃で対象者を狭い場所へと誘い込み、アタッカーに獲らせる。三輪隊は特に、前者の闘い方に秀でたチームだ。三輪と陽介、ふたりとも近接戦闘においては自らポイントを取れる実力を持っているだけに、相手はその波状攻撃を逃れるため自ずとスナイパーが撃ち抜ける場所へと誘導されてしまう。その様子は、弾丸にまとわりつく二匹の毒蛇……まさにエンブレムそのものだった。しかし、それでも……。

 

 

「黒トリガー……ですか?」

 その聴き慣れない言葉に、朝美は首を傾げる。

「黒トリガーっていうのはね……」

 その朝美の疑問に、陽平が答えた。

 黒トリガー……それは、優れたトリオン能力者が、自分の命と全トリオンを注ぎ込んで作った特別なトリガーで、製作者の人格や感性が強く反映されるため、使用者は相性の良い者に限られてくる。しかし、そのぶん威力はノーマル・トリガーとは桁違いであり、それは黒トリガー使用者ひとりで勢力図が変わるほどだ。

「そんな凄いトリガーが……」

「使用者は言わば製作者に選ばれるわけ。だから使用できる者がいない場合もあるかもしれないし、逆に迅さんが使っている“風刃”なんて適合者が二十人以上もいたしね」

「二十人!?」

「当時のA級、B級の隊員が合わせて百人くらいだから、実に二十パーセントほどの隊員が適合したってわけ」

「じゃあ朋香先輩や陽平先輩も?」

「残念ながら、その頃は姉ちゃんは訓練生だったし、俺は入隊すらしていなかったよ」

「そうですか……」

「今、黒トリガーは本部に一本、これは天羽先輩。そして玉狛支部に一本、これが迅さん。だからもし遊真が黒トリガー保有者ってことになると……」

「まあ、本部……っていうか、城戸司令あたりは躍起になって奪い取ろうとするだろうね」

 陽平の言葉に、朋香もそう続く。

「城戸司令が……ですか?」

「勢力図が変わるっていうのは、そういうことだよ」

「迅さんや天羽がS級認定されててランク戦に参加できないのも、黒トリガーを使うと強すぎて勝負にならないからだしね」

「つまり、遊真の黒トリガーを獲ったほうがボーダーの一大勢力となる。本部か、玉狛か、あるいはべつの……」

 ボーダーの勢力図には何ら興味のない朝美にも、遊真の行動ひとつがボーダーの動向を決めるほど、黒トリガーの持つパワーが計り知れないということは理解できた。それは絶対的な切り札にもなり、また絶対的な脅威にもなる存在。

 ごくりと喉を鳴らし、朝美は再度パソコンの画面に目を向ける。三輪のビーコン付近に遊真もいるのだろう。レーダーには反応していないが、奈良坂と古寺もまさに今、遊真に銃口を向けている。この圧倒的不利な状況を、それでもひっくり返す力……それが、黒トリガー。

 

 

 奈良坂と古寺に銃撃され、うち奈良坂の弾丸が遊真の右手をもぎ取った。スナイパー二人を擁するA級部隊に、やはり空閑ひとりで立ち向かうのは無理がある。修はこの危機的状況から、そんな悲観的観測を立てていた。しかしそれでも、修の胸中にはある種の違和感がある。なにか、おかしい……そんな違和感が。

「そうだ……。空閑にしてはおとなしすぎるんだ……」

 三輪に追い込まれ、奈良坂と古寺からは銃撃され、それなのに未だ遊真からは反撃らしい反撃がない。ただ防戦一方だ。

「空閑はなんで反撃しないんだ? 空閑の強さはあんなもんじゃないだろ」

 今まで修はその目で、遊真の戦闘を見てきた。そしてその数だけ、遊真に救けられてもきた。修はまだ、遊真の真の強さのほんの一部しか垣間見れていないのかもしれない。だがそれだけでも、遊真がここで敗けるイメージが修にはできない。遊真の人柄とともに、遊真の強さを修はすでに信じているからだ。

「確かにこのチームは、なかなか闘い慣れている。しかしユーマが勝てない相手ではない。私が考えるに、どうやらユーマには反撃しない理由があるようだ」

 レプリカから分離した小型のレプリカが、修の疑問にそう答える。

「反撃しない理由?」

「たぶんユーマは、オサムの立場を考えているのだろう」

「ぼくの……!?」

 それは修にとって、まった予想外の言葉だった。

「オサムがせっかくB級に上がったのに、自分を匿っていたせいでそれが無になるかもしれない。そう思って平和的に交渉しようと試みたが、相手は聴く耳を持たなかった。オサムの立場を悪くするわけにはいかないが、かといっておとなしく殺されるわけにもいかない。今ユーマは『いかに穏便に、相手を無力化するか』を考えているだろう」

「『穏便に』って! そんなやり方で勝てるのか!?」

「私は難しいと思うが、ユーマはやるつもりだ。それに、それがどんなに難しくても、やるかやらないか……それを決めるのは、ユーマ自身だ」

 近づけば弧月を振るい、離れればハンドガンで撃たれる。広い場所では狙撃される危険もあるため、その位置取りはかなり制限されたものとなる。それでも遊真は三輪の攻撃をかわし、なんとか致命傷を受けることだけは避けてきた。しかしそれも、いったいいつまでもつのか。

『穏便に相手を無力化する』

 そんな起死回生の策が果たして本当にあるのか。修はそれでも、遊真をただ見守ることしかできない自分の無力さが歯痒かった。

 何もできない自分に腹が立つ。それがボーダー入隊を決めた理由だった。おこぼれとはいえなんとか正隊員にもなれ、戦闘用のトリガーも使用できるようになった。今までと違い、突発的なネイバーの出現にも躊躇なくトリガーを使うことができる。それは『自分の判断で誰かを守る』ことに、なんら制約を受けなくなったということだ。ある意味、本当の意味で防衛隊員となったということでもある。それなのに、今もまた、ただ見ていることしかできない自分がいる。今までと少しも変わっていない無力な自分が……。

「遊真くんって、本当にネイバーなの?」

 ふと唐突に、千佳がそう問いかけた。

 修は千佳に目を向ける。

「そうだ」

 そして短くそう頷いた。

「遊真くんが、ネイバー……」

 千佳もまた、再び遊真に目を向ける。

 ネイバーだと疑われた自分をかばうため、自らネイバーだと名乗り出た遊真。そんな遊真と、今まで出遭ってきたネイバーとを重ね合わせる。

「でも、他のネイバーとは違う」

 修は更に言葉を続けた。『他のネイバーとは違う』と。そうだ。遊真と今まで出遭ってきたネイバーとを重ね合わせてみるものの、千佳にはどうしてもそれが重なり合わないのだ。

「ぼくは何度も空閑に救けられたし、ネイバーだけど空閑は友だちだ」

 そして修はそう断言する。はっきりと、友だちだ……と。

「千佳はどう思うんだ?」

 修に問いかけられ、千佳の脳裏にはついさっきの、河原での光景が蘇った。自転車の練習を一緒にし、笑い合った……あの光景が。

「うん、わたしも……。ネイバーでも、遊真くんは怖くない」

 そう言った千佳の目に、もう迷いはなかった。

 空閑遊真という存在。それは修と千佳にとってはもう、ネイバーだという過去より、友だちだという今を、それぞれの中で構築している。

 

「手古摺らせるなネイバー! そろそろ観念して、おとなしく死ね!」

 

 三輪の怒声が再び、響く。まるでそれが最後の攻撃だとでも言わんばかりに。

 三輪のハンドガンが銃声を上げ、銃弾が遊真へと一直線に飛んでいく。

『盾』印(シールド)!」

 それをシールドで防ぐ遊真。しかし、そのシールドを銃弾は通り抜ける。遊真の左腕に合計四本、六角柱の物体が突き刺さった。

「重っ……、なんだ? こりゃ」

「トリオンを重しに変えて、相手を拘束するトリガーだ。直接的な破壊力がない代わりに、シールドと干渉しない仕組みのようだ」

 撃ち込まれた六角柱をレプリカがそう解析する。

 三輪のハンドガンから放たれた弾丸は“鉛弾(レッドバレット)”。シールドを貫通してトリオン体に突き刺さり、その重量から相手の動きを拘束するオプション・トリガーだ。その重量故、弾速が遅く、トリオン消費も多いため、それを撃つタイミングや距離を正確に計ることと、豊富なトリオン量が使用者には不可欠となる。つまり、使いこなすにはセンスとともに能力が必要といえた。

 だが、解析を終えたレプリカは遊真に冷静に告げる。

「印は『(ボルト)』と『(アンカー)』にした」

「OK」

 そして遊真もそれに、静かにそう答えた。

 遊真の瞳が、三輪を捉える。

「これで終わりだ! ネイバー!」

 右手に弧月を、左手にハンドガンを、構えた三輪が遊真に飛びかかる。最後の一撃。それはこれで、とどめだとでもいうように。しかし、それを見据える遊真の瞳も鈍く光る。そして……。

『錨』印(アンカー)(プラス)『射』印(ボルト)! 四重(クアドラ)!」

 それを迎え撃つ遊真の体から、黒い弾丸が無数に放たれた。その弾丸が撃ち抜くや、三輪の体はまるで引力に逆らえなくなったかのように、真っ逆さまに地面へと墜ちる。その体には、つい先ほど自らが撃ち込んだ“鉛弾(レッドバレット)”が、倍の数ほど逆に撃ち込まれていた。もはや地面に転がるほかない三輪は、反撃はおろか立ち上がることすらできなくなってしまった。

「さて。じゃあ、話し合いしようか」

 ほのかに笑みを取り戻しながら、そして遊真は三輪にそう提案する。あくまでも、穏便に相手を無力化したことを確信して。





 それにしても三輪隊の編成……狙撃手(スナイパー)二人と攻撃手(アタッカー)二人、内一人は拳銃(ハンドガン)を使う万能手(オールラウンダー)って。何気に理論派っぽい部隊(チーム)編成ですね。そこに陽介が絡んでるってのがいい。意外にも押しの一手ではなく、チーム戦術を心得ているんですね~。
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