古代スタートで頑張ろう   作:ぼっち野郎

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なーにが一週間に1本安定してきたですか。


素戔嗚の試練

「何故、こうなったのだろうか」

 

 

 誠に理解しがたい。そう呟くのは杠優斗。隣にはブツブツと独り言を零す大国主ことオオナ、そして......

 

 

「さて、準備は良いかガキ達よ」

 

 

 数十メートル先、そこにら異常なまでの神力を撒き散らす素戔嗚が仁王立ちしていた。

 

 

 素戔嗚が提案したのは決闘だった。誰が強く、誰が弱いのかを決める為に闘おう、それも死ぬ気で闘おうというものだった。

 

 勿論杠もオオナも最初は断った。第一闘う意味が皆無な上、闘っても碌な目に合わない。だが、素戔嗚がオオナに耳打ちをするとオオナの態度が一変、是非やらせてくれ、ぜひ協力してくれと深々と頭を下げて頼み込んで来たのだ。流石にそれを無下には出来ず、結局今に至るという訳である。

 

 

「先手は譲ってやる! 好きにするが良い!」

 

 

 声を張り上げながら心底楽しそうにしている素戔嗚、ただ目は真剣そのもの、死ぬ気というのは嘘では無いようだ。全くもってやり辛い。というかやりたく無い。

 

 

「さて......杠さん、遠距離と近距離どちらがお得意ですか?」

 

 

 呪文の類を唱え終わり、基礎能力を底上げしたと思われるオオナが尋ねて来た。

 

 

「今回は遠距離で良いですかね?」

 

「承知しました。援護を頼みます」

 

 

 タンッ! と疾風の如く駆けていくオオナ。気づけば鍔迫り合いまで持ち込んでいる。

 

 

「さてとっ」

 

 

 ここで呆けていたいのは山々だが、オオナの援護をし無ければならない。

 

 杠は抱えていた鞄の中から数本の剣を取り出す。レイピアに似た形状にも関わらず、刀身は鋭く斬れぬものなど存在しないと言わんばかりの存在感を放つソレは、俗に言う聖剣や魔剣の類......をオリジナルに加工を施した代物であった。言うまでもないが二つの能力を行使して。

 

 さて、刀や剣を集めたなら前線に立つべきと思われるかも知れないが、それは少々リスクを伴う。3分が過ぎてしまえば太刀打ち出来ない上、そもそも素戔嗚の戦い方を知らない。

 しかし、かと言って相手は神、現代チックな機関銃を連射してもすり抜ける可能性も無きにしも非ず。ならばどうするか......

 

 

 そう、魔剣を投げれば良いだけの話。

 

 

 カウントダウンが終了する。中に入ったのはとあるカレー好きのシスター(・・・・・・・・・・・・・)、様々な能力や技術を持ち合わせている彼女だが、今回借りるのは筋力と投擲技術のみ。

 

 シュタッ! と鋭い音が眼前でで響く。そして遠くには当然の攻撃に目を丸くし、そのまま吹き飛ばされる素戔嗚の姿が映る。

 

 鉄甲作用、と呼ばれる技法がある。投げた剣で相手を吹き飛ばす純粋な体術、コツは抉り込むように射つべし射つべし、という何とも無茶苦茶な秘技であるが、その効果は絶大なものだ。

 

 

「はっはー! 面白い事をするじゃないか!」

 

『ですよねー』

 

 

 まぁ尤も、神に挑むには些か力不足であったようだが。

 オオナムチを無視し、素戔嗚がこちら目掛けて突進に近い斬りかかりを仕掛ける。杠は鞄の中から6本の刀を鉤爪の如く構え、神の突進を待ち構える。

 

 ガギィン!と、嫌な金属音が響く。筋力を強化している事も有り、意外にも競り勝つ事が出来た。素戔嗚は意外そうな顔をしながらも三歩程後ろに下がる。

 

 

「憑依能力か、それも中々の」

 

『鬼子母神の時もそうでしたが、そう簡単に分かるものなのですかね、この力』

 

「なに、その阿保みたいな魔力と筋力から判断したまでだ...よっ!」

 

「チィ! 外した......ぐっ!?」

 

 

 気配を絶っていたオオナの背後からの一閃を易々と躱し、カウンターの蹴りをお見舞いする。一撃をモロにくらったオオナはその場に腹を抱えて倒れこむ。

 

 

「さてと、お前は寝てな...」

 

『させませんっ!』

 

「っと! ポンポン投げるねお嬢さん(・・・・)! 在庫は気にした方がいいぞ!」

 

 

 倒れたオオナを掻っ斬らんとする素戔嗚を遮るように刀を射出する。当然見切られダメージを負わせるには至らなかったが、オオナの戦闘不能を回避しただけでも御の字だ。

 

 杠は手元に残った4本の剣を使い素戔嗚に斬りかかる。確かに手応えはある、あるのだがイマイチ押し切れず、連撃を素戔嗚にいなされてゆくのみだった。

 

 

「いい剣持ってるじゃねぇか。斬られたらタダじゃすまなそうだ」

 

『嫌味にしか聞こえませんね。どうせソレ、草薙の剣って奴でしょう?』

 

「その通り! 俺が知る最高の剣、お前のと違って耐久性も優れている。こんな風になっ!」

 

『グッ!?』

 

 

 横薙ぎ一閃、咄嗟に防御の姿勢を取るが、それに耐え切れず4本とも粉々に砕け散り、手元には柄のみが残る。

 

 

『黒鍵!』

 

 

 手元に残った残骸を投げ付け、足裏から新たに6本の剣を精製。聖典から取り出す暇は省けたが、足裏かというのはどうも使い勝手が悪い。省いた時間を差し引いても余裕などは皆無となっている。

 

 

「創造能力、いや、コッチ側に持ってくる能力か? 奥が深そうだな」

 

『そりゃ、どうもっ!』

 

 

 次に剣が折れ、後退した時が杠の敗北となるだろう。更に言えば神様相手に黒鍵が通じるとも限らない、すり抜けたらそれこそ終わりだ。今度は浅く、時間稼ぎに徹して剣を振るう。

 

 

(そろそろヤバイぞこれ)

 

 

 目の前で赤字フォントのカウントが始まる。このままでは三十秒程で戦闘が続行不可、かといって深追いも出来ない。となればオオナの復活を待つのみだが.......

 

 

「すいません! お待たせしました!」

 

『タイミングばっちし!』

 

 

 復活、更に言えば先程よりも数倍増しの神力を発しながら、オオナは素戔嗚に飛び掛る。

 

 

「漸くやる気になったかオオナ‼︎」

 

「ええ! 貴方相手にはやはり殺す気くらいが丁度いい!」

 

 

 先程とは比べものにならない程の連撃、そしてそれに対する防御。守備と攻撃が幾度となく入れ替わり、その度辺りには真空波の如く衝撃が走る。地面のクレーターは既に十を超えている。

 

 そんな二人の間には既に杠に介入する余地は残っていなかった。諦めて距離を取った所で数字はゼロ、身体の中からナニカが抜けていく。

 

 

「っつー...無茶しちゃったなこりゃ」

 

 

 ナニカが抜け、疲労と筋肉痛の様な痛みが降りかかる。

 

 憑依している間は疲労を無効化出来るのか、はたまた杠が軟弱なだけなのかは分からぬが、どちらにしても負荷がかかっている事に変わりはない。使い過ぎは厳禁だ。

 

 

 こうしている間も二人の激戦は続く。先程のは明らかに手を抜いていたのだろう。筋力、技量、神力、どれを鑑みても到底桁が違っていた。もはや自分に出来るような事はないのかも知れない。それこそ彼等と同等の力を宿さなければ......

 

 

(待てよ......いけるか?)

 

「......XXX」

 

 

60、59..................ゼロ。

 

 

 カウンドダウンが終了すると同時に二人の方向へ疾走する。隼の如しその速度は平生とは比べ物にならない、30メートルという間合いを1秒足らずで詰める。

 

 

「......!」

 

「はぁ!?」

 

 

 手に持つのは焔、長さ八尺程の神力を纏った紅蓮の刀剣を素戔嗚に叩き付ける。

 

 素戔嗚は回避する。それも先程の様な余裕のある回避ではなく、地面を全力で転がる回避。その額からは冷や汗と思わしき液体も流れていた。

 

 

「おいおい、そんな事も出来るのかよ」

 

 

 苦笑いといった様子で素戔嗚が眺める先には杠、素戔嗚と全く同じ神力を纏う(・・・・・・・・・・・・・)杠だ。

 

 

『なに、俺は俺と闘ってみたかった。だから呼びかけに応じた。それだけの話だ』

 

「はっ! 何とも俺らしい! 本当ならじっくり闘いたいんだが......」

 

「ハァァ!!」

 

「これでニ対一はキツイなっ...!」

 

 

 杠の炎剣は刀で受け止める事が出来ず、オオナの刀剣は焔で打ち消す事が叶わない。その上強さは折り紙付き、片方に至っては自分自身、先程と変わって防戦一方になるのは必須だ。そして.......

 

 

「貰ったぁ‼︎」

 

「ぬぅ!?」

 

 

 刃が届く。オオナが遂に素戔嗚の右腕を切断する。草薙の剣が地面へと突き刺さると同時に鮮血が飛び散った。

 

 

「やった」

 

 

 オオナはぼそりと呟いた。

 

 

「やったぞ。遂に師匠を、素戔嗚尊を! 100年目にして遂に! ハハハハハ!!!!!」

 

「.......まさか本当にやられるとは」

 

 

 余程嬉しかったのだろう。オオナの普段の性格では考えられない様な高笑いを発し、その喜びを噛み締めるよう手を握りしめる。

 

 

「認めよう。確かにお前達は強い。マトモに闘っても負けるのは俺だろう」

 

 

 そう言いながら笑みを浮かべるのは素戔嗚、それを受け、隣のオオナも更に喜びの声を上げる。

 

 

「て事は! 遂に自分の初白星とい...」「だから、」

 

 

 ただ、浮かべた笑みと云うのは純粋な笑顔では無かった。

 

 

「少々趣向を変えてみようと思う。せいぜい足掻け」

 

 

 素戔嗚は、不敵な笑みのままパチンと指を弾く。

 

 あっという間だった。3秒も経たぬ内に辺りから火柱が噴き出す。その火柱は時間を追うごとに増長増幅、気付けばドーム状に変化し、遂には天上の陽の光すらを遮った。

 

 

「し、師匠! コレは......っていない!?」

 

 

 気付けば目の前の素戔嗚も、斬り落とされた腕や草薙の剣もいつの間にか消えている。身代わりの術でも使ったかの如く置いてある丸太には"残念でした笑"の文字、ソレを目にしたオオナは先程とは別の意味でワナワナと震えていた。

 

 暫く唖然としていた二人だが、オオナは近くの石を拾い、自身の投力をもって真上へと投げつける。石は落ちてこない。真上からボジュッ、という蒸発音が聞こえたのみだ。

 

 

「......杠さん、師匠の力を使えるのでしょう? コレを何とか出来ないんですか?」

 

「あー、その。なんです? この能力1日3分ずつしか使えなくてですね。ハイ」

 

 

 縋るように此方を見つめるオオナには申し訳がないが、一人1日3分という縛りが存在する以上、再び能力を使用出来るのは二十四時間後だ。尤も、それを以ってしてでも打ち消す事が出来るのかは話が別なのだが

 

 

「取り敢えず色々してみましょう。運が良ければ抜け出せるかもしれません」

 

 

 そう口にした数秒後、オオナが溜息を吐いたのを杠は見逃さなかった。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

『魔神剣!』

 

ゴォオオオ!!!!

 

『ウィンドランス!』

 

ボバババババババ!!!

 

『水遁・大爆水衝波!』

 

シュュウウウウウウウ.......

 

 

 

「......無理ですね、これは」

 

「ですね......」

 

 

 ドームが発生し既に30分が経過した。様々な手段を用いて脱出を試みたがどれも失敗、水を掛ければ蒸発し、衝撃波を飛ばせば更に燃え上がる、という結論に至ったのみで進展が止まっていた。それと......

 

 

「...気のせいですかね? 心なしかだんだん狭くなっている様な気がするのですが...」

 

「いや、間違いなく縮んでます。酸素、の量も、だ、だいぶ少なくなってぇー...」

 

「ゆ、杠さん!?」

 

 

 軽い酸欠によりその場に座り込む杠。酸素ボンベを創り出した事で最悪の事態は避けられたが、これ以上は流石にまずい。オオナはともかく、一時間も経てば杠は完全に炭と化してしまうだろう。

 

 

「うわぁぁぁあ!?」

 

「???」

 

 

 絶望的な状況に頭を悩ませていると、突然丘の下辺りから女性のものと思わしき声が響く。

 不思議に思った二人が丘を下るとそこにいたのは一人の少女、灰色の質素な麻服に身を包む彼女は一見何処にでもいる少女の様であった。......頭の上に乗っかっている某ネズミの耳の様なものを除けば。

 

 鼠の妖怪と思わしき少女は此方を見るや否や慌てふためいた様子で駆け出し、杠とオオナに詰め寄る。

 

 

「ねぇ! これなんなのさ!? いつの間にこんなの出来てたの!? このままじゃ死んじゃうよ!?」

 

「ちょ、落ち着いてください」

 

「コレが落ち着いてられる状況かい!? 神様は死なないかもしれないけど、こんなんが迫ってきたら普通はイチコロなんだからね!?」

 

「あ、自分も人間なんで死ぬと思います」

 

「だったら焦んなきゃダメでしょっ!!!」

 

「ゆーらーさーなーいーでー」

 

 

 少女が杠の肩を掴み全力の揺すりにかかる。流石は人外、並々ならぬ力の上、酸欠気味も相まって非常にダメージが大きい。再び倒れそうになったが、オオナが制止を促したお陰で何とか踏み止まる事が出来た。感謝である。

 

 

「あぁ、せめてこの炎の位置がもう少しズレてれば何とかなったんだけど......」

 

「ん? どういう事ですか?」

 

「私らは地下で生活してるんだ、鼠らしくさ。んで、その地下への入り口がすぐ隣ってわけ。全く、昼寝なんてするもんじゃないね.......」

 

「.....つまり、地下にさえ行ければ脱出できるって事ですか?」

 

「まぁ、そうなるかな」

 

 

 鼠妖怪は諦めたように息を吐く。どうやら無理だと考え込んでいるらしい。...しかし二人は違った。

 妖怪の言葉を受け、神と人間が目配せをする。考えている事は同じようで、どうやらオオナが率先して行ってくれるらしい。

 

 

「では、ハァァァァァァァァァァッ!」

 

 

 オオナは地下をブチ抜かんと神力を己が剣へと貯め始める。

 

 

「え? ちょっ、待った! 穴をぶち抜くとか無しだよ!?」

 

「しかし、こうするのが一番.......」

 

「ダメだダメだ! 地下にいる仲間達を生き埋めにするつもりかい!?」

 

「...成る程、それはいけない」

 

「あ、危なかった.......なんでこう、神様って頭の飛んだ連中しかいないんだい... 」

 

 

 神力を霧散させ、振り上げた刀を下ろすオオナと中止された事で心底安心する鼠妖怪。

 

 

「しかし、どうしたものでしょうか......地下に入れれば脱出できる。かと言って大穴を開けてお仲間さんを生き埋めにする訳にもいかない。杠さん、何か手段とかありますか?」

 

「おいおい、このお兄さん人間なんだろう? そんな事出来る訳無いじゃないか」

 

「そうですそうです。人を万能だって決めつけるもんじゃないですよ? そりゃあ自分にだって出来ない事くらい......出来るな」

 

「出来るんかいっ‼︎」

 

 

 鮮やかな突っ込みを無視しつつ、杠は懐のポケットをまさぐり始める。

 ポケットティッシュや何時ぞやの通信札、更には能力で創り出したものの捨てるには勿体無かったアイテム等々が無造作に入っており、記憶が正しければ御目当ての品が転がり込んでいる筈だ。

 

 

「あったあった」

 

「なんだいそれ? 簪?」

 

 

 取り出したのは一本の簪を模した鑿、一見変哲のない道具に見えるが、隣のオオナが邪な気を感じると怪訝そうな表情を浮かべているので本物なのだろう。流石は神様、そして邪仙である。

 

 

「コレはある国に伝わる、壁抜けの鑿です。一応仙人の使う道具...なのかな?」

 

「成る程、それで炎に穴を作るんです...」「違います」

 

「当たり前だろう? 神様はどうか知らないけど、あんな炎じゃ普通は潜る前に消し炭になっちゃうよ」

 

「そう言われれば確かに...」

 

 

 オオナ然り、素戔嗚然り、更に言えば月夜見然り、どうも神様という連中は己を中心にして考える場面が多々あるように思える。自分が出来るから他の人が出来る、という考えを未だに捨てきれていないのだろうか。

 

 

「では、どう使うのですか? 壁などといったモノは無いように思えますが」

 

 

 オオナは改めて杠へと尋ねた。

 

 

「別にそんな大した事じゃないですよ。ただ......見方を変えれば地面だって立派な壁、というだけの話で。」

 

 

 クルリと、手持ち花火を振り回すかの様に一回転する。するとそこには半径1メートル、深さ10メートル程の穴が発生、三人が落ちていくには充分な穴である。重力に従って全員が落下する。

 

 

「ほっ、」

 

「おっと、」

 

「ぶはっ!?」

 

 

 一人を除いて全員が無事に着地。背中から激突し転げ回っている男もいるが、多少なりとも頑丈な彼であればおそらく軽症で済んでいる筈だ。

 

 

「いてて.......それにしてもやたら広いところに出ましたね」

 

「確かに」

 

 

 三人が落ちたのは5メートル四方の開けた、松明が立てられただけの無造作な空間だった。地下という事で空気が篭っているかと思われたがそうでも無いらしく、比較的快適な湿度温度であった。

 

 

「鼠妖怪さん、此処で良いんですか?」

 

「ああ、驚くくらい完璧だよ。見事にアジトの広場に降りれてる」

 

「広場にしても広過ぎません? 人間と共同生活でもしてるんですか?」

 

 

 広がる通路等は大人が通っても差し支えないサイズ、隣の少女のサイズを鑑みても些か大きめなサイズを見る限り、少なくとも鼠の寝床とは考えられない。

 

 

「いや、こんなナリなのは私ぐらいだけど、仲間にも色んな奴がいてね。ほら、アイツとか」

 

「...? アイツって.......げ、」

 

 

 妖怪が指差す後方、その大きな通路からノシリノシリと音を立てて出てきたのは一匹の鼠。いや、豚牛より遥かに大きな巨軀を持っている地点で鼠かどうかは怪しいのだが。

 

 

「あはは、大丈夫だって! 怪我なんて一つもないよ。もー、大袈裟だなー!」

 

 

 気付けば辺りは鼠だらけ、通常サイズの鼠からカピバラサイズ、ヒト型は居ないにしろ、とにかく多岐に渡った鼠達が隣の鼠妖怪へと擦り寄り、その一匹一匹にムツゴロウ先生よろしくなスキンシップを取っていく。

 

 

「お兄さん達、お陰で助かった...アレ? そっちの問題ごとだったから助けて貰うのは当たり前の様な......まぁいい、とにかく礼を言うよ。みんなもお礼が言いたいってさ」

 

「い、いえ! お気持ちだけで」

 

 

 鼠達が揃いも揃って杠へと視線を向け、飛び付くのを今か今かと待機している...様な気がする。正直に言おう、怖いのだ。赤く光る目、牛サイズの巨体、本人達の前では決して言えないが、元々持っていた鼠に対するぼんやりとした嫌悪感も相まってとにかく怖い。よってスキンシップはお断りしておく。

 

 

「まぁまぁそう遠慮せずに! こいつら見た目は不清潔だけど毛並みはふかふかしてるんだよ? 特にこいつなんかは一段とフカフカで寝る時も...あ! 折角なら飯でも食べて行かないか? 人間が食える物は勿論お酒だってあるぞ!」

 

 

 無事に仲間と再会できたのが嬉しかったのだろうか? やたらとテンションの高い鼠少女から食事のお誘いを受ける。

 

 

「いやいや! 流石にそこまでは...」

 

 

 先程少女が言った通り、大元の原因はこちら側にある。あくまで巻き込んだのは杠とオオナ、此処にはいない素戔嗚だ。にも関わらず、助けてくれたお礼を受け取るなんて厚かましい事は出来る筈無い。恐らく隣のオオナも同じ事を考えているだろう。そう思い断りを入れたのだが.......

 

 

「それでは、御言葉に甘えても宜しいでしょうか?」

 

「えっ?」

 

 

 オオナが誘いを受けた。驚いた杠が隣を見ると、そこではオオナは柔かな笑みを浮かべている。

 

 

(どういうことだ...?)

 

 

 一言で言えばらしく無い。その発言にしろ、その作り笑いにしろ、そのぎこちない動作にしろ、とにかくらしく無いのだ。だが、だからと言って彼の心中は皆目見当がつかない。

 

 

「おお、そうこなくっちゃ! それじゃあ早速始めよう!」

 

 

 杠の靄は晴れぬまま宴会は始まった。しかし、飲めや歌え、食べや踊れの騒ぎの中で杠もオオナの事に関しては考えるのを中断した。そんな騒ぎは夜遅くまで続いたという。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

ゆずりはぁぁぁあ!!!!!!!!!!!!

 

「「うぎゃあ!?」」

 

 

 鼠の住処、地下10メートルの洞穴に寝ていた杠や鼠少女、延いては有象無象の鼠達は洞窟に反響する大きな声で目を覚ます。腕時計の針は朝5時、宴会が始まってから既に15時間が経過していた。

 

 

「いったいなんだい!? 敵襲!?」

 

「い、いや、今の声は素戔嗚さんです。しかも自分を呼んでた。まずったな......夜になるまでには帰るつもりだったんだけど......」

 

 

 あれ程の大人数(?)で呑むのは久々だった為に調子に乗ってしまった。帰って来なかった事を怒る性格では無いにしろ、心配をかけてしまったのかも知れない。そう思うと非常に申し訳ない気持ちが込み上げてくる。

 

 

「取り敢え戻ってみます。鼠さん、有難うございました」

 

「あいよ、因みに私はナズーリンって言うんだ。コレからも会うだろうから宜しくな」

 

「まぁ、そんな事だろうと思ってました」

 

「んん? どゆことだい?」

 

「いえ、こっちの話です。それじゃあオオナさんを起こして......って」

 

 

 いない。そこには書き置きらしき紙が無造作に置かれているのみで、終始隣にいた筈のオオナの姿が見当たらない。

 杠はその書き置きを手に取り、目に通し始める。

 

 

"我儘に付き合っていただきありがとうございました。またお会いしましょう。それと、師匠の件については先に無礼を詫びさせていただきます。申し訳ありません。"

 

 

「なんのこっちゃ」

 

 

 意味が理解出来るようで出来ない、そんな書き置きに頭を悩ませていると、二度目となる素戔嗚の轟声が洞窟の中に響き渡る。下手をしたら鼓膜が破れてしまうのでは無いかというレベルなのだから神という種族はやはり恐ろしい。

 

 鼠妖怪一派に改めて礼を言い、出口からてくてくと素戔嗚屋敷を目指す。五度ほど件の轟音が響き渡りそろそろ鼓膜が限界へと近づく中、屋敷内部で素戔嗚を探していると......

 

 

「やっと来たか」

 

「うっわぁ......どうしたんすかそれ」

 

 

 寝室にて、疲れ果てた表情を浮かべる素戔嗚を確認した。もっと詳しく言うならば、自前の長髪を柱にグルグル巻きにされた上、額に肉の文字の落書きをペイントしている、そんな神様の姿を。

 

 

「どうもこうもこの有様だ。右手もくっ付けたばかりじゃ動かなくてな...たくっ、オオナめ」

 

「はぁ!? これオオナさんがやったんですか!?」

 

「詳しく話すから取り敢えず髪を解いてくれ。痛くてしょうがない」

 

「りょ、了解しました」

 

 

 柱の背後に回ると恐ろしいまでギチギチに結ばれた素戔嗚の髪があった。余程コレをやった人物は素戔嗚に恨みがあったのだろう、10分程の時間を要し、漸く拘束が解けた頃にはパーマでもあてたかの如き有様となっていた。

 

 

「さて、どこから話すかね」

 

 

 おしぼりで自分の額を入念に擦る素戔嗚が喋り始める。墨はしぶといものだ。

 

 

「まぁ、何となく察しはついてるだろうが、アイツは須世理の求婚目的でここに100年間居たんだ」

 

「いやいや、寝耳に水ですよそれ」

 

「あの二人仲良いなー、とか、夫婦かよ、とか思わなかったか?」

 

「昔から恋愛事情には疎くてですね。てか半日で察しろってのは中々無理あると思いますよ?」

 

「あっそ、兎も角アイツはいきなりここに来るや否や須世理を嫁に寄越せと抜かした訳だ」

 

「そりゃまた大胆な」

 

「だろ? そんないきなり言われたって俺でも困る。だから条件を出したんだ。俺から白星を取ったら須世理をくれてやる。ってな」

 

「あぁ......」

 

「流石に昨日のは大人気なかった。俺も負けず嫌いでな、ついやっちまったんだよ」

 

 

 何となく察しはついた。あれ程喜んでいたのは白星を取れたからだったのだろう。逆に、勝ち逃げの様な素戔嗚の方法はぬか喜びのオオナには応えたのかも知れない。となれば......

 

 

「須世理さんはもしかして......」

 

「ああ、今頃二人揃って地上だろうさ」

 

 

 参ったと、苛立ちではなく意外にもバツの悪そうな顔をする素戔嗚。

 

 

「怒ってないんですか?」

 

「これに関しちゃ全部俺が悪い。というか、そろそろ嫁にやるつもりだったんだ。あいつらにもこんな所に押し留めてちゃ可哀想だしな.......あぁ、どうしてこうなっちまったかな...」

 

 

 自分の娘を勝手に持ってかれたならば我を忘れて怒り狂う、特に素戔嗚ほど破天荒な性格であれば尚更だと思っていたのだが、どうにも親心というのは複雑らしい。それも娘持ちとなると尚更だ。

 

 

「杠、一つ頼まれてくれないか?」

 

「ええ、良いですよ。どうせ暇ですし」

 

「そいつは助かる」

 

 

 素戔嗚は左手で指パッチン、天井から降ってきたのは弓と胡簶(やなぐい)、如何にもな伝説の剣、そして一通の手紙だった。

 

 

「訳あって此処から出られなくてな、俺の代わりにコレを届けて欲しい」

 

「了解しました......コレ予想以上に重いですね。すぐ疲れそう」

 

「なんだ? 思ったより随分軟弱なんだな。あのバカ女を圧倒したって聞いてたから筋肉隆々な男を想像してたんだが」

 

「能力にしか取り柄がない愚かな人間ですよ。自分は」

 

 

 手で持つのを無理と判断した杠は、足裏から手頃なリュックサックを創り出し、荷物を入れそれを背負い込む。60キロ程だろうか、能力にしか取り柄のない人間にはやはり普通に重かった。

 

 

「それじゃあ、行って参ります」

 

「ああ、頼む」

 

 

 伝説の三貴神の一人、素戔嗚からの送り出しを受け地上へと帰還する杠、そこは見晴らしの良い草原だった。

 

 

「さてと、お使いクエストさっさと終わらせますかっ!」

 

 

 あの素戔嗚に頼まれたのだ。寄り道などしている暇はない。自身の頬に一発叩きを入れて、杠は一歩を踏み出す。

 

 

「あれ.......どこ向かえばいいんだ?」

 

 

 しまったと思い背後を振り向くが既に手遅れ、根の国との道は途絶えている。ただただ背後には草原が広がるのみだ。

 

 

「......取り敢えず歩くか」

 

 

 思い立ったが吉日、取り敢えず杠は太陽を頼りに北へと歩く事にした。はてさて、この行動が吉と出るか凶と出るか、神でもない唯の杠には知る由もない。

 




今回出たのは、月姫の青シスターシエル先輩と、東方の青仙人、霍青娥さん(簪のみ)でした。テイルズとNARUTOのは後はご想像にお任せします。シエル先輩はカニファンと、齧ったくらいの月姫メルブラでしか知りません。リメイク来るんですかね...?

今回の後半、やたらと時間がかかった上、あまり上手な書き方ができませんでした。上達したら話に支障をきたさない程度に変更していこうと思います。あ、因みにここ二話の話の半分くらいは神話をベースにしてます。興味あったら是非

感想、お待ちしています。

5/8 一部訂正

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