ARMORED CORE ~NEW GATE~   作:早川兎太

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『基幹高速道路占拠者排除』

依頼名:『レイヴン試験』

依頼者:グローバルコーテックス

作戦領域:第一都市区 基幹高速道路

作戦目標:基幹高速道路占拠者排除

敵戦力:改造重機

 

 

「ミッションを確認する。目標は基幹高速道路を占拠するメカの撃破だ」

 

 搭乗席の計器がひとつずつ灯り、レジーナは機体に異常がないかしっかりと指差し確認を行う。

 

「俺は今回の試験官を務める。レイヴン、トラファルガーだ」

 

 声を出して、もう一度確認する。よかった……問題ないみたい。

 

「このミッションを達成したとき、君はアリーナに登録されレイヴンになれる。負ければ、そのときは死ぬだけだ」

 

 短い電子音が二度鳴り響き、道路の先に改造重機ウェルダーが顔を出した。

 改造重機ウェルダーとは、作業現場で用いられる油圧ショベルのバケットを火炎放射器に換装したものである。兵器ではなく現場作業員が勝手に改造しただけの工事用車両だ。

 

 今回の試験について詳しい説明を受けていないけど、多分ストライキ……かな。殺すのは忍びないから投降してくれないだろうか。

 それにしても簡単なミッションで助かった。以前、ミッションで組んだレイヴンは、シーリングガンナーとスクータムの相手をさせられたとか言ってたっけ。しかも僚機に誤射されまくりだったとか。私は単独任務で良かったわ。

 

「来たぞ。さあ、お前の腕を見せてもらおうか」

 

 相手の射程外に立ち、初期ライフルCWG-RF-200を構える。モニターにはウェルダーに乗る作業員の恐怖に引き攣った顔が映し出されている。

 

「ひいっ! く、来るなぁ~!」

「もぉ~、だったら投降してよ。なんで接近してくるのよ」

 

 デタラメに炎を撒き散らしつつ接近してくる姿に思わず愚痴ってしまった。

 レジーナは軽く引き金を引き、恐怖に怯える相手を射抜いた。操縦席が壊れ(ひしゃ)げ、火炎放射器の燃料に引火し燃え上がる。殺すか殺されるか、レイアークはそういう世界だ。死にたくないなら戦場に来るな。職場でハンガーストライキでもしてればいい。

 

『敵増援を確認』

「あれはMTフリューク! なんで奴がココに!?」

 

 試験官(トラファルガー)の驚いた声がモニター越しに響いた。

 MTフリューク? ミラージュ製ステルスMTを相手にしろって言うの?

 初期レーダーCRU-A10には対ステルス機能なんてないんだけど、どうしろと言うの。

 

「ちょ、試験官(トラファルガー)! そんなこと聞いてない!」

「レイヴンなら無茶なミッションでもこなせ! アレの相手は俺がやる、お前は目の前の敵をさっさと殲滅しろ」

 

 そういうことなら殺すのが忍びないとか言ってられないよね。

 恨まないでね。私が生き残るために死んで貰うわ。それに、投降する時間は十分にあったでしょ。

 

『敵増援を確認』

「なんだと?」

「まだ来るの? こっちは初期機体なのよ」

 

 貧弱な初期レーダーに新たな光点が灯る。

 無数の光点と薄っすらと灯ったり消えたりする光点だ。恐らく、前者は数に物を言わせた無人ロボット群で、後者はまたもステルスMTだろう。レイヴンを志ざす者として、三大企業の主力兵器くらい把握している。

 

「グローバルコーテックスです。武装勢力が兵器工場をハッキングしたようです。レジーナは指定地点へOBで逃げてください。トラファルガー、あなたは救援のレイヴンが来るまで持ち堪えてください」

「了解っ! 新人、俺の勇姿を心に刻んでおけよ」

「すまない、レイヴン。ACエキドナ、戦闘領域より離脱する!」

 

 覚悟を決めた試験官(トラファルガー)を背にして、レジーナは震える指でOBのスイッチを押した。

 OBによる高Gによって体が座席に押し付けられ、呼吸が苦しくなる。この苦しさには試験官(トラファルガー)への後ろめたさもあるだろう。

 

「レジーナ、指定地点にも敵影があります。気を抜かないでください」

「えっ? そんな……」

 

 手元のレーダーに、そんな光点は……ってアレ? ECM障害のランプが灯ってる。

 ステルスだけでなくECMまで使うの? なんで私のレイヴン試験だけ、こんなにハードルが高いの?

 

 壁に身を隠し、恐る恐る通路の先を確認してみると、そこには通路を塞がんばかりのグライドコブラが居た。

 よかったぁ……あれは対人用の警備ロボットだ。残弾少ないけどACならどうにかできそうね。

 

「ぐあああああっ!!」

「レイヴン、トラファルガーの大破を確認。レジーナ、MTがそちらへ向かっています。もう少し奥へOBで移動しましょう」

 

 ごめんなさい、試験官(トラファルガー)……。

 レーダーからは試験官(トラファルガー)の青い光点が消え、入れ替わるようにぼんやりとした赤い光点が高速で迫ってくる。

 これだけの速度を出せるステルスMTと言えば高機動MTカルバリーかな。

 OBの速度より遅いし、鬼ごっこを続ければ救援機到着まで、時間を稼げそうね。でも、クレスト都市に何でミラージュ製MTばかり現れるのかしら? 隔離壁閉じてるから部隊の投入なんてできない筈?

 

* * * * * *

 

依頼名:『工場停止』

依頼者:クレスト

作戦領域:産業区 バンドル生産工場

作戦目標:制御装置破壊

敵戦力:防衛ロボット 他

 

 産業区にある当社のロボット生産工場が何者かにハックされ、工場の制御を奪われました。これにより工場の製造装置が暴走し、ロボット群が区画を跨ぎ第一都市区の基幹高速道路に流れ破壊活動をしています。

 この工場は最深部に置かれている制御装置で集中制御されており、これを破壊すれば暴走が止まります。なお、工場内の防衛ロボットは破壊して構いませんが、工場設備への被害は最小限に留めてください。あまりに度が過ぎれば報酬から差し引きます。

 基幹高速道路沿いから苦情が舞い込んでいるため、五分以内に鎮圧してくだされば報酬を上乗せします。

 では、よろしくお願いします。

 

 

「施設内でのミッションなら垂直ミサイルを取り外しておこう」

 

 青林檎(アップルボーイ)は慣れた手つきで、整備端末を操作し機体構成(アセン)を組み直す。

 肩武装垂直ミサイルCWM-VM36-4がクレーンで吊り上げられて外され、入れ替わるように肩武装地上魚雷CWM-GM14-1が肩に収まる。

 施設内ミッションならミサイル自体要らないかもしれないが、ひょっとしたら大きな空間があって待ち伏せしている大型MTとかACが居るかもしれない。そんなときに対応できなかったら死ぬだけだ。それを回避するために、一応積み込む。

 今回のミッションの内容からすれば、ミサイルと連動ミサイルを装備したままでも達成できるだろう。防衛ロボットが予想より多かったとしても無視してOBで駆け抜けてしまえばいい。むしろ、時間制限があるため、そうするべきである。

 ミサイル以外はいつも通りの構成だ。最早、彼の愛機であるACエスペランザはレイヴン試験のときのような初期機体ではない。何度かのミッション報酬とアリーナ勝利報酬を充てて、青林檎(アップルボーイ)が理想とする機体構成(アセン)へと組み替えている。

 

 青林檎(アップルボーイ)のように自分の機体構成(アセン)に拘りを持ち、どんなミッションでも同じ機体で出撃するレイヴンは非常に多い。逆に、ミッションごとに機体構成(アセン)を完全に組み替える方が少数派である。実のところ、少数派を通り越してネームレスしか居ないのが現実だった。

 

「アップルボーイ、ACエスペランザ。行きます!」

 

 青林檎(アップルボーイ)には専属オペレーターというものが付いていないため、完全に独り言である。

 オペレーターが付いていないレイヴンは彼だけでなくレジーナもそうであった。普通、付く筈の人員が付かない理由は、クレストが地上と主張する異界の開発に多くの人手が割り当てられているためである。自腹で雇用することもできるのだが、報酬から弾代と機体の修理費を除くと端金しか残らず、そんな余裕がないのであった。

 

 さて、そんなこんなで工場に辿り着いた青林檎(アップルボーイ)を悩ませるものがあった。それは敵数や敵種ではなく『天井砲台フライペーパーMGは防衛ロボット扱いなのか、それとも工場設備扱いなのか』ということであった。防衛ロボット扱いなら破壊して良し、工場設備扱いなら破壊すべきでない。

 ここ最近のミッションは、収支が厳しくなるばかりなので、特別減算されたくないのであった。そして、特別加算である短時間クリアを取りたかったのである。

 

 工場内は迷宮のような造りになっており、一度通った通路を二度三度通ることもあった。急ぐ青林檎(アップルボーイ)を阻むように扉がロックされていて先へ進めず、ロック解除する装置は来た道を戻った小部屋だったりということが多かった。何度も通る道の天井砲台なら潰しておきたいところである。

 

 ここで専属オペレーターが居れば、青林檎(アップルボーイ)の代わりに依頼主に確認してくれただろう。とはいえ、居ないものは仕方ない。

 結局、OBを幾度も噴かして最深部に辿り着き、何の妨害も入らないまま制御装置破壊に成功した。クリアタイムは04:58、ギリギリである。依頼主にしてみれば、「三分でクリアしろよ」だろうか。

 そして結果論となってしまうが、ミサイルは完全に要らなかった。

 

* * * * * *

 

レイアーク 第一都市区 基幹高速道路

分岐路

 

 

「ちょっと! 聞いてるの! もう道がないわ、どこへ逃げればいいの?」

 

 グローバルコーテックスからの指示通りに逃げた先は、絶望的な行き止まりだった。Y字の分岐の先はどちらも分厚い隔離壁で塞がれ、付近に扉の開閉装置らしき物は見当たらない。

 レジーナの背後からは、MTカバルリーが牽制で放ったプラズマキャノンの着弾音が迫っている。

 既に初期機体(ACエキドナ)はライフルもミサイルも弾切れになっており、残る攻撃手段は初期ブレードしかない。MTカルバリーとMTフリュークの機影は相変わらずレーダー上にぼんやりと灯ったり消えたりを繰り返し、正確な位置が分からなかった。

 

「返事しなさいって! 救援はいつ来るん……うわわっ!」

 

 咄嗟にブースターを噴かし、迫ってきたミサイルを回避する。続いて右に左へと回避するも、ジェネレーターの発電量をブースターの消費エネルギーが上回っている。正直なところ、初期機体に連続回避を求められても困る。

 このままでは、もう持ちそうにない。機体の損壊も激しく、あと一発何かを貰ったら大破炎上するだろう。

 

 大破炎上か。「ピーピーピーボボボボ以来っすよ」って、いつぞやの運転手さん(カスケード)が言ってたな。

 

「あ……ちがっ!」

 

 回避と関係ないことを考えていたら、左右回避しようとして間違えてブレードを振ってしまった。技後硬直のため、一切の回避運動ができない。

 

 迫ったミサイルの動きがゆっくりとなり、スローモーションのように見える。

 私は……ここまでなのね……父の顔面に拳を叩きつけてやりたかったのに……

 

 ミサイルの爆音が響き、白い粉塵が舞い上がる。だが……。

 あれ? 死んでない? 私、まだ生きてる?

 

 白い粉塵越しに、機体が柔らかな光に包まれている。

 これは……この光は……キサラギ製左腕エネルギーシールドKES-ES/MIRRORね。

 職業柄、こんな状況でも脳裏に詳細なパーツスペックが浮かび上がるなんて。と、レジーナは小さく笑い声を漏らした。

 

「レジーナ、よく頑張ったな。後は俺に任せて下がってくれ」

 

 この優しい声は……まさか、父さん(トルーパー)

 

 いや、違う。父さん(トルーパー)は四脚だけど、このACは違うし。

 でも、どこかで聞いたような声ね。だけど、私にレイヴンの知り合いなんて……っ!

 

「あなたは……青林檎君?」

「いや、すまない。ネームレスだ」

 

 辺りが気不味い雰囲気になった。

 そういえば、彼とも一緒にミッションをやったわね。青林檎君やアデュー、運転手さん(カスケード)と比べて口数少ないから忘れてたわ。

 

「えっと。サンキュー、レイヴン助かったわ」

 

 でも、もっと早く来て欲しかった。

 ふと、彼が来た方向を見ると無数のMTの残骸が転がっている。私が相手していた数なんて比較にならない。お前、どんだけ……。巷で噂になってるイレギュラーレイヴンって、まさか……ね。

 




※読者の最強のAC像を壊さないために、ネームレスの機体構成(アセン)と戦い方を描写しません。
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