WORST TRICK   作:和久井 誠

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 やっと第3話です。
 よろしくお願いします。


第3話 和堂朝美と嵐山佐補①

 

 謎のネイバー粉砕から一夜明けた昼下がり。三門第三中学校屋上。ここでは生徒たちが思い思いに昼食を摂っていた。

「はあ~。やっぱ、三年生が抜けた穴は大きいわ~」

 嵐山佐補は、食べ終えた菓子パンの袋をくしゃっと丸めると、空になった牛乳パックとともに手持ちのビニール袋へと入れる。

「バレー部、三年生が引退して人数だいぶ減っちゃったもんね……」

 そう言って和堂朝美は、持参した弁当箱をハンカチで包むと、すっと立ち上がりフェンスの手すりに体を預けた。

「そうなんだよな~。だいたい人数もカツカツだし」

「カツカツ……なんだ?」

「そう、カツカツ。だから一人の落伍者も出すわけにはいかない」

「落伍者……」

 その言葉に、朝美の表情が曇る。

「朝美?」

「ああ、ごめん。何でもないの」

 落伍者……つまりは同じチームにおいて、後れをとっている者。

 朝美には昨日の、神凪朋香と神凪陽平のやり取りが頭から離れずにいた。

 

『何よ。陽平っていつも、あーちゃんのこと甘やかしすぎなんじゃない?』

 

 それは、粉砕されたネイバーの現場保存のために誰が残るか……という問いに、自分の名を挙げた朋香を諫めた陽平に対し、朋香が放った言葉だった。

 朋香はきっと、それを何気なく言ったにすぎない。他意がないことも、朝美は十分にわかっていた。しかし、確かに陽平が普段から、自分に対して過保護な面があるという意識はある。自分がチーム最年少であるが故か、それともボーダーに入隊してまだ日が浅いからか、その理由はわからない。朝美がまだ訓練生だった頃、すでにB級上位までランクを上げていた榊隊に、自分を誘ったのは陽平だ。まだ実力も今後の成長も未知数だった自分を、陽平は自らスカウトにきた。だから陽平は、自分に対して責任を感じているのではないか。だがそれも、すべては自分が非力であるが故。守られなければ闘えない。だからいつも守られている。果たして、本当に自分は今のチームに必要なのか。なぜ、陽平はこんな非力な、いつもいつも守らなければ闘えないような弱い自分を誘ったのだろうか。朝美の心には、いつもそんな思いが片隅にあった。

「何でもないって顔じゃなかったよ。聴くよ、話。何かあったなら言ってごらん」

「うん……」

 再び佐補の隣に腰を下ろし、朝美が重たい口を開いた。

 

 

「こんな昼間っから、学校はいいのかい?」

 紫煙に満ちた部屋の片隅で、パソコンに向き合いながら、背後の陽平に気怠そうにそう呟く声。手入れもされてなさげな栗色の髪はボサボサに伸ばされ、目の下にはクマも見える。本来なら女性の誰もが羨む美貌とプロポーションを兼ね備えていながら、本人にその気がないため、親しい人たちからは“残念美人”の称号を贈られている女性。司城成、御年二十九歳。ちなみに独身。

「昨日の結果がもう出る頃だと思ったんで。特別早退してきました」

「ほ~う。さすがはボーダー提携校だ。中学生の身分でも、そんな制度があるなんてな」

 司城はそう言って、短くなったタバコを一気に吸い込むと、灰皿へと押しつけた。

「ははは、やっぱダメか。本当は特別早退じゃなくて、自主早退ですよ」

「自主早退か……。やっぱり時代の流れは速いね。私たちの時代なら、それはサボタージュとか、エスケープとか言ってたんだがな」

「なら、今とそんなに変わらないですね。ナルさん、まだまだ若いですよ」

「はあ~、いいのか? 天下のボーダー隊員が、そんな非模範的な行動をして」

「模範的な行動をするのは嵐山隊の仕事ですよ。人の仕事を奪っちゃ悪いでしょ」

「なら私の仕事を後回しにさせて、自分の作業を押しつけるのは悪くないとでも?」

「でも昨日のナルさん。目、輝いてましたし」

「はあ~」

 諦めにも似た深い溜め息の後、司城は続けざまに次のタバコをくわえ火をつける。

「あ、それとこれは差し入れです」

「差し入れ?」

「ナルさん、放っておくとタバコと栄養ドリンクとカロリーメイトしか口にしないから」

「失礼だな。ちゃんとミネラルウォーターも口にしてる」

「ああ、あの高い水ね」

「高い水って言うんじゃない。ミネラルウォーターだ。私はミネラルウォーターだけはケチらない主義なんだ」

「その半分でも、まともな食事に使ってくださいよ」

「大丈夫だ。人は栄養と水があれば生きていける」

「それを人は、大丈夫じゃないって言うんですよ。はあ~」

 と、今度は陽平が、諦めの嘆息を返した。

 

 

「えっと、つまりは朝美は、今のチームにおける自分の存在意義について悩んでいると?」

「うん……。まあ、そういうことかな。まあ、そこまで大袈裟じゃないんだけど」

 朝美の胸の内を聴かされ、「う~ん」と考える佐補。

「あの、佐補ちゃん?」

 自分の話を聴いていたときとは明らかに違う沈黙に、朝美の心は不安に駆られる。

「それってさ、悩まなくちゃいけないことかな?」

「……、えっ!?」

 だが沈黙を破った佐補の言葉は、更に朝美の予期せぬものだった。

「だってさ、朝美には朝美の良さがあるわけでしょ?」

「私の良さ?」

 そう言われ、自分の持つものを振り返ってみる。朝美の武器はアサルトライフルが2丁。

「私の役割は、陽平先輩と連携して、朋香先輩が攻撃しやすいように、敵の装甲を壊すことだけど……」

 果たしてそれが、佐補の言う自分自身の良さということになるのだろうか。その自信のなさから、朝美の顔色はなおも曇る。

「いや、そこ重要じゃないから」

「えっ!?」

「だから、そこは全然重要じゃないの」

「けど佐補ちゃん、私の良さって……」

「いやいやいやいや、普通自分の良さを聴かれて、戦闘スタイルを答える女子中学生なんていないでしょ」

「あっ、でも……」

「それに私、朝美が闘ってるとこなんて見たことないし。朝美の戦闘スタイルを言われても、わかんないよ」

「じゃあ……」

「頑張ってんじゃん!」

「えっ!?」

「私は朝美がボーダーでどう闘っているのかなんて知らない。だから戦闘のことはよくわかんない。けどさ、朝美が頑張ってんのは知ってる。ボーダーの訓練や防衛任務も、学校の勉強も」

「佐補ちゃん……」

「私ね、三年生が引退して主将になったでしょ。そりゃーね、部員にはお世辞にも上手いとは言えない子もいるよ。けどさ、たとえ下手でも一生懸命練習してる子はね、絶対に見捨てないの。どんなに歩みが遅くても、その子のスピードでいい、歩き続けてくれるなら、諦めないでいてくれるなら、私は、ううん、私たちはね、絶対にその子のこと諦めないの」

 果たして自分はどうだっただろうか。いつも必死だった。ただただ先輩たちの、チームメイトの、自分をチームメイトと認めてくれた人たちの、力になりたかった。役に立ちたかった。足を引っ張りたくなかった。そんな思いが今の自分の原動力を支えているのではないだろうか。だから頑張れるのだ。それが朝美にとっての、頑張る理由。

「私、このままでいいのかな?」

 しかしその問いかけの答えは、今の朝美にはもう必要はない。少しだけ曇りの取れたそんな表情が、すでにその答えに辿り着いたことを表していた。





 次回からようやくチビとメガネが登場します。
 でもまだ絡みませんが……。
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