ストライク・ザ・ブラッド ~真紅と紺碧の薔薇~ 作:RedQueen
今回の『ストライク・ザ・ブラッド ~真紅と紺碧の薔薇~ 』は二作品目となる投稿なのですが、どうか温かい気持ちでお読みなさってください。
では、本編をどうぞ。
I、始まり
太平洋上に浮かぶ小さな島。カーボンファイバーと樹脂と金属と、魔術によって造られた人口島。その名は
真夏の今日、街の中ではある都市伝説の噂が飛び交っていた。第四真祖と、“
真夜中の薄暗い屋上、壊れかけの電灯に照らされる一人の少年が少しほこりかぶった床に寝転がっている。十五、六のように見える少年は真っ暗な空に点々と輝き続ける星ぼしを眺めながら幾度となく耳にささやかれるある噂にふと笑いをこぼす。
この街では第四真祖の噂とはまた別のある噂が広まりつつあった。
無尽蔵の魔力と底なしの力を誇り、決して滅びず、孤高の殺戮者として世界に恐怖と絶望を振り撒いた化け物なのだと。何万もを相手にして傷一つ負うことなく、圧倒的な力で破壊をもたらし、自我の欲求に左右されるがままに殺戮を繰り返す吸血鬼なのだと。使役する眷獣は数知れず、かの真祖とも互角以上に渡り合った正真正銘の化け物なのだと。
真夏の森、深夜の拝殿にていかにも真面目そうな少女と
「では、
御簾の向こうからの若い女の声に、姫柊雪菜という名の少女は息を呑み少し沈黙した後に言葉を発する。
「焔光の夜伯のことですか? 十二の眷獣を従える、四番目の真祖だとー」
「そのとおり。一切の血族同胞を持たない、唯一孤高にして最強の吸血鬼です」
第四真祖 “
魔族に関わりを持つ者であれば、知っていることが当たり前な名。
なにせ、世界最強の吸血鬼の肩書きなのだから。
「ですが、第四真祖は実在しないと聞いています。ただの都市伝説だと」
闇の血族を統べる帝王、もっとも古く、もっとも強大な魔力を備えた “始まりの吸血鬼”、それが真祖だ。数千数万の軍勢を従え、それぞれの真祖によって三つの大陸に自治領である
「たしかに、公に存在が認められている真祖は三名だけです。欧州を支配する “
「はい。ですが、それだけでは第四真祖が存在しない、という証明になりません。京都で起きた爆発事故、四年前のローマの列車事故、中国での都市消失事件など数多くの事件のあらゆる証拠が、四番目の真祖の実在を示しています」
女の口から発せられたいくつかの事件、それらは大量の死傷者を出した凶悪な大規模テロ事件だった。
青ざめる雪菜に女が告げる。
「第四真祖、彼の所在はある程度は確認できています。そこは東京都絃神市ーー
「第四真祖が、日本に・・・!?」
女の言葉に、雪菜はしばし絶句した。
そんな雪菜を気にせずに女は有無を言わさぬ口調で告げる。
「それが今日あなたをここに呼んだ理由です、姫柊雪菜。獅子王機関 “三聖” の名において、あなたを第四真祖の監視役に命じます」
「わたしが・・・第四真祖の監視役を?」
「ええ。ですが、姫柊雪菜。あなたが気を付けなければならないのは決して第四真祖だけではありません」
「第四真祖だけではない・・・?」
「あなたも小耳にはさんだことがあるかもしれませんが“闇夜の暴君”という吸血鬼がこの世に存在していました。彼は第四真祖よりも厄介で恐ろしく、真祖すら凌駕する絶大な魔力を持つ吸血鬼です。過去に何度か獅子王機関との闘争記録が残されていますが、彼に勝つことはおろか止めることすらできずに敗れています」
その真実に雪菜はまたも絶句した。
真祖とはもっとも強大な魔力を備えた “始まりの吸血鬼” のはず。その真祖すらも越える魔力を持つ吸血鬼となると彼も真祖だというのだろうか。
「それに数十年前まで東アジアには真祖、“
「えっ・・・!?」
「あなたが知らないのも無理はありません。これは限られた者にしか知らされていない機密情報ですから」
「は、はいっ」
「ですが、ある事件を境にその情勢は崩壊しました。真祖は消滅し、生き残りはたった一人、この事件の根源にして真祖を喰らった“同族喰らい”、今となっては“闇夜の暴君”と言ったほうが正しいでしょう」
「真祖喰らいの、吸血鬼・・・まさか、彼までも日本に?!」
「確証は持てません。彼は何十年か前に突然として姿を消し、これまで消息不明となっていたのですが、最近になって彼に似た魔力が同じく絃神島にて検知されました。ゆえに彼がいまだ存在することは高いかと」
真祖すらも越える魔力となるともはや彼以外にはあり得ない。
最悪の場合、第四真祖と戦いになったとすれば絃神島が無事に済むは保証ない。
ましてや雪菜は見習いの身。どちらも倒せるほどの力量も持ち合わせていない。
しかし誰かがやらなければ大勢の人々が災厄に見舞われてしまう。
「“闇夜の暴君”の警戒を決して怠らず、まずは全力をもって第四真祖に接触、行動を監視するように。彼のことに関してはこちらも極力慎重にやらせていただきます、姫柊雪菜」
その言葉に、姫柊雪菜は音もなく静かに首を縦にふるのだった。
人が飲み食いするファミレス、そのドリンクバーで
わざと行動を遅くして余分に冷気で涼しんでからテーブル席に座る。
制服の上から青一色のコートを羽織り、頭にはちっぽけなシルクハットをかぶった高校生らしからぬ服装をしている。整った顔立ちをしており、きちんと礼儀よい仕草を心がけていることで紳士に見えなくもない雰囲気が漂っている。
隣では白いパーカーを羽織った友人がテーブル席にぐったりと突っ伏している。それなりに作りのいい顔に気怠げな表情が浮かび、眠たげに細められた目のせいで、ふて腐れたようになっている。
「熱い・・・焼ける。焦げる。灰になる・・・」
その友人、
八月の快晴。外気温はとっくに体温を越えていることに加え、彼は窓際の席。日光を遮るものがないと言えば嘘のなるが、あまり効果はないので強烈な陽射しが容赦なく彼を襲う。
「そのぐうたらっぷり、もう灰になってんじゃねえか」
「剏のいうとおり、本当に灰そのものだな」
気軽げにそう呟くと、賛同するように言ってきたのは短髪をツンツンに逆立てて、ヘッドフォンを首にかけた男子生徒、
「そのまんまじゃあ、追試に間に合わないぜ。今夜一睡もしなけりゃ、まだあと十七時間ぐらいはあるけどな」
「さすがにそれは厳しすぎるでしょ」
矢瀬の無茶ぶりに、古城の正面に座っていた友人、
華やかな髪型と、校則ギリギリまで飾り立てた制服。とにかく目立つ容姿の姿の女子なのは違いないが、常のニヤニヤ笑いのせいか、色気はあまりない。
そこで積み上げられた教科書を眺めていた古城がふと言葉を発する。
「なあ・・・こないだから薄々気になってたんだが」
「どした?」
「なんで俺はこんな大量に追試を受けなきゃなんねーんだろうな?」
自問するような古城の呟きを聞いて、友人二人が顔を上げ剏もまた哀れむような視線を古城へと向ける。古城が命じられた追試は、英語と数学二科目ずつを含む合計九科目に体育実技のハーフマラソン。逆の意味でよくここまで佳境に落ちれたものだ。
「ーってか、この追試の出題範囲ってこれ、広すぎだろ。こんなのまだ授業でやってねーぞ。おまけに週七日補習ってどういうことだ。うちの教師たちは俺になんか恨みでもあるんか!!」
「いや・・・そりゃ、あるわな。恨み」
「あんだけ毎日毎日、平然と授業をサボられたらねェ。舐められてるって思うわよね、フツー・・・おまけに夏休み前のテストも無断欠席だしィ? まったく、少しは剏を見習いなさいよね。成績は
優雅に爪の手入れをしながら、浅葱が笑顔で言いきる。
「なんでそこで剏が出てくるんだよ?」
「・・・俺が知るかよ」
シルクハットの歪みを整えていた剏が、少々ぶっきらぼうに言い返す。
「それにあれは不可抗力なんだって。いろいろ事情があったんだよ。だいたい今の俺の体質に朝イチのテストはつらいって、あれほど言ってんのにあの担任は・・・」
寝不足で目がかすかに血走った古城が苛ついた口調で言い訳する。
「体質ってなによ? 古城って花粉症かなんかだっけ?」
古城の失言に、浅葱が不思議そうに訊いてくる。
「ほら、古城って朝に弱いからさ。仕方ないんだ」
「なによそれ? 吸血鬼でもあるまいし」
「だよな・・・はは」
引き攣った笑顔を浮かべる古城に、なにやら剏が小声で呟く。
「お助け料ってことで、よろしくぅ・・・今ならなんと缶ジュース一本」
「わかったから、小声は話しかけてくるのはやめろ」
はーい、と気軽な返答で安い取引を済まし満足した剏は手元にあったドリンクへと手を伸ばす。
「あたしは那月ちゃん好きだけどね。いいセンセーじゃん。出席日数足りてないぶん、補習でチャラにしてくれたんでしょ。それにあたしも、あんたを憐れに思ったから、こうして勉強を教えてあげたんだし」
「他人の金でそんだけ好き勝手に飲み食いしといて、そういう恩着せがましいことを言うな」
積み上げられた料理の皿を眺めながら古城が言うと、浅葱は眺めていた携帯電話をしまってジュースを飲み干し立ち上がる。
「もうこんな時間か。ごめん古城、バイトあるから。じゃね」
バイトの時間が近づいてきたらしく、浅葱は手を振って早々と店を出ていった。
「バイトってたしか、人工島管理公社だったよな。保安部のコンピューターの
「ああ、そうなんだよな。ったく、あの見た目と性格で天才プログラマーってのは反則だよなあ」
だらしなく頬杖をつきながら矢瀬がそう呟き、なにやら荷物をまとめ始まる。
「じゃあ、俺も帰るな。宿題も写し終わったし、俺のほうは一晩でどうにかなるしな。そんなことで剏、古城を助けてやってくれ」
他人事のように言い残し、矢瀬も店を後にした。
「やる気なくすぜ・・・」
「まあ、地道に頑張っていこうじゃないか。君ならできる、やれるんだ!」
「どこの家庭教師だよ、それ?」
簡素なジョークでほんの少しだけ和んだ空気の中、残りのジュースを一気に飲み干す。
「ほんじゃあ、帰りますか。ここにいても意味ねえしな」
「・・・ああ、そうすっか。凪沙のやつが、メシの支度を忘れてないといいんだが」
「凪沙ちゃん? 彼女なら問題ないっしょ、古城じゃあるまいし」
古城は教科書と問題集をカバンに放りこみ、伝票をつかんで立ち上がる。
自分の注文したぶんの金額を手渡した剏は、一足先に出口を通った。
眩い夕陽に立ち止まったその時、自然と制服姿の女子生徒が視界に映った。
黒いギターケースを背負い、身じろぎもせず交差点の向かい側に立ち続けていた少女が。
太平洋のド真ん中、東京の南方海上三百三十キロ付近に浮かぶ人工島、絃神島。ギガフロートと呼ばれる超大型浮体式構造物を連結して造られた、完全な人工の都市で、総面積は約百八十平方キロメートル。総人口は約五十六万人。
熱帯に位置し、常夏の島であるがそれ以上にこの島は魔族特区という名がある。
獣人、精霊、半妖半魔、人工生命体、そして吸血鬼。この島はある原因によって絶滅の危機に瀕した彼ら魔族を公認、保護していて、彼らの肉体組織や特殊能力を解析し、それを科学や産業分野の発展に利用する。そのために造られたのが絃神市なのだ。
「ーにしても、この暑いのだけは勘弁してくんねぇかな、くそっ」
パーカーのフードを目深に被り、古城は悪態をつく。
そんな古城の隣では若干暑さを無視するかのような衣装を羽織った剏が、またもハットの歪みを整えていた。
「そんなに気になるんなら、かぶってこなかったらいいじゃねえか」
「いやいや、駄目だよそんなの。これ、俺のトレードマークだからさ。つけないと不安だらけで引きこもりそうなんだよ」
暑さのせいか、もとからなのか、意味不明な解釈を言い出す剏に、古城はため息をつく。
本当なら今ごろモノレールで自宅へと帰宅するはずなのだが、なけなしの有り金を消費するわけにもいかない。あいにく今日に限って剏はドリンク代程度の小銭しか持ち合わせておらず、結局歩いて帰る選択肢しか俺たちにはなかった。
「で、さっきから気になってはいたんだがなあ。彼女、古城の知り合いか何か?」
悟られないように目線だけで背後を示すと、古城もすでに認知していたのか何気ない仕草で背後を確認し、面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「・・・知らん。そっちこそ物知りなんだから、知ってんじゃねえのか?」
「物知りって・・・俺を女好きみたいに言うな」
誤解されていたことに落胆しつつも決して剏は少女から目を離さないでいる。
ギターケースの少女は剏たちとは一定の距離を保って歩いている。
彼女が着ているのは浅葱のと同じ彩海学園の女子の制服。襟元がネクタイではなくリボンということは中等部の生徒なのだろう。
凪沙の知り合いだとしても、尾行をしている自体でそれも怪しく思えてしまう。
なぜ話しかけてこないのかは察知できなくもないが、あんな可憐な少女がそれ目的に近づいてくるとは到底思えない。
「なあ古城、ちょっといいか?」
「何だよ」
「もし、彼女の目的が古城だとしたら俺がいることで話しかけられない状況になってんのかもしれない。ということで一旦別行動にするぞ。俺はゲーセンに、古城はショッピングモールの外で様子見ってことで」
古城の返答も聞かぬままに剏は颯爽とショッピングモールに入り、入り口付近にあるゲームセンターのクレーンゲームに陣取る。位置取りがよかったため、外観もはっきりと確認できる。
外では平然を装った古城がゆっくりとした歩きでショッピングモールに近づく。うまいこと引っかかってくれたようで、少女が着々と慎重に距離を縮めていき、
「だ・・・第四真祖!」
古城が振り向いたことでお互いが正面で向き合ったその時、先に反応した彼女が上擦った声でそう叫び、重心を落として身構えた。
予想は当たってしまった。それも最悪なほうで。
「やっぱ、そっち方面だったか。くそっ」
あの少女が第四真祖という理由で古城を尾行していたとなると話は早い。
どういう訳があって古城を狙うかは知らないが、これまで古城のことを真祖呼ばわりしてきた連中にいいやつがいたためしがない。今回もきっとそうに違いない。
「こうなりゃあ、怪しまれないよう適当にあしらって退散しよう。彼女も俺が戻ってくるとさすがに冷静になってくれんだろ」
少女の判断に運をかけ、いざ合流しようとクレーンゲームから離れたその瞬間、興味をひく話題が背後から聞こえてきた。
「なあおい、あの子、可愛いじゃねえか。あんなガキより俺たちと遊んだほうがゼッテーお得だぜ」
「ちょっくら、誘ってみようぜ。金もたんまりあることだし」
どうやらあの少女をナンパしようと意気込んでいるらしい彼らは、いまいちなファッションだった。派手に染めた長髪に、あまり似合ってないホスト風の黒スーツ。
いい歳こいた奴が中学生なんかをナンパするな、と心底思いつつ古城たちのほうへ注意を払うとすでに古城の姿はなく、彼女だけが一人取り残されていた。
「ほお、古城のやつ、うまくまけたみたいじゃねえか。あと問題は・・・」
こいつらか、と口にする前にすでに男たちが彼女を口説こうと接近していた。
「ーねえねえ、そこの彼女。どうしたの? 逆ナン失敗?」
「退屈してるんなら、俺たちと遊ぼうぜ。俺ら、給料出たばっかで金持ってるからー」
中学生がナンパされる現場に出くわしたのも後味悪いものだったのだが、それ以上に厄介なことが目の前で起こっていた。それは彼らの手首に嵌められている金属製の腕輪、生体センサや魔力感知装置、発信器などを内蔵した魔族登録証。すなわち彼らは
下手して問題起こしたら、俺たちまで巻き込まれ可能性は極めて高い。
剏はいろいろとややこしくなる前に牽制すべきと、彼女の隣まで歩み寄る。
「あ、あなたは暁 古城と一緒にいた・・・!?」
「しー、ちょっと俺に合わせてくんない?」
男たちに聞こえない程度の小声でそう伝えると、少女は戸惑いながらも了承してくれたのか、はい、と返事を返してきた。
「なんだテメェは? いきなり現れやがってー」
男は剏を睨んだまま怒号を含んだ低い声で詰め寄る。
誘おうとした少女にいきなり別の男が乱入してきたことで苛立っているのだろう。が、そんなことは一切無視するかのように剏は演技を続ける。
「いやー、ごめんごめん。待たせちゃったかな?」
「あ、い、いいえ」
唐突なこともあってぎこちない会話となってしまい、
「おい、ガキのくそ芝居なんぞで騙されるほど俺たちはバカじゃねえぞ」
「調子こいてんじゃないぞ。そんなヘンテコな格好しやがって、バカも大概にしろよ。」
その時男たちは知るよしもなかったのだ。この些細な言葉がこの少年の逆鱗に触れる一歩手前だということを。自らを死の瀬戸際まで一瞬にして陥れる禁句であることを。
剏を無理に振り返らそうと片方の男が腕を掴もうとした次の瞬間、物凄い勢いの突風が男の腕を剏から払いのけるように吹き抜けた。
「・・・雑魚の分際で気安く触れるな、外道ども」
天の邪鬼を思わせる気楽さは一転してその口調も雰囲気も、先ほどまでの剏とは別人のような変わりようだった。
うぅ、第一話に戦闘シーンがなくて本当にすいません。
で、ですがね、次回はありますから。絶対ありますからっ!
では、次回またお会いしましょう。
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