副隊長、やります!   作:はるたか㌠

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ノリと勢いで始めた本作が、早くも10話到達です!
いつも本当にありがとうございます。

今回もオリキャラが一人増えます。
紹介は後書きにて。
なお、ちょっと長くなりましたが二話に分ける程ではないのでそのままにしています。


澤ちゃんはいいぞ!


第10話 模擬戦です!

「装填完了!」

「了解。桂利奈ちゃん、その坂を登ったら停止!」

「あいー!」

「紗希、合図したら撃って!」

「…………」

「えりさん、他チームの位置確認をお願いします!」

「畏まりましたわ!」

 

 モグラさんチームが、演習場を所狭しと動き回っていた。

 その様子を、みほが双眼鏡で眺めている。

 通信回線はオープンにしているので、車内のやり取りもヘッドホン越しに伝わって来ていた。

 

「みほさん、何だか嬉しそうですね」

「え?」

 

 ハッチから顔を出した華が、みほを見ながら言った。

 

「私にもそう見えるぞ」

「あ、麻子もそう思う?」

「無理もありませんよ。あの短期間で、あれだけ自在に動かせているのですから。そうでありますよね、西住殿?」

「……そんなに、顔に出ていた?」

「ええ。みなさん同じ意見ですし、みほさんはわかりやすいですから」

「あはは……。でもね、華さん達の言う通りなんだ」

 

 みほは、仲間達を見回しながら微笑んだ。

 

「優花里さんの言う通り、梓ちゃんがT-28を戦力として計算出来るようにしてくれたのは大きいよ」

「もう車長としては一人前だよね、梓ちゃんは」

「努力を怠らないのですから当然だとは思いますけど、でも凄いです!」

 

 本人が聞いたら褒め過ぎだとオーバーヒートしそうな調子で、あんこうチームの面々は梓を称賛。

 

「でも、西住さんはまだ何か不安があるようだが」

「冷泉殿もそう思われますか?」

「え? そ、そんな事はない……かな?」

 

 が、みほは兎に角顔に感情が出やすい。

 それは美点ではあるのだが、お陰で隠し事が出来ないという面もある。

 ましてや、あんこうチームの仲間はそんなみほをずっと身近で見てきたのだ。

 

「なんとなく、みほさんの考えている事がわかるような気がしますわ」

「え? 何でわかるの、華?」

「わかりますよ。澤さん、確かにタイマン張るなら、相手がどんな車両でも後れは取らないかも知れませんけど……」

「複数対複数ならどうなるかが未知数だな」

「歴史上の戦車エースと呼ばれる人もそうでしたから。車長と部隊長とはそれぐらい役割の違いがあります」

「バレバレだったみたいだね、あはは」

 

 みほは頷き、T-28の方に目を向けた。

 

「みんなの言う通り、梓ちゃんは指揮官としての経験が絶対的に足りてない。こればっかりは梓ちゃんがいいとか悪いじゃないから……経験を積まないとわからない事ばかりだし」

「ですが、西住殿。そうは言っても一朝一夕で身につくものではないですよね」

「勿論。まぁ、私もあまり偉そうな事は言えないんだけどね」

 

 戦車道に関わる人の殆どは、何らかの形で年少の頃から始めているとされる。

 みほのように小学校に上る前から戦車に触れる環境、となると流石に稀だがそこまで行かずとも何年かの経験があるという選手が多い。

 大洗女子学園のように僅か数ヶ月でそれらの選手と渡り合える方が異例なのであり、みほのずば抜けて優れた指揮能力の賜物とも言えるだろう。

 反面、みほがいなければチームとしては成り立たないのもまた事実。

 幸い、此処までの試合でみほの搭乗するⅣ号は最後まで生き残ってきた。

 エキシビションマッチのような例外はあるにせよ、それでもみほとⅣ号があればこその大洗チームという事に変わりはない。

 ライバル校も世代交代で同じような課題は抱えているかも知れないが、大洗には更に経験という絶対的な差がある。

 黒森峰との決勝戦。

 アリクイさんチームの三式中戦車が操縦を誤らなければ、Ⅳ号は確実に撃破していたと試合後にエリカから聞いていたみほ。

 慣れない操縦にももがーが四苦八苦した結果、エリカのティーガーⅡの射線に飛び込みⅣ号の身代わりとなった。

 あくまでも結果論ではあるが、Ⅳ号だけではなく大洗チームに取っても幸運だったと言わざるを得ない。

 Ⅳ号はフラッグ車だったからその時点で試合終了だったのだが、もしフラッグ車が他の車両だったとしても撃破された時点で敗北は確定していただろうと言われる。

 作戦はある程度事前に説明してあったとは言え、その指示を出すのはみほ一人。

 個々の奮戦で多少は粘れたかも知れないが、最後はマウスの前に次々と撃破されていたに違いない。

 破れかぶれでまほのティーガーⅠを狙ったとしても、まほ自身その程度の事で不覚を取る可能性は限りなく低い。

 そう考えれば、大洗の勝利は実力だけではない。

 そして、今後も幸運の女神が微笑み続けるとは限らない。

 

 いくらみほが見込んだ相手とは言え、戦車道経験が半年にも満たない梓にいきなり部隊長としての役割を持たせるのは酷である。

 経験を積み、日々研鑽していくしかないのだが自助努力だけではやはり限界がある。

 みほのように他人から見ればエリート、英才教育を受けられる環境にあればまだしも今はそれを望むべくもない。

 みほは目を閉じ、考え込む。

 四人もただジッと、みほを見守る。

 ……ややあって。

 みほは表情を引き締め、沙織に目を向けた。

 

「沙織さん。全車両に集合をかけて」

「了解、みぽりん」

 

 

 

 全車両が燃料弾薬の補給を受け、みほが指示した会合地点に集まった。

 梓はT-28から降り、みほの前に立った。

 他の車長も後に続き、整列した。

 

「今日は、小隊に分かれて模擬戦を行います」

「小隊、ですか?」

「うん。私がコスモス小隊、梓ちゃんがモミジ小隊をお願いね」

「わ、私ですか?」

 

 いきなりの事に梓は声を上げてしまう。

 みほは頷くと、視線を車長らに向けた。

 

「コスモス小隊はうちとアヒルさん、カバさん。モミジ小隊はカメさん、ウサギさん、レオポンさん、カモさん、それにモグラさんで。ルールは殲滅戦とします」

 

 編成に車長らからざわめきが起きる。

 みほの小隊は梓に比べて両数は半分。

 その代わり、メンバーは全員入れ替わりがない。

 習熟度とみほの指揮能力を考えれば、不利なのは寧ろ梓小隊だろう。

 特にカメさんとレオポンさんは全てにおいて戦力としては以前よりも大幅にダウンしている。

 しかも殲滅戦だから、フラッグ車だけを狙っての一発逆転はない。

 ゴモヨやツチヤ、ねこにゃーらは不安を隠せない。

 そんな空気を振り払うかのように、あゆみが梓の肩を叩く。

 

「よろしくね、梓隊長。頑張ろ?」

「あゆみ……。そうだね」

 

 梓は力強く頷いてみせてから、みほを見た。

 

「では西住隊長。モミジ小隊、預かります!」

「うん!」

 

 

 梓は、五人の車長を集めた。

 ゴモヨ、ツチヤ、あゆみはいずれも車長としての経験は浅い。

 ねこにゃーが僅かに長いと言えたがそれも僅かの差でしかない。

 そして、ヘッツァーの車長は全くの未経験者。

 いきなり車長になった上に模擬戦、しかも相手はあのⅣ号とみほ。

 緊張からか、顔面蒼白だった。

 

「上野さん、でしたね?」

「はは、はい!」

「改めてよろしくお願いしますね」

「こここ、此方こそ宜しくお願い致しまする!」

 

 上野智子、一年生。

 嘗ての梓達と同じく、仲良し四人組での参加だ。

 車長は志願した訳ではなく、ジャンケンの結果らしい。

 例外に漏れず、戦車道は全くの未経験者ばかり。

 何とか走らせ、射撃は出来るようにはなってはいたがまだまだ全てがぎこちないのが今のカメさんチームだった。

 みほもそれは理解しての上で小隊に加えた事の意味を、梓は考えていた。

 

(荒療治、かな……私を含めて)

 

 今の大洗女子学園は、もう切迫した事情を抱えてはいない。

 廃校の可能性は完全になくなり、人数の頭数だけは揃っていた。

 が、だからと言って安閑としてはいられない。

 ディフェンディングチャンピオンとして、これからは他校から厳しくマークされる立場に変わったのだ。

 みほの才能だけに頼ってはいられず、寧ろメンバー全員が更なる成長を遂げる必要に迫られている。

 その筆頭が梓である事は間違いないが、来年の大会までには予選もあれば練習試合も組まなければならない。

 車両数に余裕のない大洗女子学園は、全員が一丸となる必要が他校以上にある。

 みほは決して口には出さないが、現状に歯痒さを感じているに違いない。

 だからこその、荒療治。

 見るべきところがなければ最悪、メンバーの入れ替えも視野に入れていると梓は見ていた。

 ならば、自分のやるべき事は何か。

 冷静に落ち着いて指揮を執る事は勿論だが、自分がいくら的確な判断を下しても隊として連携を欠いては意味がない。

 

(他人の言葉を借りるのも何だけど、この際だから)

 

 そう自分に言い聞かせると、智子の前に立った。

 

「上野さん」

「ひゃい!」

「大丈夫ですよ。戦車なんてバーッと動かしてダーッと操作してドーンと撃てばいいんですから!」

「……へ?」

 

 智子だけでなく、全員が呆気に取られてしまう。

 普段の梓ならまず言わない台詞だったのもあるだろう。

 

「梓……それ、もしかして……?」

「そうだよ、あゆみ。私達の教官からのお言葉」

 

 この場にいて、それを知るのはあゆみだけ。

 

「澤さん。教官って……西住隊長じゃないよね?」

「違いますよ、ツチヤ先輩。まだ私達が五両しかない時、最初に来て下さった方……蝶野一尉のお言葉です」

「そ、それだけ?」

「アバウト過ぎだにゃあ」

 

 ゴモヨもねこにゃーも、開いた口が塞がらないようだ。

 ましてや、智子には衝撃以外の何物でもないだろう。

 

「それでも、私達は必死で戦車を動かして指示に従おうとしました。……でも」

「で、でも?」

「私達ウサギチームは、あんこうチームに恐れをなして逃げようとしちゃったんですよ?」

「ま、まさか……。だってウサギさんチームと言えば……」

「上野さん。梓が言ってる事は本当なんですよ? 逃げようとした挙句、履帯が外れて最後は自爆したような格好で終わっちゃったんです」

「…………」

「それだけじゃありません。聖グロとの練習試合は迫ってくる敵に怖くなって、M3を捨てて逃げ出したんです」

「梓は止めようとしたんですけどね。私を含めて他の全員が逃げちゃったから」

「し、信じられない……」

 

 梓は、智子の肩をポンと叩いた。

 

「だから、怖いのはみんな一緒です。ましてや、相手はあの西住隊長。アヒルさんもカバさんも数々の戦いを潜り抜けてきた猛者揃いですから。正直、私だって怖くないと言えば嘘になります」

「そ、そうなんですか……?」

「はい。でも、だからと言って逃げるつもりはないです。やられたっていいんです、これは練習なんですから」

「…………」

「私の指揮で動く事に不安があるかも知れません。でも、私も冷静に落ち着いて一生懸命頑張りますから!」

 

 梓がそう言い切ると、あゆみがクスクス笑い出した。

 

「ちょ、ちょっとあゆみ? 人が真面目に言ってるのに!」

「あははは、ゴメンゴメン。でも梓、それ西住隊長と同じ台詞だよ?」

「……あ」

 

 完全に無意識で言った梓だが、あゆみの指摘通りだった。

 赤くなる梓に、その場の空気がフッと緩んだ。

 

「そうだね。やるだけやってみよう」

「チームプレイだもんね」

「そうだにゃあ。西住さんが相手でも、やるしかないにゃあ」

「はい。梓、私は梓に従うよ!」

「みなさん……ありがとうございます。上野さんも、いいですか?」

「わ、わかりました! こうなれば覚悟を決めますよ!」

 

 梓は手を伸ばし、甲を上に向けた。

 あゆみが、その上に手を重ねる。

 他の四人も、それに倣った。

 

「みなさん、頑張りましょう!」

「応っ!」

 

 

 

「副隊長、本当に大丈夫?」

「安祐美さん。それはちょっと失礼ですわよ?」

「け、けどさぁ……」

 

 安祐美とえりのやり取りを見ながら、梓は他車の状況を思い浮かべる。

 小隊長である自分のいるこの車両でさえこんな調子なのだ。

 智子率いるヘッツアーは言うに及ばず、P虎(ポルシェティーガー)やルノーB1はもっと不安が渦巻いているのだろうと。

 親友のあゆみでさえ、乗員の半数が新人と来れば苦労している事だろう。

 それだけ、みほという存在は大洗女子学園チームに取っては絶大としか言えない。

 味方であればこれ以上頼れる相手はないが、もし敵に回せば……。

 正に今はその状況なのだ。

 

「片岡さん、吉田さん。私も絶対大丈夫だ、勝てるとは言いません。相手はあの西住隊長なのですから」

「ほ、ほらやっぱり」

「安祐美さん、まだ澤さんの話は終わってませんわよ?」

「う……。す、すまん」

「いいんですよ。それよりも、負ける事が前提で望んでは西住隊長が望んでいる結果にはならないと思うんです」

 

 えりと安祐美は、揃って梓の顔を見た。

 

「勝つよう最大限努力しましょう。その結果がどうあれ、その姿勢が大事だと思いますから」

「そーだよ! やる前から勝てないと決めつけてたら、何も出来ないし」

「…………」

「桂利奈ちゃんや紗希の言う通りです。まずはやれる事に全力を尽くしましょう」

 

 梓が力強く宣言すると、えりと安祐美も覚悟を決めたらしい。

 

「わかった。やれるとは言わない、けどやってみるさ」

「そうですわ。わたくしも隊長車の一員、頑張りますわ」

「その意気ですよ」

 

 梓自身、周囲を励ます事で自分を奮い立たせていた。

 昔の自分なら逃げ出さないにしても、手足が竦んで何も出来なかったかも知れない。

 それだけ、目標とする壁は高い。

 が、他のメンバーはそれでも自分についてきてくれると言った。

 ならば、それに全力で応えるのみ。

 

「モミジ小隊、行きます! パンツァー・フォー!」

 

 

 

「此方カモチーム。周囲に敵影なし」

「ウサギチーム、今のところ接敵なし」

 

 模擬戦が始まったが、すぐに戦闘にはならなかった。

 身軽な八九式が斥候に出ると見た梓は、小隊を三つに分けた。

 B1と三式中戦車、M3とP虎(ポルシェティーガー)、そしてT-28とヘッツァー。

 単独行動させて各個撃破されるよりも、攻撃を受けた時に連携して反撃する事を狙った。

 少なくともバラバラになるよりも心強い筈だ。

 

「小隊長車より各車へ。向こうには待ち伏せを得意とするⅢ突がいます、挑発や陽動で誘い込まれないよう慎重に行動して下さい。接敵した場合でも無理は禁物です。何か異変を感じたら直ちに報告をお願いします」

「梓、やっぱり西住隊長みたい~」

「優季! もう!」

 

 梓は窘めたが、決して本気ではない。

 優季なりに緊張を和らげようとしたのだろう。

 戦闘中に緊張感がないのは考え物だが、そこはバランス。

 それに、少なくともM3は気負わずに臨んでいるようだと梓は理解出来た。

 砲塔ハッチから身を乗り出し、周囲に目を走らせた。

 みほは柔軟な運用を得意とするが、如何せん三両では戦術の幅が限られてしまう。

 八九式は主砲を換装したとは言え、Ⅲ突やⅣ号に比べるとやはり攻撃力で見劣りする。

 此方の編成を見抜けば別だが、その為にはやはり斥候を出すだろう。

 梓は周囲に敵影がないと見定めると、マイクに手を伸ばした。

 

「桂利奈ちゃん、微速前進。上野さん、ついてきて下さい」

「あいー!」

「り、了解!」

 

 小隊の中で操縦に不安がないと言えるのはT-28と三式中戦車。

 ならば、自分が動いてみたらどうか。

 相手の動きはわからないが、それで何か見えるかも知れない。

 梓に取っては賭けではあるが、決断するのが隊長の役目と自分に言い聞かせた。

 ……と。

 林の間から、ダダダダと連続音がした。

 ヘッツァーの車体からカンカンと金属音が響く。

 

「て、敵だ! 反撃しましょう!」

「上野さん、待って下さい! 撃破するつもりなら機銃ではなく主砲を使う筈です! まずは落ち着いて!」

 

 梓は林に目を凝らすが、射撃してすぐに姿を隠したらしく位置は掴めない。

 ……ふと、梓は悪寒を感じた。

 

「桂利奈ちゃん、全速後退!」

「あ、あいっ!」

 

 数秒後。

 T-28のいた場所から、派手な土煙が上がった。

 

「紗希、七時の方向に砲を向けて!」

「…………」

「桂利奈ちゃん、停止! 紗希はすぐに撃って! 撃ったらすぐに前進!」

「おりゃーっ!」

 

 ドスンと車体が揺れる。

 

「吉田さん、すぐ装填お願いします!」

「お、おう!」

「片岡さん、他のチームからの報告に注意して下さい!」

「畏まりましたわ!」

 

 梓は双眼鏡から目を離さず、矢継ぎ早に指示を出す。

 一瞬だが捉えたシルエットは見間違いようもない。

 Ⅳ号が、明確に此方を狙ってきた。

 咄嗟の勘が働かなければ、T-28は撃破されていたに違いない。

 華の命中率を考えれば、正に間一髪と言えた。

 

「上野さん、当たらなくて構いません。援護射撃をお願いします!」

「む、無理ですよ! 動きが速過ぎます!」

「停まってはダメです、狙い撃ちにされます!」

 

 動きの悪いヘッツァーは、華の腕からすればいい的でしかない。

 闇雲に撃つのはあまり褒められた事ではないが、回避行動が十分に出来ない以上は行進間射撃の真似事をせざるを得ない。

 ヘッツァーは装甲が薄く、75ミリの砲撃を受けてはひとたまりもない。

 

「ふ、副隊長! どうしたらいいんですか!」

「前後に動いて射線に入らないように! チャンスはあります、必ず!」

「澤さん! カモさんとアリクイさんが攻撃を受けているそうですわ!」

 

 ヘッツァーへの指示を出す最中に、えりが叫んだ。

 

「被害状況は?」

「はい。行動不能にはなっていないようですわ、砲撃は受けたようですが」

「……間違いないですね?」

「ええ。撃破されたのならそう知らせが来ますもの」

 

 単純な引き算であれば、それはカバさんチームの仕業となる。

 が、梓には何かが引っかかる。

 Ⅲ突の砲手は左衛門佐、大洗でも華とあけびに次ぐ名手である。

 三式中戦車もB1も、Ⅲ突の75ミリ砲ならば簡単に装甲を抜かれてしまう筈。

 それが砲撃を受けても無事とは、何かがおかしい。

 当たりどころが良ければないとは言えないが、梓の勘はそうではないと告げていた。

 

「片岡さん! レオポンさんとウサギさんに伝達!」

 

 

 

 梓は見事、みほの作戦を看破した。

 林からの銃撃が八九式ではなく、Ⅲ突の仕業だと。

 Ⅲ突は75ミリ長砲身のイメージが強過ぎるが、副武装として機銃を搭載している。

 今まで使われる場面がない事、八九式が訓練や試合でしばしば機銃を使っている事から梓も最初の銃撃がⅢ突によるものだとは気づかなかった。

 相手がCV33(カルロ・ベローチェ)なら兎も角、他の車両ならば八九式の主砲では接射してもなかなか撃破には至らない。

 忍の優れた操縦テクニックで軽快に走り回るだけに、いざ狙ってみると厄介な相手ではある。

 が、攻撃が通じない以上は反撃に転じたくなる……みほの狙いはそこにあった。

 残念ながら梓は一歩後れを取り、P虎(ポルシェティーガー)とM3は回り込んだⅣ号に撃破されてしまった。

 その間に梓はⅢ突を発見し、撃破に成功。

 が、その際にヘッツァーが被弾してしまう。

 八九式は三式中戦車と撃ち合いになったが、巧みなあけびの砲撃で三式中戦車が先に行動不能に。

 勢いでB1とぶつかり弾き飛ばされたものの、咄嗟に放った一弾がB1の進路を狂わせた。

 B1は窪地に落ち、弾かれた八九式はひっくり返って行動不能で相討ちとなった。

 結局Ⅳ号とT-28の一騎打ちとなったが、装填速度の差で僅かにⅣ号が勝利を収めた。

 

 悔しがる安祐美をえりが宥める姿を横目に、梓はみほの前に向かった。

 

「惜しかったね」

「いえ、負けは負けです。やられちゃいました」

「勝負は時の運。次はわからないよ?」

「……はい!」

 

 みほは、梓の元気な返事に微笑んだ。

 

 

 

「澤副隊長!」

 

 梓が車両の回収を指示しているところに、智子があゆみに連れられ姿を見せた。

 

「上野さん? あゆみ、どうしたの?」

「うん。梓に何か言いたそうにしながら見ていたから」

「私に?」

「……あ、あの。すみませんでした、何の役にも立てなくて」

 

 そう言って、智子は頭を下げた。

 

「謝らなくてもいいんですよ。逃げずに動いてくれたじゃありませんか」

「で、でも……」

「言った筈ですよ、これは練習です。勝ち負けは結果でしかありませんし、私も結局やられちゃいました」

「……それでも、凄かったです。わたし、正直すぐに全滅するかもって最初は思ってました。あの西住先輩相手になんて。でも、凄かった! 格好良かったです!」

「は、はい!」

 

 あまりの勢いに、梓はやや引きながらも頷く。

 

「なんか、昔の私達を見てるみたいだね」

「あゆみ?」

「ほら、聖グロとの練習試合。覚えてるでしょ?」

「……うん、確かにそうかもね。上野さん、頑張りましょう。いつか、西住隊長に頼られるように」

「いえ。それじゃダメです」

「え?」

「私、いえ私達は決めました。澤副隊長と一緒に、西住先輩を目指して……いや超えてみせましょう!」

「え、ええと……?」

 

 救いを求めるように、梓はあゆみ達を見る。

 が、皆はただ微笑むのみ。

 いつの間にか、そこにえりと安祐美まで加わっていた。

 

「やられっ放しは性に合いませんわね」

「そうそう。いつか見返してやろうじゃん!」

「ち、ちょっと。片岡さんに吉田さんまで」

「頑張るしかないね、梓?」

「も、もう!」

 

 笑い声が巻き起こる姿を、みほと華が離れた場所から見ていた。

 

「先が楽しみですね、みなさん」

「そうだね。ふふ」

「みほさんも嬉しそう。あ、沙織さん達が手を振っていますよ?」

「行こっか」

 

 華はみほがスキップしながら歩いている事に気づき、そっと微笑んだ。




新オリキャラです。

◇上野智子◇
学年:一年生
容姿イメージ:アイマスの萩原雪歩
ポジション:車長(ヘッツアー/カメさんチーム)
趣味:テレビドラマ鑑賞、食べ歩き
好きな戦車:チーフテン

ソフトボール元日本代表選手から名前をお借りしました。
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