僕のアルケニモン側に着くという宣言を聞いた数人を除く選ばれし子供達は信じられないといった表情を浮かべていた。
……どうやら殆どの選ばれし子供達は僕の事を純粋に仲間と思っていた様だ。
そんな底なしに優しい選ばれし子供達に僕は僅かに喜びながらも、直ぐにその考えをはらった。
「…………どうやらアルケニモン達は上手く逃げたみたいですね」
「……守谷君、冗談だよね? アルケニモン達に着くって?」
僕はヒカリの質問に答えずに、ブラックウォーグレイモンに一言、やれと命令した。
その言葉を聞いたブラックウォーグレイモンは、雄叫びを上げながらホーリーエンジェモンと、エンジェウーモンに襲い掛かった。
……選ばれし子供として戦うと決めた当初、僕は、選ばれし子供達とはそれ程関わりを持たないつもりだった。
理由は、原作に影響を与えたくなかったという理由が主だが、他にも理由はあった。
それは、僕自身が選ばれし子供達と敵対するような関係になる可能性があったから。
原作の展開上、D3を手にした時からその可能性はずっと頭に過ぎっていた。
……選ばれし子供達は優しい子供達だ。だからこそ、デジモンアドベンチャーが大好きな僕は、そんな彼等に仲間が敵に回るような思いはさせたくなかった。
……だというのになんだ。
今僕の視線の先には、僕の想像していたよりもずっと辛そうな、悲しそうな表情を浮かべている選ばれし子供達の姿がある。
「……取り敢えず全員でブラックウォーグレイモンを止めるぞ!
急げばまだアルケニモンを見つけられる筈だ!」
僕が敵に回った事に驚愕の表情を見せなかった内の一人の太一がブラックウォーグレイモンとホーリーエンジェモン達との戦闘を見ながらそう叫んだ。
全員が混乱する中、現状最も優先しなければならないアルケニモン達に連れ去られた人達の事を忘れずに、現状最も有効と思われる手を思い付くとは流石は太一と言えるだろう。
そう、現状デジヴァイスを持たない僕が、選ばれし子供達と真っ向から敵対出来ているのはブラックウォーグレイモンという戦力が居るからだ。
ブラックウォーグレイモンを倒しさえすれば僕は只の裏切り者の一般人に成り下がる。
太一の言葉を聞いてそれに気が付いたのか、またはただ言われた通りに行動しただけなのかは分からないが、残りの選ばれし子供達全員がデジヴァイスを光らせた。
そして成熟期へと進化した、グレイモン、ガルルモン、カブテリモン、バードラモン、イッカクモン、アクィラモン、アンキロモンは一斉にブラックウォーグレイモンに向かって行った。
こうして1対9という一見圧倒的に不利な戦いが始まり、そしてすぐに終わりを告げた。
「ごめん……」
最後に残ったグレイモンは、ブラックウォーグレイモンの一撃を喰らい膝をついていたが、遂に地面に倒れ込みコロモンへと退化した。
……1対9という一見圧倒的に不利な戦いの上、何度かホーリーエンジェモンの攻撃も喰らっていたが、終わってみればブラックウォーグレイモンの圧勝だった。
寧ろ成熟期という中途半端な戦力が複数いたせいでホーリーエンジェモンとエンジェウーモンは思った通りの戦いが出来ていなかった印象だった。
……いや、それ以上に選ばれし子供達が戦いに集中しきれなかったのと、パートナーデジモン達が僕自身見た事が無い程必死過ぎたのが大きかったかもしれない。
「う、嘘でしょ……」
「……ホーリーエンジェモンとエンジェウーモンが居ても勝てないのか」
グレイモンが倒れる姿を自分のパートナーを抱きかかえながら見ていた、空と丈は驚愕の声を上げた。
……三年前の戦いを知る者からしたらこの二体が闇の存在に負ける姿が信じられないんだろう。
確かに二体の攻撃力自体は、見た感じかなりのものだったが、ブラックウォーグレイモンの方がスピードがかなり速かったため、状況をひっくり返すような事は起きなかった。
……選ばれし子供達が……いや、タケルが本気でブラックウォーグレイモンを消滅させる気だったのなら話は別だったかもしれない。が、現実はそうではない。
圧倒的有利と思われた状況から大敗したせいで声も出ない選ばれし子供達を背にブラックウォーグレイモンと共にその場から立ち去ろうとした時、後ろから大声で伊織に話しかけられた。
「守谷さん!! ……貴方は以前、デジタルワールドを救う事が自分の使命だと言っていました! アレは嘘だったんですか!?」
予想外にも自分が敵にも回った事を一番怒っている伊織がそう尋ねて来たが、返す言葉が無い僕はただそれを無視してその場から去った。
side out
side選ばれし子供達
あの後、選ばれし子供達は幼年期まで退化した自分達のパートナーを抱きかかえて八神家に集まっていた。
理由は言うまでも無く先程あった出来事を話し合う為だった。
「…………」
だが、せっかく集まったというのに、選ばれし子供達は誰も言葉を発しなかった。
場の空気は今までにない程暗い。
そんな中、全員の気持ちを察した光子郎が、話しにくい空気を壊す為に先陣を切った。
「……皆さん、取り敢えず先程の出来事をまとめようと思うんですがよろしいですか?」
光子郎の言葉に半分ほどが無言で頷いた。
それを見た光子郎は、パソコンを取り出し、情報を打ち込みながら話し出した。
「今回の騒動で、最近この辺りで起きている誘拐事件がアルケニモン達の仕業だという事が確定しました。
……どうやら先日のダークタワーの騒動は、僕達を日本から出すためのものだったようですね」
「……成る程、僕達が日本を離れている内に皆を攫う事が目的だったのか。……今回の敵は随分と頭の回る奴なんだね」
「そうですね。僕達を強く警戒しているという意味では――ヴァンデモンに並ぶ強敵である可能性が高いですね」
丈の言葉に光子郎はかつて自分達を追い詰めたヴァンデモンの事を思い出しながら言葉を返した。
ヴァンデモン……それはかつて光子郎達を追い詰めた強敵。
今までの敵とは全く違い、覚醒前の選ばれし子供を殺しに人間界に行く、東京を霧で封鎖、人間達を集める等の行動を起こして力を高めようとした……等と今までの敵からは考えられない様々な行動を起こしたデジモンだった。
光子郎は今回の黒幕はそんなヴァンデモンに匹敵する程厄介な敵だと考えてえていた。
「…………ヴァンデモン」
ヴァンデモンと言う言葉を聞いてそう呟いたのは、かつてヴァンデモンの手下として行動していたテイルモン。
テイルモン自身、ヴァンデモンには良い思い出は全く無く、それどころかかつて唯一の友だったウィザーモンを殺されたことを思い返し、無意識に両手を強く握っていた。
「……アルケニモン達が人間達を攫っているのは恐らくヴァンデモンの時と同様力を蓄える為でしょう。
敵が完全に力を蓄え終わる前に何としてでも居場所を付き止めなければいけません。
……ですが、その期限は残念ながら明日が濃厚です」
「……守谷君があの大人の人と話していた内容から察するに、ですよね?」
「……はい。あの人が何者かは分かりませんが、アルケニモン達側である事は明白です。
操られている操られていない以前に、とにかくあの人をアルケニモン達から引き離す必要がありますね」
タケルの言葉に光子郎は、そう返すと、場は更に暗い空気で支配された。
……アルケニモン達と一緒に居た人間の大人が重要人物だという事は全員が分かっていた。
本当ならこれからその男について調べるのが、正しい行動だと誰もが理解していた。
だがそれでも選ばれし子供達はそうしようとは思わなかった。いや思えなかった。
――それ以外の出来事のせいでそんな所では無かったから
「――――そしてブラックウォーグレイモンと、守谷君がアルケニモン側に着いて――――
「守谷はそんな奴じゃない!!」
光子郎が言い切る前にヤマトがそれを大声で遮った。
「あいつは……! 無口で普段は何を考えてるか分からない奴だけど……それでも、俺達を裏切る様な奴じゃない!」
「私もそう思うわ。
だって……守谷君は今までずっと私達を助けてくれたわ。
キメラモンの時だって、私達を巻き込まない為に嘘を付いてまで自分達だけで戦おうとしてた。
……アルケニモン達に着いたのもきっと何か理由がある筈よ!」
ヤマトに続き、空も同じように守谷が敵じゃないと強く主張した。
そんな二人の言葉に、選ばれし子供達の大半は、肯定も否定もする訳でも無くただ俯いた。
選ばれし子供達自身、守谷が本当に敵になったとは完全には思っていなかった。
が、それを表に出すにはあまりに守谷とのやり取りが少なかった上、守谷自身の怪しい行動を目にし過ぎた。
だからこそいくら心では守谷は敵では無いと思っていても、頭が敵である可能性もあると考えてしまっていた。
本当の意味で守谷とのやり取り、思い、覚悟等を聞けたヤマトと空とは状況があまりに違っていた。
ヤマトと空もそれを理解しているのか、最後には、守谷を信じてやってくれといった言葉しか伝えられなかった。
が、そんな場が更なる無言の空気で支配された中、ふと一匹のデジモンが手を上げた。
「――オイラは信じるよ、モリヤの事を」
「プカモン!?」
「――ワテもモリヤはんのこと信じてまっせ」
「…………モチモンも?」
予想外の二体の挙手に他の選ばれし子供達は勿論、そのパートナーである丈と、光子郎は驚いた。
ツノモンや、ピョコモン、コロモンが同意するのは誰もが理解出来る。
彼等もヤマト達と同様守谷と過ごした時間が長い分、そう断言する事に疑問は無い。
故に、プカモンとモチモンがそう思った事に対して誰もが疑問を覚えた。
そしてモチモンが手を上げた辺りで、コロモン達も自分達だって守谷の事信じてると挙手したりジャンプしてたりした。最終的に守谷を信じていると口にしたのはパタモンとテイルモンを除く太一達二代目選ばれし子供のパートナーデジモン達だった。
「……何故オマエ達はモリヤをそこまで信じてるんだ?」
迷いなく守谷を信じてると口にするコロモン達にテイルモンは純粋に疑問に思いそう尋ねた。
テイルモン自身も守谷が敵では無いと思ってはいたが、これまでの守谷の言動や行動を見て、もしかしたら敵にまわってもおかしくは無いかもと言った考えが頭に浮かんでしまっていた。
むしろ、ここ最近の守谷の問題に対する対応が早すぎて、もしかしたら初めから……と言った考えまで頭に過ぎってしまっていた。
それなのに自分と違って、真っ直ぐ守谷を信じると言ったコロモン達にテイルモン……いやテイルモン達は疑問を隠せなかった。
そんなテイルモン達の視線を受けながら、プカモンは話し出した。
「ジョウ達は知らないかもしれないけど、モリヤはオイラ達とだけで話す時は少し普段と違うんだ」
「普段と違う?」
丈の問いに今度はモチモンが話し出した。
「せや。プカモンの言う通りモリヤはんは、コウシロウはんらと居る時とワテらと居る時とでちょいと様子が違うんですわ。
ワテらデジモン達と居る時のモリヤはんは、なんというか距離感がちょいとブレブレなんですわ。
話の初めはコウシロウはんらと話す時と同じように距離を取る様な話し方をしとりますが、話を続けてると、偶に言葉使いが優しくなったりするんですわ」
「きっとモリヤ君はワタシ達デジモンが好きなの。
……でも普段は無理してそれを抑えてるんだと思う」
ピョコモンのそんな言葉に選ばれし子供達は純粋にそれが本当ならどうして普段はそれを抑えているのかと疑問を覚えた。
当然の疑問だった。
守谷が味方であるなら、何の気兼ねも無しにデジモンと仲良く話す事など簡単な筈なのだから。
故に、そうでないなら守谷はその時点から……と誰かが考え始めた時、コロモンが真剣な眼差しでピョンピョンと飛び跳ねて、少し前に来て話し出した。
「……ずっと皆で考えてた事があったんだ。どうしてモリヤはブイモンと二人だけで戦うのかって。
始めの頃はただ一緒に居られない理由があるのか、ただ照れ屋なのかって思ってた。
モリヤが超進化出来るって知ってからは、皆の成長を邪魔しない為なのか、それとも本当は足手まといと思われているのかって思ってた。
……でもなんかそうじゃない気がした。だからずっと理由を考えてた。
――――それで今日のモリヤの行動を見てようやく分かったんだ」
「……何が分かったんだ?」
太一の質問にコロモンは悲しげな表情で返した。
「……モリヤは多分、初めからボク達とこうなるって事が分かっていたんだ。
だから僕達とあまり関わろうとしなかったんだ。
――何れ敵対する事になった時にボク達に仲間と戦うっていう悲しい思いをさせない為に」
この回はかなり内容に悩みました。
駆け足ですいません。
次回はちゃんと戦闘描写を入れると思います。