WORST TRICK   作:和久井 誠

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 前回の後書きで遊真と修を出すと書いておきながら、出せませんでした……。あしからず。


第4話 和堂朝美と嵐山佐補②

 

「結論から先に言おう」

 深く吸い込んだ紫煙をゆっくりと吐き出したあと、司城成はそう言葉を続けた。

「おまえが昨日持ち込んだネイバーの破片、あれからはボーダーのものではないトリオン反応が検出された」

 それはすなわち、神凪陽平にとっては昨日の自身の仮説を裏づけるものだった。

「ボーダーのものではない? それは確かなんですね?」

「誰に向かって言ってる。私がボーダーのトリガーとそうでないものとを間違えると?」

「いえ、まさか。確認までに言っただけですよ。失言でした」

 そう言って口角を上げることで、陽平は話の続きを促す。司城は、こういう表情をするときの陽平が、すでに何かを目論んでいるということはお見通しなのだが、あえてやりたいようにやらすほうが結果として吉であることもまた、経験則として知っていた。

 故に、やれやれと言った顔で話を続ける。

「ボーダーのものではないトリガー、それはすなわちネイバーのトリガーだ」

「つまり、ネイバーがこの街に紛れ込んでいる……と?」

「今もまだいるかは断言できない。ただ、そのネイバーはあの装甲の堅いバムスターをほぼ一撃で粉砕するほどの力を持っている。これは断言できるな」

「なるほど」

「陽平」

「はい?」

「何を企んでいる?」

「企む?」

「ごまかすな。おまえがそんな顔しているときは、だいたい何か企んでいるときだ」

「それひどいな~」

 陽平は上がった口角を意識的に戻し、努めて平静を装おうとする。そんなに自分は感情が表に出るタイプだったのだろうか。そんなことを考えると、なぜか和堂朝美の顔が浮かび、陽平は思わず吹き出しそうになるのを抑えた。いくら何でも、あーちゃんほどではないはずだ……と。

「まあいい。だが、そのネイバーと接触するつもりなら気をつけろよ」

「接触?」

「まだとぼけるつもりか? 私にはおまえが、ネイバーの存在を聴いて無視するとは思えないんだがね」

「ははは……」

「またそうやってごまかそうとする……」

「確かに、そのネイバーの戦闘力は相当なものですからね~」

「それに、まともに言葉が通じる相手かどうか。いやそれ以前に、私たちと同じ常識を持っているかどうかさえ怪しいものだ」

「なるほど……」

「陽平、無茶はするなよ」

「無茶?」

「死に急ぐなと言っている」

 その言葉に陽平は、灰皿に溜まった吸い殻に目を向ける。あれからもう、三年……。

「わかってますよ。ウチの隊長は真由美さんですよ。それに姉ちゃんも。イサオさんの意思は、ちゃんと受け継がれています。それに……」

「それに?」

「そのためにナルさんを、ウチの専属エンジニアに招聘したんですから」

 今度は司城の口角が上がる。再び吸い込んだ紫煙を、さっきよりも更にゆっくりと吐き出しながら。

 

 

 裏表がなく、普段は穏やかな性格だが、実は正義感が強く、筋がとおらないことには毅然と立ち向かう。それが嵐山佐補に対する朝美の印象だった。そしてそんなところは、自分が知るところの佐補の兄である嵐山准に似ているとも感じていた。

「佐補ちゃんは、ボーダーに入ろうとか思わないの?」

 だからそれは、朝美にとって何も意外な問いかけではなかった。

 戦闘力、統率力、そして人格と、すべてを兼ね備えた佐補の兄は、朝美から見てもまさに模範的なボーダー隊員といえる。そんな人を間近で見てきた佐補なら、兄に憧れて同じ道を目指したとしても、ごくごく自然な成り行きのように思えた。

「う~ん。でもね~」

 だが、当の本人は朝美が思うほど、ボーダー入隊は乗り気ではないらしい。

「でも?」

「いやいや、ウチの場合、お兄ちゃんが有名人だからね~。私はいいかな……」

「そうなんだ……」

 そんなものなのだろうか。そういえば……と、朝美は自分が知る姉弟のことを思い出してみる。神凪朋香と、その弟の陽平だ。確かに同じチームに姉弟で所属するのは珍しいとは思っていたが、ボーダー全体を見渡しても、隊員の弟や妹が入隊してくるケースは稀かもしれない。実際、朝美自身、知っているだけでも神凪姉弟の他には二組くらいのものだろう。却って兄や姉がすでにボーダーにいると、その弟や妹はそこには行きづらいのかもしれない。ただそのわりに、いとこ関係は比較的多いのだが……。

「私の友だちがね、去年だったかな、ボーダーを受験したの。でもさ、けっきょく落ちちゃったんだよね」

「えっ!?」

「その子さ、私より学校の成績もいいし、試験もかなり手応えがあったって言ってたんだけど。だからさ、その子が受からないんだもん。たぶん私が受けても受からないと思うんだよね」

「佐補ちゃん……」

「さすがにさ、あの嵐山准の妹が不合格……なんてことになったら、申し訳ないじゃん」

「…………」

「まあ、副は来年あたり受けるかもね」

「副くんが?」

「あいつは何だかんだで、お兄ちゃんにはライバル心を持ってるだろうし。来年、陸上部を引退したらね」

「佐補ちゃんは本当に受けないの?」

「私はね、お兄ちゃんの足枷にはなりたくないのよ。これでも一応、尊敬くらいはしてあげてるんだから」

 そう言って笑う佐補の表情から、朝美にはあながちそれが作ったものではない本音の部分のように見て取れた。

「そっか……」

 だからそう呟いてみたのだが、もし自分に兄や姉がいたらどうだったのだろうか……などと、詮なきことに思いを馳せてみたところで、朝美にその答えを見つけるはできなかった。

 

「おめーら、誰に断って屋上使ってんだ? あ?」

 

「何?」

 不意に耳を突く嫌な声に、朝美と佐補は反射的に視線を向けた。

「キミたち一年生?」

「ごはん、もう食べた? おいしかった?」

「屋上使用料払ってけ。一人、五百円な」

 見ると三人。二人の一年生を取り巻く生徒たちがいた。

「何あれ、三年生だよね?」

「うん。たぶん、そうだと思う」

「下級生にタカリとか、サイテーなヤツ」

 周りにいる生徒たちはみな、ただ遠巻きに様子をうかがっている。こんなとき下手に救けに行けば、今度は自分にその災いが振りかかることになる。それがきっと、世の中学生の常識。しかし、そうではない者も少なからずはいるものだ。

 

「私、行ってくる」

「私、行ってくる」

 

 二人の声がまるでシンクロするかのように重なった。

「ちょっと、朝美?」

「私、行くね」

 裏表がなく、普段は穏やかな性格だが、実は正義感が強く、筋がとおらないことには毅然と立ち向かう。そんな佐補のことを知っているが故、きっと佐補ならこんな場面を見過ごすはずがない。だからこそ、その前に自分が行かなくては……。朝美の行動は、ただただ、そんな思いからだった。

「いやいや、相手は三年生だし」

「大丈夫だよ。私、ボーダーだもん」

「いや、ボーダーだからこそダメなんでしょ!」

「大丈夫だって。私が行かないと」

「あんなサイテーなヤツらだって、一応は一般人だよ。いくら朝美がボーダーだからって、一般人を相手にボーダーの武器は使えないでしょ?」

「それは……、そうだけど……。でも、だったら佐補ちゃんだって危ないのは一緒だよ」

「わかってる」

 そう答え、少し考える。が、すぐに佐補は結論を出した。

「じゃあ、二人で行くか!」

「二人で?」

「そう! 二人で。私と朝美、二人が組めば少しは無敵に近づけるでしょ」

「佐補ちゃん……。うん、そうだね。行こう! 二人で」

「うん!」

「あ、でも無理はしないでね」

「お互いにね」

 見た目不良の上級生。しかもこっちより一人多い三人。どう考えても朝美も佐補も、自分たちに分があるとは思えなかった。しかし、そんな状況に立ち向かう二人の表情は、やっぱりどこか穏やかで、それはもしかしたら本当に、無敵に近づいたのかもしれないと錯覚してしまいそうになるほどだった。





 次回こそは出します。まだ絡みませんが……。
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