WORST TRICK   作:和久井 誠

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 闘います。そんなお話です。
 それと活動報告にオリキャラの設定を載せておきますので、興味のある方はご参考まで。


第7話 銃手・和堂朝美

 

 本館三階廊下を階下へと走る。もうすでに下から上がってくる生徒は見当たらず、一応は避難が完了していると判断した和堂朝美は、二階廊下に確認のため出てみた。

「うわっ!?」

 まさにそれは出会い頭とでもいうほどのタイミングで、朝美はモールモッドの目の前に躍り出てしまう。

 反射的にバック・ステップで大きく距離をとるが、その間合いを詰めるかのように、モールモッドは鋭いブレード状の足を振りかぶるように上げて朝美に襲いかかってきた。

「アステロイド!」

 咄嗟に装備した両脇のアサルトライフルで、通常弾と呼ばれる威力重視の弾を、一直線にモールモッドの目に撃った。そのまま二丁のアサルトライフルからは、アステロイドが連射される。振りかぶったブレード状の足を振り下ろすが朝美はそれを間一髪でかわすと、なおもアステロイドをツインで連射。

「あーっ! ああーっ! あああーっ!」

 叫ぶ声を上げながら、なおも連射を止めない。バック・ステップで距離をとりながら、アステロイドを撃ちまくる。しかしその攻撃に耐えながら、モールモッドも朝美との間合いを詰めてくる。やがて両前足のブレードを同時に振り上げたモールモッドが、それを振り下ろそうとした瞬間、

「ああああーっ!」

 

 ズドーン!!

 

 その目から、まるで体を前後に分断するように、モールモッドは後ろに吹き飛びながら、ひっくり返り、そしてそのまま動かなくなった。

「や……、やった……?」

 必死の攻撃であったが故に、目の前の状況を上手く理解できず、呆然と立ち尽くす朝美。

「本当に倒した……? 私一人で……?」

 動かなくなったモールモッドにそう自覚すると、緊張が抜けたからか体の力が抜けそうになるのを、朝美は必死に抑えた。だがすぐに、頭上に違和感が走る。ふと目線を上げてみれば、更なるブレード状の足がそこにあった。それはまさに、べつのモールモッドのそれだった。

「えっ……?」

 あまりにも咄嗟のことで、体が思うように動かない。緩和された体に再び緊張が駆け巡る。ダメだ、動けない。朝美はそう実感した。頭上から振り下ろされるブレードに、もはや朝美はなすすべがない。やられる……動かなくなった体が、脳にそう告げていた。

「いやっ!」

 思わず頭を抱え、身をすくめる。堅く目を閉じ、もはやベイルアウトを覚悟した。

「…………」

 だが、その時はこない。朝美はおそるおそる目を開けてみた。そこに見えたのは……。

 

「あーちゃん! 1・2の3で天井までジャンプするよ! できる?」

 

 今まさに自分を切り裂こうとしていたモールモッドが、その自慢のブレードごとワイヤーで雁字搦めにされている。

「これは……スパイダー?」

「あーちゃん! 聴こえる?」

 その声は、神凪陽平の声だった。

「は、はいっ! 聴こえてます!」

「オッケー! じゃあ、1・2の3で天井までジャンプ。いいね?」

「はいっ!」

 頼もしいチームメイトの参上に、朝美の緊張は一気にほぐれた。もう大丈夫だ、私ならできる……陽平の声に、朝美はそう確信できるまで気持ちを回復することができた。

「じゃあ、いくよ!」

「はいっ!」

 

「1・2の3!」

「1・2の3!」

 

 声を合わせ、同じタイミングで天井まで高く飛び上がる。雁字搦めになったモールモッドの頭上越しに、陽平の姿を視認できた。そして……。

 

 シュパッ!

 

 ワイヤーに絡めとられたモールモッドが、横一文字に切り裂かれる。それはほんの一瞬。

「旋空弧月……? ってことは」

 陽平の背中越しに見えたのは、チームメイトにして陽平の実姉、神凪朋香の姿だった。

「朋香先輩!」

「やっほー、あーちゃん! 遅れてごめんね~」

 朋香はまるで、これから一緒に遊びに行く友だちへの挨拶みたいに、にこやかにそう言って微笑みながら手を振った。

「挨拶は後だよ。姉ちゃんも、あーちゃんも」

 さきほど朝美が倒したモールモッドの後ろから、最後の一体が近づいてくる。

「姉ちゃん、あーちゃん、二十秒ほど時間をかせいでくれない?」

 言うや、陽平の両手の平にトリオンキューブが現れた。

「おっ! いいね~。あれだね、陽平」

「朋香先輩、いきましょう!」

 朝美の二丁のアサルトライフルから、再びアステロイドが放たれる。その上を、まるで壁を走るかのように、朋香は自らモールモッドに接近した。いつの間にか朋香の腰には、弧月が両刀で携わっている。モールモッドの迫りくるブレードをかいくぐりながら、一本、また一本とそれを切り取っていく。そして四本すべての足を切り取るや、二本の弧月を振り上げた。ここぞというところで朝美の射撃が止まる。その直後、朋香はモールモッドの目にその弧月を突き刺した。

「陽平! あとはよろしく~」

 朋香はそのまま高く飛びあがり、舞うように宙を回る。逆に朝美は床に這うかのように身をかがめた。

「ギムレット!」

 陽平の手からは、アステロイド同士を組み合わせた合成弾、ギムレットが放たれる。ギムレット……それは徹甲弾とも呼ばれる高い貫通力が特徴の高威力弾。そのギムレットがモールモッドの目に直撃すると、そのまま体を貫通し、木っ端微塵に粉砕してしまった。

「任務完了!」

 華麗に着地を決め、朋香はサムズアップを朝美に向けた。それに応えるように、朝美の表情に笑みが戻る。

「いや、どうやらまだみたいだよ」

 しかし陽平は親指で窓の外を指しながら、そう告げた。

 朋香と朝美の視線が、陽平の指す先に向く。モールモッドがもう一体、南館の三階の割れた窓から侵入しようとしていた。

「げっ! もう一体いんの?」

「あっ!」

 朝美の脳裏にさっきの光景が蘇る。

「あーちゃん?」

 どうやら何か、朝美には思い当たる節があるらしい。思わず漏らした朝美の呟きにそう察した陽平は、名前を呼ぶことでその先を促した。

「南館で訓練生がモールモッドと闘ってるんです!」

 

「訓練生が!?」

「訓練生が!?」

 

 朋香と陽平の驚きの声が重なる。

 訓練生の基地以外でのトリガー使用は隊務規定違反。厳罰もありうる重罪だ。いや、それ以前に訓練生用のトリガーで闘えば、換装が破られた時点で死に至ることもある。

「なんて無茶な……」

 思わず陽平はそう呟くが、それはそれほど常識では考えられないことだった。

「で、どうするの? 陽平」

「陽平先輩……」

 答えを聴くまでもなく行く気満々な朋香と、どこかすがるような表情の朝美。いちおう形の上では「う~ん」と考えるフリをしてみせる陽平だが、朋香がこんな顔をしているときは止めても聴かないことを経験則で知っていた。そしてこんな表情をするときの朝美は、何か悩んでいることがあるということも。

「姉ちゃんはダッシュで南館まで移動。あとは好きに暴れてよし!」

「よっしゃー!」

 陽平の提案に朋香はそう叫ぶや、もう駆け出していた。こういうときの朋香は、とにかく行動が速い。

「ははは。じゃあ、あーちゃんと俺は、姉ちゃんが着くまであのモールモッドを足止めするよ」

「はい!」

 陽平は窓を開け、正面少し上のモールモッドを見据える。

「あーちゃん!」

「はい! アステロイド!」

 朝美のアサルトライフルが、再び唸りを上げる。モールモッドの装甲を目がけて。

「バイパー! 足すことの~、スパイダー!」

 そして陽平の左手から放たれたバイパー……それは弾道を自由に設定できる変化弾。緻密な空間認識能力や、正確に自分と周囲の状況を把握する客観的視点など、弾道の制御にはかなりの難易度を有するが、陽平は数ある射撃トリガーの中でも特にこのバイパーのリアルタイム・コントロールを得意としていた。更にこれにオプション・トリガーのスパイダーを絡めて、敵を捕縛する。最も得意とするトリガーに、汎用性の高いオプションを絡めるこの戦法が陽平の定石であり、朋香を援護する際の敵の足止めなどにもよく使っていた。

 窓に貼りついたモールモッドが陽平の放った縦横無尽のワイヤーによって雁字搦めとなっていく。そして朝美のツイン・アステロイドがその装甲に直撃する。

「そろそろかな」

 陽平の概算では、間もなく朋香の弧月がモールモッドを切り裂く……はずだった。が、しかし……。

 

 ドン!

 

 切り裂かれるというよりは、まるで突き出されるとでもいうかのように、モールモッドは爆発とともに装甲を砕かれそのまま落ちていった。

「朋香先輩、また派手に……」

「いや、違う。あれは姉ちゃんじゃない」

「だって……。じゃあまさか、あの訓練生が?」

「わからない。とにかく俺たちも行ってみよう」

「はい!」

 事態が飲み込めず、朋香が辿ったルートを急ぐ。階段を駆け上がり、三階へ。そして本館から西館を経て南館へ……。

「姉ちゃん! これは、いったい……」

 陽平の目に飛び込んできたその光景……それは、堅いはずのブレードをすべて折られ、真っ二つになったモールモッド。その傍らで壁にめり込むように倒れている男子生徒。そして、黒い隊服に身を包んだ白髪の小柄な少年の姿だった。





 陽平のスパイダーは、バイパーのキューブからツノを出し、ワイヤーの一端を持ってキューブを飛ばす。もう一端は伸ばすのではなく、フックとして使います。
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