ーエシャルー
森に来て、気付いたことがある。
「…炎魔法を使ったら、大火災まっしぐらやん。俺の進むべき道が閉ざされた!」
一番確かめたかったモノが、一番駄目だということに気付いてしまったのだ。こいつぁ~痛い、痛すぎるぜ! 自由に生きると言ったが、大火災は駄目! 絶対!
…てなわけで、剣にしました。黒騎士ヘズルの血、見せてもらうぞ!
「じゃ~ん! キルソード!」
腰にぶら下げたキルソードを抜く俺、黒騎士ヘズルの再来と言える程カッコいい。…とは言ったものの、エルトシャンがいるからねぇ。獅子王には敵いませんわ、…俺ってエルトシャンと面識あるんかね?
うーん、記憶を探っても分からんな。まぁモヤモヤしている記憶の中に、もしかしたら出会った記憶があるかもね。そんなことより俺の剣の腕、そっちが重要。ヘズルがピッカピカだから、悪くない筈だ。へいへーい、猪か熊か何でもいいから掛かって来んかい!
馬鹿デカイ熊に襲われたよ! 流石の俺もビックリだよ、熊ってあんなにデカイんですかね!? 4mぐらいはあったかと思う。ビビったけど、キルソードと必殺のスキル効果で攻撃が全て必殺に! 追撃・連続で瞬殺さ!
攻撃こそが最大の防御、無傷で倒しました! 流石はヘズルの申し子、俺様カッコいい! 血濡れたキルソードを天に掲げ、倒した熊の上にて片手で顔を覆う。
…自己陶酔中。
…熊殺しのエシャル、今日からそう名乗…ダサいからヤメよう。
自己陶酔中のエシャルを、木の影から見る者がいた。エシャルは気付かず、ブツブツ言っている。見ている者は、一人の少女だった…。
ーディアドラー
人の気配を感じて、私はその場所に向かった。ここは奥深い森の中、精霊の森と呼ばれる場所。このような森の中に、人が来ることなど出来ない筈。
…たぶん迷い人だと思う。もしそうだとしたら、魔法で惑わせなくてはならない。私の住む場所に、近付けさせてはいけないから。お婆様にきつく言われているから…。私はそれで、何人もの人を惑わせてきた。本当は嫌だけど、それが掟だから…。だから私は向かう、哀れな人の元に…。
そして私は見てしまった、夢に見た騎士様のような方を…。その方は、赤みがかった金の長髪、切れ長の目に高い鼻、口元には薄く笑みを浮かべている。真紅のマントに、漆黒の立派な服を身に纏っている。
「…素敵。」
無意識に言葉を出してしまった私は、慌てて口元を押さえる。恐る恐るその方に視線を向けると、キョロキョロと辺りを見回し首を傾げている。…危なかった。ほっと一息を吐いた所に、
『グルオァァァァァッ!!』
大きな雄叫びが、森の中に響いた。
………!? あれは『赤腕』と呼ばれる人食い熊! そんな化物どうして…! 今の時期は、もっと森の奥にいる筈なのに…!
ヴェルダン王国第1王子様の討伐隊を破った化け物…。あぁ…、騎士様が殺されてしまう! 掟を破ることになるけれど、騎士様を助けるには…。そう決意をして、騎士様を逃す為の助太刀を…と、思った矢先、
「巨大熊が相手か…、俺の糧となるがいい!」
剣を構えて、『赤腕』に向かっていってしまった。その騎士様に向かって、『赤腕』が腕を振り下ろして…、
「……あぁ!」
私は手で顔を覆って、目を背けた。
それと同時に、
『ガァァァァァァァァァッ!!』
騎士様の悲鳴ではなく、獣…『赤腕』の悲鳴? そう思った瞬間、
ズゥゥゥゥゥン!
大きな地響きが森に広がる。私は戸惑いながらも、騎士様の方へ視線を向けてみる。そこには、『赤腕』と呼ばれた人食い熊が地に伏しており、そして騎士様は剣を天に掲げて、黙祷を捧げていた…。
ーエシャルー
…ふひぃ~、自分自身に酔っちまったぜ。今思うと恥ずかしいな、うん。俺は剣を振り、血を払って鞘に納める。そして悩む、…この熊をどうするか。このまま捨て置くのは勿体無い、うーむ。
………あ! ワープがあるじゃん。ワープだったら、この巨大熊も運べるんじゃね? ゲームだったら杖で一人しか送れないけど、杖ではなく魔法だからな。そうに違いない! なんて言ったって、ファラの血が濃いからな!余裕だろ、余裕! そうと決まれば、早速…ワープ!
エシャルは、巨大熊と共に魔法陣の中へと消えた。そしてエシャルも気付いていないが、物を落としていく。母の形見のペンダント、エシャル本人も持っていることを忘れている物。そして、それに気付き拾う者。ペンダントを拾った少女は、それを胸に抱き締めて、
「……騎士様。」
初めて抱いた感情に戸惑いながら、少女は何を想うのか…。
そんなことになっているとは知らないエシャル、何も考えていないだろう。
この少女はたぶん、ディアドラですね。
まだ、分かりませんが・・・。