数刻前
「それはどういうことですか!?」
サラマンドラ級のブリッジ、その館長席に座るニキ・テイラー少佐は怒りのあまり立ち上がり、唇を噛んで主モニターに映る男を睨みつける。
『こちらはペルサス政府ナナハチ機関所属ハワードレクスラー中佐。《ギャザークロスコロニー》への反逆の疑いでエイブラム大佐は更迭した。従ってクロノスの指揮権は《ナナハチ機関》が持つことになった。』
先の戦闘で大破した機体とパイロットを回収し、内部区画の救助支援に当たった後に帰航したサラマンドラを待っていたのはナナハチ機関に制圧された司令部とブラッドが乗ってきたシャトルの貨物に秘密裏に格納されていたペルサス政府軍の重MS《ギガンティック》であった。
サラマンドラのレーダーには2機が確認され、艦をいつでも攻撃できる様になっていた。
『そして貴官等サラマンドラ隊も同様の嫌疑がかけられている。即刻、武装を解除し我々の命令に従うことだ。』
ガイアコロニーの独立、それはエイブラム大佐ひいてはクロノスの悲願であった。
ギャザークロス政府によるコロニーへの棄民に近い政策によって過酷な環境に追いやられた市民を、政府軍から実直な仕事振りを疎んじられ、派遣されたエイブラム大佐は自らを省みず政務に励み今日までのガイアコロニーを築いた。
しかしペルサス政府はガイアコロニーに対して不当な要求ばかりを押し付け、ガイアコロニーの発展を阻害してきた現状にクロノスの士官であるニキやエルフリーデ、兵士達もまた反感を持っていた。
武装解除に渋るサラマンドラに業を煮やしたギガンティックの一機がジャンプしてサラマンドラに飛び乗ると直接ブリッジにビーム・バズーカを向けた。
『クロノス!さっさと動かなきゃこいつをぶち込むぞ!』
「こんなところで…」
終わっていいはずがない、そう紡ごうとしたその瞬間である。
ブリッジを白い影が横切ったのも束の間にギガンティックの直前に着地した機体は砲身ごと腕部と脚部を一瞬の内に斬り落とすと頭部を掴み重MSを力任せに放り投げる。
間違いない。『ガウェイン』。エルフリーデだ。
「退がれ下衆!小汚い脚でニキの艦を汚す事はこの私!エルフリーデ・シュルツが許さぬ!」
「貴方こそ踏んでます!」
『私は!良いのだッ!』
そう言うやガウェインはビームソードを前面に掲げ、モノアイを発光させる。突飛な言動といつものパフォーマンスにやや呆れたニキは薄く苦笑いする。
『抵抗するのか!クロノスごときがッ!』
残ったギガンティックがたじろいだ隙を着きエルフリーデと同じく背部ハッチから密かに発進したグロスバイによる斉射と高速ホバー機動で詰め寄り大型ヒートソードを用いた数機の連携による斬撃で機体はひしゃげ地に伏し倒れた。
*
「今は小言はよせよニキ。さて形勢逆転だな?ハワード中佐とやら。」
ガウェインは軍港に降り立つと、ビームソードを司令部に掲げる。
一方ハワードは顎に手をやり、エルフリーデに感心すると共に配下に目配せと合図を送る。
『それはまだ気が早いな、
突如ガウェインの傍らの隔壁から伸びたそれ、巨大な鉤爪はガウェインをつかみ上げようとしたがエルフリーデは間一髪で躱したのも束の間、瓦礫と煙を引き裂き、異形が姿を現した。
『何だコレは…トルネードタイプなのか?』
ニキの言葉はその機体の頭部から来るものなのだろうがそれ以外は似ても似つかない。
何より、あの黒い機体の男から発される猛禽の様なプレッシャーとはまた違う血に飢えた獣の様なジットリとした殺気が装甲を穿いてエルフリーデに不快感を与えていた。
・
「《Gベルフェゴール》出力リミッター安定、パイロットリンク許容範囲内です。」
ナナハチ機関から搬入したプロトタイプ、そして欠陥品の強化人間。どちらも用済みだが単機ににおける戦闘力を極限まで追い求めたこの機体ならば白騎士と言えど敵ではあるまい。
「殺せ、ドク・ダーム。」
『ヒヒ…ヒヒヒヒイィ……ぶっ壊ァァァァす!』
その咆哮に連動する様に機体は再びクローユニットを展開するとその掌中のビーム砲をエルフリーデのコクピット目掛け乱射する。
軽やかなステップと断続的なホバー機動で躱すガウェインは一定のステップで緩急をつけると反転して前進し振りかざされたクローを掻い潜り懐へ飛び込んだ。
『ヒヘヘェ…やるぅ。』
ビーム刃を現出させ、横一文字に両断しようとしたエルフリーデだったが突如ガウェインの動きが一瞬止まった。まるで縛られたかの様に。
エルフリーデはその瞬間、敵のマニュピレーターから発された光の反射から全てを察した。
ビーム砲による撹乱に気を取られ、張り巡らされたワイヤーが関節に纏わり付いていたのだ。
「フッ!なるほど…つまらん小細工は、下衆に似合いだッ!」
ガウェインは機体の馬力で強引に引き千切ると柄でベルフェゴールを殴り付けてたじろいだ隙にスラスターの力で素早く飛び上がりビームソードを振り上げる。
「もらったァァッ!」
あの日、故郷を捨ててニキや大佐と共にガイアコロニーの騎士になると決めたあの日から迷い等無い。
どれ程敵が強大であろうと、幾程の大軍であろうと怯みなどしない。
邪魔立てする者は何者であろうとこのガウェインで斬り伏せて見せる。
それが私、エルフリーデ・シュルツなのだから。
しかし、エルフリーデは敵の目が赤く発光した途端、動物的な直感に従い全力で機体を後退させた束の間に凄まじい速度で敵のクローユニットが機体の装甲をわずかに削り取った。
「ッ!!ニキッ!」
「ビーム撹乱膜展開!最大戦速で離脱、乗員衝撃に備えッ!」
サラマンドラの各所からビーム撹乱膜弾頭が炸裂し、艦の膨大な推進器が一斉に火を噴いた。
離陸するサラマンドラを逃がすまいとするガンダムベルフェゴールの追撃を同じく離脱するガウェインのシールドミサイルの出鱈目な一斉射が阻害する。
エルフリーデは離脱するサラマンドラに追いすがるためガウェインの最大推力を用いてジャンプする。
寸前で推進剤を消費し尽くしたガウェインの腕を一機のグロスバイがしっかりと掴み上げ引き上げた瞬間格納庫のハッチが閉じられた。
汗でぐっしょり濡れた額を部下から差し出されたタオルで軽く拭いエルフリーデはサラマンドラのブリッジに登った。
「さて、これからどうする?」
「……わかりません。」
「ニキ…」
「わかりません!ラムザット司令の指示無しにッ!一体私はどうしたらいいの…?」
「ニキ・テイラー艦長!」
エルフリーデはニキの頰を平手打ちにして膝を入れ襟首を掴みあげる。
「士官候補生の真似事はその位にしておくんだな。今クロノスの最高階級は貴様だぞ。お前がそのままならクロノスは終わりだ!…はたしてそれでいいのかニキ・テイラー少佐?」
しばしの沈黙の後、ニキはエルフリーデの手を振り払い頰に平手打ちを返す。
「エイブラム司令及びガイアコロニーを奪還する為に方針を協議する為、貴女は一先ず自室に戻り頭を冷やしなさい。処分はその後で。」
エルフリーデはバツの悪そうにいつもの敬礼もなく踵を返しブリッジを後にする。
それを見送ったニキは溜息をつき、艦長席にどっと身を預ける。
「エイブラム指令…どうかご指示を…」
ブリッジのクルーに聴こえぬよう呟き、エリュシオンの重力をこれまで以上に双肩に感じ、ヒリヒリと痛む友の平手打ちを恨めしく感じた。
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《ギガンティック》
ビーム・バズーカ
背部多連装ロケットランチャー
ビームサーベル
ペルサス政府軍の主力量産型MS。コロニー群へ接近する大型惑星の破砕用という名目で開発され、至近距離の核爆発においても有効な堅牢性と爆発的な加速力を持つが地上においては十分な性能を発揮する事ができない。
《Gベルフェゴール》
ソニックスマッシュ砲
ストライククローユニット
ヒートワイヤー
ナナハチ機関が開発した特殊MS。高い覚醒値を持つパイロットが搭乗する事を前提に開発され、MS単機における戦闘能力を極限まで追求するコンセプトのもと、パイロットへの負担を考慮しておらず稼働時間も短い為リミッターを発動させた状態で運用される。