いくぜ!
ーエシャルー
熊と一緒に、マーファ城に戻ってきた俺。城下の広場に突如として現れた為、大騒ぎになったが、
「おい、兄ちゃん…。その巨大熊…どうしたんだ?」
巨大熊の死体を見た男が聞いてきたんで、
「森の奥で遭遇したんで、殺っちゃったんだけど駄目だったかね?」
と、素直に答えた。……あり? 皆さん騒いでいたのに、急に黙ってどうしたん? なんかコソコソこっちを見ながら、お隣同士で話しているし。…俺、やっちまったのかね?
周囲の反応にビビる俺だったが…、
「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」
「え…何? 何が起きたのさ! …うるさっ!」
いきなりの大歓声に混乱しとります、耳キーン鳴っとります。何なのさ!
…先程の大歓声の理由、それが分かった。なんでも俺が倒した熊、『赤腕』と呼ばれる人食い熊らしい。ここ数年、ヴェルダンにて暴れまくっていたとのこと。んで、第1王子様が討伐隊を結成。しかし、思いの外強く敗走。熊の恐怖に怯えながら、生活していたらしい。
…山賊の国ですよね? なんつーか、情けない? …というか、あの熊強かったん? …まぁ倒したわけで、平和になった。それは良いことだ、うん。ちゅーことは、俺ってば英雄じゃん?
………みんな、ありがとう! ありがとう! とりあえず、調子に乗ってみた。
調子に乗った結果、なんか知らんけど城に呼ばれました。熊も大勢のマッチョ達に運ばれ、一緒にお城です。そして、目の前には王座に座るマッチョな兄貴。山賊王とでも名付けたい程の悪党顔、俺には無い魅力だぜ。そのマッチョな兄貴は、俺と熊を交互に見て、
「おうあんちゃん、…本当にコイツを殺ったのはお前か?」
なんてガンをつけてきやがったわけで、俺っちは嘘ついてないぜ? って気持ちを込めて、
「正真正銘、私が仕留めましたが…? お疑いでしたら、力を示しましょうか?」
と挑発してしまいました。だが、後悔はしていない。俺は思うがままに生きるのだ! それで死んだら、それはそれで俺の生きた道。神様も許してくれる筈さ! それに熊を圧倒したんだから、負ける要素がない。マッチョな兄貴は王族だろうけど、俺だって元だが貴族。ファラとヘズルの血が、屈するのを許さないのさ。…覚悟しいや、マッチョな兄貴!
「ちょいちょい兄貴! 素手はないでしょう!?」
「馬鹿かお前は、怪我したら駄目だろうが! それに、それが俺達の流儀だ!」
「ぎゃーーーーす!!」
武器を使っての決闘かと思ったら、素手での力くらべ。俺が勝てるわけないでしょうが!
…開始早々捕まって、さば折りをされました。結果は当然、…敗北です。マッチョな兄貴に、か弱い俺が力で勝てる筈が無い。これはヴェルダン王国の陰謀に違いない! …無念なり!
俺は腰を押さえながら、悪態を吐く。
「剛力戦士に勝てるわけないでしょうが! 俺はどちらかというと魔法使いなんですよ!? そんな俺に、素手での力くらべって…。アンタ達は鬼か悪魔か蛮賊か! せめて剣を使わせておくれよ、もっかいもっかい! 武器での模擬戦を提案する! へいへーい!」
そう言うと、マッチョな兄貴は俯いてプルプルしている。…ハッ! 不敬罪で打ち首!? コイツはヤバイぜピンチだぜ! ワープの準備を…、
「がははははは! お前、面白い奴だな! 気に入ったぜ! …おう、お前ら! 宴の用意だ!」
「「「「「へい! 王子!!」」」」」
…お? 首が繋がったんですかい?
「…んで、俺と赤腕が取っ組み合いになってな。そん時の傷がコイツよ!」
「取っ組み合い!? よくそれだけで済んだよね、ガンちゃんは頑丈だね! 俺だったら即死よ即死!」
和気藹々と飲んでます。マッチョな兄貴の名前はガンちゃん、…じゃなかったガンドルフ。ヴェルダン王国の第1王子なんだって! ゲームじゃ悪党だけど、現実は良い人。やっぱリアルは違うみたい、頼れる兄貴って感じ。一時はどうなるかと思ったけど、こうやって仲良くなれてよかったよかった。
ほろ酔い気分になったところで、ガンちゃんがこちらに向き直り、
「遅くなっちまったが、赤腕討伐感謝するぜ。エシャルのお陰で、民達が安心して暮らせるようになった。父バトゥ王に代わって、第1王子ガンドルフが礼を言う。本当にありがとう!」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
ガンちゃんが頭を下げるのと同時に、後ろのマッチョ達も頭を下げる。一瞬、何が起きたのか分からんかったけど、
「いやいや、当然のことをしたまでですよ。俺は元とはいえ貴族、民を守るのが務め。国は違えど民を想う気持ちは同じ、故にこれは務めであって礼はいらないさ。…だが、その礼は頂くよガンドルフ王子。」
と返し、顔を上げたガンドルフと目が合う。そして…、
「「わははははは!!」」
と笑い合った。
宴が終わり、俺はマーファ城に泊まることとなった。わりと酔った為にすぐ眠ることが出来ると思ったのだが、いざ寝る時になると冴えるもんで…。
「…良い月夜じゃないか、流石は森の王国。美しいもんだ…。」
廊下の窓から、月を見上げていた。…色々と考えてしまうな、自我が目覚めてまだ一日だけどさ。俺の過ごした日々は、平凡ではなく過激。微妙にモヤが掛かっている記憶、なんだか気持ち悪い。兄、アルヴィスの記憶も曖昧だ。…記憶がはっきりしないってーのは、嫌なもんなんですね。ボーッとしていると、後ろから足音がしたので振り返る。
「よぉ…エシャル、眠れねぇのかい?」
マッチョな兄貴、ガンドルフがいた。
…月を見上げながら、俺達は色んな話をした。俺はヴェルトマー家の生まれで、追放されたこと等を話した。まずったかな? とは思ったものの、ガンドルフには話しやすく話してしまったわけで。
ガンドルフも兄が死んだこと、新たに弟が出来たこと、どう付き合えば分からないこと等。ガンドルフも色々と悩んでいるみたいだ、…なんだか湿っぽいね? …やっぱ心細いのかなぁ。一人旅で逃亡者で、自我に目覚めて…さ。
俺達は黙って、月を見上げていた。会話が途切れて、とりあえず見上げていた。そして俺はボソッと、
「なんだかガンドルフは、デカイな…色々と。俺は兄との記憶が曖昧で、…なんだかガンドルフが兄みたいに思えてくる。今日会ってばかりなのに、可笑しいよな…。」
そんなことを呟いた。ガンドルフは俺の呟きに驚きつつ、ニヤリと笑みを浮かべ、
「俺もなんだかよ、エシャルみたいな男が弟だったら…って思っちまったよ。俺はグランベルが嫌いだ、嫌いだけどお前は…。言葉にすんのは難しいんだけどよ…。」
そしてまた、空を見上げる。
この日俺とガンドルフは、義兄弟の契りを結んだ。超展開の分類に入るような気がするけど、なんだか心が軽くなった。
そのすぐ後、
「兄貴ぃぃぃぃぃ!!」
「義弟ぉぉぉぉぉ!!」
そんな叫び声が、城の中に響いたとか響かなかったとか…。
俺はガンちゃんが好きなんだ!