副隊長、やります!   作:はるたか㌠

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お待たせしました、続きです。
ドラマCDの前に途中まで書いていた話だったのですが、聴いてしまってお蔵入りに。
……しようと思っていたのですが、やっぱり出します。

では、パンツァー・フォー!


第13話 表敬訪問します!

「他校の表敬訪問……ですか?」

「うん。以前ね、私達も会長から言われてやった事があったのは覚えてる?」

 

 練習後、梓はみほに呼び止められた。

 そして、表敬訪問に行く事を頼まれていた。

 梓は記憶を手繰り、思い出した。

 

「はい。確かあの時は、あんこうチームのみなさんが別々に行かれたような。西住隊長は黒森峰でしたよね?」

「そう。私が黒森峰に行っても大丈夫かな、って思ったけど……。でも、行って良かったって思えたよ」

「それで、今回は私が?」

「うん。いい経験になると思うし、これからは梓ちゃんが他校のみなさんと遣り取りする機会も増えるから。忙しいとは思うけど、お願い出来るかな?」

「いえ、それなら喜んでお引き受けします。それで、どちらへ伺えば宜しいのでしょうか?」

「……実はね、知波単学園の西さんから招待があったの。梓ちゃんをご指名でね」

「わ、私をですか?」

 

 驚く梓。

 自分が指名される理由が思い当たらなかった。

 みほは隊長として交流はあり、他に招かれるならば共闘した縁で典子あたりというならわかる。

 梓も面識が全くないとまでは言わないにしても、やはり戸惑いしかない。

 

「それで、招待されたのは私だけなんですか?」

「そうみたい。誰かと一緒に行きたいのなら聞いてみるけど」

「……いえ、大丈夫です。大洗女子学園を代表して行って来ます」

「よろしくね。ただ、あんまり気負わなくてもいいからね?」

「……あ。はい」

 

 

 

 学園艦は当然だが、洋上を航行可能である。

 あまりに巨艦である為航路や寄港出来る場所こそ限定されてしまうが、それでも便利である事に変わりはない。

 今回も、それが活かされる事となった。

 互いが視認できるぐらいの距離まで、大洗女子学園と知波単学園の学園艦は接近。

 

「澤さん、着艦しますのでしっかり掴まっていて下さい」

「は、はい!」

 

 想像していたよりはスムーズに、機体は知波単学園艦に着艦した。

 航空母艦をモチーフにしているだけあり、学園艦の甲板はかなり丈夫な構造になっている。

 C-5M(スーパーギャラクシー)ですら発着艦が可能なぐらいなので、学園艦同士の連絡に航空機を使う事は珍しくない。

 今回も招待したのだからと、絹代自ら連絡機を操縦して迎えに来た。

 三式指揮連絡機、通称三連。

 低速ながらも優秀な機体で、旧日本陸軍の車両を保有する知波単学園ならあっても不思議はない。

 当然ながら、見送りに来た優花里は目を輝かせて羨ましがった。

 絹代の操縦は完璧で、短いフライトながら梓は上空からの景色を楽しむ余裕があった。

 STOL性を持つ機体だけに、着艦して程なく静止。

 その横に、知波単学園戦車道隊員達が一列に並んで梓を出迎えた。

 

「ようこそ、知波単学園へ。一同、敬礼!」

 

 福田の号令で、居並ぶ隊員が見事に揃った敬礼を見せた。

 

「こ、こんにちは。本日はお招きありがとうございます」

 

 ややぎこちない笑顔で、梓は答えた。

 

「さ、此方へ。まずはお休み下さい」

「は、はい!」

 

 絹代の先導で、梓は学園の中へ。

 サンダース大付属や黒森峰には及ばないが、知波単学園もなかなかに裕福な学校である。

 そうでもなければ、あれだけ大量に九七式中戦車(チハ)を保有出来たりはしない。

 それを証明するかのように、学園の敷地は広大で和風の校舎は風格に満ちていた。

 梓は圧倒されながら、絹代について行く。

 校庭の一角は見事な日本庭園になっていて、その中には茶室が設けられていた。

 

「さ、どうぞ」

 

 出入り口が開けられ、梓は一礼してから中へ。

 後から福田が続く。

 

「では、支度をして参りますので。福田、頼むぞ」

「了解であります!」

 

 梓は物珍しそうに、室内を見回す。

 

「澤殿! 此方へ」

「あ、はい」

 

 作法がわからないので、とりあえず正座する梓。

 福田は隣に座ると、戦車帽を脱いだ。

 梓はおや、という顔になる。

 

「澤殿。如何なされたのでありますか?」

「あ、すみません。福田さんが帽子を脱いだところを初めて見たような気がしまして」

「そうでありましたか。髪型が気になるのではありませんか?」

「……え。えっと……」

「構いませんよ。みなさん、同じ事を仰せになられますから」

 

 おさげは戦闘帽からも見えるが、何と言っても天辺が平らになっているのが福田の特徴だった。

 

「これを被ると、どうしてもぺったんこになるのであります。それで、最初からこのような髪型に」

「そうでしたか。でも、何も被らない車長の方も多いようですが……どうして福田さんはそれを?」

「はい。実は……」

 

 福田がそう言いかけた時。

 

「お待たせして申し訳ありません」

 

 絹代が、和装に着替えて入ってきた。

 普段の制服やパンツァージャケットのような凛々しさは影を潜め、大和撫子らしい和服美人がそこにいた。

 あまりの完璧さに、梓は見惚れてしまう。

 普段あまりにも突撃ばかりしているせいで誤解されがちだが、絹代は戦車だけの無骨な少女ではない。

 茶道や華道、いろいろな日本の伝統芸能に通じているという一面を持つ。

 無論華のような家元とは比較にならないが、それでも一流にこなす事は確かだった。

 

「澤さん。どうかなさいましたか?」

「……あ。い、いえ! 何でもありません!」

「それならば宜しいのですが。あ、どうぞ寛いで下さい。正式な茶席ではありませんから」

 

 微笑む絹代。

 笑顔も素敵だなぁ、と思いながらも梓は気が休まりはしない。

 絹代はああ言ったが、この雰囲気はやはり独特のものがある。

 福田は砕けるようなタイプではなく、梓も大洗女子学園を代表して来ている以上無様な姿を見せる訳にはいかない。

 ……おまけに、慣れない正座で足が痺れ始めていた。

 その間にも絹代は優雅に茶を立て始めていた。

 

(えっと、確か茶碗を回して少しずついただくんだっけ。あ、懐紙持ってない……)

 

 一人パニックになりながらも、どうにか取り繕う梓だった。

 

 

 

「第一中隊、進め!」

「第二中隊、負けるな! 押し返せ!」

 

 お茶をいただいた後で、梓は演習場に案内された。

 二十両の九七式中戦車(チハ)同士がぶつかり合う光景は、なかなかに壮観だった。

 

 突撃ばかりしているイメージが先行してしまっているせいもあり、知波単学園は弱いと思われがちだ。

 が、その実力は決して低くない。

 旧日本陸軍の戦車は、歩兵支援を目的として設計されたものが多い。

 戦車砲の威力が弱いという事もあり、どうしても接近戦を挑まざるを得ないという事情もある。

 それにいくら車両数が多いとはいえ、練度が低ければ全国大会の常連校になどなれはしない。

 日々の訓練も生易しいものではなく、その点ではサンダース大付属や聖グロにすら引けを取らないというのが専らの評価だったりする。

 梓も話には聞いていたが、目の当たりにしてそれを実感していた。

 

「一糸乱れず、ですねまさに」

「我が校は果敢に攻め、突撃で一気に勝負を決めるのが伝統ですからね」

 

 絹代の言葉に頷く梓。

 戦車のスペックで見劣りする分は、練度と勇敢さでカバーするという方針なのだろう。

 仮に大洗女子学園チームが全車両八九式だったとしたら、やはり同じような感じになるのかも知れない。

 もっとも、みほならばそう単純には戦術を組み立てはしないだろうが。

 梓がそんな事を考えていると、隣に立つ絹代が一歩前に出て振り向いた。

 

「澤さん。もし良ければ、九七式中戦車(チハ)に乗ってみませんか?」

「え、いいんですか?」

「勿論ですとも。澤さんは聞くところによると、色々な戦車の操縦を覚えているとか」

「え、ええ……まぁ一応は」

「それならば、是非九七式中戦車(チハ)も操縦してみていただきたい。福田、同乗いいか?」

「はい、勿論であります!」

 

 後ろに控えていた福田が、絹代に向かって敬礼をする。

 

「お前は砲手をやれ。私が指揮を執る」

「了解であります!」

 

 梓は、事の成り行きに顔が青ざめていく。

 

「ち、ちょっと待って下さい!」

「澤さん、何か?」

「何かじゃありませんよ。乗ってみるというのは、動かすだけじゃ……」

「何事も実践ですよ、澤さん。それとも、私が車長では不服ですか?」

「め、滅相もない!」

「ならば問題ないでしょう。今、予備車を此方に回しますので」

 

 どんどん話が進んで行くのを、梓はただ呆然と見ているしかなかった。

 梓は学園間交流で来たに過ぎないのだが、客扱いとしても何かがおかしい。

 そうは思うが、絹代は悪巧みをするような人物ではない。

 福田も隊長命令だからと唯々諾々と従うばかりではなさそうだというのが、大学選抜戦で共闘した典子らの評価だった。

 となれば、福田は予め何かを言い含められているのか。

 それとも、絹代の意を汲んでの事なのか。

 如何に鋭い洞察力を持つ梓といえども、そこまでは読めなかった。

 だが、少なくとも悪い話ではない。

 梓がいろいろな戦車の操縦を覚えようとしているのは事実であり、大洗にはない九七式中戦車(チハ)を動かせる絶好の機会には違いない。

 対戦相手となった際に対策を講じる材料になるかも、という打算もなくはない。

 もっとも、梓の場合はそれは頭の片隅にある程度。

 純粋に、未知の車両を操縦出来るという期待感が圧倒的だった。

 唐突な申し出に対する戸惑いは消えないが、梓には辞退という選択肢は既に思い浮かばなかった。

 

「西さん。着替えたいのですが、宜しいでしょうか?」

「確かに制服では汚れてしまいますね。では、我が校の戦車服をご用意しましょう」

「いえ、大丈夫です。着替えは持ってきていますから」

「では、大洗の戦車服を?」

「はい。更衣室をお借り出来ますか?」

「勿論です。福田」

「はい、ご案内するであります!」

 

 梓は福田について歩き出す。

 絹代はそれを見送りながら、一頻り頷いた。

 

「常在戦場、か。流石はあの西住さんが片腕と頼む人材……いや、後継者候補だな」

「西殿? 何か仰せになりましたか?」

 

 九七式中戦車(チハ)を操縦してきた隊員が、絹代の呟きに怪訝な顔をした。

 

「いや、何でもない。それより、整備は万全だろうな?」

「はい。試験走行でも快調でした」

「よし。故障で動けなくなるなどという醜態は晒せないからな」

 

 そう言って、絹代は車体を撫でた。

 

 

 

 大洗のパンツァー・ジャケットに身を包んだ梓は、必然的に注目の的になる。

 その視線に一瞬たじろぎそうになるも、自分に活を入れて絹代の前に立った。

 

「お待たせしました」

「いえ。では、中へどうぞ」

「はい」

 

 九七式中戦車(チハ)は本来、四名乗り。

 車長と操縦手の他に、砲手兼装填手と無線手兼機銃手となる。

 梓が車内に入ると、無線手の姿が見えなかった。

 

「今回は通信手は私が兼任します。よって、三名での運用となります」

「わかりました。福田さん、改めてよろしくお願いしますね」

「こちらこそご指導ご鞭撻の程、お願いするであります!」

「あはは……。お手柔らかに」

 

 いつもと変わらない福田の態度に苦笑しながら、梓は操縦席に座る。

 

「河西さんに教わったのが役に立つかも……あ、これかな?」

 

 計器とレバーを確認していく梓。

 今日の日を予想していた訳ではないのだろうが、彼女は忍に八九式中戦車の操縦も教わっていた。

 アヒルさんチーム自体は動かす事はないとしても、自チームの車両は一通り把握しておきたいという探究心からだった。

 忍も同学年ながら副隊長の責務を果たそうと懸命な梓に協力的で、実際に梓に操縦レバーを握らせた事もある。

 全く同一という訳にはいかずとも、基本的に同じ国の同じ軍隊が使用していた車両。

 共通点もあり、梓は何とかなりそうだと思った。

 

「西さん、準備オーケーです。最初はちょっとガタつくかも知れませんけど」

「構いませんよ。では、前進!」

 

(パンツァー・フォーに慣れちゃってるから、どうもしっくりこないなぁ)

 

 内心でそう思いながらも、梓はギアを入れる。

 ガクンと揺れ、九七式中戦車(チハ)は動き出した。

 静音とは無縁の車両ばかり見てきているとはいえ、九七式中戦車(チハ)のエンジン音はまさに騒音だった。

 梓は閉口しながらも、必死に車両を操ろうとする。

 

「澤さん、本当に九七式中戦車(チハ)は初めてなのですか?」

「そうです、西さん!」

 

 インカムがあるとはいえ、エンジン音のせいでどうしても大声になってしまう。

 

「あまりにも慣れているので驚きました。そう思わないか、福田?」

「はい、西隊長! 操縦では私も敵いそうにありません」

「まぁ、仕方ないだろう。お前はずっと車長ばかりやっていたのだからな」

「……ですが、澤殿も私と同じ車長です」

 

 福田の言葉に絹代は答えず、ハッチから身を乗り出し前方を見据えた。

 

「澤さん、もう普通に走らせる感じですか?」

「は、はい。何とか!」

「では、このまま直進して下さい。射爆場へ向かいます」

「了解です!」

 

 

 

「……凄い」

 

 大洗女子学園よりも大規模な射爆場で、梓は絹代の指示で急停止と急発進を繰り返していた。

 最初は梓の腕前を試しているのかと思ったが、そうでない事がすぐにわかった。

 

「撃て!」

「はい!」

 

 九七式中戦車(チハ)は主砲が五十七ミリまたは四十七ミリであり、砲弾も軽い。

 その為砲手が装填手を兼ねる事になり、今は福田がその役目を担っている。

 いくら砲弾が軽量とはいえ、両方を素早く正確にこなすのがどれだけ難しいか……それは梓にもわかる。

 梓が感心したのは、その福田が放った砲弾がかなりの精度で的に命中した事だった。

 行進間射撃よりも命中率が上がるとはいえ、急制動をかけたタイミングでの発砲は早すぎれば車体の動揺があり狙いが逸れてしまう。

 かと言ってあまりに遅ければ、今度は敵のいい的になってしまう。

 カバさんチームがそれで苦労していた事を知っているだけに、福田の技量には梓も舌を巻いた。

 演習場を一周りし、梓らは元の地点へと戻った。

 

 

 

 夕方になり、再び絹代が三連で梓を大洗女子学園学園艦まで送り届ける事となった。

 今度は福田も一緒だった。

 空に上がり、梓はインカムで話しかける。

 

「福田さん。確か、車長の経験しかなかったと仰せでしたよね?」

「そうであります! 砲手は西隊長からの指示で、最近になって専念する機会をいただいているのであります」

「凄いじゃないですか。本当にそう思います」

「そ、そうでありますか……?」

「はい」

「……ありがとうございます! 尊敬する澤殿からそう仰っていただけるとは、光栄であります!」

 

 そう言って、福田は座ったまま頭を下げた。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい! 尊敬ってなんですか?」

「言葉通りですよ、澤さん。福田にとって、貴女は憧れであり目標なんです」

「え……」

 

 絹代の言葉に、頭が真っ白になる梓。

 みほならともかく、何故自分なのか。

 彼女には思い当たる事がない以上、唐突にそう言われても混乱するばかりなのは当然だろう。

 絹代は操縦しながら、続けた。

 

「澤さんは、二学期に入ってすぐ副隊長に任じられたと伺いました」

「は、はい……」

「それも、あの西住さん直々の指名。きっと歴戦の勇士なのだろうと思い、勝手ながら経歴を調べさせていただきました」

「…………」

「戦車道は全くの未経験だったと知り、驚きました。冷静な判断力やリーダーシップは天性のものかも知れませんが、それにしても素晴らしいとしか言いようがありません」

「そ、そんな……」

「西住さんは伊達や酔狂で人を選んだりはしません。それは、一緒に戦った私にはわかります」

「……はい」

「だから、福田の言葉は大袈裟でも何でもないのですよ。そうだろう、福田?」

「はい、西隊長!……澤殿、どうかこれからもご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い申し上げます」

「わ、私こそ。まだまだ未熟者ですが、どうぞ宜しくお願いします」

 

 福田と梓の反応に、絹代は満足気に頷いた。

 

「おっと、そろそろ着艦ですね。しっかり掴まっていて下さい!」

 

 

 

「澤さん、今日はありがとうございました!」

「それでは、失礼するであります!」

「いえ、此方こそお世話になりました」

 

 絹代と福田は梓を降ろし、すぐに機上の人となった。

 

「あ、澤殿!」

「はい?」

「先程のご質問に答えていませんでした。この戦車帽でありますが、西隊長から頂いたものでありまして。……私の、宝物であります」

「そうでしたか。それなら、いつも被っていて当然ですね」

「はい!」

「さて、行くか。では澤さん、またいずれ!」

 

 絹代はそう言うと、滑走を始めた。

 

「澤殿! 是非お手合わせ願いたいであります!」

「はい、此方こそ!」

 

 福田と梓は、互いの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 小さくなる機影を見ながら、梓は笑みを湛えていた。

 

「……もっと、頑張らなきゃね」

 

 そう、独りごちながら。




立川極爆TV版一気上映、瞬殺されてしまいました。
観たかったです……。
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