ARMORED CORE ~NEW GATE~   作:早川兎太

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城塞都市

 イタリカの街は築二百年の城塞都市であり、農作物、家畜類、織物などを帝都へと送り出すための集積基地としての役割を担っている。領主はフォルマル伯爵家であるが、事故死や戦死により末の娘ミュイが家督を継ぐことになった。幼いミュイに家臣を束ねていく力はなく、瞬く間に横領と汚職が蔓延するようになっていた。役人の腐敗に伴い、治安が急激に悪化し物流も滞るようになった。不幸中の幸いといえることは、連合諸王国軍が全滅したため残党が野盗になることもなかったことくらいである。

 

 イタリカの街でアルヌス調査のための準備をしていたピニャ達の耳にひとつの噂話が入った。

 それは「酒場に訪れた魔術師が帝国軍将校を探している」というものだった。

 魔術師と言えば学術都市ロンデルに引き篭もって研究に明け暮れている者か軍属魔術師のどちらかである。前者は絵空事の魔術を追求し、後者は攻撃、防御、治療にと活躍している。そして、帝国軍将校を探しているということは、仕官先を探している後者の魔術師ということだろう。

 それを聞いたピニャは、渡りに船を得るとは正にこのことだと思った。ピニャの騎士団は名前が示す通り騎士団であり、魔術師が居なかった。魔術師は異境の軍隊の目を盗み偵察し、生きて帰還するために必要な人材である。早速、どのような人物か確認するために供の者を連れて酒場へと赴いた。

 

「ぼくちんが負けるわけがないんだ……ぼくちんが……あんな新人に……ホワッホッホッホ! シンジラレナーイ!!!」

「お客さん、まだ飲むんですか? 仕官先を探しに来たんでしょ? もう止めといた方がいいですよ」

 

 酒場では、ピエロの格好をした自称魔術師が奇声を上げてヤケ酒を煽っていた。

 その魔術師とは、ランカーNo.8ファウストであった。彼の順位は元々No.11だったが新人レイヴンであるネームレスに負け降格し、上位ランカー四名死亡によってNo.8へと棚ボタ昇格したのである。

 レイアードのランカーがなぜ異界の酒場に居るのかというと、グローバルコーテックスの紹介文にもあるように『過去彼を倒したランカーの幾人かが謎の死を遂げている』ことが関係している。当初、いつも通り強化人間の体を活かしアリーナの外で暗殺してしまおうと思っていたが、クレストの護衛(監視)が始終付き纏っていたため暗殺を断念したのだ。操縦技術の差を埋める高性能な機体と機会を得るためミラージュに接触し、工作員として派遣されたのである。

 

「仕官先を求めている魔術師とは貴様のことか?」

「お前は誰だ?」

 

 ピニャはふざけた格好をしたファウストを訝しげな目で見つめ、ファウストは胸を強調するふざけた格好をしたピニャ一行を怪訝そうに見遣った。

 尚、ファウストの一人称は三つある。彼はキサラギ製強化人間の初期の被験者であり、言動と精神が壊れているのはそのためである。

 

「貴様! 誰に向かって口を……」

「ボーゼス、よい。……妾は帝国第三皇女ピニャ・コ・ラーダだ。薔薇騎士団の長を務めている」

「これはこれは、お姫様でしたか。私は秘密結社ミラージュに所属する魔術師ファウストと申します」

 

 ファウストは笑みを浮かべ、形ばかりの礼をした。その姿は誰が見ても敬意の欠片も見えないものであった。

 

「とことん失礼な奴だな」

「ボーゼス、よいと言っておる。早速だが力を見たい。そうだな……ボーゼス、パナシュ、グレイ、この三人の相手をしてもらおうか。出来るだろう?」

 

 ハミルトンは「姫、ここでやるのですか?」と問いかけ、ボーゼスとパナシュが剣を抜き、グレイは呆れたように溜息を吐いた。この提案にはピニャからの意趣返しが含まれている。魔術師の手が欲しいことに変わりないため、ピニャは人格に難があっても、ある程度の実力があれば採用するつもりであった。ただ、痛い目にあってもらうことは織り込み済みである。

 

「ヒッヒッ……もう勝ったつもりですか? この私に勝てるとでも?」

 

 ファウストの啖呵と共に、酒場の天井が砕け、辺り一面に(ホコリ)が舞う。

 視界が鮮明になると、そこにファウストの姿はなく、何処からか現れた一体の黒い巨人が鎮座していた。

 

「ひゃひゃひゃ。どうです、私のゴーレム(フリューク)は? 素晴らしいでしょう?」

 

 フリュークとはミラージュが開発した新鋭二脚MTである。光学迷彩機能とレーダーに対するステルス機能を搭載している。武装はマシンガンとレーザーとミサイルだ。天井を突き破って出現したトリックは、城壁横に佇ませていたMTをリモートコントロールで光学迷彩を起動し、酒場上空へ移動させてホバリングさせていただけである。

 因みに(ゲート)をどうやって通過したかというと、光学迷彩機能を用い機体をMTギボンに見せかけて通過した。その操縦者はリップハンターではなく、クレストに気付かれていない別の工作員である。

 ゴーレム(フリューク)の外部スピーカーからファウストの狂った声が大音量で響き、その鼓膜が破れそうな程の音量に、ピニャ達は圧倒されてしまった。

 

「ぐぬぬぬ……姫様、こんなのただの虚仮威しです」

「いや、いいボーゼス。試すようなことをして済まなかった。貴様を採用するとしよう。だから矛を収めて貰えないか」

「ふんっ。まぁいいでしょう」

 

 辺りは酒場の厨房を火元にした火災が発生し、煙が立ち込めている。ピニャがボーゼスを止めたのは、不利と判断したこともあるが、この場を収め部下に命じて火災の初期消火を行うためでもあった。

 ところが、酒場前に人だかりができ騒ぎが大きくなったこともあって消火作業を領兵に任せた。

 ピニャは場所を変えてファウストと話しをすることにし、その場を後にする。幸いなことに、タカ派貴族が大勢死んだため、ゴーレムを隠す場所には事欠かなかった。そして、話し合いの結果、彼らに提供するアジトの場所にも事欠かなかった。

 

* * * * * *

 

異界 アルヌス地方 新規開発地区

マレア基地

 

 難民村の住民は二十四名である。住民の構成はお年寄り女性二名、男性一名。それに怪我をしていた中年女性二名、男性一名。そして子供が十七名に、ロゥリィと名乗る年齢不詳のゴスロリ神官一名である。

 建物そのものは所轄プレハブであるが、鉄筋コンクリート造の基地作業員用家族寮が完成すれば、そちらへ移る予定である。それぞれの部屋に住む彼らには家族・親族という関係はない。それでも、大人が子供の面倒をみるという形で共同生活が成立している。

 プレハブではあるが電気・上下水道完備で、食事は作業員用の食堂を使わせてもらっている。

 ちなみにエルフ達は別の棟にて生活しており、近くの森に村を建設しようと日夜奮闘している。声をかければ有志作業員達が建設を手伝うだろうが、元々エルフ達は閉鎖的な傾向があるため、それも難しいようだ。遺伝子提供と引き換えにキサラギから定期的に食料や作業道具を差し入れされているので、生活には困っていない。村もそのうち建設できるだろう。

 

 軍曹とカスケード、ストラスボルグの三名が難民村に到着すると、レレイや子供達が出迎えてくれる。村の英雄到着に気付いたエルフ達も集まってくる。

 年かさの男の子が白い帆布製の枕サイズの袋をふたつ、トレーラーに積み込んだ。そして、その少年に声をかけつつ、レレイとロゥリィのふたりがトレーラーに乗り込み。続いて、しんどそうにカトー老師が乗り込む。

 レレイはポンチョにも似た貫頭衣姿。浅茶色の生地にインディオ風の模様が入っていた。手には、くすんだ色の杖を持っている。

 

 要塞の麓、大型砲台群が立ち並ぶそこには、撃墜された翼竜の死体が無数に転がっている。カトー老師によるとその竜の爪や鱗は高値で売買される貴重品らしい。朽ちかけた死体から鱗や爪を剥ぎ取り洗浄する作業を子供達とエルフ達が行ってくれた。今回、これをレレイとロゥリィが街へ売りに行くのだ。

 これが継続的な収入になればふたつの村の大事な産業になるかもしれない。そうなれば、各地から人が集まり異界開発にもつながるだろう。というのもミラージュが何やら企てているので、レイアーク側から十分な人員を派遣できないのだ。

 

 軍曹達は街での情報収集と行方不明になったリップハンター捜索を命じられている。リップハンターは何度か愛機ルージュ(MTギボン)の付属品と称し、機材の搬入を行っていた。そして、その機材ごと行方知れずになっている。レレイ達の手伝いをしているのはそういった理由からだった。

 情報収集が目的であり目立つことが目的ではないため、今回の移動には輸送トラックではなく、民間用貨物トレーラーを牽引した多脚車両ウィーザルが用いられる。本来、ウィーザルは無人防衛ロボットなのだが、外付けで操縦席を設けてカスケードが運転することになった。また、ウィーザルの外装には木の板と塗装が施され、連合諸王国軍の鎧を着た戦象風に偽装している。

 軍曹達の人選は、『騎士風の先住民を徒手空拳で倒せる者』である。それ故に、軍曹とストラスボルグが選ばれ、カスケードは運転手である。イタリカに到着した後も、カスケードは車両の盗難防止のため居残りが決定している。

 因みに、このときアップルボーイはどこで何をしているのかというと、レイアードで分相応なミッションを受け操縦技術研鑽に励んでいる。そして、ネームレスはクレストに雇われ、ミラージュへの抑えとしてレイアード各地で活躍している。

 

 さて、レレイ達に託された竜の鱗は、翼竜2頭分で、全部で200枚ほどになる。勿論、全て無傷で形が整っている美品である。麓に散在する翼竜の屍体を全て漁ったら、どれほどの量になるかと考えると避難民達は大人も子供も目眩がしそうになってしまった。

 

 竜の鱗にはいくつかの種類がある。翼竜の鱗はデナリ銀貨30~70枚といったところだ。最上級とされる古代龍の鱗ならば、その一枚でスワニ金貨十枚ほどの値が付くと言われている。そして、難民村の倉庫にはサイプレスが斬り落とした炎龍の尾が保管されている。これはクレストとキサラギが見向きもしなかったため、コダ村とエルフ村の避難民達が共同で引き取った物である。売却すれば国家予算なみの金額になるだろうが、実績がない今の状態では買い叩かれて終わりである。

 

 デナリ銀貨一枚で一週間分の食費になり、これが200枚あるため、レレイ達は結構な金持ちになれる予定であった。そのためには、良心的な買い取りをしてくれる店に売却しなければならない。幸いなことに、カトー老師の知り合いがイタリカの街で商いをしているそうなので、少しばかり遠いがそこへ赴くことにした。

 

* * * * * *

 

「軍曹、右前方で煙が上がってるっす」

 

 運転しているカスケードがインカム越しに報告してきた。

 

「カスケード、煙の火元はこの道の先か?」

「……地図を見る限り、そんな感じっすね」

 

 軍曹は地形図を参照して、煙の発生源あたりに目的地であるイタリカがあることを確認した。テッサリア街道はイタリカへ続く道だ。次に軍曹は、双眼鏡をレレイに渡して意見を求めた。

 

「あれは、火事」

 

 軍曹は思索し、ややあって指示を下す。

 

「カスケード、周囲への警戒を厳にして、街へ近づけ」

 

 ストラスボルグが銃を引き寄せ、カスケードはウィーザル搭載の生体レーダー画面を食い入るように見つめている。レレイとカトー老師は一緒に周囲を警戒する。皆が緊張の糸を張る中で、ロゥリィだけはつまらなそうな表情を浮かべるのであった。

 

 結局のところ、火事は大したことなかった。いや、街に黒い巨人が現れたのだから報告すべき案件ではある。しかし、最悪の想定『イタリカの街が盗賊団に襲撃された』に比べれば些細なことである。

 火元となった酒場周辺での聞き込みにより、レイヴン・ファウストがMTに乗って暴れたことが判明した。そして、奴は我々が訪れる少し前に街を離れたそうだ。恐らくはリップハンターと同様ミラージュの工作員なのであろう。街での破壊活動はサイプレスの『炎の巨人』と関連付けるためであろうか。

 

 軍曹が思索に耽る一方で、レレイ達は商人リュドー氏の元へと向かって商談を済ませた。今やアルヌスは帝国の手が届かない領地であり、そこで活動するレレイ達商人見習いは特権商人である。帝国に納税しない特権商人は儲けが大きいので、どんな商人でも商いを持ちたがる。しかも、旧知の仲であるカトー老師の紹介なので無下にはできない。竜の鱗二百枚をデナリ銀貨四千枚とシンク金貨二百枚で売却することができた。

 

 ただし、銀貨不足のため銀貨四千枚を現金決済することはできなかった。貨幣不足の最大の原因はレイアークに攻め込んだ帝国軍と連合諸王国軍が持っていた財貨が異界から無くなったためである。前者はクレスト傘下の屑鉄業者へ流れ、後者は蒸発し気流に乗って拡散した。

 

 仕方ないので、二千枚を為替で受けることにし、もう二千枚は『各地の相場情報の収集』依頼の対価とした。

 この申し出には、リュドーも鼻で笑った。一般市民に小売りするのと違って商人では何が幾らで売れるという情報は出回るような情報ではなかった。こういったことはレイアークでも同じである。殿様商売をしているクレスト、ミラージュ系列はまだいいとして、下請けのキサラギはどれだけ辛酸を舐めているのだろうか。

 そんなわけで、レレイはこの情報をデナリ銀貨二千枚で買ったのである。

 

 

* * * * * *

 

 東へと向かう街道を、帝都へと移動する騎兵集団があった。ピニャ率いる『薔薇騎士団』である。

 秘密結社ミラージュの手の者達と話し合いをし、彼らの魔術と数体のゴーレムを見て、ピニャの裁量で彼らに支援をすることを約束した。

 ピニャが自腹で支払えるスワニ銀貨百枚を渡し、主が居なくなった領地を暫定的に治めることを承認したのだ。本来、代官任命権は皇帝と議会が持つ権利であるが、彼らから渡された数々の情報を見せれば後付けで承認を得られると考えている。特に『要塞内部図面』『要塞攻略計画』このふたつで父上からお褒めの言葉を頂けると思い、ピニャは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「姫様、急ぎ過ぎです! 馬が潰れますよ」

「これでも遅いくらいだ。一日でも早く戻り帝国の異境軍対策を変えなければ!」

 

 ピニャが見る風景は流れるように過ぎていた。だがまだ遅い、まだ足りない。つい、鞭打つ手にも力が篭ってしまう。

 

「遅い……」

 

 そう呟くのは、ピニャ達の後方上空を飛ぶ三機の飛行MTの内一機である。この編隊は、小型飛行MT二機と大型飛行MT一機で構成されている。

 小型飛行MT二機はパルスライフルとミサイルを搭載した製造元不明なMTフィーンドMBだ。一説には管理者が製造したMTを鹵獲したものとも、残骸を修復したものとも言われている。

 そして、もう一機は複数の工作員がパーツごとに分解して異界に持ち込み組み上げた機体であり、それこそはミラージュ製試作型戦闘MT M-9-mtvである。このMTは無人機M-9として開発されていたが、研究が間に合わなかったため有人機として再設計された機体である。武装は武器腕として連装レーザーライフルを搭載し、両肩に連装マルチミサイルを載せている。どちらもMTなので例の如く無限弾薬だ。

 

 これに乗るリップハンター達はピニャ達と同行し、皇帝から代官承認の確約と更なる支援を引き出すつもりである。そう、代官ではなく領主としての承認である。

 

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