真剣で俺たちで野球をしよう。チーム名はリトルバスターズだ! 作:あるく天然記念物
リトルバスターズが野球の練習を始めての二週間。
ついに、練習試合の日を迎えた。
天気は快晴。
グラウンドには既に対戦チームの風間ファミリーが整列していており、僕たちもホームベースへと向かう。
「よしっ、頑張ろう」
風間ファミリー7人。
リトルバスターズ8人(マスコット1体除く)
ついに両チームが揃った。
「よお、棗。ついにこの日が来たな」
川神先輩が猛禽類を思わせる視線を恭介へと向ける。
対する恭介は恐怖を感じていないのか、いつもの余裕綽々といった調子だ。
「あぁ、絶好の野球日和だな」
「棗、今日こそは私たちが勝たせて貰うぞ。お前が私の舎弟となるのが、今から楽しみだ」
「そうか。俺はこのチームがどこまでやれるかが楽しみだな」
「ふん、せいぜい私を楽しませることだな。ワンサイドゲームなんて、つまらないマネはやめてくれよ」
「あぁ、勿論だ。お前たちも含めて楽しいゲームにしてやるぜ」
恭介の言葉に満足したのか、川神先輩は何も返さず、満足そうな表情のままチームの元へと戻った。
「うむ。そろったようじゃの」
全員が改めて整列したところで、いつの間に居たのか川神学園長がたっていた。
なんでここに学園長が? と思い恭介の方を見ると、恭介が笑顔でピースしてた。
どうやら恭介が事前に審判として用意していたみたいだ。
川神先輩が「なんでここにクソジジイが!?」と言っている辺り、内緒で準備していたのだろう。
川神先輩の身内である学園長が審判を勤める以上、川神先輩も武術を駆使したラフプレイは控えるだろう。
相変わらずバトルに対して事前準備に余念がない。
「両者、よろしいか?」
「あぁ」
「勿論だぜ」
そんな審判である学園長の言葉に、恭助と風間が頷く。
「では、これより《風間ファミリー》対《リトルバスターズ》の野球対決を開始する!! お互いに礼!!」
「「「「「「「『よろしくお願いします!!』」」」」」」」
───ワァァァァァァァァアッ───
グラウンドに集まった生徒達からの歓声が響く。
僕たちは恭助とは風間を残し、それぞれベンチへと向かう。
残った恭介と風間が攻守にかんして、じゃんけんを行う。
「「じゃんけん────ぽん!!」」
結果は、
「よーし! 俺たちが先行だぜ」
「悪いなみんな、俺たちは後攻だ」
風間ファミリーが先行、僕たちリトルバスターズは後攻となった。
じゃんけんのあと、恭介は僕たちの元へと戻ってきた。
「さーて、お前ら。これまでの練習の成果を………って、何だよお前ら、ガチガチじゃねぇか」
戻ってくるなり、恭介がそんなことを言ってきた。
「またまたー」
まっさかー、と思って僕は回りを見渡す。
「……………」
「大丈夫………練習はしっかりしてきました…………」
『ファッ………ファイトだぜー、まゆっち………』
「うむ…………我としたことが、少々緊張してきたな」
「英雄様、申し訳ありません。私も少しだけ緊張しております」
「謙吾、今日の晩飯ってなんだ?」
「確か……さばの味噌煮…だった筈だぞ」
「んだよ、肉じゃねぇのかよ」
「真人………昨日は特別に験担ぎにを兼ねてトンカツをつくって貰っただろうが……」
マジだった。
なんか、相変わらずの真人と謙吾以外のメンバー全員が緊張していた。
何とかした方がいいのかもしれない。
だけど、僕にはその方法がいまいち思い付かなかった。
そんなメンバーと僕をみかねてか、恭介がある提案をしてきた。
「こういう時は、号令だ」
「号令?」
「あぁ。号令! いち! に! とか、やるだろ?」
中学生の頃にした記憶がある。
でも、なぜいまその話題を?
僕が頭に疑問を浮かべていると、恭介は何も聞かずに説明を続けた。
「あれは士気を高め、さらには各人の連帯感を高める精神効果がある」
「へぇー、そうなんだー」
初耳だった。
「よしっ、小雪、試しにやってみろ」
「うん! みんな、号令だよー!!」
恭介のアドバイス通りに、僕はみんなの前に立ち、号令をかけた。
「恭介ー!!」
「いち!!」
「京ー!!」
「に!!」
「まゆっちー!!」
「………ブツブツ………へ? あっ、はい! なんでしょうか?」
「松風ー!!」
『おいっす!!』
「英雄ー!!」
「あずみ、我が聞くところによると、緊張するときは手のひらに人という字を書いて飲み込むと効果的だぞ!!」
「あずみー!!」
「はい!! 流石です、英雄様!!」
「真人ー!!」
「…………すまねぇな、小雪。俺だけでも真面目に答えてやりてぇんだが……今、俺が何番なのかわかんねぇんだよ」
「…………」
なんか、試合前なのに……もうダメな気がしてきた。
「えっ、小雪? 俺には振ってくれないのか?」
あっ、素で謙吾のことを忘れていた。
「ごめんごめん………謙吾ー!!」
「きゅう!!」
はい、残念。
松風を入れて謙吾は8だ。それだと僕が10になってしまいます。
「バッチリだな………」
この状況に恭介だけが満足そうだった。
「僕は本気でやらなきゃよかったって思ったよ………」
「いやいや、回りをみてみろよ、小雪」
「えー?」
恭介の言うように改めて回りをみてみる。
「まゆっち、ちゃんと号令しないと小雪がかわいそうだよ」
「もも、申し訳ありません!!」
「あずみ、緊張はほぐれたか?」
「バッチリです、英雄様!!」
みんなが楽しそうに談笑していた。
表情が明るく、手足に震えなどは見られない。
「なっ、バッチリだろ」
恭介は僕に向けて笑いかけた。
僕も笑みを返す。
「うん…………確かに!」
相変わらず、恭介は凄いや。
いつだって、恭介は僕たちの不安なんて吹っ飛ばしてくれる。
「さぁ、お前ら試合…………いや、ミッションスタートだっ!!」
「「「「「「『おー!!!!』」」」」」」
恭介の号令のもと、僕たちはグラウンドへと飛びだす。
僕のポジションはライトだ。
グローブをしっかりとはめ、少しだけ腰を落とす。
これで準備万端だ。
「よーし! 一番バッターは俺だ!!」
風間ファミリーからリーダーの風間がバッターボックスへと立つ。
「プレイボール!!」
学園長の掛け声と共に、風間ファミリーの攻撃から試合が始まった。
「かるーくホームラン目指すぜ!! こい!!」
「………(クイッ)」
「………(こくっ)」
あずみから指示を受け、京はぐっとボールを構えた。
「しっ……」
弓道と同じように精神を研ぎ澄ませ、第1球を投げた。
─────シュバッ!!
「うぉわ?!」
─────バシッ!!
京が放ったボールがキャッチャーミットへと吸い込まれる。
風間は反応できないでいた。
「ストライーク!」
「ちょっ?! 素人が出す速度じゃねぇだろ?!」
京の投げたボールの速度に、風間が悲痛の声をあげた。
それに続くように、風間ファミリーからも声が上がる。
「スッゲー、俺様の目でも捉えきれなかったぜ」
「ガクトが見えないなら、僕はお手上げだね」
「椎名京………美少女にして、なかなかの肩を持つな。そるじゃないか」
「姉さんは今のがどれくらいのスピードか分かるの?」
「何だ? 弟は分からないのか。だが、それも仕方がないな。先のあれは約150キロは出ていた」
「150キロ?! 本当なのお姉さまっ。それってプロ並みじゃないっ」
「犬の言う通りだ。これが野球始めたての、素人に近い彼女が投げるとは」
ここからでも、風間ファミリーのベンチでは京の投球スピードに多種多様なリアクションが見て取れた。
どうやら相手チームの度肝を抜いたみたいだ。
「………よしっ。今日も調子がいい」
「京よ!! 調子がよくても、無理だけはするなよ!!」
「分かってる────よっ!!」
ショートにいる英雄の注意を聞きつつ、第2球を投げる。
「よーし…………やっぱり無理ッ!!」
─────ズバン!!
再びど真ん中をボールが突き抜ける。
先ほど違い、バットを振った風間。だが、バットはボールをかすることなく振り抜けてしまった。
「ツーストライク!!」
「ちくしょう。いきなり追い込まれちまったぜ。だが、タイミングを掴めればこっちのもんだぜ」
構える風間。その姿には自信が溢れている。
あずみは英雄の方を見た。
「………(こくっ)」
英雄は首を縦に振った。
そしてあずみは京へと指示を出す。
その指示に、京は軽く頷きを返した。
「りょーかい。軸足は後ろ───にっ!!」
─────ビュン!!
「貰った!!」
風間は先の二回から今回もストレートと考え、思いきり振った。
─────バシン!!
「あら?」
だが、そのバットは三度ボールを捉えることはなかった。
目が点になる風間。
それは見ていた風間ファミリー全員が同じだった。
そんな中、川神先輩だけが楽しそうに呟く。
「フォークボール………器用なことをするもんだな」
京があずみとの特訓で手に入れた変化球の一つだ。
さらに手先の器用な京は変化球であろうと投球スピードに変化はない。
バッターにとっては相手にしたくない存在だろう。
「スリーストライク!! バッターアウト!!」
「ちくしょー!! モロ、俺の分まで頼んだぞっ」
「無茶言わないでよ、キャップ…………」
続く二番バッターは師岡だ。
既に京の投球スピードに気圧されていた。
おっかなびっくりな様子で構える師岡。
結果は言うに及ばす。京は三球ともストレートで終わらせた。
「スリーストライク!! バッターアウト!!」
「やっぱり僕には無理だって………」
「任せとけよ、モロ。俺様がビシッと決めてきてやる!!」
三番は島津だ。
自信満々にバットを構えるが、早々に京の投球スピードには慣れないだろう。
さらに相手には変化球があると脳裏に植え付けられている。
となれば、相手は振り遅れるか、焦って手を伸ばすはず。
日頃からモテたいと騒ぐ筋肉バカならば答えは、
「なぁっ?!」
焦って手を伸ばしてしまう、だ。
ボールは高く上がり、山なりの軌道でセンター方向に落ちてくる。
典型的なセンターフライだ。
「小雪、行ったぞ!!」
「おっけー!!」
英雄からの指示で僕は動き、余裕でキャッチする。
「取ったどー」
「アウト!! スリーアウト、チェンジじゃ!!」
「なぁああああ────!!」
初回の攻撃は京の活躍もあり、三人ストレートで守りきった。
攻守交代。
次は僕たちが攻める番だ。
「よーし、筋肉さんがきっちり決めてくるぜ!!」
『『井ノ原くーん! 頑張ってー!!』』
リトルバスターズの一番は真人だ。
バトルランキングの時もそうだが、真人には一定数の女性ファンが存在する。
今回も黄色い声援を浴びている……が、
「………小雪? 応援してくれねぇのか? もしかして、俺の活躍なんか期待していないのか?!」
「違うよー。真人、心配いしなくても応援してるから。ほら頑張ってー」
「おう、任せとけ!!」
真人本人はリトルバスターズメンバーからの声援しか気にしていない様子だ。
しかし、その様子を同じ筋肉仲間として、許せない人物がいた。
「…………ヤツは筋肉界隈の面汚じゃけぇの。ワン子、顔面を狙えや」
「それじゃあ、ただのデッドボールじゃない、嫌よっ!!」
島津はピッチャーである川神に対して殺意ある指示を繰り出す
同じ筋肉仲間として負けた気がしたのだろう。
そんな反応をした時点で、モテる要素は皆無だと、女の僕は思う。
「いっくわよ────うりゃっ!!」
川神から第1球が投げられた。
─────ビュン!!
川神流の門下生故に、その投球スピードは速い。
でも、僕たちは京を基準に練習したのだ。真人に打てない筈がない。
「ふんっ!!」
─────カキーン!!
「嘘っ?!」
真人の振るったバットはボールを芯で捉え、空高く打ち上げた。
なだらかな山なりの放物線を描いて校舎へと飛んでいくボール。
これは、普通だったらホームランだ。
「よっしゃー、筋肉さん大活躍だぜ!!」
「流石はリトルバスターズの筋肉枠。文句無しのホームランだ────姉さんが居なければね」
「その通りだ、弟よ」
シュバッ─────パシッ。
「え………なぁああああ?!」
真人の驚愕に満ちた声がグランドへと響いた。
そう、直江が言うように普通だったらの話なのだ。
一塁から二塁へと真人が走った頃、川神先輩が空高く飛び上がったのだ。そしてそのまま真人が打ったボールをキャッチ。
「アウト!!」
これでワンアウトだ。
しかし、この超人的プレーに、審判の学園長が難色を示した。
「しかし……モモよ。今回は目を瞑るが、あまり意地汚いプレーをすると、ワシも黙っておらぬぞ」
「分かっているさ。だが、私は女だぞ。男相手なら多少はハンデがあってもいいだろ、ジジイ」
「それは……」
「安心しろジジイ、リトルバスターズの美少女達に対しては紳士にやるさ」
「お主は淑女じゃろうに………まあ、それならばワシはなにも言わん」
さすがにあの超人的プレーが横行することはないようだ。
だが、それでもリトルバスターズにとってキツい状況に代わりはなかった。
真人は戻ってくるなり、僕たちへと頭を下げた。
「わりぃ、みんな。ホームランしてやりたかったが、武神の上を取れなかった」
「いや、真人はよくやった」
真人の肩を、恭介は優しく叩く。
「もともと川神姉の守備は対策したとしても無駄だったからな」
「棗先輩の言う通りだ。我が見た限り、守備が武神でなければ文句無しのホームランだった」
「元気出せ、真人。お前は十分に活躍した。それに次の打席で挽回すればいいじゃないか」
「お前ら……だな、次こそは俺の筋肉打法でホームランを決めてやるぜっ!!」
男性陣の励ましにより、真人は元気を取り戻したようだ。
元気を取り戻した真人を見送りつつ、英雄は恭介へと話しかけた。
「さて、ここまでは我らの想定内か、棗先輩」
「あぁ。人数不足から機動力が桁違いな川神姉が外野全てを守るのは容易に想定できたからな」
「故に、我らは早めに学園長をつかって川神姉の守備を限定させたかったが……まこと、真人は大健闘だ」
「あぁ。だから気負わずに指示通りに頼んだぜ、まゆっち」
「はっ、はい!!」
『まゆっちー、ファイトだぜー!!』
二番はまゆっちだ。
恭介と英雄の話していた内容は今一分からなかったが、まゆっちが素直に頷いたことから、なにか策があるのだろう。
ここからで見える、バッターボックスに立つまゆっちには、微塵も震えが見られなかった。
「よっ、よろしくお願いいたします!!」
「いっくわよー!!」
─────ビュン!!
「………」
─────バシン!!
「ストライク!!」
まゆっちは動かず、一球目を見送った。
続く第2球も、
「うりゃっ!!」
─────ビュン!!
「………」
─────バシン!!
「ストライク!!」
見送った。
これでツーストライクだ。
「この調子で打ち取るわよー」
「……………」
「うりゃっ!!!!」
─────ビュン!!
三球目、ここに来てまゆっちは勝負を仕掛けた。
「………ここです!!」
バットを横に構え、振りかぶらずにボールへと当てる。
………コツン
「っ!!」
「えっ?!」
ボールは飛ぶことなく、まゆっちの手前へと落ちる。
まゆっちはボールに目をくれることなく、一気に一塁へと駆け出す。
「しまった! ファーストッ!!」
キャッチャーの島津が急ぎボールを広い、一塁へとボールを投げた。
しかし、幼少期から黛流剣術で鍛え上げられたまゆっちは、リトルバスターズ内で屈指の瞬発力を誇る。
一塁を守っている師岡にボールが届く前に、まゆっちは塁にたどり着いた。
「ッ…………速すぎだって」
「やっ……やりましたー!!」
「まゆっちー、さっすがー」
僕は笑顔でまゆっちに手を振ると、まゆっちも笑顔で返してくれた。
「よーし、次は私ね」
「任せたぜ、京」
「勿論。だから活躍したら私と結婚して、恭介」
「前向きに善処することを検討してやるから、まゆっちに続いてこい」
「ふふ………1%でも可能性を示唆してもらった私は...……無敵よ」
続く三番は京だ。
恭介からの声援もあり、京は元気満々でバッターボックスへと立つ。
「よーし、次こそは押さえてみせるわよー────とりゃっ!!」
─────ビュン!!
一球目、まゆっち同様に京は見送った。
「ボール!!」
「…………これなら」
「いっくわよー!!」
─────ビュン!!
「ここね!!」
京はバットを思いきり振った。
タイミングはバッチリだ。
─────カキーン!!
「………っち」
打ち上がったボールは三塁側から大きく左へとそれていく。
「ファール!!」
「あっ………あぶなー」
「おいワン子、変化球とか投げて応戦しろよ!!」
「そんな二週間で覚えられるわけないでしょっ!!」
向こうのバッテリーから面白い会話が聞こえた。
なるほど。川神には変化球は無いのか。
一瞬ブラフかと思ったが、川神はよくも悪くも裏表がない性格だ。おそらく嘘ではないだろう。
「たとえ変化球が無くっても、やってやるわ───よっ!!」
─────ビュン!!
「…………」
三球目、京はボールを見送る。
「ボール!!」
「次っ!!」
─────ビュン!!
「……………」
「ボール!!」
四球目も京はボールを見切り、見送った。
これでスリーボールだ。
こからは駆け引きの始まりだ。
相手の心情的にボールを出せないと匂わせつつ、バットを振らせようとしてくる。
だが、どこまでも実直な川神相手なら。
「やっぱり一筋縄じゃいかないよね…………とりゃっ!!」
─────ビュン!!
「っ───ここ!!」
京はバットを思いきり振った。
ボールは高めのストライクコース。絶好球だ。
─────カキーン!!
飛んでいく球は、センター方向へと飛んでいく。
「ッ──────」
外野に立つ川神先輩が一気に動こうとした………が。
「モモッ」
「っち、糞ジジイが…………」
学園長との約束もあり、超人的プレーは制限されている。川神先輩は一般常識の範囲内でしか動けず、ボールは川神先輩の後方へと落ちた。
それでも流石は川神先輩だ。プロ並みに走ってボールを拾い、送球フォームにはいった。
だが、その頃にはまゆっちは三塁、京も一塁まであと少しのところに来ていた。
「………っち、無理だな」
ここで力任せに送球もできただろう。だが、それは相手が取れる場合だ。
三塁を守るのは直江で、一塁を守るの風間であった。どちらも武術組ではない。
そのため川神先輩は塁へとは投げず、そのままピッチャーへと投げ返した。
これでワンアウトの一、三塁。絶好の得点チャンスだ。
「さて、ここで我の出番だな」
「いってらっしゃいませ、英雄様」
絶好のチャンス。
リトルバスターズの四番バッターは新顔の英雄だ。
「大和、情報は確かなんだよな?」
「あぁ、調べた限り、間違いなく九鬼の腕は治っていない。ここは手堅く来る筈だよ、キャップ」
「なら、全面で抑えるか」
英雄がバッターボックスに立つと、風間ファミリーの守備が前へと寄ってきた。
「ふむ…………我が片手ゆえに、その策は一般的には正しいな」
「へへーん、悪く思うなよ」
「風間よ、悪くなど思うまい。我を相手するのだ。二重にも三重にも策を用意する程度がちょうどよい」
「なら遠慮無く。ワン子ー、思いきりやれー」
「了解、キャップ。────とりゃっ!!」
─────ビュン!!
捉えられるとしても、遠くには飛ばせない。
そう判断された投球はまっすぐに放たれた。
「和子殿………以前の我であれば、打てたとしてもフライすらならなかった────だがっ!!」
英雄は腰を落とし、バットを思いきり振りかぶった。
そうだよね、英雄の努力は僕たちは知っている。
「っ───姉さん!!」
何かある。そう気づいた直江は急ぎ川神先輩へと指示を飛ばした。
だが、それも遅い。
「我は九鬼英雄!! リトルバスターズの四番バッターなのだっ!!」
高めの絶好球。
英雄のバットはボールの芯を正確に捉えた。
─────カキーン!!
「うそっ?!」
綺麗な放物線を描いて飛んでいくボール。
それを見て、誰よりも英雄の練習を側で見ていた謙吾は言う。
「流石だ、英雄。文句無しのホームランだぞ」
ボールはそのまま校舎の屋上へと突き刺さった。
「ホームランッ!!!!」
「フハハハハハッ!! 皆のもの歓声を上げよ、我こそが、九鬼英雄であるっ!!」
───ワァァァァァァァァアッ───
英雄が回っている間、風間ファミリーは軽く話し合いを行っていた。
「いやー、まさかマジで打ってくるとはなぁ」
「ごめんキャップ、俺の読み間違いだ」
「いや、大和のせいじゃねぇよ。ありゃ、棗先輩の策略と英雄の努力の結果だ」
「敵ながら、俺様痺れちまったぜ」
「いけすかないけど、努力の分かる一撃だったね、あれ」
「うわーん!! ごめんなさい、お姉さまー!!」
「よーしよし。ワン子は悪くないぞ。私も打ってくるとは思ってなかったからな、お相子様だ」
「さて、犬には申し訳ないが、一気に三点取られてしまったな」
「そう言うなよ、クリス。これから取り返していけばいいさ」
「大和……いや、お前の言う通りだな」
「だな。よーし、お前ら頑張って守っていくぞ!!」
「「「「「「おー!!」」」」」」
こちらのベンチまで、風間ファミリーの掛け声が聞こえる。
これは、気を抜くには早そうだ。
「もっ、戻ってきました」
「恭介、私頑張ったよね、褒めて褒めて」
「うむ、九鬼英雄、凱旋である!!」
っと、他所に意識を割きすぎてた。
気がつけば回り終えた英雄たちが帰ってきた。
僕たちは思い思いに労いの言葉を掛けて行く。
「お疲れ様でした、英雄様!! 大活躍です!!」
「当然である!! だが、これは棗先輩の作戦と、遅くまで我の練習を見てくれた謙吾のお陰だ。感謝する」
そう言うと、英雄は恭介と謙吾に向けて頭を下げた。
「いや、あれは英雄の努力の賜物だ。オレはアドバイスをしたに過ぎん」
「そそ、オレも策を考えただけだぜ。それに今回は真人やまゆっち、京の三人がいたからこその結果だ。だから、感謝をするならその三人にしてくれよ」
「棗先輩、謙吾……いや、そうであるな。野球はチーム戦……であれば、真人、まゆっち、京、見事な活躍であった。三人とも、礼を言うぞ」
「ぶい」
「おっ、お役にたてたのであれば光栄です」
「スッゲー、活躍だったな英雄!! お前、やればできんじゃねぇかっ!!」
「まっ、真人、あまりバカ力で我を殴るでない………ははっ」
「へへっ、別にいいじゃねぇか」
「そうです。あまりおいたが過ぎますと、三枚ですよ、井ノ原さん」
「あ? それはどういう…………ギヤァアアアッ?!」
「はぁ………真人、何度も言うがお前はもう少し時と場合と、ついでに手加減というものを覚えろ」
なんだか、僕たちの絆がさらに深まった気がする。
いや、今この瞬間に英雄がリトルバスターズの仲間入りを果たしたのを、僕は感じたのだ。
「ねぇ、恭介」
「ん、どうした小雪」
僕は思わず恭介に話しかけた。
「なんか、いい光景だね」
「あぁ………だな」
真人が英雄ともみくちゃになり、あずみが真人へとお仕置きする様子に、当事者含めて僕たち全員が笑っていた。
そこに壁や距離なんか無かった。
「さーて、お前らじゃれ合いもいいが試合中だ。気を引き締めていこうぜ!!」
「「「「「「「『おー!!!』」」」」」」」
そうだった。
改めてリトルバスターズの友情を感じて和やかな気持ちになっていたが、今は野球の試合中だった。
僕は軽く拳をあげ、気合いをいれる。
「よーし、僕も頑張るぞー!!」
それからの試合は一進一退を極めた。
「川神百代、いざ参るっ!!」
「ちっ……やっぱりホームランよね」
京の豪速球や変化球を使っても、川神先輩が打席に立つ時は必ずホームランとなり、点差は広がらず縮まる状況。
しかし、リトルバスターズも負けてはいない。
「よっしゃー!! いっけー!!」
「ふんっ!!」
「マジで?!」
川神先輩以外の打席では、鋭い打球でも謙吾がグローブ無しで掴み取るプレーや、
「オレもリーダーとしての威厳を見せてやらねぇと────なっ!!」
「貰ったー!!! ───っ?!」
どんな原理か、恭介は摩訶不思議な回転を掛けた打球を行い、川神先輩の守備を潜り抜け、。
「よーし、筋肉さんの力を───ぶほぉっ?!」
「あっ、スマン。普通に手が滑った」
「これモモ!!」
川神先輩の送球誤りが真人の顔面へと突き刺さる。
そうした両チームの激しい攻防が続いていき、やがて試合は九回の裏を向かえた。
点数は13対13。
ツーアウト。塁走者無し。
着実に僕たちリトルバスターズが追い込まれていた。
そしてバッターは、僕だ。
「小雪、頑張れよ。お前には筋肉さんの加護がついてるっ」
「小雪、気負わずに思いきりやれ」
「小雪よ、我が教えた練習通りにやれば問題はないっ!!」
「榊原さん、ファイトですよ」
「小雪、ファイト」
「小雪さん、頑張ってください」
「行ってこい、小雪」
「みんな……うん!!」
みんなの声援を背に、僕はバッターボックスに立つ。
「よしこーい」
「これでラストね────とりゃっ!!」
─────ビュン!!
一球目。
普通なら見送る場面。
でも、それじゃ──面白くない!!
「ふん!!」
─────カキーン!!
「えぇー!? ここに来てー?!」
僕の振るったバットはボールにしっかりと当たった。
芯に当たったどうかの感触なんか気にせず、僕は走り出す。
「いけー!! 小雪!!」
「回れ回れ!!」
「駆けよ小雪、脱兎の如く!!」
「行ってください、榊原さん!!」
「小雪、走って!!」
「頑張ってください、小雪さん!!」
「小雪、ここが正念場だ!!」
みんなの声援がしっかりと聞こえる。
「っ………賭けに出るか。受けとれ、ガクトッ!!」
「ちょっ?! えぇい、受け取ってやらぁ!!! 俺様の筋肉をなめんじゃねぇ!! ────っう……!!」
三塁を踏み、ホームベースへと突き進んでいると、キャッチャーがボールを受け取っていた。
これは───あぁもう、あれこれ考えるのはヤメだ!!
「てりゃあああああっ!!」
「くっ、女に手を出すのは俺様の趣味じゃねぇが、勝負なら別だあっ!!」
僕はホームベース目掛けてスライディングをする。
「いっ──けえええええっ!!」
「止めてやらぁああっ!!」
島津と重なるように、もつれ込んでしまう。
どうなったのだろうか。
僕は恐る恐る足先の方を見る。
「いつつつ………あっ」
「やっ…………」
「うむ」
僕の足がベースにしっかりと乗っていた。
そして肝心のキャッチャーの握るボールは、ミットから離れている。
紛れもない、
「セーフ!! ゲームセット!! 勝者、チームリトルバスターズじゃっ!!!!」
「やったぁああああっ!!!!」
僕たちの勝利だ。
───ワァァァァァァァァアッ───
大歓声が僕たちを包み込む。
「小雪ー!!」
「真人、僕やったよ!!」
「あぁ、しっかりと見てたぜ!! そらっ」
「うわぁああ?!」
いの一番にやって来た真人が僕を肩車してきた。
おお、景色が高い。
「やったね、小雪!!」
「小雪さん、カッコよかったです!!」
「我の教え以上だ。素晴らしかったぞ、小雪!!」
「英雄様が教えたのですから当然です。でも、カッコよかったぜ、小雪」
「うぉおおおっ、小雪!! 俺は猛烈に感動した!!」
「みんな………ありがとう!!」
「小雪」
みんなから遅れる形で、恭介がやって来た。
「恭介、僕やったよ」
「あぁ。リーダーのオレを差し置いて、カッコよすぎだぜ」
「えへへへ」
「ほら」
恭介は右手の拳を差し出してきた。
「うん」
僕も同じように拳をつき出す。
「ミッション、コンプリートだ」
そして僕たちは拳を合わせた。
ところで、風間ファミリーの様子はどうなんだろう。
僕は高い視野を利用し、様子をうかがう。
「あぁーあぁー、まけちまったな、大和」
「だね」
「なんだー大和。悔しくねぇのかよ?」
「悔しいさ。悔しいけど、あれを見たら………ねぇ」
「んー? あっ……あぁ、ね」
「ワン子、私は少し旅に出ようと思うんだ。ちょっとブラジルかインド辺りまで行って一から鍛え直してくるよ」
「おおおおお、お姉さま?! 気をしっかり!!」
「ガクト、女相手だから手を抜いた?」
「んなことするかよ!! つーか、合法的に女に触れられる絶好のチャンスをオレが逃すと思うのかよ」
「何だろう。犬には悪いが、私たちは負けて当然な気もしなくはないのだが……」
んー、なにやら風間ファミリーの様子が可笑しいが……まっ、いっか。
もう少しだけ、このみんなで味わう勝利の空気を堪能させて貰おう。
こうして、僕にとって初めての野球の試合は、最高の形で幕を閉じた。
小雪回と思ったか? 残念だったな大佐、トリックだよ。
実際は小雪と九鬼英雄回だよ。