ーしまった
頭部の損傷が激しく身体中のナノマシンの制御が上手く出来ない。
このままでは装甲を形成しているナノマシンは剥離してしまうだろう。
いや、ヤツが私にトドメを刺すのが先か。
ヤツを倒す事が出来なければ私の存在意義は無意味になる。
ー代替を見つけるほかない
不意にそう呟いた私の言葉に反応する者がいた。
私は最後の力を振り絞りバインダーを活用して巨大な建造物に取りつき壁面を力ずくで剥ぎ取った。
ー見つけた
この少女なら私の代替に十分な素質を秘めている。
幸い彼女に怪我はなかったようで安心した。
私の欠けた視界でもわかるぐらいに怯え震えている少女に手を伸ばす。
その時、傍らの少年が少女をかばい、私の手に捕らえられた。
移行のプロセスはもう始まっている、もう時間がない。
私の手に握られた傷ついた少年の姿が徐々に輪郭を失いぼやけていく。
ー少年
許 し て く れ
無意識にその言葉の先を紡いだ時、意識は再び奈落の底に落ちていき、身体は再び重力に委ねられ簡素なシーツの上にあった。
シェルドの身体には至る箇所にガーゼが巻かれ、チューブを通して機械に繋がれている。
「ようやくお目覚めか…元気な様で結構。聞きたい事がかなりあるからな。」
傍らの椅子に足を組んで退屈そうに端末を懐にしまう男はそう言うとシェルドの傍らに立ち鋭い視線で見下ろす。
シェルドは至る身体の痛みを感じながらも身体を起こそうとしたがシェルドは両腕が手錠で拘束されている事に気付いた。
「官姓名、クロノスとペルサス政府の目的、そして例のMS…どれからがいい?」
「ここは…『ガンダム』は…?」
「“ガンダム”?この子の事か?」
男が目を移した先には隣のベッドで身を起こしている少女は自分と同じく状況が飲み込めていないようだった。
「レイチェルです。軍人じゃないのは見ばわかると思いますけど?」
レイチェルはシェルドの言葉を否定し、眼前の男を睨みつける。
「どうするつもりですか?その、私達を。」
「さて、どうしたものかな…」
男は後頭部に手を当て丁度シェルドとレイチェルの中間の椅子に腰掛けた。
「レイチェル、君はあの機体を回収するさいにあの機体の手の中にいた、まるでターミナルの瓦礫から守られるように…そして君は」
男はレイチェルからシェルドに向き直る様に座り直す。
「あの機体のコックピットから出てきた。」
そんな筈はない、確かターミナルで…しかしシェルドの頭の中では何か違う記憶が混入している様な感覚が邪魔をしていた。
「俺達が求めてるのは情報なんだ。あの機体の事なら何でも知りたい」
そう言って男は二人の反応を見たがレイチェルは警戒して口を固く結んでいるしシェルドはあの激しい戦闘の影響かまだ十分に話せる状況ではないのか扱いに困った様に眉をひそめてシェルドに対して呆れた様な表情で見据えた。
「そのくらいでいいだろう、マーク君」
マークと呼ばれた男が振り返る先には顔に大きな傷跡が目立つ長身で五十代程度の男が同じように入り口から入ってきていた。
「君達、気分は…どうかな?」
「……ここはどこなんですか?」
此方の質問に答えず質問を挟んだシェルドに対して男は嫌な顔一つせず、側の椅子に腰掛けた。
「今現在の地点は教えられないが、ここはキャリーベース。メーディニという反政府組織に所属する艦の中と思ってくれればいい。」
その言葉を聞いた途端、レイチェルは凍える様な思いがした。
『メーディニ』、聞いた事がある。
ペルサス政府に対して破壊工作を行うMSを用いた過激派のテロリストだ。
「俺はクロノスの兵士じゃない、ターミナルの作業員で…俺は……」
メーディニのシンパとしての自分の所属をいいかけたシェルドだったが何故か思い出すことが出来ず、考えようとすればするほど頭の中で痛みが走り始める。
その様子を見て肩を竦めたマークはゼノンをみやるがゼノンを瞼を閉じると立ち上がり、シェルドとレイチェルの手錠を外した。
「君達に見てもらいたいものがある。歩けるかな?」
シェルドは状況は掴めずこめかみを抑え混乱しているがマークの指先が触れている拳銃に目をやり、自分には選択肢がないということを改めて認識するほかになかった。