ーエルトシャンー
俺は今、友人からの手紙を読んでいる。送り主はベオウルフ、幼い頃から共に切磋琢磨した仲だ。俺には劣るが、剣の腕はなかなかのもの。傭兵稼業で、更に腕を上げていることだろう。まぁ、それでも俺には敵わないだろうがな。そんなベオウルフからの手紙…、
「ふむ…、アイツも元気でやっているようで何よりだな。いつものことながら、苦労事に好かれている。不運の星の下に生まれた男だよ、ベオウルフは…。」
手紙の内容に苦笑する、変わらぬ友人の近況に俺は安心した。
人は何かしらの出来事で変わる、…変わってしまうものだ。俺の友人、アルヴィスも変わった者の一人だ。……いや、アルヴィスのことを考えるのはよそう。考えるだけで、気が滅入ってしまう。アイツはアイツなりに考え、乗り越えた…。それでいいではないか、そう考えるしかない。…エシャルがいないだけで、…あんなに近かったのに、…今では遠い俺の友人。壮健であれば…、それでいい…。
…いかん、俺としたことが! 前を向いていくと決めたではないか! それに今は手紙を読んでいる最中、昔を思い出すのは後でも出来る。手紙も後で読めるが、気分的に今しかない。…続きを読もう。
『大将のヴォルツがまた、馬鹿なことを言ったんだよ。んで、シレジアで雪男探しをしたわけだ。…当然、いる筈は無いわな。金だけが無くなったんだよ、マジ勘弁。雪男探しの拠点にしている村で、お前に似た奴とも知り合ったぜ? なかなかの遣い手でな、そいつと一緒に賊を……。』
またヴォルツのロマンに付き合わされたのか、まぁ…いつものことだな。それよりも、俺に似た良い男に出会ったと…。俺程の良い男か、さぞや男前なのだろうな。腕も良くて共に賊捕縛、ベオウルフが認めたということは、かなりのモノだな。そしてどうなった?
『…連れの娘と一緒に、ペガサスを3頭も見付けてきやがった。スゲー強運を持っているぜ、エルト2号は! その後、シレジア天馬騎士と一緒に消えちまった。エルト2号は、ワープまで使えるんだよ。流石に驚いたな、うん。…賊捕縛の賞金の件をついでに頼んどいてだな、俺達は……。』
エルト2号か、…まぁそこはいいだろう。男前みたいだからな、エルト2号…許す! 恋人とペガサスを3頭か、確かに強運の持ち主なんだろう。捕まえるのは至難とよく聞く、やるなエルト2号。…して、ワープが使えるのか!? 剣の腕もあり、魔法も高度なモノを使える…。エルト2号は何者なのだ!? 続きは…!
『…エルト2号は天馬騎士になった、腰を抜かしかけたぜ? 前代未聞だしよ、男で天馬騎士ってよ。まぁ…俺達も色々あるから、エルト2号の天馬騎士叙勲の祝いをして、シレジアを発ったわけだ。後々調べたら、エルト2号はトラキア王国の者だったぜ。』
天馬騎士…!? それは最近、耳にした情報ではないか! 誰だったか…、名前…ド忘れしてしまった! 俺の愛する名前だったような気がするんだが…。エルト2号はトラキア出身? 竜騎士の国で天馬騎士。色んな意味で凄い奴みたいだな、エルト2号は。
『…で俺達は今、マディノ城にいる。海賊被害が多いらしくてな、討伐を依頼されたんだよ。依頼と言っても、傭兵仲間から助っ人を頼まれたってわけ。その海賊がなかなかに手強くてな、俺達でも手厳しい。だから傭兵としての繋がりから、トラキア王国に助力を頼んだ。仲良くなったエルト2号を助っ人にな、快く承諾してもらったぜ。
因みにエルト2号は、トラキアの英雄『黒刃』様だぜ! 二つ名もお前んとこっぽいよな! …えーと、名前なんだったかな? ……そうそう、思い出した! エシャルだエシャル、名前までお前に似ているのな? こんな偶然……。』
………!? エルト2号の名がエシャルだと! …そうか、天馬騎士エシャルだったな! それに『トラキアの黒刃』もエシャル、…同一人物だと!? ……そして俺に似ていて、エシャルという名。まさか…まさかそのエシャルという者は…! 6年前に死んだ筈の俺の甥、…エシャルなのか!?
ーグラーニェー
私の夫であるエルトが、友人から届いた手紙を嬉しそうに読んでいます。ノディオンの王として、懸命に政をしている姿が多かった為、このような姿を見るのは久しぶり。…久しぶりと言っても、私やアレスの前ではきちんと笑顔を見せますよ? 私が言いたいのは、手紙ですけど友人相手に笑顔という点。6年前の事件から、友人相手にもあまり笑顔を見せなくなっていたから。そういう点では、久しぶりってことなんですよ。
そんなエルトの傍で、まだ幼いアレスの相手をしてあげる。エルトに似ているからね、きっと将来は男前よ。アレスをあやしながら、隣にはエルトがいる。小さな幸せを感じていると、エルトの様子が…。最初は嬉しそうに読んでいた筈なのに、だんだんと驚愕に染まっていく…でいいのかしら? プルプル震えているし。どうしたのか尋ねようとしたんですけど、その前に…、
「グラーニェ大変だ! 一大事だ! ベオウルフが驚くべき情報を知らせてきたぞ!」
手紙を握り締め、興奮気味に迫ってきました。そんなに興奮しては…、
「うわぁぁぁぁぁん! お父ちゃまこわぁぁぁぁぁい!」
アレスがエルトの迫力に驚いて、泣き出してしまいました。私はキッ! と、エルトを睨み付け、
「落ち着きなさいな、…エルト。」
ドスの効いた声で叱りつける。エルトが硬直して…、
「す…すまんグラーニェ、興奮し過ぎた…。」
若干青ざめながらも、落ち着きを取り戻したよう。いつもは冷静なのに、どうしたのかしらね?
話を聞いてみると、私もかなり驚いてしまった。あのトラキアの英雄と言われている『黒刃』、史上初の男性天馬騎士が同一人物で、6年前に亡くなったエシャル君の可能性があると。そういえば、どちらもエシャルという名前だけども…! まさか、あのエシャル君かもしれないだなんて! 私が最初にこのことを知ったら、エルトと同じように興奮したわね。……そんなことよりエシャル君ね! 聞かなくても分かるけど、一応聞いてみましょう。
「エルト…、どうするの?会ってみるのかしら?」
「当然ではないか、グラーニェ! エシャルかもしれないんだぞ!? しかも丁度良く、アグストリアに来るのだ! これが会わずにいられるか! ……準備を、マディノに赴く準備をせねば! エシャル! お前の愛しき叔父が! エルト兄様が会いに行くぞ!」
慌てた様子で部屋を出ていくエルト、…そんなに焦って。まだエシャル君と決まったわけではないのに、…困った人ね。
早々に準備を終えたエルトは、
「エヴァ、アルヴァ、後のことは頼むぞ! 何も無いとは思うが、グラーニェ達をな! …イーヴよ、俺について来い! エシャル、今行くぞ!」
「それでは奥方様、エルトシャン様のことはお任せください! エヴァ、アルヴァ、奥方様達を頼むよ!」
イーヴと共に、慌ただしくマディノへと行きました。
「本当に仕方のない人ね…、エルトは…。」
でも、嬉しいかな? あの頃のエルトに戻ったみたい。本当に大切なのね? エシャル君が…。
でも、少し複雑かしら? エシャル君が生きているかも知れない、そのことは私も嬉しいんだけど。トラキア王国の将軍なのよね? 実家がレンスター王国だから、敵国みたいなもの。でも、あの戦いはコノート王国とマンスター王国から仕掛けたみたいだからね。…それに報復は無いみたいだから、大丈夫なのかな? …考えても仕方がないでしょうね、エルトが帰ってきたら色々と聞けばいいもの。
ーエルトシャンー
「マディノに行けば、久しぶりにベオウルフと会える。しかも噂の『黒刃』、もしかしたら俺のエシャルとも会えるかもしれない…! 高ぶる気持ちが抑えきれん、…うぉぉぉぉぉっ!!」
今の俺は人馬一体、誰にも止められはしない! エシャルが死んだこと、…俺は信じていなかった。遺体がある、遺品がある、アルヴィスが認めた…! それでも俺は信じていなかった。
『トラキアの黒刃』エシャル将軍、『天馬騎士』エシャル、どちらも情報として知っていた。俺のエシャルかも知れない、そう思った。だが、他国のことを詳しく調べることが出来なかった。それは何故か? 我がノディオンは、武力に自信がある! しかし、諜報は苦手なのだ! たったそれだけの理由、されどそれが理由なのだよ!
故に、ベオウルフからの情報は強烈だった! 流石は傭兵、情報収集もお手のものだな! 実際、たまたま感が漂うがな。それでも、エシャルの可能性がある。ベオウルフが俺に似ていると、エルト2号と書かれていたことで、俺はエシャルであると確信している。会ってみなければ分からないが、きっとエシャルだ。
世界でも稀有な色男で男前な俺に似ているのだ、間違いない! 俺より少し劣るが、アルヴィスっぽいところもあるだろう。もはや無敵の色男! 黒刃とはきっと、キルソードのことだ! 俺の贈ったキルソード、アルヴィスのマジックリングに対抗して贈った逸品。…やはりエシャル、それ以外は認めんからな! 今、運命の再会が…! エシャルゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!
エルトシャンは自分の容姿に自信があると思うんだ。
しかもエシャル馬鹿。
次回は、本編に戻ります。