WORST TRICK   作:和久井 誠

21 / 33
第21話 黒トリガー争奪戦

 

 十二月十八日、十九時。警戒区域内のとある住宅街の一角。

「榊隊現着! 忍田本部長の命により、玉狛支部に加勢します!」

 榊隊アタッカー、神凪朋香の声が響き渡る。

「遅れてすみません! 迅さん! 嵐山さん!」

 続いて、同じく榊隊のオールラウンダー、神凪陽平がすでに到着していた迅悠一と、嵐山隊隊長の嵐山准にそう言うと、

「本当にこんな錚々たる顔ぶれが揃うなんて……」

 と、榊隊ガンナー、和堂朝美が呟いた。

 朝美の驚きも当然だろう。自隊側にはS級隊員の迅とA級5位嵐山隊の隊長、嵐山の他、嵐山隊の隊員である木虎藍と時枝充の姿が見える。きっとどこかに佐鳥賢も潜んでいるのだろう。それは佐鳥と同じスナイパーである榊隊隊長の榊真由美もまた、狙撃位置でその身を潜ませているからだ。

 相対する顔ぶれもまた、豪華絢爛なものだった。

 A級1位太刀川隊、A級2位冬島隊、A級3位風間隊という、普段なら模擬戦ですら、なかなか相手にしてもらえないボーダーのトップチームに、A級7位三輪隊の姿も見える。

「いやいや、いいタイミングだぜ。助かるよ」

「俺たちも、ちょうど今来たところだ」

 迅と嵐山にそう声をかけられ、朋香たちは口角を上げることでそれに答えると、しかしすぐに元の厳しい表情へと戻し、改めてそのボーダー最精鋭部隊の面々に対峙した。

 

 

 十二月十七日、九時三十分。真由美は嵐山とともに本部長室へと呼び出された。そこには迅の姿もある。

「空閑遊真を玉狛支部からボーダーに入隊させます」

 迅の話はそこから始まった。

 遡ること三日前。迅には遊真の捕獲命令が下された。遊真の持つ黒トリガーを奪い取るためだ。その解決策として迅が提案したのが『空閑遊真を玉狛支部からボーダーに入隊させる』というものだった。遊真が玉狛支部所属となれば事実上、遊真を捕らえたことと同義となる。その上、『ボーダー隊員同士の、模擬戦以外の戦闘を禁ずる』という隊務規定によってボーダー隊員はみな、遊真に攻撃をしかけることは不可能となる。命令に従いつつ、かつ遊真の身の安全を守る、まさにそれは理屈上すべてを丸く収める良策のように思えた。しかし……。

「それで城戸司令が納得するとは思えないんだが」

 嵐山の指摘に真由美も頷く。

「そもそも城戸司令が空閑くんを捕まえたい理由の一つが黒トリガーでしょ? 空閑くんが玉狛に入れば、玉狛には迅くんの風刃と合わせて黒トリガーが二つ。それはなんとしても阻止したいところじゃない?」

 今、ボーダーは大きく三つの派閥に分かれている。ネイバー殲滅を第一義とする城戸派、街の安全を第一義とする忍田派、そして、相手しだいではたとえネイバーであっても手を組むことも持さない玉狛派。現在、二本ある黒トリガーのうち一本を城戸派が、もう一本を玉狛派が持っている。S級隊員の天羽月彦と、迅だ。今までは数の優位から城戸派が断トツの勢力を誇っていたが、そこに三本目の黒トリガーが現れた。その持ち主である遊真の動向しだいでは、そのパワー・バランスが崩れてしまう。それはなんとしても避けたいであろう城戸司令が、このまま遊真の玉狛入りを黙認するとは思えない。

「うん。榊の言うとおりだ。だから、この三日ほどあちこち歩き回ってみたんだ。城戸さんが遊真に刺客を差し向けるんじゃないかって」

 迅には未来予知のサイドエフェクトがある。そしてそれは現場に、または本人に、近ければ近いほどその精度が増す。いつもは受動的に使われるその能力だが、今回のように、より先の未来を、より正確な未来を、能動的に視るために、自らの足で動き回ることがあった。

「彼の黒トリガーはお父さん……空閑有吾さんだったな?」

 改めて確認するかのように、忍田はその名前を口に出した。

「はい。そのお父さんから『自分に何かあったときにはボーダーの最上宗一を訪ねろ』と言われていたそうです」

「最上宗一ってたしか、迅の師匠だった……」

「その空閑有吾さんって人のライバルだったって、ナルさんから聴いたことがあります。それで今は……」

「ああ。今は……これさ」

 そう言って差し出した迅の黒トリガー“風刃”。最上宗一……まさにその人こそ、迅の師匠であり、遊真の父のライバルであり、忍田の先輩であり、城戸の同輩であり、ボーダー草創期から名を連ねるボーダー創設メンバーの一人。そして迅が持つ黒トリガーとなった人だった。

「それで、今後のことなんだが」

 忍田は閑話休題として、迅の予知した未来に議題を移す。迅の呼びかけで、真由美は嵐山ともども忍田のもとへと呼ばれたのだ。迅なりの今後の展開があるのだろう。

「視えたんだな?」

 嵐山が問いかける。

「また刺客が来るってわけね?」

 真由美はそう確信する。

「ああ」

 そして迅は、二人の言葉を併せてそう肯定した。

「三輪隊を倒した黒トリガーでも、今回の刺客は厄介なのか?」

 忍田の疑問も当然だろう。三輪隊はA級7位の部隊だ。それを一人欠いていたとはいえ、実質無力化したのは遊真なのだから。もし遊真が本気になれば、今のボーダーに太刀打ちできる部隊があるとは思えなかった。

「刺客って言っても7位の三輪隊以外だと、今はトップ3はネイバーフッドに遠征中だし、4位の草壁隊と8位の片桐隊は他県にスカウトに行ってて不在。あと残るは6位の加古隊だけ」

「さすがにB級部隊なら総動員しても、空閑くんに歯が立つとは思えないし」

 つまり現在、ボーダーには遊真を捕らえることも、その黒トリガーを奪うことも、かなり難しいのではないか。それが嵐山と真由美の考えだった。

「いや、それがそうでもないんだな~。これが」

 だが、迅はそれに異を唱える。もし本当にそれが迅の視た未来なら、わざわざ二人を呼び出したりはしないだろう。

「どういうことだ? 迅」

 互いに顔を見合わせる真由美と嵐山の代わりに……と、忍田がそう尋ねた。

「まず今回の件に遊真はかかわらせません。遊真はメガネくんたちとチームを組むため、ボーダーのトリガーに慣れる時間が必要になる。そのために遊真たちの師匠には、玉狛のメンバーを充てました。だから今回、玉狛はおれ以外は総員不参加です」

「けどそれでも風刃があれば……」

「それがさ~、嵐山。今回、刺客が襲来するのは明日の夜なんだよね~」

「明日の夜? それって、もしかして……」

「ご明察! さすがは榊だな。そう。明朝、ネイバーフッド遠征中のトップ3が帰還する」

 ボーダーA級トップ3。それこそが、攻撃手ランク及び個人総合ランクで1位を誇る太刀川慶が隊長を務めるA級1位、太刀川隊。圧倒的な実践成果によって狙撃手ランク1位に君臨する当真勇を擁するA級2位、冬島隊。攻撃手ランク2位の風間蒼也が統率する隠密戦闘のスペシャリスト部隊であるA級3位、風間隊。その三部隊である。

 本来、ネイバーフッド遠征に選抜されるということは、単独で黒トリガーに匹敵する戦闘力を有すると認められたということだ。その部隊が三組合同で刺客となる……迅は、サイドエフェクトがそれを告げているのだという。

「なるほど。確かにA級1位から3位が手を組んで……となると、風刃だけでは難しいだろう」

 そして忍田がそう結論づけた。

「しかもその三部隊に三輪隊も加わるんですよね~、これが」

「うむ……」

 しばしの沈黙のあと、忍田は真由美と嵐山をそれぞれ見据え、ついにはその命を下した。

「本部長命令を達する。空閑遊真が所持する黒トリガー強奪並びに空閑遊真への危害、それらを未然に防ぐため、嵐山隊と榊隊には玉狛支部への加勢を命じる。迅をサポートし、空閑遊真を守ってくれ!」

 刹那、真由美と嵐山の表情が一気に引き締まる。

「A級5位、嵐山隊、了解!」

「A級9位、榊隊、了解!」

 今ここから、黒トリガー争奪戦が始まった。

 

 

 十二月十八日、十九時五分。狙撃位置に身を潜める二人のスナイパーを含め、迅のもとには榊隊と嵐山隊が勢揃いした。対峙する混成部隊も、若干二名を除いてほぼ全員が顔を揃えている。

「迅、忍田本部長派と手を組んだのか」

「太刀川さん。確かにおれ一人じゃ、あんたたちに勝つことは難しいだろう。けど嵐山隊と榊隊が加わるなら話は別だ。悪いけど、おれたちが勝つよ」

「それがおまえの視えている未来か」

「ああ。おれのサイドエフェクトが、そう言っている」

「なるほど。未来視のサイドエフェクト……か」

 互いに己の剣に手をかけ、臨戦態勢へと入る迅と太刀川。しかし二人の表情は、そんな緊迫した空気の中とは思えないほど、まるでそんな状況を楽しんでいるかのように、その口元にはかすかな笑みすら見てとれた。

 

「待ちなさいよ、太刀川!」

 

 そんな二人の間に、割って入る声。朋香が、まるで鬼の形相で太刀川を睨んでいる。

「ああ~? なんだ、神凪姉」

「アンタは、あたしが倒す! サシで勝負しなさいよ!」

「俺とサシ? なに言ってんだ、おまえ」

「なに? 逃げるつもり?」

「悪いが、俺は弱い者イジメにキョーミはねえんだ。せめてもっと強くなってから出直してこいよ」

 太刀川は朋香を見、その形相を鼻で笑う。いや、太刀川本人にそんなつもりはないのだろう。しかし、朋香の目には、太刀川の顔がそう映ったのだ。

「た~ち~か~わ~! アンタまたそうやって、あたしをバカにする気!」

 怒りの収まらない朋香を尻目に、だがもう太刀川の視線は迅へと移り、もはや朋香のことなど眼中にすらないようだった。

「迅、本気のおまえと闘うのは何年振りだろうな~。かかってこいよ。おまえの予知、その風刃もろとも俺が叩き斬ってやる」

「あ~あ。太刀川さんなら、そう言うと思ったよ」

「今さらだな。どうせ、それも視えていたんだろ?」

「まあね~」

 太刀川が右手で弧月を抜く。それに合わせて迅も風刃を抜いた。

「風間さん。悪いが迅は俺がもらう。あとの指揮は任せた」

「なに!?」

「さあ、こい! 迅!」

 太刀川が跳躍し、迅もそれに相対する。二人は一気に間合いを詰め、戦闘は開始された。建物の上を縦横無尽に飛び回り、斬り合い、剣を交え合う。

「しかたのないやつだ」

 どんどん姿が小さくなる二人の交戦に、一つ嘆息し、呆れたように風間はそう呟いた。

「奈良坂、古寺は太刀川を援護しろ。当真と出水は三輪隊と合同で戦闘にあたれ」

 太刀川に指揮権を委ねられ、風間はそう指示を出す。

『私も迅くんの援護に行くわ。あとは陽平に任せるわね』

 真由美も指示を出し、迅の後を追った。

「さてと、ではこちらはどうしましょうか?」

 陽平に尋ねられ、

「さすがに風間隊と三輪隊、それに当真と出水も加わるとなると、ちょっと厳しいな」

 嵐山は答える。

「じゃあ、分断ですね。二手に分かれましょう。俺たちと嵐山隊が分かれれば、向こうも部隊を二分するしかない」

「そうだな。問題はどっちが来るか……か」

「それならたぶん、うちの隊には三輪隊でしょうね。うちの連携と機動力を封じるには、レッドバレットが効果的です」

 時枝の分析に、陽平も嵐山も頷いた。

「ねえ、陽平。今からでも、あたしだけ太刀川に行っちゃダメ?」

 朋香はなおも諦めきれていないようだったが、

「ダメに決まってんだろ!」

 陽平はそれを一蹴する。

「けど……」

「姉ちゃんの気持ちもわからないとは言わないけど、今から部隊を二手に分けるっていうのに、俺とあーちゃんにエース抜きで闘えって言うの? しかもうちは真由美さんが迅さんの援護に行ったから、スナイパー抜きなんだよ!」

「それは……、そう……、だけど……」

「姉ちゃん!」

「わかったわよ! わかりました!」

 朋香にも、今の状況で自分が抜けることが、どれだけ不利な戦況を招くかは想像できる。故に今は私怨にこだわることはできない。そんな朋香にできる唯一の抵抗は、頬を膨らませて拗ねた態度をとることくらいだった。それがわかっているからこそ、陽平もまたそんな朋香の態度に、ふと笑みをこぼし、頭を撫でることでその意を汲んだ。

 

 

 十二月十七日、十一時二十分。榊隊作戦室。

「忍田さんは何の用だったんだ?」

 春瀬奏恵の質問に、真由美は先ほどの本部長室でのやり取りを、余すことなく隊員に伝えた。最後に本部長命令が下されたことも含めて。

「遊真を玉狛から入隊させる……か。迅さんもまた、凄いことを考えつくものね~」

 なかば呆れ気味に朋香は言うが、

「そう? 俺は迅さんらしいって思うけどな」

 陽平は逆の感想を述べた。

「まあ、玉狛はネイバーをエンジニアに迎えるくらいだしね。私たちにとっては荒唐無稽なやり方でも、迅には定石なんでしょ」

「そうだね~。まあ、そのために私たちは私たちで作戦を考えましょう!」

 

「あの~」

 

 各々が発言する中、朝美がおずおずと口を開いた。

「本当に、こんなに揃うんでしょうか? こんなA級の1位から3位までが全部なんて」

 A級隊員とはいえ、朝美はボーダーに入隊してまだ一年足らず。当然、B級時代にはランク戦で他の部隊と闘ったこともあるが、A級に昇格した今ですら、A級トップチームの隊員と闘った経験はない。いや、まさか自分がそんな上位部隊と一戦を交えるなど、今まで想像すらしたことがなかった。

「大丈夫だよ、あーちゃん! 太刀川はあたしがサシでぶった斬るから!」

「はい、それ却下!」

「なんでよ、陽平!」

「なんでA級トップチームに単身で挑もうとするんだよ!」

「トップチームにじゃなくて、太刀川にだよ! あいつだけは、あたしが自分の手でぶった斬らないと気がすまないんだよ~」

「べつに姉ちゃんの気をすますために闘うんじゃないよ」

「陽平! アンタ……」

 

「はいはい、そこまで!」

 

 真由美に制止され、朋香と陽平はともに口をつぐんだ。

「真由美さんは悔しくないの? 太刀川のせいで、イサオさんは……」

「朋香! それ以上言ったら、私が怒るよ!」

「カナさんまで……」

 奏恵の目は厳しく、しかし対照的に、真由美の目は心配そうな、そんな色を映しだす。そのどちらもが、自分のためなのだと朋香は理解していた。しかしどんなに頭で理解できても、気持ちで納得できるわけではない。

「姉ちゃん。姉ちゃんはウチのエースなんだよ。榊隊として点を取ってくれないと。俺たちだけじゃ、最精鋭部隊混成チームは倒せないよ」

 そして陽平の、悲しそうな瞳。朋香は気づいていた。自分がこの話をすると、陽平の瞳は悲しそうな色を映す。それはまさに今みたいに。

「ごめん……」

 だから自分が折れるしかないのだと、朋香は最後はそう自分に言い聞かせた。

「陽平先輩はいいんですか?」

「いいって何が?」

「だって出水先輩とも闘うんですよ」

 朝美の心配のターゲットが、今度は陽平に向く。

「陽平。アンタ、出水が相手になっても敗けるんじゃないわよ」

「姉ちゃん、ムチャ言うな~」

「まあ、確かにやりにくいよね。師弟対決なんて」

「真由美さん……。真由美さんだけだよ、俺の気持ちをわかってくれるのは」

「なに言ってんだ! 弟子ってのは師匠を超えることでしか、その教えに報いる術はないんだぞ!」

「せっかくの真由美さんの優しさが、カナさんの厳しさで台なしだ~」

 一気にその場の空気が緩む。それが嵐の前の穏やかさだと知っていても。

 

 

 十二月十八日、十九時三十五分。警戒区域内のとある公園。

「ねえ。どっちが来ると思う?」

 朋香はすでに両腰に弧月を装備してある。

「やっぱり風間隊だと思います。さっきの時枝先輩の推察どおりに」

 朝美もアサルトライフルを携え、臨戦態勢だ。

「あーちゃん。スタアメーカーはOK?」

 陽平はさきほどから、しきりにトリオンキューブをばらまいている。

「はい! OK……ですけど、陽平先輩は何をしているんですか?」

「ああ、そうか。カナさん、視覚支援よろしく~」

『わかった!』

 その次の瞬間、赤いワイヤーがその公園を埋め尽くしていた。周りを囲み、まるでそれはプロレスのリングさながらに。

 

 A級混成部隊を分断するため、榊隊は嵐山隊と分かれ、この公園へきた。たぶん相手は風間隊と三輪隊(+出水)に分かれて追ってくるだろう。

『まさか、あたしたちをムシして玉狛に行く……なんてことしないよね?』

 朋香は懸念材料としてそんな意見を上げたが、

『それはないよ。玉狛支部には今、レイジさんたちが揃っているはずだ。いくらなんでも、レイジさんたちとやり合うなんて無謀な策、風間さんが許可するはずがない』

 と、陽平はそう判断した。

 

 朋香、陽平、朝美は三人、背中合わせの態勢をとる。人間が両目で視認できる視野は左右で百二十度。こうすることで、ほぼ死角を無くすことができる。

「さてと、これで来るとしたら、あとは」

『陽平! 上!』

 奏恵からの無線に、朋香たち三人の視線が上を向く。しかし何も見えない。当然だろう。それは三人も予測済みだ。

「風間隊がカメレオンを発動中だ! 大丈夫! 攻撃する際に必ず姿を現す。その一瞬が勝負だよ!」

「了解!」

「了解です!」

 陽平が張り巡らしたスパイダーのおかげで、カメレオン起動状態でそれをかいくぐるには上空しかない。いや、陽平はそのためにわざと上だけを開けておいたのだから。

 陽平は右手にスコーピオンを構える。朋香は両手に弧月を。朝美のアサルトライフルはすでにスタアメーカーが装填済みだ。

 スタアメーカー……対ステルス戦闘のために開発されたオプショントリガーで、命中した箇所に目印を残すことができる。レーダーでの探知のみでなく、カメレオンを発動してもその目印は視認できるため、戦闘が容易となる利点がある。ただし命中させるには、相手が他のトリガーを使うためにカメレオンを解除した瞬間を狙う必要があり、その一瞬を捉えることができるかで勝負が決まるといえる。

『3・2・1! 今!』

 奏恵の合図とともに、風間隊の三人、隊長の風間の他、歌川遼と菊地原士郎も姿を現した。そしてその刹那……。

 

 パーッン!

 

 バシュッ!

 

『トリオン体活動限界。ベイルアウト』

 一筋の光が、ボーダー基地へと弧を描いた。

 朝美の目の前に現れたのは歌川。その朝美の左隣にいた陽平との間には風間が現れた。その瞬間、陽平はシールドを張り、風間のスコーピオンを防いで朝美を援護。朝美のアサルトライフルから放たれたスタアメーカーは眼前の歌川を直撃した。むろん歌川のスコーピオンも朝美に斬りかかるが、それを朝美の右隣にいた朋香が弧月で受け返したため、朝美に届くことはなかった。だが、風間や歌川が虚を突かれたのは何もそこではない。ガラ空きとなった三人の背後に現れたのは菊地原だった。菊地原は風間や歌川の攻撃に気を取られている三人を背後から斬りかかろうとスコーピオンを構えたそのとき、その体は銃弾に撃ち抜かれた。

 風間と歌川は互いに顔を見合わせる。

「まさか、榊か……?」

 信じ難い答えではあるが、それ以外に考えられる状況はない。

「けど、榊さんは迅さんの後を追ったんじゃあ。それに、さっき陽平だって……」

 そう。歌川の指摘どおり、確かに陽平はこう言った。

 

『俺とあーちゃんにエース抜きで闘えって言うの? しかもうちは真由美さんが迅さんの援護に行ったから、スナイパー抜きなんだよ!』

 

 しかし本来ならそれは風間たちには聞こえないはず。その距離から、常人が聴きとるには不可能なのは明白だった。常人なら……。

“強化聴覚”……それは、菊地原が持つサイドエフェクト。常人の約六倍の聴覚と、聴き分け能力を持つ菊地原なら、不可能なはずのその距離を、可能とするには容易いことだった。しかしそれが、今回は仇となった。

「なるほど。わざと菊地原に聴かせたということか」

「わざと!?」

 風間の推測に、歌川は驚きの声を上げる。つまりは菊地原にだけ聞こえていることを逆手にとって、あたかも真由美が迅の援護に向かったと思い込ませたのだ。

 朋香たち三人は、背中を合わせることで死角を潰した……ように見せかけた。だが本当は、朝美には自分の目の前だけに意識を集中させ、風間隊の誰かが現れた瞬間、スタアメーカーを撃つ。朝美の目の前以外に現れた相手に対しては、朋香と陽平が身を挺してでもカバーに入る。そしてあえて作った三人の死角については、迅の援護に向かったフリをした真由美が遠距離から狙撃態勢に入っており、姿を現した瞬間を狙って狙撃する。もちろんこれらは、奏恵のレーダーを駆使した正確な位置情報の解析があってこそなせる戦略である。それと、もうひとつ……。

 

 スタアメーカーを撃ち込まれた歌川が、その右肩についたマーカー付近を手で押さえながら、それでも腑に落ちないといった表情を浮かべていた。

「それでも、姿を現した瞬間に狙い撃つなんて……」

 いくら目の前に現れたからとはいえ、そんなに瞬時に射撃できるものなのだろうか。しかし、それも風間はある推論を導きだしていた。

「そうか、和堂のサイドエフェクトか……」

 風間の言葉に、歌川は再び驚いた表情を見せたが、今度は声を出さなかった。

「正解! さすがは風間さんだ。で、どうします? もう俺たちにカメレオンは効かないと思うんですけど」

「陽平、それで勝ったつもりか。たとえカメレオンを使わなくとも、俺たちがおまえたちに敗けることはない」

「いやいや。こっちはフルメンバーですよ~。さすがに二人相手に敗けてちゃあ、A級だなんて名乗れないでしょ」

「ほざけ! だったら教えてやる。3位と9位の違いを!」

 風間も歌川も、スコーピオンを両手に構える。対する朋香は弧月を両手に、陽平はスコーピオンを右手に、そして朝美はアサルトライフルを両手にツインで構えた。

 榊隊VS風間隊。その闘いが今、佳境に入る。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。