デジモンアドベンチャー0   作:守谷

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 久々の主人公視点です。


060 歓喜

side守谷

 

 

「及川さん!」

 

 

 及川さんの口から及川さんの姿をしたヴァンデモンが飛び出した辺りから、動揺で動きが取れなくなっていた選ばれし子供達だったが、地面に倒れた及川さんの姿を見て、初めに我に返ったタケルが駆け寄ろうとしたので、僕は手で行く手を塞いだ。

 

 

「無駄だ。彼はもう長くない。ヴァンデモンが表に出た際にほぼ全てのエネルギーが抜き取られたんだろう。

…………それにヴァンデモンに幻覚を見せられている。

自力で抜け出す体力が無い以上、もう生きている間に正気に戻る事は無いだろう」

 

「…………」

 

「……今お前達が成すべきは、全ての元凶であるヴァンデモンを倒す事。

――――そうだろ?」

 

 

 僕はタケルに半分嘘を付きながらそう促す。

……及川さんには悪いが、もう助からないのは真実だ。

今はそれよりもヴァンデモンを倒す事の方が先決だ。

 

 僕の言葉に渋々ながらも納得したタケルが、

決意を決めた表情を及川さんの姿をしたヴァンデモンに向けると、ようやくかと言わんばかりにヴァンデモンは構えた。

 

 

「――――話し合いは済んだか? ならそろそろ恐怖のショーの始まり……と言いたい所だが、

まずオマエには褒美を与えなければならないな」

 

 

 ヴァンデモンは構えを解きながら、僕の方を見た。

……どうやらまだ僕の事を仲間と思っている様だ。

 

 

「オマエの協力もあり、オレは予定通り計画を遂行する事が出来た。

礼を言おう。オマエには約束通り、オレの右腕の座を与えてやろう」

 

「すいませんが、遠慮しておきます。ここまで来た以上、これ以上貴方に協力するつもりはありません」

 

「――――なに!?」

 

 

 僕の返答があまりに想定外のものだったのか、ヴァンデモンは目を見開いて驚愕の表情を浮かべたが、すぐさま我に返り、今度は困惑の表情を浮かべながら僕に投げかけた。

 

 

「オマエは所詮選ばれし子供。初めから然程の信用などしていない。

…………だが、何故よりにもよってこのタイミングで裏切る?」

 

 

 ……ヴァンデモンが困惑するのも無理はない。

現状、ヴァンデモンは多くの人間達から蓄えた力によって完全復活していて、

少なくとも本人は、選ばれし子供達を正面から倒せる程の力があると思い込んでいる状態だ。

そんな状況で態々僕が裏切る意味が全く理解出来ないのだろう。

 

……つまり、ヴァンデモンが言いたいのは、何故このタイミングで裏切るのか?

裏切るにしてももっと有効なタイミングがあっただろうという事だろう。

……だがそんな事を一々説明するつもりは無い。

 

僕がそうやってヴァンデモンの質問に答えずに頭を巡らせていると、

ヴァンデモンは溜息を付きながらポケットからあるモノを取り出した。

 

 

「あれは――守谷のD3か? ――――何をするつもりだ!!」

 

 

「何って――――こうするのさ!!」

 

 

 ヴァンデモンはそう言うと、僕のD3を思いっきり地面に叩きつけた。

D3は以前僕が地面に投げた時とは違い、粉々に砕け散り、そしてその小さな破片が僕の足元まで飛び散った。

 

 

 

「そんな……ひ、酷い……!」

 

「オレを裏切るからこういう事になるんだ! 黙ってオレに従っていれば返してやったのにな!」

 

 

 

 その光景を目にしたヒカリ達はヴァンデモンの行動に信じられないと言わんばかりの声を漏らしながらヴァンデモンの方を睨む。

が、ヴァンデモンはそれを楽しむかのような笑みを浮かべながら裏切った僕に対して嘲笑うような言葉を向けた。

 

 そんなヴァンデモンに対して僕が取ったのは――大きな溜息だった。

 

 ……正直に言って僕もチビモンもD3が無事に戻って来るなんて思ってはいなかった。

むしろもう二度とお目に掛かれない前提で話し合いを済ませていた。

 

 だからこそ今から僕が取る行動は、自分の為では無く、心底同情するような視線を向ける選ばれし子供達に向けての行動だ。

……僕なんかの心配よりも、目の前のヴァンデモンとの戦いに集中して欲しいからね。

 

 僕は足元の小さなD3の欠片を拾いながら選ばれし子供達の方を振り向く。

 

 

 

「大丈夫ですよ。僕もチビモンもとっくの昔に覚悟していた事ですから」

 

「で、でも守谷君はあんなに選ばれし子供として頑張ってたのに……」

 

「……例えD3を失っても、仮に選ばれし子供じゃなくなったとしても、これまでの僕の行動も、消えたりしませんし、チビモンとの絆がなくなるわけでもないですよ」

 

「オレ達は何があってもパートナーだからね!」

 

 

 京の言葉に僕達はそう返しながらヴァンデモンの方を見つめる。

そんな僕達の反応に、ヴァンデモン自身も僕達の言葉が嘘では無いと感じ取ったのか、

つまらないと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

 

「……今更僕達が戦えなくなったからと言ってこの戦いにそれほど影響は出ないですよ。

貴方を倒す事なんて彼等だけで十分です」

 

「フン、戯言を。――ならオマエ達に絶望を、真の恐怖というものを堪能させてやろう!」

 

 

 ヴァンデモンがそう告げると、次の瞬間、自身の作り出した体を破くように内側から真の姿を現した。

 

 突然の変化に選ばれし子供達は一瞬呆気に取られたが、すぐさま我に返り、自身のパートナーを進化させる。

 太一さんとヤマトさんもヴァンデモンの真の姿を目にし、温存している場合では無いと瞬時に理解したのか、僕が事前に渡したチンロンモンのデジコアを取り出し、その力を使ってアグモン達を究極体――――『ウォーグレイモン』と『メタルガルルモン』へと進化させ、戦闘態勢に入った。

 

 ―――――――1番正気に戻るのが遅かったのは僕の方だった。

 僕は、目の前の状況に絶望こそしなかったが、心底驚愕した。

そして、最後の最後。原作のラストバトルというこの状況で初めて――――原作改変が、いい方に転んだ事を理解して思わず口元をにやつかせた。

 

 正体を現したヴァンデモンの真の姿は、

僕が想定していた原作の最後のヴァンデモンの最終形態――『ベリアルヴァンデモン』では無く、

その下位互換と呼べる究極体『ヴェノムヴァンデモン』だった。


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