及川が出現させたゲートを潜った先――――そこには『異世界』が広がっていた。
命を感じない花が咲き乱れ、異様なオブジェの様な物が浮かび、まるでこの世界を閉じ込めるように四方が鏡の様な壁で阻まれた世界。
その光景に選ばれし子供達は声も出なかったが、一つだけ全員が理解出来た事があった。
それは、この世界が『デジタルワールド』では無いという事だ。
「な、なんだこりゃ!? ここは一体どこなんだ!?」
選ばれし子供達と同じようにこの世界がデジタルワールドでは無いと気付いた及川は、必死に辺りを見回してデジタルワールドへの道を探す。
が、そんな道は何処にも見当たらない。
「どうしてだ……どうしてなんだ!」
「――――お、及川様、奴らが追いかけて来ましたよ! ……及川様!!」
自分達の後を追ってきた選ばれし子供達に気付いたアルケニモンが、必死に及川に指示を仰ぐが、返事は帰って来ない。及川は、ただただ頭を抱えながら辺りを見回し続けていた。
「やっと……やっと来られたと思ったのに――どうして……どうして!!」
選ばれし子供達は、自分達が近づいても一切反応を見せない及川に、何とも言えない表情を浮かべながらも、改めて辺りを見回す。
「本当にこの世界はどこなの?」
「どこって……やっぱりデジタルワールドじゃない事は確かね」
ヒカリの呟きに、京は現状唯一把握している事実を口に出しながら考えるが、答えは出ない。
そんな京に、光子郎が続けた。
「……恐らく、ブラックウォーグレイモンの光が丘のゲートの封印が関係しているんでしょう。
そのせいで、全く別の世界に迷い込んだのかと。……そうですよね、守谷君?」
「……今はそんな事を気にしている場合じゃないですよ。
皆さん、そろそろ来ますよ」
守谷の返答と同時に、及川はフラフラと体を揺らしながらも、異世界の空を見上げた。
「くぅぅぅ……俺は、俺は――――デジタルワールドに行きたかったのにぃ!!!!
どうして……どうし―――――
『クックック……忘れろよ。デジタルワールドなんて』
及川が、言葉を続けようとしたその時、それを遮るように空中に謎の大きな口が出現した。
『もっといい世界がある。ここさ。偶然辿り着いた場所だが、こここそオレが君臨するに相応しい場所。
クックック、素晴らしい世界だ』
「お、俺の声の様に聞こえるが、空耳か?」
『空耳なんかじゃない。オレはオマエさ』
「――――ついに姿を現したな、『ヴァンデモン!!』」
空中に浮かぶ謎の口が、続いて言葉を続けようとしたが、
それよりも早く耐えきれなくなったテイルモンが、一歩前に出ながらその謎の声の正体の名を呼んだ。
守谷との約束を破るテイルモンの突然の行動に、選ばれし子供達はハッとしながらも守谷の方を向いたが、守谷からの非難の声は無かった。
「ここまで来たら、もう大丈夫ですよ」
小さくそう返した守谷に、選ばれし子供達はホッとしながらも、
気持ちを入れ替え、自身のデジヴァイスを取り出して構えた。
『……なんだ、既にそいつからオレの正体を聞いていたか。つまらんな』
「昔から執念の深い奴だとは思っていたが、ここまでだったとはな……
だが今度こそ闇に葬ってやる!!」
『無理だな。オレは昔のオレじゃない。それに――――フッフッフ』
ヴァンデモンは謎の笑みを浮かべながら、空中に浮かぶ、自身の口の幻覚を消し去る。
すると、今まで半信半疑で話を聞いていた及川が突然、苦しみだし、そして――自身の口から謎のエネルギー体を吐き出した。
謎のエネルギー体は、及川から飛び出すと、集まって形を成し、吐き出した及川と同じ姿になった。
そしてもう一人の及川――ヴァンデモンは、邪悪な笑みを浮かべながら、自身を無理やり吐き出させたせいで今にも命が尽きそうな及川に労いの言葉をかけた。
「ここまでご苦労だったな」
「あ、ああ……」
「オマエのお蔭でオレは奴らに復讐を――デジタルワールドを支配する目的が達成できそうだ」
「あ、あ……お、俺のせいで、デジタルワールドが……?」
「クックック……! そうだ! オマエのせいだ!!全部オマエのせいだ!!」
「そ、そんな……」
ヴァンデモンの言葉を聞き、絶望した及川は、膝から崩れ落ちる……寸前で、ヴァンデモンに受け止められた。
「オレはオマエには随分世話になった。その礼と言ってはなんだが、オマエに返してやろう。
――――知れ、オマエの大事な大事な友が、生前守り続けたモノに自分が何をしたのかを」
ヴァンデモンのその言葉と共に、及川の封じられた、ヴァンデモンが表に出ていた際の記憶が呼び覚まされる。
――
――
――――
及川悠紀夫は、声にもならない声を微かに上げながら地面に倒れた。