月夜の罪   作:クリミタイナクリクチ

1 / 1
イタチの鬼ごっこ

 

 月とは魔力を与える天体である。……その分、魔力の注ぎ加減が狂い、様々な魔法も失敗しやすくなる。また、月の光は隠れた姿をも暴く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ……‼︎ はあっ……‼︎ しつ……けぇ……‼︎」

 木々に囲まれ、草が生い茂り、陽の光が僅かにだけ射し込む森の中、一つの影が薄暗い空間を駆けている。その姿、息遣いは荒くなっており、何事かがあったように悪態を吐く。……一体全体、何が起きているのだろうか?

 

「魔法使いのホームグラウンドに逃げ込むなんて、正に飛んで火に入る夏の虫だな。……まあ、森に火を放ったら怒られるけども、な」

 箒の様な長い棒に乗りながら、木々の縫い目を確実に、そして、鮮やかな動きで抜けながら余裕綽々に軽口を叩くはまた一つの影。息を荒げている影とは別に言葉を発し、二つの影は片方が逃げ、もう片方が追っている、などという状況を作り出している。

 一方は体力が限界であるかの様に駆ける足は速度を落とし、もう一方は疲れを見せる事の無いまま、速度を落とさず、華麗に枝の間、形の変わった木を見極めては細身の身体と箒を活かし、最低限の動きのみで一方を追う。

 

 

「……ケッ……」

 ……駆けていた者は突然に舌打ちを鳴らす。その音は大きく、予定が狂ってしまった時に出てしまう様に、悪態を宿していた。……それもそうか。せっかく、姿を眩ませる為に森を駆けていたのに、中心に大木があり、その大木の周りを円状に形取った広間に出てしまえば森の中にいた意味が無い。それに、追う者の速度も、遮るものがなくなってしまえば増すであろう。更には、姿を隠せる、と言えば中心にある大木……だが、その大木の木の葉も、植物が青々と茂る夏である今でも枯れ落ち、まるでその木だけ、冬を迎えたのか様になっている。……隠れる場所なんてこれっぽっちとて無い。息を切らし、体力が底を叩いたであろう今、それは舌打ちも出てしまう。

 

「だろ? 飛んで火に入る夏の虫、いや、この場合は、火に追いかけられる夏の虫、か」

 光をもろに受ける開けたところに出てしまえば、両者の姿も露わになってしまう。

 ……息を切らしているのは、黒髪に白と赤色のメッシュを混在させ、二本の小さな角を生やした頭。普段通りなら整っているであろう端正な顔も今は土だらけであり、赤色の瞳は追跡者を訝しげに横目で見ている。服装には矢印が何本も連なったワンピース、腰には逆さまに結ばれたリボン、と何とも特徴的な服装をしており、素足にサンダルの様な靴を吐いている。服は所々、何かに引っ掛けたのか破れ、破れた服の下からは僅かな素肌とピンク色の肌着が露出しているのが分かる。……胸元にはこれまた特徴的な逆さリボンを着けており、その下にはボタンが列を成している。

 そして一方は余裕綽々に一方を追いかけていたであろう方……リボンの付いたツバの広い黒色の三角帽子、その下には片側だけのおさげ髪を前に垂らした特徴的な髪型と色、ツバの下には、きりり、と整った顔立ちに、その上、軽口を叩けるだけの自信はあるのだろうか、表情には余裕と自信ばかりの笑みを宿している。また、黒色の服装にスカート部分から白のエプロンといった服装であり、表すのなら『魔女』の二文字に尽きる服装をした者だ。その者は箒に乗り、下で息を切らす者を嗤いながら、変わらずに口を開く。

 

「なぁ、鬼ごっこは止めにして、さっさと楽になった方がいいと思うぜ? 私は全く怒ってないんだから」

 提案を持ちかけるような口調で、彼女は見下しながらモノを言う。彼女は気にしていない、とあるからして、下の者がやった事は悪戯か何かだろうか? ……にしては、必死過ぎるが。

 

「何で……私が……お前を……はぁっ……ふざけんな……‼︎」

 一際大きい咳を混ぜながら、荒々しく上で見ている者に言葉を発する。息を切らしながらも赤い瞳で上から見る者に睨みを利かし、自身の信念を強く伝える口調は揺れ動かず、提案を断る構えを突き通してみせる。

 

「そうかそうか。……楽に反逆者を捕まえれば、私も霊夢を越せると思ったのだがなぁ……残念残念、力づくになるけれど……光を失っても、私の枕元だけには出ないでくれよ?」

 ケラケラ、とからかう様にそう言った後、一陣の風が狙っていたかの様に二人の間を吹き抜ける。その風はまるで何かを運んでいる様に遅く感じてしまう。いや、周りの時間が僅かに遅くなってしまっているだけであろうか。風の尻尾が通り過ぎた後、事は始まった。

 

「それじゃ、精々逃げ回ってくれ(たま)え。紫を退けた天邪鬼さん?」

 笑いをそのままに煽り、煽てるようにそう言葉を発し、彼女は一枚の紙のような物を二枚、右手に広げる。そして、表情を一度引き締めると、八角形の箱を下にいる者へと向け、大きく口を開いた。刹那、もう一方も何か傘のような道具を手に持ち、次に起こり得る事に備えをした。

 

「恋符‼︎ 『ワ____」

 口を大きく開き、『恋符』、までは高らかに宣言した。……それはいい。だが、そこから先の言葉は僅かにも聞こえなかったのである。普通であれば、後ろの言葉も高らかに宣言している筈……しかし、何者かが彼女の言葉を奪い去ったかのように、高らかな宣言は虚しくも止まる。

 この出来事に傘を構えていた方も驚いてしまった様子で、何事か、と彼女の様子をじっと見ては、彼女と対峙したままとなる。

 

「____! ____!」

 パクパクと口を開いて八角形の箱を振り回すも、彼女の言葉は空間の中に響かない。……不思議と、風が吹いている感覚があっても、木々の揺れる音が不自然にもならない。これには両者も困惑を示す。

 

「……っ!」

 これは好機、と思ったのか、下で困惑していた者は再び駆け出した。追われている状況であった……それでも、相手の宣言が通らず、何が起きたか困惑を示しているのなら好機だろう。逃げ出さずにはいられない。そのまま地面を蹴れば、森の木々へとその姿を眩ませる。

 

「___!」

 これには追う側も気づき、口をパクパクと動かしながら音の無い空間を、一本の箒に跨ったまま突き進もうとする。あんなに余裕綽々だったのに、今度は焦るような表情で再び距離を詰める為、速度を上げた。そして、逃げた物を追う為に彼女の姿もまた、森の木々へと隠れる。……焦っては功も奏せないというもの。

 

「___⁉︎」

 森に入っても不自然に音の無い空間、それもまた焦りを宿していた彼女を襲ったのは……一つの石。音もなく横から飛び出してきたその石は、偶然か否か、勢いよく彼女の箒の枝に当たってしまう。……勢いをそのまま、枝に当たってしまえば箒の軌道を逸らすには十分過ぎた。

 

「___!! ____!」

 制御が利かなくなった箒の枝を掴みながら、彼女は、木々に当たるまい、と必死に、焦りを表情に宿しながら無理矢理にも箒の軌道を戻そうと試みる。…………六秒ほどで逸れた箒の軌道は戻る……も、

「……あ……っ⁉︎ が……⁉︎」

 六秒も掛けてしまえば軌道が戻ったとしても時既に遅し。箒もろとも、速度が中途半端に落ちた状態で彼女は木の枝に顔面を当て、箒と、戻ってきた声と共に地面へと回りながら落ちていってしまった____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何秒駆けたのだろう。何分走ったのだろう。何時間足を動かしたのだろう。それすらも分からない程、追ってから逃れようと走る者の足は止まらずに動き続けている。方向感覚も狂わしてしまうほど、同じ様な木が続く奇妙な森。奥へ行けば行くほどに魔境へと近づく。辺りの茸が胞子を撒き散らしていても、今の彼女には逃げる事が精一杯だ。辺りを気にしている暇などない。

 

「……はぁ……っ……っ⁉︎」

 息を切らしながら走っていた。辺りには目もくれず走っていた。それが災いを招いたか、走っている最中に右足を挫いてしまう。そして、勢いを殺せぬまま、彼女は大きな音を立てながら地面に伏してしまう。……走っている勢いで足を挫いてしまえば、その痛みもまた酷いものとなるであろう。

 

「ケッ……っ! ……ぁぁ……」

 舌打ちをする。そして立ち上がろうとする……も、痛みもあってかすぐに身体は地に伏してしまう。その姿は弱い者が地に這い(つくば)るように、とても儚くあった。……森の中では救いの手も差し伸べる者もおらず、負傷した足が治るまで、と言ったら掛かる時間も相応……追っ手が、森で逃げられた、と周りに伝えてしまえば、(たちま)ち包囲されてしまうであろう。

 

 彼女は辺りを見回した。何か自分の助けになるものがないか、と。虚しくも辺りに見えるのは木、それと大量の茸が苗床にした倒木……茸の色は毒々しく、辺りに胞子を撒き散らしている……長居し、胞子を吸い過ぎてしまえば(ろく)な事にはならないだろう。

 

「……クソ……ッ……」

 止まってから二度目の舌打ちを発した。やはり、長居すれば拙い状況になる、と分かっているからの舌打ちか、ただ単に癖であるのか……どちらにしても、いい意味には捉えられない。……徐々に、彼女の赤い瞳の焦点が合わなくなっているのは気の所為だろうか? 胞子が彼女の鼻をくすぐれば……彼女の瞳から光が薄れていっている。……不味い。

 

「……ケッ……」

 四度目の舌打ちはとても弱々しいものであった。まるで、その舌打ちは自分の未来を見据え、諦めたように、または悟ったように……自らの死を、覚悟せずに受け入れるかのように……彼女の赤い瞳から、光は失われていった__

 

 

 

 

 

「……遅かった……かしら」

 横たわった彼女に近づくのは一つの影。一つの影は横たわる彼女に目を向けながら大人びた声色の言葉を発し、その影は屈む様子を見せ、身体に触れるとまた口を開いた。

 

「……ほっ……生きてる……」

 次には子供の安心するような、あどけない声色で言葉を発し、触れる手を離す。見た目は良く見えないが、四枚の逆さ三日月を背中に携え、小さな見た目、という事だけは判る。……背中の三日月はなんなのだろうか?

 ポツリポツリと言葉を発しながら、その者は横たわる者の背と膝の裏に手を差し込むと……

 

「んんー……っ!」

 力む様な大きな唸り声を上げながら、横たわる彼女を…………小さな見た目とは裏腹に…………

 

「……だめっ……」

 力の抜ける様な声と共に、小さな影は地面に尻餅をつく。子供ほどに小さな見た目では、身長差のある者を持ち上げるなんて普通では不可能だろう。……尻餅をついたまま、影は首を傾げる様子を見せた。

 

「……元はと言えばサニーと(はぐ)れて見つけちゃったし……魔理沙さんへのイタズラのつもりが大変な事になったし……見つけちゃった人は倒れているし…………私は倒れている人を運べないし……運ばない……それより、私の気持ちの問題……むぅ……」

 ブツブツと呟きにしては大きな言葉を発しながら、横たわる者の側で尻餅をついたまま、どうしようか、などと思考する。運ばなければ息絶える、重くて運べない、運ばない、の選択肢は良心が邪魔してしまう、と見て取れるだろうか。

 小さな姿は森の中、胞子が舞い散る中で思考を巡らせていた……

 

 三十秒、その者に変化はない。

 六十秒、その者は再び唸り声を上げた。

 一分、嗚呼、同じか。

 一分三十秒、変化の無かったその者は閃いた様な声を上げた。

 

「そうよっ。起きるのを待って、起きたら一緒に棲家に行けば良いんだわっ! 怪我もしてるし従う以外は無さそうねっ」

 はっ、と閃いた様に声を張り上げ、尻餅をついていた者は女の子座りになって……胞子が舞い散る中でも様子一つ変えず、得意げな表情で彼女の意識の帰りを待った。……時折、彼女の身体を人差し指でつついてはその反応を見、生死の確認をしているのが見受けられる。……つつかれた方は小さな唸り声を上げるだけで、目を覚ます様子は見せない。……それでも、生きている、と知れた三日月は安堵の息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルナー! 何処ー!」

 森の上空では光を浴びて輝く、赤色を基調とした服装でいて、明るさを強調する橙色に僅かな金色を宿した眩しい髪の毛、それを二房のツーサイドアップに纏め、背に笹の葉の様な四枚の羽を携えている。表情はわんぱくを宿しながらも、女性、女の子と言った顔立ちでいて、明るい姿は燦々(さんさん)と地を照らす太陽……だが……せっかくのその顔を心配に沈めながら、ルナ、と誰かの名を上空から呼んでいる。

 

「……動かない気配が……ひぃ、ふぅ、みぃ……」

 わんぱくな女の子の近くで目を閉じ、身を動かさずに何かを探す様にしている……髪の毛は目にかかる直前で真っ直ぐに切り落とし、後ろ髪の長い……これまた女の子。服装は落ち着いた青色を基調とし、黒髪からは、その落ち着きが強調される様に感じ取れる。背には蝶の様な羽を四枚と携え、優雅に、美しく青色の空を舞う様は、昼間であっても美しく輝く星、と言えるだろう。あどけなさを宿しながらも、何処か大人っぽく、艶っぽい雰囲気を醸し出している。……だが、これまた悩む様な表情で顔は崩れ、目を閉じている事により子供っぽいチャームポイントであろうものが薄れてしまっている。……それでも、考え込む様は大人っぽく、美しい。

 

「スター! 心当たりありそうな気配は⁉︎」

 数をかぞえていたのを聞いた燦々たる少女は……青色の服を着た少女を、スター、と呼んだ。そして、その気配とやらを尋ねれば、スターはまた口を開く。

 

「一人だけの気配があるけれど……ルナみたいに小さくないし……二人の方は……多分、片方がルナだろうけど……どうするの?」

 スターと呼ばれた少女は目を瞑りながらそう言ってみせ、片目を開けては、燦々とする少女に瞳を向け、判断を委ねるように尋ねた。少なくとも危険があるだろう、と思っているのか、表情は真剣である。

 

「……とりあえず! スターの言った二人の気配まで! ルナじゃなかったら一人! それでいい?」

 ハキハキと言葉を喋り、人を捜しながらでも気分は沈めず、士気を高めるには持ってこいな彼女が、スターと呼ぶもう一人の子に首を傾げながらそう尋ねる。

 

「把握っ……それじゃあ、付いてきて、サニー」

 スターと呼ばれた妖精が目を開き、サニーと呼んだ妖精にウインクをすると、落ち着いた声色でそう言葉を発し、先導するように蝶のような羽を動かし、高度を下げながら移動し始めた。

 

「ルナ……急に居なくなった分の話はたっぷり聞いてやるんだからっ! ……あっ、待ってスター!」

 サニーはそう大きな声で言い、笹の葉のような羽を一度羽ばたかせると、優雅に降りていくスターを追いかけるよう、スターの後を追い始めた。……ルナ、と呼んでいる妖精は勝手に行き、二人の手を煩わせている……再開したら、何か文句の一つや二つ、それと心配の言葉がルナに突き付けられるだろう。……ルナにも事情と言うものがあったが…………。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。