デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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 ……世界中を回る話が最初に考えていた展開と変わっていて個人的に驚いています。
特に本当はもう少し光子郎と仲良くなっていた筈なんですが何時の間にこんな事に……


047 黒幕

――――話し合いが終わり、デジタルワールドに向かう為に再び光子郎の家に戻って行く選ばれし子供達を僕は悲痛の眼差しで見届けた。

――その手にチンロンモンのデジコアを持ちながら。

 

 

 「――――皆さんにはブイモン……いえ、ウイングドラモンと一緒にデジタルワールドから各国に行って、ダークタワー及び迷いデジモンの対処をお願いしたいです。

そして、その間に僕はブラックウォーグレイモンと共に皆さんとは逆の方から世界を回ろうと考えています」

 

 先程僕がそう言った際、太一達は目を見開くような反応を見せた。が、それも当然かもしれない。

今世界中でデジモンの騒ぎが起きており、一刻も早くそれに対処しなければならない状態の上、ここにはミミとパルモンを除く全ての戦力が集まっている。なのに僕は二手にしか別れないと言ったのだから……信じられないと思われるのも仕方が無いのかもしれない。

 

 が、選ばれし子供達はそんな作戦だと言うのに頭ごなしには反対してこなかった。

……恐らく理解はしているのだろう。この方法が一番安全で確実だという事を。

 

 ……本当なら僕が今この場でアグモンをメタルグレイモンに進化させ、もう一つのチームとして海外に向かって貰うのが戦力的にも効率的にもいい作戦だが、それを実行する事は避けたかった。

理由は簡単で、メタルグレイモンの姿のまま海外を人に見つからない様に探索する事が不可能だからだ。

いくら各国が危険な状況とはいえ、そんな状態でメタルグレイモン程の巨大な生き物を引きつれて行動している集団が居たら確実に怪しまれるだろう。最悪の場合言葉が通じない事もあり攻撃される可能性も考えられる。

……もしもデジモンを一時的にしまえるような仮想空間があれば話が違ったが、ないモノの話をしても仕方が無い。……いや、もしかすれば光子郎なら作れたかもしれないね。

 

 とにかくそんな理由がある為、二手に分かれて貰うのが一番安全と僕は判断した。

ウイングドラモンと行動して貰う理由は単純に、ウイングドラモンが強く、長時間雲より上の上空を飛べる上、見つかっても追っ手を振り切れるほどの速さを持っているからだ。

上空に居るウイングドラモンとの連絡手段については光子郎ならいくらでも思い付くだろう。

更にそれに加え、選ばれし子供達に向かって貰う国は全て今の時間が夜の場所で、武力的では無いと言われる国々だ。

そこ等なら危険も少ないだろうしね。

 

 

「……本当に、本当にそれ以外の方法は無いの?

それに……守谷君は自分のパートナーと一緒じゃなくていいの?」

 

 

 太一達を何とか説得しようと考えているとヒカリにそんな事を尋ねられた。

やはり二手にしか別れないという作戦に不満があるのだろう。が、今はそれを押し通さなければならない。選ばれし子供達が少しでも危険にあう可能性を減らすためにも。

……それに選ばれし子供達はチンロンモンのデジコアという切り札を知らない。ならそれを黙っていれば押し通すのも難しくは無いだろう。ヤマトと空が動かなければの話だが。

 

 

「これ以外の方法は無い。

ウイングドラモンに関しては、僕自身それが一番だと考えた結果だ。

それに君達も、味方かも分からない暗黒の存在と出来れば一緒には居たくないだろう?」

 

 

 そう言って僕はヒカリに返した。

……ヒカリ自身は恐らくブラックウォーグレイモンと一緒に行動する事はあまり抵抗は持っていないと思うが、自分達側にそうしたくない人が居る事はなんとなく察しているのだろう。あまり強くは返してこなかった。

……それに僕としても選ばれし子供達とブラックウォーグレイモンを一緒に行動させたくなかった。……仲良くなればなるほどいずれ来る別れの時に悲しい思いをさせてしまうだろうから。

 

 

 そして最終的に太一達は僕の作戦に乗ってくれた。

僕はウイングドラモンの心配するような言葉に大丈夫と返しながら、光子郎のパソコンで先にデジタルワールドへ向かって貰った。

そして太一達は僅かに悲しそうな表情を浮かべながら自分達もデジタルワールドに向かうべく光子郎の家に戻って行った。

――ヒカリ一人を置いて。

 

 

「八神さん。君は行かないのか?」

 

「……守谷君。今世界中は大変な事になってるわ」

 

 

 ヒカリの突然の言葉に僕は疑問を覚えながらも言葉を返した。

 

 

「そうだな」

 

「急いで解決しなきゃ大変な事になるわ」

 

「……僕もそう思うよ」

 

「守谷君……本当に、本当に他に方法は無いの?

理由が合って出来ない作戦でもいいの。そうだとしても出来ない理由を言ってくれたら私達もちゃんと納得するから。だから何か方法があるなら……」

 

 

 ヒカリは目と言葉でそう訴えかけて来た。

……がここで無駄に希望を持たせる訳にはいかないと判断した僕はヒカリに無いと返した。

するとヒカリは悲しそうな表情を浮かべながらそっかと一言漏らし、リュックから何かを取り出して差し出してきた。

僕は疑問を浮かべながらもそれを見てみるとそれは―――――――

 

 

「……チンロンモンのデジコア。さっきゲンナイさんから預かったの。

守谷君が持ってた方が良いと思うから渡しとくね」

 

「…………君は、君達はこれがどんなものか知ってるのか」

 

「うん。だから守谷君に持ってて貰いたいの」

 

 

 ヒカリはそう言うと背中を向けて太一達の方に歩いて行った。

 

 

「――――私は守谷君を信じてるから」

 

 

 歩き去る前にそう言葉を残してから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はブラックウォーグレイモンの背中に乗りながら真昼の国を中心にデジモン騒ぎが起きている場所を回った。

各国に手助けに来ているゲンナイさんと同じ姿をしたホメオスタシス達と協力しながら現れたデジモン達をデジタルワールドへ送るべく僕達は出来る限りの事をした。

話を聞くデジモンは言葉での説得を。混乱していう事を聞かないデジモンには力での説得を。

悪意を持って暴れ、人間にデジモンという脅威を知らせようというデジモンには――同じく不必要な僕達からの裁きを与えながら僕達は世界中を飛び回った。

 

 ……原作には居た世界中の選ばれし子供達の手助けが無い為、一つの国の騒動を解決するだけでもかなりの時間がかかった。

時には僕達も敵と間違えられ発砲されたりもした。

……こういう国を回るのが僕でよかった。

 

 そしてまた一つの国に現れたデジモンを全て返した僕達は再び別の国に向かうべく飛んだ。

……さっきので騒動が起きてる真昼で、好戦的な国のデジモン騒動は片が付いた。後は今までに比べれば危険は無いも等しいだろう。そう思った僕は、心を落ち着ける為、ブラックウォーグレイモンに掴まりながらリュックからチンロンモンのデジコアを取り出し見つめた。

 

 

「……どうやら選ばれし子供達はオマエのそれ(切り札)の事を知っていた様だな」

 

 

 

 チンロンモンのデジコアを見つめているとふとブラックウォーグレイモンが視線を前に向けながらそう話しかけてきた。僕とブイモン以外の他の存在の話題を振って来ることに少しばかり驚きながらも僕は言葉を返した。

 

 

「そう、みたいですね」

 

 

「そしてオマエがそれを持っているのに使おうとしなかった事もな」

 

「……彼等にどう思われようと関係ないですよ。僕はこれをこんな(・・・)所で使う訳にはいきませんから。これを温存する為なら僕は彼等に外道と呼ばれようとも……勘違いされたって構いません」

 

 

 ……この場面まで来た以上、必要となれば選ばれし子供達に勘違いされても構わない。今成さなければならないのはヴァンデモンの完全消滅だ。その為なら……選ばれし子供達とデジタルワールドを守る為なら僕は何だってしなければならない。それこそが僕に出来るこの世界に生まれてしまった事に対する唯一の償いだ。

 

 

「……ふん、違うな」

 

 

 そんな決意を固めていると、ブラックウォーグレイモンがそう言葉を漏らした。

 

 

「なんですか?」

 

「違うと言ったんだよ。オマエには成すべきことがある。それはオレにも分かる。

だがオマエは――――それを本気で成そうとしていない」

 

「…………突然何を言っているんですか?」

 

 

 突然のブラックウォーグレイモンの言葉に僕は心の奥で溜息を付きながらそう返した。

……だがブラックウォーグレイモンがそう思ったのも無理は無いのかもしれない。

何故僕はこの世界で唯一理解されない、理解されてはならない存在(転生者)なのだから。

改めてそんな答えを自身の中で感じながら、口を閉ざしたブラックウォーグレイモンの方を向いた。

 

 

「言いたい事があるなら何でも言って貰って構いません。出来る限りは答えます」

 

「フン――――敗者のオレが今更勝者のお前に説教垂れるつもりなどない」

 

「……そうですか。貴方がそれでいいなら僕はそれで構いません」

 

 

 そう言ってお互い無言になりながら目的地へと飛んだ。

暫くそんな時間が続くと、突然ブラックウォーグレイモンが口を開いた。

 

 

「――――が、最期の時、まだオレがお前に掛ける言葉が残っていたのならオレはそれを言葉にしよう。負けおしみの様に笑いながらな」

 

「最期……」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの言葉に僕は僅かに俯いた。

……そうだ。僕はブラックウォーグレイモンの命を握っているのだ。

たった一度勝負に勝ったと言うだけなのに。

 

 

「……ブラックウォーグレイモン。もしも心残りがあるのなら……成し遂げたい事があるのなら行動を起こすという道もありますが」

 

「――――下らん。オレは、オレ自身の考えでこの場所に立っている。その結果が例え消滅だとしてもオレはそれで構わない。最期までオレの生き方を貫いて見せよう。それがオレの心が出した答えだ。

――――オマエはどうなんだ? 唯一無二の同志よ?」

 

 

 ブラックウォーグレイモンの問いに僕は、言葉を発せずに首を縦に振る事で答えた。

その時のブラックウォーグレイモンの表情はこちらを向いていなかった為察する事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、何とか世界中で起きたデジモン騒動をほぼ解決出来た僕は一足先に日本に戻っていた。

後残っているのは太一達が今いる国だけだ。メールを見る限り、問題なく解決出来そうらしい。

……今回の騒動の結果、形式上の死人は出ていない様だ。

少なくともホメオスタシスはそうだと、そうなるようにと行動するつもりのようだ。

彼等の手に掛かれば、恐らく数年もしない内に、世界中から今日の出来事に関する情報が抹消されるだろう。

……それまでは少なくとも表立って行動しすぎた僕はあまり日本を出ない方が良いかもしれないね。

 

 ブラックウォーグレイモンとも別れ、一人になった僕はそんな事を考えながら暇つぶしも兼ね太一達との待ち合わせ予定の場所に向かって歩道を歩いていると前から一台のトラックが走ってきた。何気なくそのトラックを見つめているとふとその運転手と目が合った――いや、目が合ってしまった。

……運悪くも僕はその運転手に見覚えがあった。主にデジタルワールドで。

 

 

「……今のはマミーモンか。という事はあのトラックには……」

 

 

 無意識に視線でトラックを追っていると、突然トラックは停止して、運転手とその助手席に座って居た女性――マミーモンとアルケニモンが降りてきてこちらに向かって歩いてきた。

……不味い、今はブイモンもブラックウォーグレイモンも居ない。ここで襲われたら終わりだ。

まさか今日こんな場所で遭遇するなんて思わなかった……

 

 

「あ、アルケニモン! やっぱりあのガキだ! ほらオレの言ったとおりだろ!!」

 

「何喜んでんだい! せっかくワタシ達の行動がばれない様に世界中にダークタワーを建てたのによりにもよって一番面倒なガキに見られたんだよ!」

 

「でもアルケニモン。今アイツ――デジモンを連れてないぜ?」

 

「――なんだって?」

 

 

 マミーモンの言葉を聞いて改めて僕の方を見るアルケニモン。

そして僕の近くにデジモンが居ない事を確認すると口元を僅かに釣り上げた。

 

 

「おやおや、パートナーが居ない状況でワタシ達と遭遇するなんてアンタは運が悪いね」

 

「……えぇ、本当に。出来ればこのまま見逃して頂きたいんですが……」

 

「ワタシ達がこんな絶好のタイミングを逃すと思うかい?」

 

「積年の恨みをここで果たしてやろうか!」

 

 

 僕の願いもむなしく、アルケニモン達は、ニヤニヤと笑いながらこちらにゆっくりと歩み寄る。

……僕がやられるのはまだいい。だが、今はダメだ。何故なら今の僕は原作の切り札であるチンロンモンのデジコアを持ってしまっている。ここで掴まったら確実に没収されてしまうだろう。

だから僕はここでやられる訳にはいかない。

 

 

「……ここで騒ぎを起こしてしまってもいいんですか?」」

 

「ああん? どういう事だ?」

 

「……貴方達は態々僕達を海外に追い出してまで日本で密かに行動を起こしたのにここで騒ぎ立ててしまったら誰かに感付かれるかもしれませんよ?」

 

「……あ、アルケニモン」

 

「騙されるんじゃないよマミーモン。今コイツの仲間は全員海外さ。ここで多少騒ぎを起こしたって問題ないよ」

 

「……確かにそうかもしれませんね。ですが一つ確認させてください――――その考えはトラックに乗っている貴方達の親玉も賛同なんですか?」

 

 

「「――――!!」」

 

 

 僕の言葉を聞いてアルケニモン達は立ち止まり、見るからに驚愕したような素振りを見せた。

……どうやらあのトラックにアルケニモン達の親玉……ヴァンデモンに憑りつかれた人間、及川が乗っている様だ。

……という事はやっぱりあのトラックには今日攫われれた人間達が……

 

 

「――――ほぅ、どうやらお前が噂の選ばれし子供のようだな。随分と勘が鋭い」

 

 

 突然そんな言葉がトラックのコンテナから聞こえ、コンテナの扉が開かれ、男が降りてきた。

 


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