30話まできましたが。作中の時間経過は、ほぼ1ヶ月くらいですか。よく考えてみれば、原作も丸3ヶ月くらいしか経ってないんですよね~。
「太刀川は裏切ったんだよ。そのせいで……」
出水公平も米屋陽介も想像だにしていない、そんな意外な言葉から神凪朋香の話は始まった。
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界境防衛機関……のちにボーダーと呼ばれることとなるこの組織は、もう十年以上も前、十名にも満たないほんの数名で結成された。その頃からのメンバーは、今ではもうほとんど残っていない。しかし第一次大規模侵攻での活躍により、それ以降は隊員の数も増え続け、その人数が百名を越える頃、それまでの個人戦もしくは総力戦が主体の戦術は一変した。少人数部隊によるチーム戦術への移行が取り入れられたのだ。
チーム対チームの部隊ランク戦の戦績と、昇級試験の結果によってA級もしくはB級にランク分けされ、そしてその中でも順位がつけられた。そのときA級1位となったのが……。
「司城隊。イサオさんの部隊だよ」
朋香はその名前を、静かに告げる。
「イサオさん?」
陽介は聴き馴染みのない名前に首を傾げるが、
「司城功、名前は聴いたことがある。確か忍田さんの一番弟子、つまりは太刀川さんの兄弟子で、朋香の……」
「そう。あたしの師匠」
出水の視線を受けて、朋香はそう言葉を続けた。
「朋香の師匠? そんな話、聴いたこと……」
「うん。イサオさんがいなくなってからは、誰にも言ったことないもん」
陽介がボーダーに入隊したのは二年前。当時、すでに司城隊はなく、朋香は今と同様に榊隊の一員だった。
「イサオさんはね……」
朋香はそう言って、語りだす。師匠、功との日々と、そこに絡む太刀川慶について。それは司城隊結成から一年ほどが経過した、今からちょうど三年前のことだった。
★
朋香がその話を聴いたとき、真っ先に自分の耳を疑った。ネイバーによる大規模侵攻の爪痕も薄れかけた三年前、その話は功の口から突然聴かされた。
A級1位、司城隊。ボーダーでは“最強”と謳われた忍田真史の一番弟子にして、その頃には“正当後継者”とまで言われていた弧月の使い手、司城功を隊長として結成されたこの部隊は、少人数部隊によるランク制が導入されてからずっと、A級1位に君臨し続ける不動のボーダー・トップ部隊だった。
司城功、アタッカー、二十二歳。
太刀川慶、アタッカー、十七歳。
榊真由美、スナイパー、十六歳。
春瀬奏恵、オペレーター、十六歳。
功と太刀川が敵を斬って斬って斬りまくり、浮いた駒を真由美が狙撃する。圧倒的な剣術を誇るアタッカー二人を擁するが故に実現できる、強引なまでの力技で、この頃すでに司城隊は“無敵”の称号を欲しいままにしていた。
「慶が脱退することになった」
それが事の発端だった。
特に少人数編成の部隊にとって、隊員がひとり抜けることは、大幅な戦力のダウンに繋がる。
『イサオさん、あたしをイサオさんのチームに入れてください!』
何度となくそう頭を下げる朋香に、だが功は決して首を縦には振らなかった。
『アタッカー同士の連携はシビアだからな。ウチはもう戦闘スタイルもある程度は確立しているし、おまえは自分に合った仲間を見つけたほうがいい』
唯一の弟子を、功はそう諭す。そんな功がなぜ、太刀川の脱退を認めたのか。それがわかってて、なぜ太刀川はチームを去ったのか。誰も教えてはくれなかった。いや、もしかしたらそれは本人たち以外、知る由もなかったのかもしれない。それでも朋香には、功の、そして太刀川の判断は理解できなかった。
太刀川が脱退してすぐ、朋香は司城隊に加入した。それは朋香の熱意と覚悟に根負けした功を強引に押し切ってのことだった。その直後、司城隊はA級1位の座から陥落した。
「イサオさんの言ってたことは、やっぱり正しかったのかなって思ったよ」
そのときのことを話す朋香の表情からは、隠せないほどの悔しさが滲み出る。
「じゃあ、司城隊の後にA級1位になったチームって?」
「東隊だな。東さんと二宮さん、加古さん、それと……」
「秀次と蓮さん……か」
陽介の問いには出水が答えた。それは、東春秋が以前組んでいたチームだ。
「イサオさんはね、べつにランクが落ちたことを気にはしてなかった。けど、あたしが加入したせいでA級1位の座から落ちた。それは事実だから」
太刀川が去り、自分が入った。そしてランク落ち。それはつまり、自分自身の力不足。自分では、功の相棒にはなれない。その歯痒さが、朋香を苦しめた。
誰よりも功の強さに憧れ、誰よりも功の剣に魅せられ、そしてだからこそ、誰よりも功に相応しい相棒になりたい。その一心で功に弟子入りし、必死で学び、弛まず鍛えた。それなのに、自分のせいで功は1位ではなくなった。そんな自分自身の不甲斐なさを、朋香は許せなかった。だが、それと同時に、ある感情も芽生えていた。
なぜ太刀川は司城隊を脱退したのか。
兄弟子である功とともにチームを立ち上げた太刀川にとっても功は特別な存在だったはず。同じ教えを受けた同志であり、運命を共にする相棒だった。二人なら“無敵”とさえ呼ばれた。それなのに……。
「太刀川はイサオさんを裏切ったんだよ。アイツは脱退してすぐ、自分のチームを立ち上げた。けっきょくアイツは、イサオさんの下にいたらイサオさんには勝てないって思ったんだ。だから自分が隊長になって、イサオさんと並びたかったんだよ」
悲しそうに視線を落とす朋香に、出水と陽介はただ黙して次の言葉を待った。
「三年前、あたしは襲撃してきたネイバーに殺されそうになった。どんな技も、どんな知恵も、あたしの持っている何もかもが通じなかった。あたしは死を覚悟した。ううん。覚悟したんじゃない。諦めたんだ。もうダメだって。でもそのとき、あたしの前に立ちはだかったのがイサオさんだった。身を挺して、ネイバーからあたしを守ってくれた。だけど……」
朋香は今でも、そのときの光景を憶えている。ネイバーに飲み込まれ、そして功は姿を消した。そのネイバーとともに。
「あのとき、あの場にいたのが、あたしじゃなく太刀川なら、きっとイサオさんはネイバーに飲み込まれることもなかった。太刀川が司城隊を辞めさえしなければ……」
朋香は唇を噛みしめる。それは三年経った今でも、夢に見るほどに鮮明で、残酷なほど鮮烈な記憶だった。
「けど何で、そのイサオさんって人はベイルアウトしなかったんだ?」
陽介の疑問も、もっともだった。
ベイルアウト……それは、正隊員用のトリガーに標準装備されている緊急脱出機能。これによって戦闘員は、決して死ぬことはない。にもかかわらず、功はその機能を使わなかった。
「なかったんだよ」
だがその理由は、今となっては考えられないものだった。
「なかった?」
「ベイルアウトはね、ナルさんが開発したんだよ。イサオさんのことがあって、イサオさんと同じようにネイバーにさらわれる人がいて、それでそんな被害をこれ以上出さないために」
司城成……今では榊隊専属のエンジニアだ。その技術は、開発室長の鬼怒田本吉からも一目置かれ、その功績は、ボーダー最高司令官の城戸正宗すら黙らせるほどだとも言われている。
「ナルさんって……」
「ウチの専属エンジニアだよ。司城成さん。イサオさんはナルさんの実の弟なんだ」
「なあ、もしかして榊隊ってさ……」
今度は出水が口を開く。何かを考えていたように閉ざしていたその口は、今やっと疑問を形にできたのかもしれない。
「ちょっと、できすぎのメンツだとは思ってたんだけどさ」
「できすぎ?」
出水の言葉では要領を得ないのか、陽介はそれを反芻する。
「ああ。榊隊のメンツだよ。元司城隊の榊さんと春瀬さん、功さんの弟子の朋香。それに専属エンジニアが功さんのお姉さんの成さん。これだけ功さんとの繋がりがある人たちが揃ってるんだ。偶然ってことはないだろ」
「そういえば、朋香も最後は司城隊にいたってことだし」
言わば、榊隊の五人のうち三人が元司城隊のメンバーで、しかも専属エンジニアはその隊長の姉。であれば、そのメンバーがたまたまチームメイトになったというには、いささかムリがある。と、思われても自然なことだろう。そこには何らかの作為がある。それは出水や陽介でなくとも、この話を聴けば誰でも至る推論だ。
「うん。榊隊はね、イサオさんをネイバーフッドから奪還するために結成されたんだよ」
隊長を失った司城隊は、その日を以って解散した。本来、部隊が解散すれば、隊員は別の部隊に加入するか、または自分でメンバーを探して新たに部隊を組むか、ほとんどがそのどちらかとなる。そして真由美たちは後者を選んだ。理由は簡単だ。真由美も、奏恵も、そしてもちろん朋香も、功を救けたいからだ。
『私はもう現役ではない。だから自分の力で、功を救けることはできない。だけど、私はエンジニアだ。だから誰かの力を借りれるなら、功を救けるための武器を授けることはできる。どうか私に、おまえたちの力を貸してほしい。どうか私の武器を、使ってくれないか』
成のこの言葉で、真由美は榊隊の結成を決断した。メンバーの募集は必要なかった。すぐ傍に、同じ志と、同じ目的、同じ感情を持った仲間が、もういたからだ。
「あたしたち榊隊は、イサオさんを救けに行く。そのために結成したんだから。ネイバーフッド遠征に選抜されるのは、その第一歩。でもそれとはべつに、あたしのせいで失ったA級1位の称号を取り戻す。それと、あたしは自分個人の気持ちのために、イサオさんを裏切った太刀川を斬る。イサオさんを裏切ったアイツを、イサオさんから受け継いだこの剣技で、斬ってやる」
朋香はそう言って、腰に携えた弧月の柄を握りしめる。強く、強く……。
朋香の話は終わった。これ以上のことを聴ける雰囲気ではない。それは朋香を包む空気が、それを拒んでいる。出水も陽介も、そう感じたからだ。
太刀川は司城隊を脱退後、自ら部隊を結成したという。それが今の太刀川隊であることは、容易に想像がつく。太刀川に声をかけられたとき、あのときにそんなことが起こっていたのかと、現太刀川隊のメンバーである出水は回想する。むろん、だが自分の記憶の中には朋香が語ったことなどない。それは出水も知らなかった太刀川の過去だった。
陽介は思う。朋香の弟、陽平のことを。きっと陽平は朋香の想いを知っている。陽平のボーダー入隊の動機も、もしかしたらそこにあるのかもしれない。陽平はB級に昇格後、それが当然であるかのように榊隊に入った。当時、アタッカーだった陽平の加入で、榊隊は奇しくも司城隊と同じ編成となった。陽平がアタッカーを志望したのも、そこに理由があるのだろうか。
そして和堂朝美の加入……遠征選抜を目指すため、なりふりかまわず戦力を補強した結果がそれだとしたら、ネイバーフッドに行くためなら、手段を選ばないということなのだろうか。
「けどね、あたし、二人には感謝しているよ」
しばらくのあと、朋香はそう言って、やっと頬を緩めた。
「感謝?」
「俺たちに?」
その言葉の真意がわからず、出水と陽介は互いに顔を見合わせ、聴き返す。
「うん。出水には陽平の師匠になってもらったし、陽介には陽平の同期としてライバルになってもらった。陽平がウチの戦力として、あれだけ強くなれたのは二人のおかげ。それは事実だから」
朋香の笑みに屈託はない。しかし、その言葉を改めてかけられるほど、出水にも陽介にも、何かをしてあげたなどという気持ちはなかった。
自分よりはるかに劣るトリオン量でありながら、しかし自分の教えを瞬く間に、そして忠実に吸収していく陽平は、出水にとって教え甲斐のある弟子だ。
また、自分と似たポテンシャルを持ち、幾度となく剣を交え、その過程でミックス・アップしてきた陽平は、陽介にとってもかけがえのないライバルだ。
だがそれでも、今はただ二人、再び顔を見合わせ、そして素直に口角を上げることで、朋香の笑顔に答えた。
★
『ゲート発生。ゲート発生。座標誘導、誤差“6.85”。近隣の皆様は、ご注意ください』
朋香たちの耳に、アナウンスの声が届く。
『ゲート発生。ゲート発生。座標誘導、誤差“7.38”。近隣の皆様は、ご注意ください』
しかし、そのアナウンスはひとつではないようだ。
『ゲート発生。ゲート発生。座標誘導、誤差“8.71”。近隣の皆様は、ご注意ください』
『ゲート発生。ゲート発生。座標誘導、誤差“5.93”。近隣の皆様は、ご注意ください』
『ゲート発生。ゲート発生。座標誘導、誤差“7.14”。近隣の皆様は、ご注意ください』
遠く、近く、それぞれべつのものと思われるアナウンスが響いている。
「どういうこと?」
そんな経験は、久しくない。朋香は眉間に皺を寄せ、その現状を訝しんだ。
「今は詮索している場合じゃねえみたいだぜ」
出水にそう促され、その見上げた視線の先に目を向ければ、確かに彼の言うとおり、他の支部のことなど気にかけている余裕はない……そんな光景が広がっていた。
何の変哲もない大きな黒い穴。それはボーダーでは“ゲート”と呼ばれている。ネイバーフッドとこちら側の世界を繋ぐ“門”であるが故に、そう名づけられたそれから、ネイバーが姿を現した。
モールモッド……自動車ほどの大きさの体に高硬度のブレード。そのブレードから繰り出される高速斬撃が特徴の戦闘用トリオン兵だ。以前、三門第三中学校にも五体が出現したが、むろんその程度であれば正隊員なら倒すのも決して難しくはない。しかし今回は事情が違った。
「一、二、三、四、五……」
「数えるだけ時間の無駄だ」
「だな~。ひとまず手当たりしだいにぶった斬るか!」
朋香が律儀に数を数え、出水がそれを制し、そして陽介は槍型の弧月を構える。陽介に倣い朋香はひとつ嘆息すると、両腰に携えている弧月を抜刀し、二刀流よろしく、やはり構えた。
『どうやら他の支部でもゲートが発生してるみたい。数は全部で、えぇ~っと……二百? いや、二百五十くらいかな』
「二百五十!?」
「ってことは、どこもここと同じくらいは出てるってことか~?」
「まあ、愚痴ってもしょーがねーし。とりあえず斬るしかねえんじゃね」
弓手町支部混成部隊のオペレーター、宇佐美栞からの情報に、一応の驚きを見せたものの、それでも三者三様、変わらず戦闘態勢を崩さない。
朋香は弧月二刀流で、陽介は槍をそれぞれ構え、その背後では出水も左手にバイパーを生成していた。
「行くぞ!」
出水は合図をかけ、バイパーを放つ。その間隙を縫うように朋香と陽介は一気に飛び出した。
バイパーは弾道を自由に設定できる“変化弾”であり、四つの射撃トリガーの中でも特に、一番複雑な軌道を設定できる特徴がある。しかしその反面、リアルタイムでのコントロールはかなりの難易度を誇り、熟練したシューターでも、それを実現できるのは限られた者しかいない。だが、出水はその中でも随一と認められるほどの、言わば“スペシャリスト”だった。
縦横無尽に出水のバイパーが光の軌道を描く。それはまるで、分割されたトリオン・キューブのすべてが自らの意思を持っているかのように。
朋香は二本の弧月を巧みに使い、次々と目の前に現れるモールモッドを斬り裂いていく。陽介もまた槍を振るい、朋香に負けじとモールモッドの残骸を山としていった。
二人のところには、更にモールモッドが集まる。変幻自在に軌道を変える出水のバイパーにいざなわれ、自ずとモールモッドはそう誘導されていった。朋香と陽介に、『斬ってくれ』と言わんばかりに……。
「さ~て、それじゃそろそろいいかな」
出水はバイパーを、今度はハウンドへと変える。それは残さずモールモッドを撃ち抜くために。
朋香もいったん弧月を鞘へと納めた。ひとつ、深く息を吐き、そして、
「旋空弧月!」
再び鞘から放たれた弧月からは、大幅に間合いを伸ばした切っ先が、モールモッドを一網打尽に斬り払った。
★
綿鮎支部でも、交戦は繰り広げられていた。
『約四十から五十体ほどです。他の支部にもほぼ同数のネイバーが現れている模様です』
オペレーターの志岐小夜子からの通信に、陽平はおろか那須玲や熊谷友子もまた、驚きの表情を浮かべる。
「とりあえず俺が動きを止めます。那須先輩は攻撃、熊谷先輩は援護と防御、志岐先輩は死角の情報をお願いします!」
陽平は、それぞれが了解の意思を示したことを確認すると、メイン側のスパイダーとサブ側のバイパーを組み合わせ、そのキューブを六十四分割し、モールモッドへと放った。弾速重視に設定したキューブから伸びる六十四本のワイヤーは、それぞれがモールモッド目がけて飛んでいく。その一瞬のあと、ワイヤーによって絡めとられたモールモッドに、那須のバイパー“鳥籠”が次々と命中し、それらはその動力を失った。
その二人の隙をつくように、陽平のワイヤーと那須のバイパーを潜り抜け、更なるモールモッドが襲いかかるが、それを今度は熊谷が弧月で斬り裂く。
那須がバイパーのフルアタックで、熊谷は弧月で、モールモッドと応戦する中、二人が稼いだ二十秒という時間を利用し、陽平はアステロイド同士を合成、ギムレットで最後、残りのモールモッドを殲滅した。
同じ頃、鈴鳴支部でも同数のモールモッドを相手に、鈴鳴第一が奮戦。諏訪隊もまた、早沼支部を襲撃するモールモッドと交戦していた。
攻撃手ランク4位の村上鋼を有する鈴鳴第一は、そのエースの村上を援護するかのように来馬辰也と別役太一がそれぞれアサルトライフルとライトニングで射撃を繰り出す。
諏訪隊は、諏訪洸太郎と堤大地のショットガンでのフルアタックが、モールモッドを近づけることなく撃退し、アタッカーの笹森日佐人が二人をフルガードでカバーする。
どちらも本来のチームだからこそできる、各々得意としている戦法だ。
B級部隊は“主力”と評されるだけあって、チームでの闘い方もすでに形成されている。特に中位以上になると、その確立した編成に敵を誘い込む術も心得ていた。
そんな中、同じように加古隊のオペレーター、小早川杏から、他の支部と同様の情報を通信で受け取った久摩支部でも、襲いかかるモールモッドにアタッカーの二人、緑川駿と黒江双葉が迎撃に出た。緑川はグラスホッパーを張り巡らし、空中をトリッキーに跳び回りながらスコーピオンで斬りつける。彼の十八番のひとつ“ピンボール”だ。黒江もまた、独自にカスタムしたトリガー“韋駄天”を使った高速剣戟によって、次々とモールモッドを斬り裂いていく。そしてその二人を援護するかのように、アサルトライフルをツインで携えた和堂朝美が、アステロイドをフルアタックで撃ち放っていった。
わずか三十七分後、警戒区域全域に現れたモールモッド、合計二百五十六体はこうして、それぞれの支部で防衛任務に就いていた五つの部隊によって全滅した。
回収班を見送りながら、その光景を目の当たりにした者の中に、この大量襲撃をただの偶然と捉えるものはいなかった。なにか得も言われぬ異様な感情が、そこにいた誰しもの心の中へと沸き起こる。それはなにかの前触れなのか? それとも……。
次回から新章ですね。