ARMORED CORE ~NEW GATE~   作:早川兎太

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難民

 さて、避難民達の身の振り方三つの内、二つまでは述べた。

 最後の一つがある。

 それは重装兵達に付いて行くという選択肢だった。この方法を選んだのはヒト種の避難民達でも、ごく少数の二十三名である。

 正体不明の武装集団に付いて行くというのは、身ぐるみ剥がれた上で、奴隷に売り払われるという結末だって有り得る。そして、実際その推測は的外れでもなかった。だが、他に方法がなかったのだ。というのは、彼らは両親と逸れた子供だったり、逆に家族と逸れた年寄り、そして傷病者であり、通常ならば家族に会うことは二度となく死が決定づけられた者達だったからだ。

 もちろん、そうでない者も居る。例えば、重装兵達に興味を抱いた魔導師カトーとその弟子レレイとか、エムロイ神殿の神官とかだ。

 一人また一人と見知った村の者達が去って行き、残された者も皆、自分達は見捨てられたのだと理解したのである。

 既に避難先が決まっているエルフ達を除く、子供や怪我人……の瞳が曹長に向けられた。軍曹がどのような決断を下すのかと不安げな色に染まっていた。

 だが、軍曹は皆が思っているほどの重責を感じていなかった。

 この出会いは管理者の思し召しだと考えていた。

 

「問題ない……全員こちらで受け入れる。これもまた、我らの主の思し召しである」

 

 鉄兜越しの宗教的な声に少しだけホッとした空気が流れた。

 こちらの世界では似たようなことを言っている神官達が大勢おり、基本的に彼ら神官達は善良であるからだ。

 

* * * * * *

 

レイアード 第二都市区 トレネシティ

ミラージュ本社

 

「異界か……」

 

 当初、ミラージュ幹部である彼はクレストの欺瞞情報かと思った。

 だがクレストに潜り込ませた工作員からの情報によると、クレスト本社前に異世界に渡る(ゲート)が開いたというのは事実であることは疑いようがなかった。

 「ざまぁ(笑)」と思っていたが、報告書によって(ゲート)の向こうに広がっている可能性に気付いてしまったのだ。

 そこは地上であり、広大な大地と莫大な資源があると予測される。ミラージュがクレストを押し退けて世界の覇者となるには何としてでも確保しなければならない。

 もし(ゲート)がトレネシティに開いたならば全ての問題は解決しただろう。管理者による介入も考えられるが異界に移住してしまうという手もある。なのに(ゲート)はクレストの手にある。

 

(ゲート)がクレストにある限り、我々にとれる手段はそう多くない。我が社はどうやっても異界の開発に参入できない」

 

 彼の秘書官は合いの手を入れた。

 

「クレストの独占だけは許せません」

「ならば破壊工作を進めてくれ。くれぐれも管理者に悟られないようにな」

「かしこまりました」

「我々の物にならないのなら壊してしまおう」

 

 彼はそう微笑んで、工作員(リップハンター)から送られてきた報告書を机の引き出しへと収めたのであった。

 

* * * * * *

 

依頼者:クレスト

作戦領域:第一都市区 封鎖高速道路

作戦目標:封鎖高速道路侵入者排除

敵戦力:M.P.T.A2 他

前払報酬:5000c

成功報酬:17000c

特別報酬:ACパーツ

 

 こんにちは、レイヴン。

 至急、基幹高速道路513に向かってください

 

 基幹高速道路513は、先の『本社前事件』により、隔離壁を下ろし外部との交通を遮断した高速道路のひとつです。そのため、無人のまま、立ち入りが厳重に禁じられています。

 

 ところがここ最近、同高速道路内部に侵入者の形跡が認められています。目的は不明ですが、あそこで騒ぎを起こされれば、周辺地域への影響を与えかねない重大な事態に発展する可能性もあります。

 先程配備してあった警備部隊から、侵入者を確認したとの連絡がありました。正体は不明ですが、何者であろうとこの行為を認めるわけにはいきません。

 今回の依頼に限り、特例的に同高速道路へ立ち入りを許可します。侵入者を撃退してください。なお、今回の報酬は当社製AC用頭部パーツCHD-04-YIVを用意しております。市場には出回っていない特別なパーツです。

 受けて下さいますよね。

 

 

「クレスト製非売品パーツ……もちろん、受けましょう。お安い御用です」

 

 青林檎(アップルボーイ)はこの上なく良い笑顔をしていた。

 

* * * * * *

 

異界 アルヌス地方 新規開発地区

マレア基地

 

 少し前まで、なだらかな平原でしかなかったそこに屋根のある建物が並んでいた。(ゲート)のある要塞と基地の間をティルトジェット輸送機(バラクーダ)が飛び交い、たくさんの輸送トラックが走り抜けていく。

 そんな光景を、レレイはあんぐりと口を開けて見ていることしか出来なかった。

 

「……荷物を部屋に運び入れるのは明日にするわい。儂はもう寝る」

 

 ほとんどやけっぱちのような口調で言い捨て、個室の中へと消えていく師匠に、レレイも大いに同意したかった。

 

 同時通訳を行う魔導具。

 炎の巨人と炎龍を斬り裂く光の剣。

 馬が牽かないのに、馬よりも速く疾走する荷車。

 アルヌスの丘にそびえ立つ堅牢にして巨大な要塞。

 要塞の中を埋めていた魔導兵器の数々。

 

 はっきり言って驚き疲れていた。

 知識のない子供や老人達のほうが素直に驚けている。素直に感心し、素直にそういうモノなのだと納得して、その便利さを受け入れている。なまじ、多くの知識を有しているが故、レレイの頭脳はオーバーヒート寸前であった。

 

 賢者として生きることを選んだ以上、理解できないことをそのまま放置しておくことは許されない。

 御者が居ない動き回る鉄の車に近づこうとすると避けられてしまった。

 危険だから鉄車に近づくなということだろう。確かに、もしぶつかったら自分などひとたまりもない。その危険を防ぐためにレレイが近づこうとすると避けるように移動するのだ。

 

 そこで基地の一画で炊飯の香りを立てている建物----恐らく食堂----に向かった。そして、誰がどのように炊事をしているのか観察することにした。

 これは見ただけで理解できた。

 可愛らしい女性型の魔導人形が調理器具を用いて料理を作っていた。レレイも関節を目にしなければヒト種だと思っただろう。それほどの見事な造形であった。

 そんなことを考えながら人形達の仕事ぶりを眺めていると、作業をしていた人形が微笑んだ。

 

「もうすぐできますから、お待ちになってください」

 

 それはレレイが知っている帝国公用語だった。例の通訳魔導具を内蔵しているのだろう。

 彼らが使う道具、技術、そして思想を理解しようと思うならば、彼らの言葉を学ぶしかない。レレイはそう決心して、人形へと話しかけることにした。レレイは山積みになっている食材を指さした。

 

「言葉を覚えたい。あなた達の言葉と帝国公用語を交互に喋って欲しい。……これは何?」

「畏まりました。これは……」

 

 こうして賢者レレイ・ラ・レレーナは天才と呼ばれる知性でもって、猛烈な速度でレイアーク言語の習得を始めたのである。

 

* * * * * *

 

依頼者:ミラージュ

作戦領域:第一都市区 地下下水道

作戦目標:侵入路探索

敵戦力:不明

前払報酬:100000c

成功報酬:300000c

 

 現在、我々は隔離壁の先のクレストを攻撃するべく戦力を集結させている。

 ついてはレイヴンの協力を求めたい。

 我々の部隊に先行して、下水道を探索し(ゲート)のある地区への道を探し出して欲しい。

 トップランカーたる君にとっては簡単なミッションだ。

 我々からのご祝儀だと思ってくれればいい。

 では、頼んだぞ。

 

「名指しでの依頼かぁ……依頼されたからには行くけどさぁ」

 

 彼は(ゲート)が見えるカフェでコーヒーを飲みつつ呟いた。

 ミラージュから依頼された仕事は『隔離壁の向こうから、こちらへの侵入路探索』であった。彼がこちらから指定場所へ向かった時点で達成されてしまう依頼である。報酬が妙に多いのも気になる。先日、同期のレイヴンが22000cもの報酬を貰えたと喜んでいた。同期レイヴンの報酬と今回の報酬とはゼロの桁が違う。やはり、これは……。

 

* * * * * *

 

 三度に渡って行われた連合諸王国軍によるアルヌスの丘攻撃は、戦闘とはとても呼べないものだった。

 当時、軍旗を連ねた国は諸侯国併せて二十一カ国。総兵力は約十万である。様々な国の兵士が一同に会する光景は見事なまでの壮観であった。

 

 裸馬同然の馬にまたがる軽装騎兵。

 重厚な鉄の装甲で馬を覆った重装騎兵。

 大空を舞う翼竜に騎乗する竜騎兵。

 巨大な象を連ねる戦象部隊。

 方形の鉄楯を連ねる重装歩兵。

 林のような長槍を並べる槍兵。

 

 この大戦力で大地を埋め尽くして進むのだから勝利は当然だと皆が考えていた。さらに、現地に居る帝国からの連絡が一つも来ていないことから報告するほどの情報もないのだろうと判断した。

 

 エルベ藩王国の国王デュランは髪をたくし上げながら、この程度の敵に連合諸王国軍を呼集したモルト皇帝の真意に思いを巡らせていた。この大戦力でもって、どこかの国を攻めるという可能性もあるが、大陸を守るためという大義名分にかけるしこれはないか。

 

 大軍の移動には時間がかかる。何より規模そのものが足かせとなった。通常で十日かかる行程を二十日も必要としたほどだ。

 それでも、どうにかアルヌスの丘を視野に収めた連合諸王国軍は予定通り布陣を開始した。

 そのとき、地平線の彼方のアルヌスの丘から無数の光の矢が打ち出され、彼らの方へと向かってきた。

 先頭の兵士達は自らの身に起こった事に全く気づけなかった。

 光の矢は上空50mほどで爆発し、辺り一帯を焦土と化した。

 後続の兵達はその有様をこう表現した「天から火の雨が降ってきた」と。そして、後続の兵達の頭上にもミサイルの雨が降り注いだ。

 

「隊列の中段でそれを見た儂は、最初アルヌスの丘が噴火でもしたのかと思った。だが違った。無数の光の矢が降り注ぎ辺り一帯は地獄と化した。次に気付いたときには明るい部屋で身体を弄られていたよ」

 

 デュランはそのときの様子を思い返すかのように瞑目し、黒い骨のような義肢でパエリアを口に運んだ。

 

「両国の王はどうなされたのですか?」

「だから蒸発したと何度も言ったであろう」

 

 ピニャの問に、デュランは苛立ちながら答えた。

 

 連合諸王国軍の敗残兵を探すこと数日。あちこちでの聞き込みの結果、ピニャはイタリカの領主館に、高貴な身分を持つ者が滞在しているという噂を耳にした。早速駆けつけてみると、それがエルベ藩王国の王であることがわかったのである。

 身分をあかし案内をされたピニャの目に入ったのは、首から下が黒い骸骨のようになっているデュランの姿であった。頭部も骸骨であればアンデッドモンスターだと思い、斬りかかっていただろう。その体をよく見れば、ヒトの皮膚が非常にゆっくりと全体を覆うように増えていっている。

 

 

 明るく白い部屋で身体を弄られ気づいたらこのような身体になっていた。儂に治療という名の改造を施した者達は『キサラギ』という魔術結社で強化ヒト手術を施したと言っていた。実際、燃え残っていた部分は脳だけという極めて危険な状態であったそうだ。

 

 その後、彼らの手によってイタリカ近くで解放され、ここの領主の御厚意で療養しているわけだ。

 

「見ての通りこの様じゃ。儂はなにか……されたようだ。最早ヒトではない」

「デュラン陛下、早速帝都に知らせを走らせます。そして神官の手配を」

 

デュランはその言葉に(神官だと? 儂を祓うつもりか、完全にモンスター扱いだな)と思ったが、口に出さなかった。実際それも仕方なかいことで、デュランは気を悪くしなかった。デュランはイタリカの街に入るのも領主に認めてもらうのも非常に苦労したからだ。

 

「姫には申し訳ないが、帝国の世話になろうとは思わぬ。それに儂は『キサラギ』と契約を結んだ。もう二度と帝国に協力するつもりはない」

「何故ですか?」

「ピニャ皇女、帝国軍が全滅したのであろう? 健全な我らを連合諸王国軍という餌で釣って処分したかったのであろう? つまり皇帝が我らの兵を殺したのだ」

 

 敬称をつけずに「皇帝」と呼ぶ声にデュランの怒りが込められていた。この際、言いたいことは言わせてもらう。そんな気持ちが込められていた。

 

「はい。確かに帝国軍が壊滅したことは存じておりました。しかし、諸侯を処分するためにアルヌスに差し向けたなど、全く存じませんでした……」

「行かれよ姫。帝国こそが我らの敵だったのだ。姫、重ねて言う。早く行かれよ」

「陛下。最早、お怒りを沈めるのは無理でしょう。なれど教えてください。敵はどのような者なのですか?どのような魔導を、そして戦術を用いるのですか?」

「姫……儂の説明を聞いてなかったのですか。何度も説明しましたぞ」

 

 ピニャは必死だった。皇帝は敵を侮っている。魔導力の差を頭数で補えると思っている。

 歯をギッと噛み合わせると共に皇女は目を座らせた。

 

「そうは参りません。比喩表現は結構です、真実をなんとしてでも教えて頂く。もし、お話し頂けないと言われるのであればエルベ藩王国そのものを質とさせていただく。妾は兵を率いてエルベ藩王国に攻め込み、ことごとくを焦土といたします」

 

 これにはデュランも驚いたようだった。

 

「ハハハ、フハハハ……良いでしょう。好きにされるがよい。儂が『キサラギ』から得た力で逆に帝国を焦土にしてみせましょう」

「世迷い事を……帝国は不滅です」

 

 ピニャは異形の王を鋭く睨みつけて立ち上った。

 

「はっ、笑止。そもそも今回の発端は帝国が敵を呼び込んだのが原因でしょう。自らの不始末は自らでつけていただきたい」

 

 ピニャはもう言葉もなかった。

 

「姫様、頼みますからこの人数でアルヌスに突撃とか言い出さないでくださいよ」

 

 デュランの部屋を出た途端、背後から投げかけられた言葉にピニャは大きな溜息を吐いた。

 

「突撃するかどうかは別にしても、一度はアルヌスへ行かねばならない。敵をこの目で見ておきたいからな」

「あ~姫。この人数でですか? 下手に刺激すると殺されますよ。コダ村出身者に案内を頼みましょうよ」

「悪くない、良い案だな。ならお前、手配してくれるな。それと、死者をアンデッドとして蘇らせる魔術結社キサラギについても調べてくれ」

 

 ピニャはそんなことを言いつつ、領主館を後にするのだった。

 

 

「ピニャ皇女、儂はあなた様を憎んでいるわけではない。真実を話し『キサラギ』との契約も話した。だが、気づかないのならば仕方あるまい」

 

 デュランは窓越しに見えるピニャの後ろ姿にそう呟いた。

 デュランがキサラギと結んだ契約とは『エルベ藩王国の金銀銅以外の地下資源の独占採掘権』と『帝国に対するキサラギの軍事支援』との交換取引であった。

 

* * * * * *

 

レイアード 第一都市区 クレスト管理都市

クレスト本社 会議室

 

 会議室で、幹部同士が情報交換を行っている。

 

「現地からの報告で、第三偵察隊に紛れ込んでいるミラージュの工作員(リップハンター)を特定しました」

「ふむ、泳がしましょう。ミラージュに情報確保手段を残しておかなければ暴発が早まります」

 

 その返答に対して、異界から戻ってきた幹部が尋ねる。

 

「隔離壁周辺の様子は? ミラージュは何か動きましたか?」

「トレネシティに大戦力の集結を確認している他、封鎖した基幹高速道路にて所属不明部隊の活動が見られます」

「ちょっと待ってください。大戦力ですって? 異界に送る戦力がなくなるじゃないですか」

「その通りです。戦力の過半を手元に留め、異界開発をキサラギに委託しましょう」

「キサラギを信じるとして、レイヴンに依頼を出さない理由は何でしょうか?」

「ミラージュ派レイヴンを異界に招くわけにはいきません。現在、確実にクレスト派と言えるのはサイプレスだけです。そのため、下位ランカーを支援して、こちらに引き入れています」

「ほう、成果は上がってますか?」

「はい、MT傭兵スパルタンを筆頭に、下位ランカーであるアップルボーイ、アデュー、ストラスボルグ、カスケードなどです。ただ問題もありまして……」

「問題とは?」

「ネームレスというレイヴンです。彼は先日レイヴンになった新人にも関わらず、今やトップランカーとしてアリーナに君臨しています。ミラージュは彼を危険視し『騙し討ちミッション』を仕掛けましたが返り討ちにされました」

 

 絶句する幹部達。

 要は、邪魔なレイヴンを呼び出し、複数の専属レイヴンで始末してしまおうというもので『騙し討ちミッション』と呼ばれている。調べによると、ランカーNo.3BB、No.6ファンファーレ、No.9ノクターン、No.15ファナティック による待ち伏せだったそうだ。

 人間じゃない……と誰もが思った。しかし、彼は強化人間ではなく真人間だ。

 

 ミッションで死ぬのは当然のこと。レイヴン同士の戦いならば数が多い方が生き残り、少ない方が死ぬだけだ。それだけである。クレスト幹部達だけでなくレイアードでは、それを当然のこととして受け容れていた。だが、一人が四人に勝ったというのか。どんな人間だ? いや、それは本当に人間なのだろうか?

 




※1:デュランは、骨格剥き出しの黒色ターミネーターT-800みたいな姿です。
※2:ネームレスは、原作AC3のプレイヤーに相当するキャラクターです。

本作を読んで下さり、ありがとうございます<(_ _)>
二次創作小説を執筆するのが初めてなので、原作部分と創作部分との適切な比率が分かっていません。ちょっと不味いかなと思ったので、5話以降を書き直しています。
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