・・・解せぬ。
ーホリンー
「……うぅ~…、俺は…?」
見知らぬ天井…いや、救護室か? 何故、救護室に…? とりあえず、上半身を起こして思い出してみる。
…俺は闘技場で連勝を続けていた。そして一人の男と対峙し、そして…、
「俺は破れた筈…、死んでない…?」
男の鋭い一撃で目の前が暗くなって…、そのまま死んだものかと思ったんだがな。自身の手を握ったり開いたりしてみたが、特に不調は無い。…というか、傷が無い。どういうことだろうか? 一応、他の箇所も見てみよう。
なんということだろうか、あの男と戦う前に刻まれた傷も治っている。…何が起きたんだ? そう思っていたら、
「おぅ、ホリン。ようやくお目覚めか?」
闘技場の親父が現れた。…丁度いい、親父に色々と聞いてみるか。
…聞いてみると、かなり驚いた。対戦相手のあの男が、倒れる俺にリライブを掛けたとのこと。剣の腕が王子級で魔法を使うって…、どんな化物だよ。…と思う俺は、悪くないと思う。負けた上に情けを掛けられた、少し惨めに思った。だが、ありがたいのも事実。先程の戦いで、俺も少なからず強くなった。死なずに済んだわけだから、更に強さを求めることが出来るというわけだ。そして強くなる為の近道、…あの男に師事すれば確実に強くなれる。…ならば、取る行動は一つ。
「親父! あの男は…!」
「黒刃の兄ちゃんか? …あの兄ちゃんなら帰ったぞ、いや…連れていかれたぞ。」
……連れていかれた?
あの男のことを更に聞いて、改めて驚いた。あの男の名はエシャル、あの高名な『トラキアの黒刃』。…強い筈だ、負けるのも仕方がない。それどころか、これは俺にも運が巡ってきたのでは? 『トラキアの黒刃』に師事すれば、俺は確実に完全に強くなれるじゃないか! ……肝心のエシャル、エシャル殿はと聞いてみれば、
「傭兵の男…でいいのか分からんが、ソイツが来て鳩尾一発。もう一人の男と一緒に引き摺られていったぜ? たぶんあの傭兵は…、近くの街に雇われている奴等の一人じゃねぇか?」
エシャル殿を鳩尾一発!? …その傭兵もかなりの手練れか? なおのこと、師事しなければ! …近くの街か!
「親父! 世話になったな、俺は強くなる為にエシャル殿を追う!」
「そうかよホリン、お前のお陰で稼がせてもらったからな! 応援するからな、達者でやれよ!」
エシャル殿ならば、きっと俺を…!
ーエシャルー
「……つーん。」
俺は今、かなりの不機嫌。それは何故か? どこぞの馬鹿ちんのせいで、綺麗なお姉さんのいる店に行けなかったからである。金髪イケメン君に勝利し、イザーク剣術を学べたという喜びが台無しだ。とりあえず10連勝して、ヴォルツの金で遊ぶ計画だったのに。突如控え室に乱入してきたベオウルフに鳩尾一発、俺は気を失った。目覚めてみれば宿の一部屋、…そして朝。気分最悪の中で呼ばれて、会議に参加しているわけなのだよ。つーんとなるのは、仕方のないことなのです!
気分は悪いけど、話はきちんと聞いていますよ? トラキアを通しての助っ人ですからな、仕事はやらないとね。依頼はキッチリこなす予定、トラキアの名に傷が付くからねぃ。不本意ながら、真面目にやります。…けど、態度が悪いのは許してくれよ?
「…まだ機嫌が悪いのかよ。」
「…べっつにぃ~、そういうわけじゃないけどねぇ~…。華やかな夜を台無しにされて、怒っているわけじゃないよ? 俺の鳩尾にかました奴を、後でボコボコにする予定だし。たぶんそれで、いつもの俺に戻ると思うよ? …後で、顔貸せやベオウルフ。」
「完全に怒り心頭じゃねぇか!?」
後でベオウルフをやるって考えると、なんだか気分が軽くなってきたな。いやぁ~…、俺ってば単純ね!
…とりあえず、会議は終わったわけだが。俺が潰した奴等以外に、10近くの集団があるみたいで。1つの集団を潰した為、他の奴等がどう動くか警戒が必要みたいです。一気に攻めてくるか、逆に警戒してくるか、まだ分からんのだって。故に守りを固めて、こちらも暫く様子見。下手に攻めて罠にハマったら、大変ですからね。つーことは、数日間は暇っすね。警戒せねばならないから、かなり暇ってわけじゃないけど。さて、どーすっかなぁ~…。
考えた結果、一度ヴェルダンに顔を出しとこうかと。マディノのことを覚えたし、次はワープで一発さね。ベオウルフ達には、遅くても明日には戻ると言った。ヴォルツやベオウルフ達は了承してくれたが、初顔合わせのレイミアさんは半信半疑。…まぁ付き合いが無いから、仕方がないけどね。俺はワープがわりと自在、…ってなことを説明。ベオウルフ達も援護をしてくれて、ヴェルダンへと行けることとなった。
「…さっきの援護で、ボコるのは無しにしてやるからな。とりあえず、段取りはよろしく。」
「…うっし! やったぜ俺! …っと、段取りっつーか守りは任せろ。その代わり、なんかいい策でも考えといてくれよ黒刃様。」
いい作戦ねぇ~…、まぁボチボチ考えますよっと。一週間近く空けていたけど、兄貴達は何をしているかな? …ディアドラは、里にへと戻っているだろうけど。行けば分かりますがねぇ~、…ワープ!
帰ってきたぜヴェルダンへ! 一週間ぶりだから、あまり変わっていないだろうけどな! そんなわけで、兄貴がいるであろう王座の間へ。鼻歌を口ずさみながら、マーファ城城内を歩く。…兄貴に報告はしないとね、無事マディノに着いたって。そこから雑談でもして、今日戻るか明日戻るか、決めないと。まぁ報告と雑談だから、今日中に戻ることになるのかな? …なんて考えながら歩いていたら、着いたようですぞ。ヘイ! 兄貴! ご機嫌いかがっすか? ってな勢いで、王座の間へ入る俺なのである。
王座の間に入ると、兄貴はいたんだけど…、
「兄貴! …って、ディアドラ!? あれ? 里に帰ったんじゃあ…。」
ディアドラもいました。…おかしいな? 隠れ里にいるものかと思ったんだけど…。頭に疑問符を浮かべていると、俺に気付いたディアドラが…、
「…!? …エシャル様? ……エシャル様!」
嬉しいような悲しいような…、そんな顔したディアドラが突撃してきた。いつもなら、ヒラリと避ける俺ですが…。避けるわけ…、ないじゃないか。
「エシャル様…、エシャル様…!」
飛び込んできたディアドラを、きちんと胸で受け止める。俺の名を口にしながら、静かに泣くディアドラ。一体、何があったのだろうか? 兄貴に視線を向けると、頷いてくれたわけだから、理由を教えてくれるのだろう。
……里への出入りを禁止ね、それは追放というのではなかろうか? というか、俺が原因の一つですよね? 俺に出会ってしまったから、ディアドラは…。いや、悔み悩みは意味が無い。既に起こってしまったのだ、なら…先を見据えるのが建設的じゃないか。切り替えが早いのが俺、そして俺は意志を大事にする男。ディアドラはこの先どうするのか? 聞いてみないといけないな。
「…ディアドラのいる理由は分かった。…今、こんなことを聞くのはあれなんだが、ディアドラはどうするんだ? この先どうするか、考えていたりするのか?」
悲しんでいるのなら、慰めてやるのが一番なんだろうけど。まずは意志を聞かねばなるまい、…でないと助言も出来ないからな。
問い掛けてから少しして、落ち着いたのであろうディアドラは、抱きついたまま顔を上げ、
「…私は、エシャル様と共にいたいです。この先…どうなるのか分からないけど、…どんな結果が待っているのか分からないけど、…エシャル様のお傍に置いてください。…ガンドルフ様に言われたんです、待つだけではいけないと。…私は私の道を、自分の足で歩きたいと思います。……駄目、…ですか?」
上目遣いで見てくるディアドラ。…強くなったんじゃないのディアドラちゃん、そう言われたら…、
「じゃあ、行くか。…俺と一緒にいるってのは、色々と大変だからな? 覚悟しろよ、ディアドラ…。」
頭に手を置き、くしゃりと撫でる。不安そうな顔のディアドラは、やっとこ笑顔に変わった。
ディアドラが準備をしている間に、俺は兄貴と話をしていた。
「ディアドラを連れていってくれるのは助かる。こっちも色々とあってな、もしかしたらディアドラに危険が及ぶかもしれねぇからよ。…怪しげな連中が、里の者を探しているみたいでよ。」
…なるほど、里の者をね。確かに、ディアドラは危険だな。ここのみんなは大丈夫だと思うけど、いつバレるか分からんからな。俺に引っ付いていれば、確実とは言えんがほぼ大丈夫だろう。
「良い情報をありがとな、兄貴。…弟のジャムカ君にも、礼を言ってくれ。」
兄貴の弟であるジャムカ王子が、ヴェルダン城にてスパイ的なことをしているみたいで。彼のお陰で、ディアドラを危険から遠ざけることが出来る。今度会う時が来たら、きちんと礼を自分で言わなければな。
そんなわけで、準備を終えたディアドラを傍に置き、
「兄貴、無理は駄目だぜ? ジャムカ君にも言っといてくれよ?」
と兄貴に言う。兄貴はグッと親指を立て、ニヤリと笑った。…うん、大丈夫みたいですな! …それならば、行きますか。…ワープ!
ディアドラが正式に、エシャルの下へ。
一番最初の仲間ですな。
次回は、ホリンの加入ですかね?