WORST TRICK   作:和久井 誠

27 / 33
第27話 榊真由美と雨取千佳

 

 スナイパー組が使用するトレーニング・ルーム“003”号室では、かくれんぼが始まった。もちろん、かくれんぼと言ってもいわゆる『隠れている人をオニが探す』という、誰しもが子どもの頃に体験した遊びをそのままやるわけではない。

 

『私とかくれんぼをしましょう!』

 

 榊真由美からそう言われ、雨取千佳は驚いたように声を漏らしたが、真由美が言う“かくれんぼ”とは、やはりそんな昔懐かしい遊戯の範疇ではなかった。

 ルールはいたってシンプル。お互い遮蔽物に身を隠しながら狙撃し合うというもので、ただ普段の狙撃訓練とは違い、被弾した箇所はマーキングがされるという。

 むろんこれだけでは、真由美と千佳では実力差がありすぎるため、いくつかの特別措置が講じられた。

 

 ① 真由美はバッグワームを使わない。

 ② 真由美は千佳から半径三百メートル以内の範囲からのみ狙撃し、その範囲以遠からの狙撃は被弾しても無効とする。

 ③ 真由美は狙撃をしたら必ず移動しなければならない。逆に千佳の移動は、狙撃三回までの間とする。

 ④ 狙撃の成功は、トリオン供給器官である心臓部、もしくはトリオン伝達脳である頭部の被弾のみとし、他の部位への命中は被弾とはみなさない。

 ⑤ 試合開始は十分後。その間にそれぞれが任意に移動する。

 

 以上の五項目。

 スナイパーが行う射撃は、シューターやガンナーのそれとは区別され“狙撃”と言われている。スナイパーが“狙撃手”と呼ばれる所以でもあるが、それ故に、同じトリオンを弾丸にして飛ばすこの二つのポジションには、明確な違いがあった。

 まずシューターやガンナーのトリガーは放つ弾丸の特性によって分類されているのに対し、スナイパーのトリガーは銃という武器そのものを指す。その一発一発に消費されるトリオンも大量なため、シューターやガンナーより威力も射程もはるかに優れている。が、その反面、連射は効かないため接近戦での撃ち合いには向かない。言わば、一撃必殺の奇襲を担ったポジションと言えた。そのためスナイパーに必要な資質には、好機が訪れるまで身を隠してひたすら待つ粘り強さ、つまりは忍耐力と、その待っている間、片時も気を抜かず対象者を狙い続ける集中力が挙げられる。チームメイトが闘っている場所を、遠く離れた位置から決して誰にも見つかることなく監視し、たった一度しかないかもしれない好機を逃すことなく狙い撃つ。その一撃は、ときには相手を戦闘不能にいたらしめ、ときには危機的戦況をひっくり返し、そしてときにはその勝敗すら決定づけてしまう。まさに、放つ一発の弾丸にかかる役割は、他のどのポジションより重いとすら言えた。

 

 千佳はレーダーで真由美の位置を捕捉する。バッグワームは、あくまでも対電子戦用の隠密(ステルス)トリガーなので、実際に姿を見られるとその効力はない。しかしスナイパーは通常、バッグワームを着用することでレーダー上から姿を消すことを定石としている。それはポジションの役割上、後方に身を隠すことが必需であり、レーダーで捕捉されればそれだけ不利となるからだ。

 だがレーダーで捕捉できれば、それで狙撃が可能か……と問われれば、それは明らかに否だと言える。なぜならレーダーでは、方角こそ捕捉できるものの、高度までは捕捉できない。したがって場所がわかっても、たとえばレーダー上に真由美の位置が表示されたとしても、それが建物の中であればどの高さにいるのか……までは探知できないのだ。これが実戦で建物ごと吹き飛ばすなら、そのレーダーを頼りに狙撃を試みるのもひとつの手だが、今回の訓練のように互いの心臓部もしくは頭部にピンポイントに命中させようとするなら、狙撃が外れたとき、それは逆に自分の居場所がバレてしまうというリスクを負っていると言えた。

 レーダーに映る真由美のビーコンを目印に、千佳はスコープ越しにその方向を見る。しかし当然、建ち並ぶビルが見えるだけで、真由美の姿までを確認することはできない。

 真由美は自分から半径三百メートル以内の範囲からしか狙撃してこない。実際、レーダーのビーコンも、真由美の位置が三百メートルに届かない距離であることを示している。

 千佳は考えた。このまま真由美の姿を確認するまで、ここで粘るか。それとも真由美の狙撃が無効となる三百メートル以遠まで遠ざかるか……。

 

 パーンッ!

 

「撃ってきた!」

 逡巡している千佳を煽るかのように、真由美の狙撃が千佳を襲う。しかしこれはもちろん、千佳には当たらない。当然だろう。真由美からは千佳を捕捉する手段がないのだから。なぜこの広い敷地の中で、自分のいるこの場所の近傍を狙い撃てたのか。千佳にはまだ、それもまぐれとしか思えなかった。

「けど、これで榊さんは狙撃位置を変えてくるはず」

 最初に取り決めたルールのひとつだ。

『真由美は狙撃をしたら必ず移動しなければならない』

 だとしたら、そこを逃すわけにはいかない。千佳はレーダーを確認する。だが、真由美のビーコンは動かない。真由美はすでに移動を開始しているはずだ。なのになぜか変化はなかった。その理由、そこから推測される答え、それは……。

「ビルの中を移動している?」

 レーダーと狙撃の出所から、真由美の居場所はわかる。直線距離にして二百と九十メートルほど離れたビルだ。移動しているにもかかわらず、レーダー上のビーコンに変化がないのであれば、それはそのビルの中を移動していると考えるのが自然だろう。レーダーは高度までは探知しない。故に階層を移るぶんには、ビーコンに変化がなくても不思議ではないといえた。

 通常、狙撃をするのであれば、より高台へと身を置くほうが望ましい。高さがあれば、そのぶん射線を遮るものの影響も受けにくく、また逆に相手が自分より低い場所にいると、たとえ狙われても相手からの射線は遮りやすくなるからだ。

 千佳は真由美のおおよその位置は見当をつけた。本来であれば、ここでオペレーターの情報支援と併せて正確な居場所を特定するのだが、今回それはできない。三発目に当てるとして二発を使って揺さぶりをかけてみるか。いや、しかし狙撃を外せばこちらの位置も特定されてしまう危険性がある。

 スコープから覗くビルからは、真由美の姿は見えない。たとえビルの中にいたとしても、狙撃をするためには少なくとも銃口は自分のほうへと向ける必要がある。移動を終えた真由美は、だから新しい狙撃位置に着くや再び狙撃態勢へと入るはずだ。注意深く、千佳はスコープからビルを警戒する。必ず真由美は姿を現す。いや、姿が見えなくても狙撃銃さえ見つけることができれば。

 

 パーンッ!

 

 二発目の狙撃。今度は危うく千佳をかすめるところだった。千佳は思わず壁に身を隠す。間違いない。真由美は自分の居場所に気づいている。なぜ気づかれたのか、今の千佳にその答えを導きだすことはできない。だが、そんなことはどうでもいい。千佳の思考を埋め尽くすのは、この先とるべき行動だ。もう、ここから真由美を狙うことはできない。狙撃しようと銃口をビルに向けるが最後、逆に自分のほうが狙い撃たれてしまうだろう。今なら真由美も移動しているはずだ。その隙に自分も場所を変えなければ……千佳はそう判断し、遮蔽物をひとつひとつ確認しながら、移動を開始した。

 

 

 本部開発室。

 室長の鬼怒田本吉は、榊隊専属エンジニアである司城成から、そのデータを見せられていた。

「本体は川に落ちたみたいだけど、もし街中に落ちていたら、計算上被害は更に倍、いや三倍くらいには広がっていただろうね。もちろん街自体も、そして人的な面でも。まあ、どこの誰かはわからないけど、とりあえずボーダーは、その川に引き摺り下ろしてくれたって人に感謝してもいいレベルだ」

 司城は相変わらずの気怠そうな口調で、そのデータを説明する。

「もしこれが基地に突っ込んできたら、どうなる?」

「一体で半壊、二体で全壊、四体で全滅……ってところだろう」

「だが、四体ですむという保証もない」

「そうだねぇ。基地の外壁を強化するしかないだろうねぇ。それと爆撃用の砲台もつけたほうがいいかも」

「外壁の強化に砲台……か。簡単に言ってくれるわい」

「もちろん簡単じゃないのは百も承知さ。対処すべきは外壁だけじゃない。基地の中だって、戦闘員が必ずしも残っているとは限らないからね。侵入者用にトラップを仕掛ける必要もある」

「侵入者!? なんじゃ、それは? 敵さんが侵入するというのか?」

「あくまでも備えだよ。使わずにすむなら、それがベターだ。けど“ヤツ”が動き始めてるってことは、どんなに備えを厚くしても『しすぎる』ということはないだろう?」

「まったく。これじゃあ、トリオンがいくらあっても足りんわい」

「そのへんは室長の腕の見せ所……じゃないのかい?」

「司城~。それこそ簡単に言いおって」

 今、鬼怒田が見ているのは、先日のイレギュラー・ゲート発生事案のときに出没した爆撃型トリオン兵“イルガー”のデータだ。木虎藍が和堂朝美とともに対処に当たったものの、自爆モードに移ったイルガーは川に落下し爆発した。空を飛び、空爆に特化したトリオン兵で、異様に装甲が堅く、攻撃を受けると自爆するという面倒な特徴を持っている。なにせその個体が確認できた唯一であるため情報が少ない。しかし今後、これも今までのトリオン兵と同様にこちらの世界へと攻めてくると予測はできる。であれば対応に追われるのは開発室の宿命ともいえた。

「で、ヤツは何か視えたのかい?」

「それがなんともはっきりせん。あいつなりに街を巡回しているようだが、『近いうちに何かが攻めてくる』ということしかわからんらしい」

 未確認のトリオン兵に加えて、ヤツ――迅悠一――の未来視で近々ネイバーと思しき者たちから襲撃を受けるという未来が視えた。しかしそれ以上の未来は視えないとも。迅のサイドエフェクトである未来視は万能というわけではない。まだ確定までに至らない曖昧なものだと、予知できる未来もそう遠い先までというわけにはいかず、しかも会ったことのない者の未来まで視えるわけではない。

「とにかく基地は最後の砦だ。ここを落とされるわけにはいかない」

「わかっとるわい! だから非戦闘員にも護身用のトリガーを持たせとる。武器やベイルアウト機能がないからといって、ひとりの犠牲者も出すわけにはいかん!」

「ふふ。だから室長、好きだよ。それは私も賛成だ。とにかく、これから基地の大改造にかかる。忙しくなるな」

「ふん! おべっかなんぞ使いおっても、なんも出んわい! さあ、開発室総出でかかるぞ! それと冬島にも来てもらおう」

「冬島か。ヤツを使うなら基地だけでなく、街中にもトラップを仕掛けよう。な~に、まだ時間はある。迅の未来視がはっきりするまでに終わらせたほうがいいだろう」

「まずは基地からじゃ。が、それが終われば、むろん街のほうにも手はつける」

「それがいい。冬島を使うなら手を広げるだけ広げないと、もったいない」

「そういうおまえさんもな」

「わかってるよ。室長には日頃ワガママを聞いてもらっている。こんなときくらいは役に立たせてもらうさ」

 司城はそう言うと、目の前のパソコンに向かった。『こうでもしないと容量が追いつかない』と、パソコンは司城を囲むように五台がフル稼働している。

 数多あるネイバーフッドの国々の内、どこが攻めてくるかはわからない。いや、そもそもわかったところで、それが未知の可能性も決して低くない。しかしいずれの国にせよ、トリオンは無限というわけではない。であるからこそ、こちらの世界の人々をさらっていくのだろう。もしそうなら、こちらの世界に費やせる戦力も限りがあるということになる。まだほとんど情報がない現状だが、それでも解析できる材料はある。開発室には今まで回収されてきたトリオン兵が保管されてある。損傷の少ないものから、一片の残骸に至るまでその状態は様々だが、総じてみな貴重な分析材料だ。それらからトリオンの規模を算出したり、またはそのトリオン兵を差し向けることができるであろう相手の戦闘力の概算とそれに相対し得るこちら側の対策など、もちろん大まかな割り出しにはなるが、それでも数十、数百パターンの状況を想定し対応しなければならない。

 司城は二度三度、首をコキコキと鳴らすと、十本の指を、それらがまるで個々に意思を持っているかのように忙しなく動かした。

「まったく、いつ見ても常人離れしておるわい……」

 その司城の後ろ姿を目で追いながら、鬼怒田は素直にそう感心した。

 五台のパソコンを同時に操る機器操作能力や並列処理能力、そして必要な情報とそうでないものとを取捨する瞬時の判断力に、それらを継続して行う集中力と体力。現ボーダー設立時、司城が戦闘員を辞めると言いだしたとき、本部は真っ先にオペレーターの道を勧めた。しかしそれを、当時開発室長に就任したばかりの鬼怒田は問答無用で強引に跳ね返し、開発室……つまりはエンジニアにスカウトしたのだ。そのときの自分の決断の正しさ、先見の明るさを鬼怒田は今でも誇らしく思う。あのときの誰が、あの司城成がエンジニアとして一流の資質を持ち合わせていると気づけていただろうか。と同時に、もし司城がオペレーターの道へと進んでいたらと思うと、今更ながらにゾッとする。それが鬼怒田の本心だった。願わくば、冬島慎次にもエンジニアとして開発室に留まり続けてほしかったが、あいにくそちらは某女子高生の策略によって阻まれてしまった。

 

 

 千佳のレーダーに映るビーコンは確かに移動している。しかしその方向をスコープ越しに覗いても、真由美の姿は視認できない。千佳の表情には明らかに焦りの色が出ていた。時折響く銃声に、また自分の体が被弾したことを悟る。もうこれで何発目だろうか。幸か不幸か、今は手鏡を持ち合わせていないため、自分の頭部にどれだけマーキングがついているのか確かめようがないが、心臓部にはすでに赤い丸印が六発マーキングされており、少なくともそれと同じ数だけの印がついてあるだろうことは予想できる。

「何で……?」

 今の千佳は、もはや何が何やらわからない……まさに、そんな心境だった。レーダーに映るビーコンの方向には真由美の姿は見えない。なのに確実にその方向から狙撃される。しかもどんなに場所を移動しても、まるで追尾弾でも撃っているかのように自分の位置を捕捉されてしまう。そんな状況が二時間続いたとき、タイムアップを知らせるブザーが鳴り響いた。

「終わり……?」

 長い、長い、あっという間の時間が終わった。

 

「おお~! チカ、まっかっかだな」

 オペレーター・ルームに入ってきた千佳を見て、空閑遊真は開口一番そんな言葉をかけた。

「まっかっか……?」

 千佳は慌てて洗面所へと走る。その後ろ姿を見送るように、真由美も姿を現した。

「いったい何をしてたんですか?」

 朝美の疑問に、真由美は笑って「かくれんぼ」とだけ言って笑う。そのまるで、悪戯が見つかった子どものような屈託のない笑みに、神凪陽平は「ああ~」と言葉を漏らした。

「かくれんぼ?」

「それって、いったいどんな?」

 遊真に続いて、三雲修も首を傾げるが、

「あの……、陽平先輩?」

 と、朝美に促された陽平が真由美の行った訓練を大まかに説明すると、みな一様に『ああ~』と、さきほどの陽平と同じ言葉を口にした。

 見ると、真由美のほうには赤い印はひとつもついていない。それが今の千佳と真由美のスナイパーとしての差ということなのだろう。

「あの~、榊さん……」

 洗面所の鏡で自分の顔を確認した千佳が再び姿を現した。

「千佳ちゃん、お疲れさま」

「あっ、お疲れさまでした」

「それで今日の訓練の感想は?」

「感想も何も……」

 千佳は真由美の質問に口ごもる。それは当然だろう。千佳にとっては、まったく何が起きたのかわからないというのが正直なところなのだから。

 レーダーで捕捉した位置に真由美の姿は見えない。そこにいるのはわかっているのに、どこにいるのかわからない。イチかバチかで撃つべきか迷っているうちに狙撃される。自分の居場所なんて真由美には探知する術などないはずなのに、ことごとく捕捉されてしまう。真由美のビーコンがどんなに移動しても、実体の移動を視認できない。こちらはどんなに注意を払って移動しても、移動の先々でその行動を読まれている。千佳には真由美が何かトリックでも仕掛けているのではないかとさえ思えていた。終盤はもはや、自分が何をしたところで真由美にはその思考が筒抜けになっている。そんな疑心暗鬼にすら陥っていた。

「何で自分の居場所がバレるのか。何で相手の居場所が掴めないのか。その答えがわからないから、躊躇や狼狽に思考が支配されて、どんどん行動が単調でわかりやすいものになってる。そしてそれに気づかないから、もう何をしても見透かされてしまうんじゃないかって焦りや迷いが大きくなる。だからまた躊躇う、狼狽える。その悪循環だね」

 真由美は千佳の敗因をそう解説した。

「けどそれだけで、こんなにも……」

 こんなにも……あっさりと狙撃を受けてしまうものなのだろうか、千佳はそう言いたかったが、A級部隊を率いる隊長の真由美が、格下の自分を相手に正攻法以外の手段をあえて使うとも思えず、その続きを飲み込む。

「こんなにも追い込まれるとは思わなかった?」

「あ、いえ……」

 図星だったと、千佳は慌ててかぶりを振った。

「撃たなくても、スナイパーは攻撃に参加できる……なんて言ったら、どうかな?」

「撃たなくても……ですか? そんな……」

「どんな人でも、それが特にチーム戦で相手にスナイパーがいたら、まずスナイパーを警戒する。だってスナイパーの一撃は必殺だからね。まともに被弾したら、それだけでどんなに有利に運んでいた戦況も一変してしまう。だから自ずと射線がとおるところには行かないよう意識する。つまりスナイパーは、ただいるっていうだけで相手の行動範囲や動線を制限することができるの」

 それは言い換えれば、スナイパーなら他のスナイパーが潜みそうなところを、ある程度は予測できるということだ。それも高い経験値を積んだ者であれば、相手が熟練者なら、初心者なら、と、その人のスキルを考慮した、それこそ相手の思考を読むレベルにまで達したかと思わせるほどの正確な予測ができる。最初の移動で、だから真由美はビルの高層階に移動すると、千佳が潜みそうなところを推定し、威嚇射撃で牽制して千佳を精神的に追い詰めていった。

 スナイパーにとって、忍耐力と集中力の維持は不可欠な要素であり、そこを欠かせるよう不安や焦燥を煽っていけば、特に千佳のようなまだ未熟なスナイパーであれば、勝手にどんどんマイナスなほうに思考が傾き、結果自分では気づかないうちに隙を曝け出してしまう。

「そうだったんですか……」

 落胆をとおり越し、千佳はそう素直に驚いてみせた。それはけっきょくのところ、敗因は自滅だったとも言えるのだから。

 

 

「どうだったかな? 三人とも」

 訓練を終えて、リビングへと戻ってきた修、遊真、千佳の三人に、迅は率直のそう尋ねた。

 三人の後ろには真由美たちの姿もあり、リビングにもすでに春瀬奏恵と宇佐美栞の姿があった。

「うん。いい経験になったな。ヨウヘイは強かったけど、スコーピオンの使い方はだいぶ覚えた。これならヨウヘイに勝ち越す日も近いな」

 遊真は自信満々といった表情で、そう答える。

「ぼくは課題が見えました。いつも烏丸先輩から言われている『隙を突いて反撃をねじ込むイメージ』と、その『自分が目指す最高の動きに近づくためにはどうすればいいか』を考えながら闘うということを身を以って痛感したというか……」

 口調は力なく呟いたような印象の修だったが、その目は静かながらも何かしらの具体性を見出したかのように力のこもったそれをしていた。

 そして千佳も、

「私は……ただ撃って当てるだけじゃダメなんだなって思いました。相手が何を警戒しているか、逆にいかにしてこちらの意図に沿った警戒をさせるか。考えなくちゃいけないことは、いっぱいです」

 と、三者三様に得るものがあった……と、つまりはそういうことだった。

「あれ? そういえば朋香先輩は?」

 ひとり、トレーニング・ルームに入ることのなかった朋香の姿だけが見えない。それに気づき、朝美がそう言葉を漏らす。

「ああ……、朋香ちゃんなら……」

 口ごもる迅に、

「たぶん本部でしょ」

 陽平はそう言葉を続けた。

 戦闘バカの朋香が、あえて遊真たちの訓練に付き合わなかった理由と、迅とは別行動をしている理由。それらを合わせて考えれば、迅に模擬戦を挑んだものの断られたということも、陽平なら想像に難くない。そしてそんな朋香が次に取りそうな行動といえば、それは本部に行って模擬戦の相手を探す……しかないだろう。

「本部……ですか?」

 むろんそんなこと朝美には考えつく余地もないことだが、首を傾げる朝美を横目に、陽平は朋香の感情に思いを馳せた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。