その間に劇場版BDが発売されたりドラマCDが出たり劇場版の興行成績がまどマギを抜いたりといろいろありましたが……遅くなりましてすみません。
あれこれ試行錯誤していましたが、劇場版BDの特典OVAから浮かんだ話です。
(ネタバレはない筈です)
なので、澤ちゃんがいつもとちょっと違うかも。
ではパンツァー・フォー!
「久しぶりの上陸だね」
「アウトレット行こうよぉ」
「さんせー!」
大洗港接岸を目前にして、大洗女子学園の生徒達は一様にテンションを上げていた。
その中でも人一倍元気なのが、ウサギさんチームの六名。
チームこそ分かれてしまったが、その関係には何の変化もない。
あやに優季、桂利奈は上陸後の予定で盛り上がっていた。
「梓。どこ行こっか?」
「そうだね、どうしようか」
「…………」
「え? きんつば食べたいって?」
「紗希はきんつば好きだからね。じゃあ……」
と、そこにみほが姿を見せた。
「梓ちゃん。ちょっといい?」
「はい。何でしょう、西住隊長」
「実はね、お願いがあって」
「私にですか?」
「うん」
みほの頼みとあれば、梓に否という選択肢はあり得ない。
親友達とショッピングに行けなくなる申し訳なさや残念さを押し隠し、梓は頷いた。
「西住隊長……まさか」
「うん、そのまさかなんだよね」
一足先に連絡艇で上陸した先には、思わぬ待ち人がいた。
「みほさん、わざわざありがとう」
「ううん、待たせちゃったかな?」
「あ、あなたは……」
梓でなくても驚いたに違いない。
戦車道大学選抜チーム隊長にして、島田流家元の娘である愛里寿がそこにいたのだから。
無論制服ではなく私服姿で、ボコのぬいぐるみを抱いていた。
「西住隊長。これはどういう事ですか?」
「私からお願いしたの。みほさんは悪くないから」
「待って、愛里寿ちゃん。……梓ちゃん、まずこの事は誰にも言わないで欲しいの」
「ハァ、言える訳ないじゃないですか。大騒ぎになっちゃいますよ」
「ありがとう。でね、今日は愛里寿ちゃんに大洗を案内してあげようと思って」
「……?」
首を傾げる梓。
梓は隣町のひたちなか出身、大洗の事もみほよりは遥かに詳しい。
が、大洗には愛里寿の年頃で喜びそうな施設があるとは思わなかった。
アクアワールドはあるが、市街地からは離れているしそもそも愛里寿が行きたがるかどうかはわからない。
食のレベルは高いが、梓から見て愛里寿は食い意地が張っているようにも見えない。
「梓ちゃんなら大洗も詳しいでしょう? それに、どうしても愛里寿ちゃんと行きたい場所があって」
「そりゃまぁ……。でも、何処へ?」
「ボコミュージアム」
即答する愛里寿。
「ボコミュージアム……ですか?」
「うん! 楽しかったよね、愛里寿ちゃん!」
「……うん。楽しかった」
「……ありましたっけ? 大洗にそんな施設」
「あるよ、知らないの? 海岸沿いに走っていったところだけど」
顔を見合わせるみほと愛里寿。
二人が揃って梓を担ぐ訳もなく、そもそも梓は愛里寿とは直接面識もない。
となれば、梓が知らないだけという事になる。
流石に梓も、大洗の隅々までを知り尽くしている訳ではなく。
「……すみません。どうやら、私の知らない場所のようです」
「あはは、私も知らなかったからね。タクシーで行こっか?」
大洗港からは歩いて行くには少々遠い立地らしい。
愛里寿が以前訪れた時も、大洗駅からタクシーを使ったとか。
となれば、詳細な場所を聞いてもわかりそうにもない。
「……そうしましょう」
後で、大洗出身の紗希に改めて聞いておこうと思う梓だった。
「うわぁ、綺麗になったね!」
「母上が、スポンサーになってくれたから」
目の前に、真新しい外装の建物がそびえていた。
みほと愛里寿に言わせると、以前はまるで幽霊屋敷かと思うぐらいボロボロだったらしい。
無論ボコそのものが目当ての二人は気にしなかったようだが、実際赤字で廃館間近だったとも。
それだけ入館者数も少なく、知名度のない施設だった事になる。
梓が知らないのも無理はなかったという訳だ。
「本当はね、あの試合に勝ったらって条件だったの」
「え……?」
「勘違いしないで欲しいの。私もあんな条件で試合をやれって言われて面白くはなかった。でも、それを聞かされたのは引き受けた後で」
「もういいの、愛里寿ちゃん。ね、梓ちゃん?」
「……はい」
頷く梓。
「確かに、試合の条件を聞かされた時はあまりの事に驚きました。でも、それは全て文科省の指示だった訳ですよね?」
「そう。普段の私達はシャーマンで戦うし、カール自走臼砲とかT28まで用意されてるなんて思わなかったから」
「それなら仕方ないですよ。……そんな状況でも、西住隊長は諦めなかった。だから私達は戦えたんです。それに、他校の皆さんが来てくれましたから」
「……うん。見ていて、ちょっと羨ましかった。みほさん、友達たくさんいるんだなって」
「友達……?」
「そうでしょう? 困っているみほさんを助けようって、あんなに大勢が駆けつけたんだよ?」
「愛里寿ちゃん……」
「私、飛び級したせいで友達があんまりいないから。だから……いいなって」
「それなら、私とお友達になろう?」
そう言って、愛里寿の手を取るみほ。
「……いいの? 私、みほさんとこれからも戦いたいのに」
「戦車道には、敵だから仲良くしちゃいけないなんてルールはないよ? それを言ったらカチューシャさんやケイさん、ダージリンさんもお友達じゃなくなっちゃうもん」
「みほさん……。ありがとう」
目を潤ませる愛里寿。
「そうだ。梓ちゃんもお友達になってあげて」
「私、ですか?」
「うん。お友達は多い方が楽しいでしょ?」
「それはそうですが……。その、愛里寿さんは」
「私は構わない。友達になってくれるなら、嬉しい」
目を逸らしながら呟く愛里寿に、梓の中で何かが弾けた。
「よ、喜んで!」
「ほ、本当に?」
「はい! あ、私は澤梓です、改めて宜しくお願いします」
「……ありがとう。じゃあ、敬語は要らないから。私、年下だしあなたの隊長でもないから」
「え? い、いいの?」
「うん、好きなように呼んで欲しい」
「……じ、じゃあ愛里寿ちゃん……?」
「うん! あなたの事はどう呼んだらいい?」
梓は少し考えてから、顔を赤らめた。
「……もし、良かったら。梓先輩、って呼んでくれる?」
「……梓先輩」
「キャー! 愛里寿ちゃん、可愛い!」
そのまま愛里寿に抱きつき、頬擦りを始めてしまった。
「あ、梓先輩。苦しいったら」
「あはは……。まさかこんな展開になるとは思わなかったよ」
梓のささやかな暴走は、騒ぎに何事かとミュージアム職員が出てくるまで続いた。
その後暫く、我に返った梓が小さくなっていたのは言うまでもない。
「このおだんご、美味しい!」
ミュージアムを堪能した二人を連れ、梓は商店街へとやって来た。
その中に、大洗名物のだんごを出す店がある。
持ち帰りも可能だが、やはり出来立てが一番と店の常連が口を揃える。
「試合で通った場所に、こんなお店があるなんて知らなかったよ」
「試合中はお店が閉まりますし、第一そんな余裕はないですからね」
梓の前で、みほと愛里寿が幸せそうにだんごを頬張っている。
「愛里寿ちゃん、ゆっくり食べてね?」
「うん、梓先輩!」
「梓先輩……はぁ、いいなぁやっぱり」
「梓ちゃん、顔が緩み過ぎだよ」
「そ、そんな事……はわぁ」
みほに言われて表情を引き締めようとするが、結局愛里寿を見て元に戻ってしまう梓。
「愛里寿ちゃん。何か食べたいものある? 大洗はね、美味しいお店がたくさんあるんだよ」
「すぐにはいらないけど……何でもあるの?」
「世界中の料理全部は流石に無理だけど……。言ってくれたら見つかるかも」
愛里寿は少し考えてから、上目遣いで梓を見た。
また頬擦りしたくなるのを必死に抑える梓。
「何でもいいの?」
「言ってみて。探してみるから」
「本当?……じゃあ、目玉焼きハンバーグ」
「ハンバーグ? じゃあ洋食屋さんかな……」
洋食を出す店もいくつかあるが、梓には心当たりがない。
が、期待に満ちた愛里寿の顔を見るとそうも言えない。
沙織のようにはいかないが、最悪自分で作ろうかと思い始めた。
……と。
「お嬢ちゃん。ハンバーグが好きなのかい?」
だんご屋のおばさんが声をかけてきた。
愛里寿がすかさず頷く。
「うん、好き」
「なら、この店行ってみな。出してくれる筈だよ」
そう言って、おばさんは住所を書いたメモを差し出した。
「ちょっと歩くけど、それだけの価値はあるからさ」
「あ、ありがとうございます!」
「いいって。ゆっくり食べて行きなよ、お茶も飲みな」
おばさんはそう言いながら、奥へと入って行った。
「良かったね、愛里寿ちゃん」
「うん。あ、でも梓先輩のお勧めがあるのならそっちでも」
「いいって、折角おばさんが教えてくれたんだし。行ってみようよ」
「そう……そうだね」
ふと、梓はみほが自分を見ている事に気づいた。
「西住隊長……?」
「梓ちゃん、完全にお母さん状態だよ?」
「え? そ、そんな事ないと思いますけど」
「否定できる?」
「そ、それは……」
「ちょっと意外。私だけじゃ心配だからついてきて貰ったのに、まさか梓ちゃんの方が愛里寿ちゃんと仲良しになるなんて」
「す、すみません……」
「あ、別に責めてるんじゃないの。二人が気まずい思いをしなくて良かったな、って。ただ……」
「ただ?」
「ちょっとだけ妬けちゃうかな。ちょっとだけね」
愛里寿はそんなみほを見て、梓にだけ聞こえるようにそっと呟いた。
「みほさん、怒ってないよね?」
「多分、ね」
「あーっ! 二人で内緒話なんてヒドいよ!」
今度こそ頬を膨らませるみほに、顔を見合わせて笑う梓と愛里寿だった。
「はい、お待たせ。目玉焼きハンバーグとイチゴジュースセットね」
三人は教えられた店を訪れ、テーブルについていた。
決して広い店内ではないが、気のいいおばさんが切り盛りしていた。
目玉焼きハンバーグはメニューにはなかったが、みほの顔を見て作るよと快諾。
流石大洗一の有名人と、梓は感心するばかりだった。
皿には大きめのハンバーグに、堅焼きにしたハート型の目玉焼きが載せられていた。
その横には、豪快にジョッキに注がれた果汁百パーセントのイチゴジュース。
かなりのボリュームだが、三人は歓声を上げていた。
「じゃ、食べようか?」
「うん、いただきます!」
ナイフとフォークを器用に操り、愛里寿はハンバーグを一口。
その顔が、パッと輝く。
「美味しいよ、これ!」
その様子に見惚れていたみほと梓も、ハンバーグに手をつけ始めた。
そして、
「本当だ! 美味しい!」
「ですね!」
そのまま三人揃って、夢中で食べ始めた。
愛里寿はイチゴジュースが気になるのか、一度フォークを置くとジョッキを手に取った。
なみなみと注がれたそれを、ちょっとずつ飲み始めた。
「イチゴジュースも美味しい。こんなに濃厚なの、初めてかも」
「うちのは完熟イチゴばかりを集めて作ってるからね。手間かかってるんだよ?」
冗談めかして話す店のおばさんだが、味には自信があるのだろう。
美味しい美味しいを連発する三人をニコニコと見ている。
みほも梓も、ハンバーグを綺麗に平らげてからイチゴジュースを堪能したのは言うまでもない。
「今日は、本当にありがとう。みほさん、梓先輩」
夕方。
みほと梓は、大洗駅にいた。
無論、愛里寿の見送りである。
「こちらこそ、楽しかったよ。また遊ぼうね、愛里寿ちゃん」
「うん!……梓先輩も、また」
「あ、あのね……愛里寿ちゃん」
「うん?」
小首を傾げる愛里寿。
「ゴメンね。初対面同然なのに……その……」
「どうしたの?」
「先輩って呼ばせちゃったり、抱きついちゃったりして……。本当に、ごめんなさい!」
梓は、勢い良く頭を下げた。
あまりの事に、みほも愛里寿も目を丸くしている。
「いいの。私は気にしてないし、楽しかったから」
「……で、でも。それに、西住隊長にまでご迷惑を」
「梓ちゃん。私も楽しかったし、愛里寿ちゃんもそう言ってるじゃない」
「……じゃあ。あ、あのね。梓先輩は……西住隊長と一緒か、二人だけの時でいいからね」
「そう? 私は構わないけど」
「そ、それは嬉しいんだけど……ね?」
「わかった。なら、普段は梓さんって呼ぶね」
そして、愛里寿は時計を見た。
「そろそろ行くね。じゃ、バイバイ」
手を振り、愛里寿はホームへと駆けて行った。
「行っちゃったね」
「はい。……あの、今日は」
「もうその話はおしまい。ね?」
「……そう仰せなら」
「ふふ、梓ちゃんやっぱ可愛いね」
「も、もーっ! いきなり何言い出すんですか!」
笑いながら、駆け出すみほ。
その後を追って駅を出た梓は、いきなり行く手を塞がれた。
「あ~ずさ」
「これはこれは、梓先輩」
「にひひー。みーちゃった」
「梓も、隅に置けないわねぇ~」
「あゆみ、あや? みんなもどうして此処に?」
たじろぐ梓の前に、紗希が立った。
「紗希が大洗出身だって事、忘れた訳じゃないよね?」
「そういう事。西住隊長が梓だけをコソコソ連れて行ったから怪しいなぁって」
「だからね、紗希ちゃんが行き先を推理して先回り!」
「そうなの~。だからじ~っくり話を聞かせて欲しいよ、梓先輩」
「……な、何でこうなるのよ! もーっ!」
抵抗も虚しく、連行される梓。
月明かりが、そんな大洗の街を柔らかく照らし始めた。
気がついたら暴走する澤ちゃんが。
でもいいのです、可愛さは正義!