二人をメインにした話です。
オレンジペコ、ハッピーバースデー♪
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時系列的にわかりにくいというご指摘をいただいたので、14話の前に移動させました。
誤字修正しました。
「皆様、ごきげんよう」
「本日は、お招きありがとうございます」
ダージリンとオレンジペコが、大洗女子学園へとやって来た。
「此方こそ、お越しいただいて本当にありがとうございます」
「では、ご案内しますね」
出迎えたのは、華と梓。
以前華が聖グロを訪問した際に、今度はダージリン達を招待するという約束を交わしていた。
それならばと、みほが華に対応を任せる事にした。
……というよりも、これからの事を話す為にみほは実家に戻っている最中である。
しほはもう勘当するつもりもないようだが、未だにすれ違ったままは良くないとみほも考えたらしい。
優花里や沙織は心配して付き添いを申し出たが、みほはそれを丁重に断った。
これは家族の問題であり、自分一人でやらなくてはいけないと。
梓が華に付き添っているのは、聖グロの前隊長と現隊長が来ているのにみほの代理である自分が出ない訳にもいかない……という判断からだった。
「オレンジペコさん、改めて隊長就任おめでとうございます」
「ありがとうございます、五十鈴さん。それから、先日は失礼しました。澤さん」
「いえ、此方こそ」
オレンジペコと梓は、今までに接点がなかった訳ではない。
研修会で顔を合わせたのは勿論だが、梓は大洗女子学園戦車道チームの初期メンバーであり全ての試合に参加している。
一方のオレンジペコはずっとチャーチルの装填手であり、練習試合からずっとダージリンと共に大洗女子学園の試合を見ている。
当然、互いにその存在は認識している。
大学選抜戦では同じチームで戦うという機会も得ていた。
……が。
不思議なぐらいにこの二人、直接会話をする事がなかった。
避けていた訳でもなく、これといって因縁がある訳でもない。
ではこれからもそのままでいいかと言われれば、否。
片や名門校チームの新隊長、片や全国一を達成した強豪校の新副隊長。
しかも、どちらも一年生。
間違いなく次代を担う存在であり、少なくとも約二年間はライバル同士となるのは必定。
その事は、二人共理解していた。
……とはいえ、いきなり会話の糸口が見つかる訳でもないらしい。
華とダージリンもその事には気づいたようだが、何も言おうとはしない。
互いに顔を見合わせて、頷いただけだった。
「ではわたくし、着替えて参りますわ」
「あら、華さん。もしや、和服ですか? わたくし、興味がありますの」
「それなら、ダージリンさんも是非試着してみて下さい。予備がありますから」
「まあ、嬉しい。じゃあペコ、ちょっと行ってくるわね」
「え? あ、はい」
華とダージリンは、連れ立って校舎へと入って行った。
後に残された二人は、横目で互いを見た。
「……あ、あの」
「あ、あのっ!」
「あ、すみません。オレンジペコさんからどうぞ」
「いえ、澤さんこそお先にどうぞ」
思わず同時に話し出す二人。
そして、再び沈黙。
このままでは埒が明かないと思ったか、ややあって梓から切り出した。
「オレンジペコさんは、いつもダージリンさんに紅茶を入れていると伺いましたが」
「あ、はい。ダージリン様とアッサム様にはいつも私が」
「そうなんですね。では、もう完璧にこなせるんでしょうね」
「完璧かどうかはわかりませんけど、少なくともお二人には喜んでいただいていますから」
「それなら凄いじゃないですか。私、本格的な紅茶って飲んだ事がなくって」
「そうでしたか。もし宜しければ今度、ご馳走しましょうか?」
「本当ですか、是非!」
「お安い御用ですよ。紅茶と一口に言ってもいろいろな種類がありますから、飲み比べるのも楽しいと思いますよ?」
そう言って、ニッコリ笑うオレンジペコ。
「でも、ちょっと安心しました」
「何がですか?」
「澤さんですよ。真面目な方と聞いていたので、どうお話しようかと思っていたのですが」
「すみません。それぐらいしか取り柄がなくって」
「ふふ、それも噂通りですね。ダージリン様が仰せの通りです」
「え?」
「真面目だけしかないという人に、あの西住さんが副隊長を任せたりする筈がないって事ですよ」
「そう、ですか……」
梓が首を傾げていると、華とダージリンが戻ってきた。
「お待たせしました」
「話が弾んでいたようね、ペコ」
「うわぁ……綺麗です」
「ダージリン様、よくお似合いです」
華は緑、ダージリンは青を基調とした着物姿。
恐らく制服の色に近いイメージを、と華が選んだのだろう。
二人共、掛け値無しに似合っていた。
「では、此方へ。野天でお茶をと思いまして用意してみました」
「まあ、素敵ですわね」
学園の敷地内には木立も少なくなく、その中でも校舎裏にある一角はちょっとした庭園風になっている。
生徒たちにも人気のランチスポットになっていて、昼時になると池の畔などは争奪戦になったりもする。
華は茶道の心得もあるので、予め席を設けてあった。
普段から屋外での喫茶が多いダージリン達だが、イギリス風の学校なだけにこうした純和風の席は新鮮らしい。
特にオレンジペコは、キラキラと目を輝かせていた。
「茶室だと作法とかいろいろと堅苦しいですけど、野天ですから楽になさって下さいね」
「お気遣いありがとうございます」
いかなる時でも優雅。
ダージリンの口癖だが、それはシチュエーションが変わっても同じらしい。
オレンジペコもダージリンに倣い、隣りに座った。
そして、梓もそのまた隣に。
華はそれを確かめてから、お茶を点て始めた。
その手つきも手馴れていて、洗練されていた。
「どうぞ」
「では、いただきますわ」
いつもとまるで違う作法にも動じる事なく、ダージリンは茶碗を手にした。
その様子を、オレンジペコが不安げに見ている。
「ペコ、大丈夫よ。華さんも仰ったでしょう?」
「は、はい」
ダージリンにそうは言われたものの、オレンジペコは表情を変えずにいた。
心なしか、身体が少し震えているようにも見えた。
……と。
その手を、そっと梓が押さえた。
「……澤さん?」
梓はオレンジペコの眼を見て、そっと頷いた。
オレンジペコもまた、フッと肩の力を抜く。
そして、ダージリンから回された茶碗に目を向けた。
「それでは、頂戴します」
「はい」
さっきまで震えていた手は、しっかりと治まっていた。
「これがT-28ですか」
「はい。プラウダ高校にもない車両みたいですね」
梓はオレンジペコを連れ、倉庫にやって来た。
華はダージリンに校内を案内する、と言って別行動となった。
倉庫にはみほが不在で梓が接客中、という事でⅣ号とT-28が残っていた。
勿論二両はただ遊んでいる訳ではなく、車内外では整備と点検の真っ最中。
隊長車と副隊長車という事もあり、自動車部の作業もかなり念入りに行われていた。
梓とオレンジペコは作業の邪魔にならないよう、少し離れた場所で立ち止まっていた。
「あれが新戦力なんですね」
「そうです。似た名前の重戦車じゃなくて、中戦車ですけどね」
「でも、あれは装甲は硬いですが足が遅いですし……。大洗には似合わないと思いますよ?」
「確かにそうですね。西住隊長が指揮する姿はあまり想像出来ないかも……とはいえ、あればあったで使いこなしちゃうんでしょうね」
オレンジペコは、梓を見て微笑んだ。
「ど、どうかなさいましたか?」
「いえ、澤さんは本当にみほさんを尊敬しているんですね」
「勿論です。私、いえ私達にとって西住隊長は憧れであり目標でもありますから」
「そうですよね。その気持ち、よくわかります」
フッと息を吐くオレンジペコ。
「私もダージリン様に憧れていますし、いつかはあんな隊長になれたらいいなと思っていました。……でも、まさかこんなに早くその機会が来てしまうとは想定外でした」
「……でしょうね。私も副隊長ですらびっくりだったのに、オレンジペコさんはそれを飛び越して隊長ですからね」
「そうなんです。引き受けてしまいましたが、今でも時々これで良かったのかなって……」
オレンジペコは弱々しく笑った。
高校日本一チームの副隊長である梓もかなりのプレッシャーを感じてはいるが、名門である聖グロリアーナ学院チーム隊長ともなれば更に大きなものであってもおかしくない。
ダージリンの前では決して吐かないであろう弱音を、同学年の気安さからかポロリとこぼしてしまったのだろう。
「私は、オレンジペコさんが羨ましいって思いますよ」
「どうしてですか?……澤さんも、副隊長じゃなくて隊長になりたかったとか?」
「いえ。……私は最初からM3の車長でした。だから、西住隊長の指揮を間近で見る機会がなくて」
「でも、その代わり澤さんは車長としての経験を積めたじゃないですか。それにあと一年、みほさんの下で学べるなんて。私の方こそ羨ましいですよ?」
「それは……そうです。それでも、もっと西住隊長の指揮を直に見たくて」
「それなら、実行に移してはどうかしら?」
二人が振り向くと、いつの間にかダージリンとみほが立っていた。
「西住隊長?」
「だ、ダージリン様?」
慌てる梓とオレンジペコ。
「ど、どうしたんですか? 帰省なさったんじゃ……」
「その予定だったんだけどね、天候が悪くなって飛行機が欠航になっちゃったの。それに、折角ダージリンさん達が来て下さったのにいないのも失礼かなって」
「わたくし達に気を使う必要はありませんわよ、みほさん。でも、お気持ちは嬉しいわね」
「あ、あの……ダージリン様。まさか、先程の話を……」
「さあ、何の事かしら?」
「うう……絶対聞かれてしまってます」
オレンジペコは、ガックリと肩を落とした。
ダージリンは素知らぬ顔でみほを見た。
「どう? 貴女のところの副隊長さん、そう仰ってるけど?」
「ええと……。梓ちゃん、それなら一緒に乗ってみる?」
「……え?」
「良かったら、オレンジペコさんもご一緒に如何ですか?」
「私も……ですか?」
「はい。戦車に乗れば気も晴れますよ、きっと」
「……宜しいのですか? 次の大会で、みほさんや澤さんと戦う可能性もあるんですよ?」
オレンジペコの言葉に、みほはニッコリ笑った。
「構いませんよ、うちは秘密するような事もあまりありませんから」
「だ、大胆ですね……。澤さんも、宜しいのですか?」
「西住隊長がああ仰せですから。私はその判断を信じるだけです」
「……そうですね。では、私もダージリン様のお言葉に従います」
「それでは、準備はいいですか?」
「準備万端であります!」
「こっちも準備オッケーです!」
それから十数分後。
梓とオレンジペコの姿は、Ⅳ号の車内にあった。
優花里が操縦席、沙織が通信席に。
そして梓は砲手、オレンジペコは装填手として。
みほは無論、車長席にいた。
華と麻子は所用で帰宅していた為、優花里が操縦手を任される事となった。
彼女も操縦する機会が増えた事で、麻子には及ばないが十分走らせる事が出来るようになっていた。
「あの、みほさん。……私、イギリス戦車しかわからないんですが」
「知ってますよ。ダージリンさんから、たまには他国の戦車も体験させたいって言われたんですよ」
「そ、そうだったんですか。じゃあ、澤さんは?」
「私も砲手はあまり経験ないですね。操縦は自主的にやったりしてますけど」
「…………」
「大丈夫ですよ、オレンジペコさん。では、パンツァー・フォー!」
みほの号令で、優花里はクラッチを踏み込む。
「沙織さん。練習中の各車に連絡、接触に注意するように伝えて」
「任せてよ、みぽりん!」
「優花里さん。丘陵地帯へ向かって下さい、あそこなら多少の無茶も出来ますから」
「了解であります!」
「オレンジペコさん。演習用の模擬弾ですから、慌てずゆっくりやって下さい」
「は、はい!」
「梓ちゃん、射撃の合図は此方から出します。大丈夫だよね?」
「やってみます!」
オレンジペコは、みほの素早い指示に驚きを隠せないようだ。
ダージリンはあまり事細かに指示はせず、ある程度各自に任せる傾向がある。
……それに、戦車に乗っていない時のみほはフワフワして頼りない印象すらある。
それが一変し、軍神と呼ぶのに相応しい様になってしまうのだから驚くのも当然だろう。
それを見て、梓は微笑みながら声をかけた。
「驚いたようですね、オレンジペコさん」
「はい。みほさんは戦車に乗るとまるで別人だとは噂に聞いていましたが」
「でも、カッコイイんですよ。そこが」
「は、はぁ……」
戸惑いながらも、オレンジペコは砲弾の位置を確かめる。
チャーチルと同じ75ミリ砲弾ではあるが、生産国が違えばいろいろな違いがある。
砲弾の置き場所一つ取っても違うのだから面白いが、それは乗らない人間だから言える事。
みほにはああ言われたが、真面目な彼女には言葉通りに行動するのは無理らしい。
砲弾のストッカーから尾栓までの距離を測り、運ぶ仕草をし始めた。
「オレンジペコさんは、戦車に乗っていて楽しいって思う?」
その最中、沙織が振り向いて話しかけてきた。
「楽しい、ですか?」
「そう。私ね、最初は戦車道やれば男子にモテモテになるって聞かされて始めたんだよ。……まあ、それは今のところないけど」
苦笑する沙織。
「でもね、楽しいんだよね。みぽりんの指揮で乗る戦車って」
「じゃあ、みほさんがいなかったらどうだったと思いますか?」
「どうだろう?……やっぱ、戦車道自体知らなかったかも。それだと楽しいとかそれ以前になっちゃうね」
「は、はあ……」
「でも、今は楽しいよ? そうだよね、ゆかりん?」
「はい! 西住殿のお陰で、戦車そのものだけでなく戦車に乗る楽しみを知る事が出来ました!」
オレンジペコは、梓に目を向けた。
梓はニッコリ笑って、頷いた。
(楽しい……か。考えた事もなかったな)
大洗女子学園は、確かに素人集団に過ぎなかった。
車両も売れ残りばかりの寄せ集めであり、スペックも高くはない。
いくらみほが稀代の天才であろうとも、戦車道は集団戦。
それがいきなりの全国大会を制し、更に実力も経験も圧倒的に格上の大学選抜チームまで破った。
単に奇跡で片付けるには、その成果は大き過ぎた。
そうなった理由の一端を、オレンジペコは垣間見た気がした。
「優花里さん、あと二千メートルで停車して下さい。梓ちゃん、停車と同時に発砲! オレンジペコさん、装填宜しくお願いします!」
みほの声で我に返ると、それぞれが与えられた指示に従って動いていた。
オレンジペコも砲弾に手をかけた。
「今日はありがとうございました」
「此方こそ。また来て下さいね」
急な搭乗訓練を終え、ダージリンとオレンジペコは帰艦する時刻となった。
学園艦は停止し、迎えの連絡艦とタラップで繋がれた。
みほと梓は、二人を見送りに来ていた。
「みほさん。宜しければ今度、練習試合を受けていただけますか?」
「はい、喜んで。いいよね、梓ちゃん?」
「勿論です」
「良かったわね、ペコ」
微笑むダージリン。
「何か吹っ切れたようね。良い顔をしてるわ」
「そ、そうでしょうか?」
「ええ。みほさん、澤さん。ありがとう」
そう言いながら、ダージリンは箱を梓に手渡した。
「あの、これは?」
「紅茶のセットよ。今日のお礼ね」
「い、いいんでしょうか。私は隊長では……」
「あら、次の隊長でしょう? なら、ペコのライバルじゃない。そうよね、ペコ?」
「はい。澤さん、試合では手加減しませんから」
「……わかりました。それでは、遠慮無くいただきます。ありがとうございます」
ダージリンは頷くと、身を翻した。
「それでは、御機嫌よう」
「御機嫌よう。お世話になりました」
オレンジペコも一礼し、タラップへと向かっていった。
「聖グロリアーナ、まだまだ強敵として立ちはだかりそうだね」
「はい。でも、負けませんから」
「ふふ、その意気だよ。梓ちゃん」
みほはポン、と梓の肩を叩いた。
次はまだ書いていません。
また暫しお待ちを……。