薄暗い光が射し込む檻の中、テロリストの艦というイメージに反して、手入れは行き届いていて悪くない倉庫として使われているのか固定された荷物が整然と並べられている営巣室の一室でシェルドはベッドから上半身を起こし部屋を見渡すと自分の腕にかけられた手錠を見て、軽く引っ張る。
「飯、持ってきたぜ」
差し出されたトレー、顔を上げると自分と大差ない年頃の少年に視線が移る。
「ジュナス・リアム」
「は?」
「ジュナスでいいぞ」
屈託ない笑顔で話す少年は今迄に会った事がないタイプの人間でシェルドにとっては不気味に見えた。
「…シェルド・フォーリー」
「シェルドか…うん、よろしくなシェルド」
そう言うとジュナスはシェルドの檻の前の荷物に腰掛けポケットからカンパンを取り出し手遊びしながら口に放る。
「出身は?」
「…尋問か?」
「まさか。雑用ついでのただの質問。」
四角形のカンパンを手の上で器用に転がしながら高く放り上げ歯でキャッチして食べるジュナスの動きを興味深げに目で追うシェルドは出された食事に手を付けない。
「雑用?」
「そそ。補欠のメカニックあとは・掃除・洗濯・料理何でもござれってねー」
「忙しそうだな、囚人にかまってる暇もなさそうだ」
「別に気にするなよ、珠のサボりも仕事の内、仕事の内…んで出身は?」
ジュナスの問いかけにシェルドは自らの視線を真上へへ動かす。
「そっか、宇宙から来たんだもんな」
「俺はアレの事なんか何も知らない!」
「そんなの俺に言ったって仕方ないぜ?あぁ、そうだった!出てきていいぜ、俺達以外居ないからさ」
ジュナスのどこか飄々とした態度に苛立ちを覚えたシェルドだがその背後、スライドされたドアからはあの時の少女が入ってきたのでシェルドは困惑した表情を隠せなかった。
「どういうことだ?」
「あたしが頼んだの、自分が巻き込まれた状況が何もわからないから…」
「俺達だって女の子にまで手錠掛けて牢屋に押し込める程悪人じゃないぜ?」
「貴方だって私と同じ位の年にみえるけど?」
「おい、こう見えても戦艦暮らしは長いんだぞ!」
「言ったろ、俺は何も知らないんだ。」
「でも貴方はこの反政府組織の一人なんでしょう?聞いてるんだから、あの時サラマンドラについて話していたの」
「そうだ、報告中に余計な邪魔が入ったお蔭でこんな目にあった、それだけだ」
「あなたターミナルの人でしょう?自分の立場を利用して軍の戦艦の動きをテロ組織に流してたなんて…」
「そういうお前こそ、なんでサラマンドラを知ってる?あのクロノスの新造戦艦は一般に公表された事はまだない筈だ」
「あたしの叔父はクロノスの総司令よ、知ってて当前じゃない。」
「え?てことは君の叔父さんって…」
突然のアラート音に次ぐ轟音でシェルド達の身体は揺さぶられる。
その一瞬の隙を突いて、シェルドは無理矢理手錠から手を引き抜き、格子越しにジュナスの襟を掴み引き寄せて格子に押し付け、首元に手を回す。
「ここから出たいなら、俺に協力しろ」
シェルドは壁に不用心にかかっているカードキーに目配せするとレイチェルを見つめる。
「どうするつもりなの?」
「…お前次第だ」
狼狽えていたのも束の間にレイチェルはカードキーを取るとシェルドの前に立つ。
「約束して」
「?」
「私をガイアコロニーに居る叔父の元に連れて行って」
〘シェ…ル〙
その強い眼差しに既視感を覚えた刹那にシェルドの脳内にあった筈の記憶の一部、恐らく大切な記憶の断片がノイズの様に走った。
「約束してくれる?」
「…………約束、する」
思わず発してしまった言葉、[約束]という言葉にシェルド自身動揺を隠せなかった。
「あの、苦じぃんだけど……」
[キャリーベース ブリッジ]
「クロノスめ、存外に早くこちらを見つけたな」
「プランタムです!1個中隊、後続のミサイルが来ます!」
「対空防御!ミノフスキー粒子散布!」
キャリーベースブリッジでモニター越しにシェルド達のいる営倉室を監視していたブリッジクルー達はそれぞれの役割に頭を瞬時に切り替える。
「ケイ君、モビルスーツは動けるか?」
『急ピッチでやってる!トルネード01は辛うじて出せるけどね、右腕アクチュエータの調子がまるっきり良くないんですよ!』
「構わん、発進準備を頼んだぞ!」
『え、ちょっと!ラナロウ?ルーク?誰が動かしてんのさ!』
「ケイ君?」
『うわ、姉さん!鳥モドキが動いてやがる!』
駆動部の軋みと共にフェニックスガンダムの関節から塵が吹き上がり、ツインアイが薄く瞬く。
よろめきつつ手近の予備機のGトルネードを支えに立ち上がったフェニックスと同時に横合いになって倒れるトルネード04を前に整備士達は悲鳴をあげつつも各々工具やら、機材を持って蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す。
あまりの状況にポカンと口を開けていたケイの目、それはブリッジにいるメンバーも似たりよったりだったが、ゼノンは格納庫のモニターの一つに焦点を向けていた。
「その機体から離れろ!少しでも妙な動きをしたら、こいつを殺す!」
そこに映ったのはジュナス、それに先程の少年、シェルド・フォーリーとレイチェル·ランサムだった。
「おい、自分じゃわからないだろうから言ってやるけど、この絵面、端から見たらかなりマヌケだぞ!」
「そうでもない!」
そう言うシェルドは手近な手すりをねじ曲げ紙粘土のように引き千切って見せるとみるみるジュナスの顔は青ざめた。
「嫌ぁぁ助けてぇぇ!」
そう叫ぶジュナスの首元には先程差し出された食事の先割れスプーンが突きつけられていた。
シェルドに嵌められていた手錠は多少緩くつけられていたとはいえ、引き抜く事が出来る程余裕があったわけでもなく、未だ片手に嵌められている手錠の片輪は異様にひしゃげていた。
フェニックスはシェルドを前にするとそれまで頑なにしていたコクピットハッチを晒す。
「悪かった!」
そう言うとシェルドはジュナスを突き放し、レイチェルと共にコクピットハッチに跳び乗る、コクピットに座り込む刹那にシェルドの髪先を弾丸が掠める。
フェニックスの左手にレイチェルを乗せると機体の指でしっかりとレイチェルを保護する。
「クソ、逃してたまるかよ!」
弾丸がシェルドに直撃しなかった事にラナロウは苛立ちを覚えつつ、トルネード02のコクピットに滑り込む。
「ラナロウ!何をする気!?」
『聞こえるか、クソガキ!今すぐその機体のコクピットから降りろ、さもないと機体ごとテメェを蜂の巣にしてやる』
「やってみろ、格納庫もただじゃ済まないぞ」
シェルドは傍に固定されていたビームライフルを固定具ごともぎ取ると、機体を右にせり出しながらトルネード02に銃口を向ける。
「あのバカ…」
その様子を格納庫の指示ブロックで見ていたケイはこめかみに手を当てて溜め息を吐くと格納庫の緊急開閉レバーをカバーガラスを叩き割って引き上げる。
『何!?』
驚いたラナロウの間隙を突いて、ハッチから大空に飛び出した。
「クロノス機、此方に戦闘の意思はない!当機は降伏する、繰り返す。戦闘の意思はない!当機はクロノス司令の親族を保護している!」
武器を下ろしたフェニックスのコクピットの中でシェルドは叫ぶ。
しかし、クロノスが放った猟犬《プランタム》に与えられた威力偵察のプログラミング、攻撃対象にはフェニックスガンダムも含められていた。
シェルドの声も虚しく、プランタムの編隊は攻撃の矛先をキャリーベースからフェニックスへと向け、多数のミサイルを発射しながらフェニックスに迫る。。
シェルドは驚きつつも回避行動を取り、このとき無意識にバインダーで左手をバルカン砲の直撃から保護していた。
マニュピレータをコクピットハッチに寄せ、レイチェルをコクピットに誘導したシェルドは狭いコクピットにしどろもどろしながら、大きく深呼吸する。
「舌を噛むな、掴まっていろ」
「えぇ。」
フェニックスは転回して再び、攻撃を仕掛けようとするプランタムに狙いを定めるとバインダーを前面に転回させその先端から放つプラズマを纏った大出力のビームが、プランタム3機を一度に撃ち抜き、周囲の機体をその爆発の余波で大きくよろめかせる。
「凄い…」
一撃離脱戦法をかけ、遥か遠くに離脱したプランタムを狙撃したフェニックスに思わず感嘆の声を漏らす。
しかし、更に第2射をかけるべくトリガーを引くがライフルの砲口にあったエネルギーの収束が霧散し、機体の高度が徐々に下がり始めた。
その好機を見逃すはずがなく態勢を整えたプランタムが未動きの取れないフェニックスを撃破すべくメガビーム砲の有効射程圏内に迫ったが背後からのビームの直撃によって火だるまになりながら地表に墜落する。
「黒い…ガンダム…」
トルネード01は恐ろしい程正確な射撃で一機、また一機とプランタムを撃ち落とし、拡散されたビームの雨を易易と躱すとビームサーベルで一突きし、ものの数秒でフェニックスに降りかかる火の粉を払いのけて見せ、急上昇をかける。
こちらの挙動を監視していたであろうレドームを装備したフライターに狙いを定めるも偵察装備のフライターは既に離脱行動を取っており、射程圏外に離脱していった。
地表に着地し、活動不能になったフェニックス。
そのコクピットにライフルの銃口が突きつけられる。
「散歩は楽しんだか?元気になった事だし船で話の続きを聞かせてもらおうか」
2つの機体を通してお互いは睨み合いシェルドは装甲越しにあの艦で会った男、マーク·ギルダーから放たれるプレッシャーを感じ形容し難い力の様なものを感じずにはいられなかった。
ナナハチ機関
78バンチコロニーに本部を置く極秘の研究機関、地球圏における技術を独占している。ペルサス政府において絶大な影響力を持つ。