あれやこれやと試行錯誤の末、こんな形にまとめました。
新キャラが三人追加になります、詳細はあとがきにて。
それから最後に、あのキャラが登場します。
ではパンツァー・フォー!
7/12誤字修正。
生徒会役員選挙。
杏の後任とあって立候補がなかなか集まらなかったが、立会演説会を経て無事に終了。
会長以下、全ての役員が選出された。
「いや~、後は宜しく頼むよ」
「は、はい!」
杏にバシバシ背中を叩かれた新会長は、ぎこちなく答えた。
いろいろな意味で、杏は歴代の生徒会長の中でも傑出した存在と言えた。
みほの存在があったとはいえ、大洗女子学園が廃校から免れたのは杏の働き抜きには語れない。
普段は飄々としながら干し芋を食べてばかりというイメージだが、凄腕という評価は覆る事もない。
当然、その後任ともなればかかるプレッシャーは尋常ではないだろう。
「西住ちゃん、澤ちゃん。新しい執行部は戦車道、やらなくて本当にいいんだね?」
「はい。兼務は大変だと思いますから」
「それよりも、私達のバックアップに徹していただいた方がいいでしょう。西住隊長と話し合って出した結論です」
「だってさ。宜しくね~」
杏はそれを伝えるだけだが、大変なのは柚子と桃。
他の役員達もそうだが、杏が実務は全て丸投げしていたお陰で引き継ぎ作業が膨大になっていた。
彼女達も交代した以上は速やかに新体制での運営をスタートさせたいのはやまやまだが、それも暫く時間がかかるだろう。
「ところで西住ちゃん。新しい戦車の乗員はどうするつもり?」
「はい。実はそこが悩みどころでして」
T26E1。
大洗女子学園チームでは攻守共に随一の性能を誇る重戦車。
まだ修復作業は終わっていないが、それを待ってからチーム編成に取り掛かるのでは戦力化が遅れてしまう。
慣らし程度であれば暫定メンバーでも問題ないが、正式運用ともなればそうも行かない。
とは言え、どのチームも三年生メンバーが抜けた穴はまだ埋まったとは到底言えないのが現状。
これ以上メンバーを動かすのは好ましくない……それはみほだけでなく梓も同じ思いだった。
だが、大洗女子学園チームは高校日本一に輝いたとは言ってもあまりにも戦車道のブランクがあり過ぎた。
大会経験者は兎も角、それ以外ははっきり言って素人ばかり。
その中からチーム最強の車両をいきなり任せるなど、無謀でしかないだろう。
「頭が痛いな、それも」
「はい。梓ちゃんと色々といい方法がないか考えてはいるんですが……」
「私も何か考えてみっか~。思いついたら教えるね」
「は、はぁ……」
「宜しくお願いします……」
顔を見合わせるみほと梓だった。
「なかなか手応えがあるね、この子は」
ナカジマが、汗を拭きながら砲塔から降りてきた。
戦車道専用倉庫の最奥で、T26の修復作業は続けられている。
当初はツチヤを除く三人で手がけていたが、今は一年生部員も加わり総がかりとなっていた。
「サンダース大付属の整備科が匙を投げた、ってのも無理はないかもね」
ナカジマは、コンコンと車体を叩きながら言った。
「そんなに状態良くないんですか?」
「少なくとも、うちにあった子達とは比較にならないよ澤さん。外から見たらわからないけど、エンジンも足回りも一から作るのと変わらないぐらいだし」
「そ、そんなに……」
「購入資金さえあるなら、最初からM26買った方が楽だし安上がりかも知れないね。特にサンダース大付属ならお金持ちだから余計にね。それもあったんだと思うよ、ジャンクになっていたのは」
「そうでしたか……。上手い話はやっぱりありませんね」
みほは思わず苦笑いしてしまう。
「でも、その分やり甲斐はあるかな。秋山さんをガッカリさせたくないしね」
「すみません。三年生の皆さんにご苦労おかけしてしまって」
頭を下げる梓に、ナカジマは笑って手を振った。
「好きでやってるんだから気にしないで。試作車とはいえあのM26相当なんだから、うちにして見たら戦力になるのは間違いないだろうし」
「そうですか……。何かお手伝い出来る事はありませんか?」
「今は大丈夫かな。必要になったらお願いするかも知れないけど」
と、ツチヤが車体の向こうから顔を出した。
「ナカジマ先輩、ちょっとこれ見て貰える?」
「オッケー。西住隊長、澤さん。じゃ、またね」
「はい、お邪魔しました」
「宜しくお願いします」
作業に没頭する自動車部員を見ながら、みほは梓の肩を叩いた。
「行こう、梓ちゃん」
「……はい」
梓は息を吐くと、みほの後を歩き始めた。
「練習を終わります。お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした!」
梓の号令で、全員が礼をして終了となる。
メンバーが散っていくのを見送り、梓は踵を返す。
そして、再びT26の前に立った。
自動車部は他の車両の修理をしているのか、姿が見えなかった。
梓は車体に上り、ハッチを開けた。
塗装が乾いていないようで、強烈な石油臭が立ち込めていた。
「これじゃ、中には入れないな」
梓は苦笑して、ハッチを元に戻した。
自動車部がまだ作業中である以上、勝手に車内に入るのはいくら副隊長と言えども許されるものでもない。
だが、気になるのか梓は車体のあちこちを見ていく。
ナカジマの言う通り、外見からはもういつでも走れそうに見える。
だが、それはいつになるのかもわからない。
みほが焦りを感じているのは、梓にも伝わっていた。
それだけにもどかしいが、今の大洗女子学園ではこれが限界。
そもそもが、自動車部も他校の整備科のように戦車専門ではないのだ。
資金も機材もなく、まともな整備マニュアルもない。
ないない尽くしの中でベストを尽くしている以上、急かす訳にも行かない。
特に大洗女子学園の車両は過去の経緯からマニアックなものが多い。
日常メンテナンスだけでも手間なところに、厄介な物が増えてしまっている。
「……よし」
梓は何かを決意すると、校舎へと向かって行った。
「……で、その格好をしてきたと」
「はい!」
まだ暑い季節にも関わらず、梓はジャージ姿に着替えていた。
そして、T26の前で自動車部員が戻るのを待っていた。
「気持ちは嬉しいんだけど、澤さんは整備の経験なんてなかったよね?」
「ありませんけど……でも、お手伝いしたいんです」
「う~ん……。どうする、ツチヤ?」
ナカジマはお手上げとばかりに、ツチヤを見た。
ツチヤもまた、困惑を隠せずにいた。
「前にも言ったよね? 無理するなって」
「わかっています。でも、やっぱり自動車部の皆さんにばかり負担をかけてしまっていますし。せめて、何か出来る事はないかって」
「弱ったなぁ。人手が欲しいのは確かだけど、他の一年を見ながらだと……自分の作業もあるからなぁ。その上で教えている余裕もないし」
頭を掻くツチヤ。
と、まだ真新しいツナギに身を包んだ一人が前に出てきた。
「あの~、ツチヤ部長」
「ん?」
「ボク達はもう大丈夫ですから、澤さんを加えてあげて貰えませんか?」
「大丈夫なの? 本当に」
「これでも、自動車部員ですから」
「……わかった。そこまで言うなら」
「ありがとうございます!」
そして、梓の方を見た。
後ろに控えていた他の二人もやって来た。
「ボク、一年のカタヤマです。操縦担当です」
「アタイは同じく一年のタカギ。砲手さ」
「あ、私は一年のサトウって言います。装填手よ、宜しくね」
「改めて、澤梓です。宜しくお願いします」
互いに頭を下げる梓達。
ツチヤは、梓に軍手を差し出してきた。
「かなり大変だし、汚れるから覚悟してね? 怪我するといけないから、これ着けて」
「ありがとうございます。頑張ります」
「ホント、怪我には注意してよね? 少しでも危ないと思ったらその場で止めさせるからね」
「はい」
更に一時間後。
「ふう、ちょっと一息入れよう。ナカジマ先輩達も」
「そうだね」
全員が、汗を拭いながら集まってきた。
梓も軍手を外し、ポケットからハンカチを取り出した。
ジャージもそうだが、顔もところどころ油汚れがついていた。
「機械油は落ちにくいからね。帰ったら念入りに洗わないと」
「そうします、ツチヤさん。ふふ」
「ん? どうかした?」
「いえ、なんだか楽しいなって。簡単な整備ぐらいしかやった事がなかったから」
「そう? でも澤さん、筋は悪くないかもね。はい、これ」
ツチヤは、缶コーヒーを差し出しながらそう言った。
「いただいていいんですか?」
「勿論。上陸した時にバイトしてる工場から沢山貰ったんだ、だから気にしないで飲んで」
「ありがとうございます。いただきます」
梓はプルタブを引き、一口飲んだ。
「あ、美味しい。……ツチヤさん、筋が悪くないって本当ですか?」
「本当さ。まぁ、センスとかは兎も角だけど。澤さん、真面目で丁寧だからさ」
「……それしか取り柄がなくって」
「そうかな。それって大事な事だと思うけど」
「そうそう。ツチヤはその点大雑把だからね」
「全くだ。少しは澤さんを見習った方がいいと思うな」
「あ、スズキ先輩にホシノ先輩まで酷い!」
笑いが巻き起こった。
「でも真面目な話、整備って丁寧さが要求されるんだよ。特に戦車はね」
「ナカジマさん……そうですよね。私達も気をつけて乗っているつもりなんですが」
「それは仕方ないさ。確かに、直しても直しても壊れるからげんなりする事はあるけどね……Ⅳ号のシュルツェンとか」
「あはは……。確かに良く壊れてますね、あれ」
「西住隊長もあんこうチームのみんなもわざとじゃないのはわかってるんだけどね」
「頑張ってH型っぽくしたんだよね、ナカジマと私で」
「でも、よく考えたら戦車道で対戦車ライフル用の防御装備なんて要らなかったかもね」
「ホシノ先輩もスズキ先輩も今更言いっこ無しだって。あれ、結構苦労したんだし」
自動車部上級生達の話を、梓だけでなく他の一年生部員も聴き入っている。
そして、カタヤマ達はT26を見た。
「先輩達がⅣ号なら、ボク達は」
「あいつを、もっともっと……やりたいなぁ」
「その前に、まずはちゃんと動かさないといけないけどね」
梓は、三人の言葉に大きく頷いた。
「頑張りましょうね。一年生の力、見せちゃいましょう」
「そうだね、うん。やろう!」
「腕が鳴るなぁ」
「澤さんにそう言われると、何だか自信が出てきました」
それを見て、ナカジマはポンとツチヤの肩を叩く。
「うかうかしてると、抜かされちゃうよ?」
「ナカジマ先輩……。それ、シャレになってないって」
「あはは、ならしっかりやんなって部長さん。さて、作業に戻ろうか」
夜になった。
梓は学校でシャワーを浴び、油塗れのジャージを持って帰路についていた。
自動車部の面々はまだ作業をしていたが、そこまでは付き合わせて貰えなかった。
「あんまり私達の楽しみを取らないでよ? 自動車部に入ってくれるなら別だけど」
冗談めかして、ツチヤに追い出されてしまった。
勿論、梓にもそれがツチヤの好意である事がわかっている。
だから、何も言わずに素直に従った。
ただし、時折こうして手伝う事は認めて貰えたようだ。
……指導を受けながら簡単な作業を行っただけだから、レストアの一助になったかと言われたら否かも知れない。
とにかく手伝えたという梓の自己満足なのかも知れない。
それでも、梓は自分の決意が間違っていたとは思っていない。
「……よし。明日も頑張ろう」
一人、そう呟いた。
数日後。
登校した梓は、校門のところで杏と出会った。
「おはよ~、澤ちゃん」
「おはようございます、会長……じゃなくて角谷さん」
「何か慣れないねぇ、呼ばれ方も。あ、ちょっとこっち来てね」
苦笑しながら、杏は梓を何処かへ連れて行こうとする。
逆らう理由もなく、梓はそのまま後をついていく格好に。
校舎の一角に、人影があった。
一人はみほ。
そして、もう一人を見て梓は驚いた。
「愛里寿……ちゃん?」
大洗女子学園の制服を来て、ボコを抱いた愛里寿がそこにいた。
「角谷さん、西住隊長。これは一体……?」
「ちょっと頼んでみたんだ。西住ちゃんと澤ちゃんが困ってるから助けて貰えない、って」
「みほさんと梓さんは、友達だから。それに、他の学校も見て回ったけど……やっぱり、大洗がいいかなって」
恥ずかしそうに言う愛里寿。
思わず抱き締めそうになるのを必死に抑え、梓はみほを見た。
「愛里寿ちゃんなら、
「そ、そうですか……じゃあ」
「あ、副隊長は梓ちゃんのままだからね」
みほは、機先を制するように言った。
「私も、梓さんの席を奪うつもりはないから。指示には従うよ?」
「愛里寿ちゃん……」
「てな訳で。後は頑張ってねぇ!」
杏はみほと梓の背中を叩くと、手をひらひらさせながら立ち去って行った。
「でも西住隊長。まだT26は……」
「うん、それも愛里寿ちゃんに見て貰おうかなって。梓ちゃんだけに手伝わせる訳にはいかないからね」
「え?……ご存知だったんですか?」
「ふふ、梓ちゃんの事だからきっと何かしようとすると思ったからね」
「敵いませんね、西住隊長には」
苦笑する梓。
「……宜しく。みほさん、梓さん」
「うん、此方こそよろしくね!」
「一緒に、頑張ろう!」
みほが差し出した手を、愛里寿が握る。
その上から、梓が手を重ねた。
大洗女子学園が、新たな第一歩を踏み出した瞬間だった。
新キャラです。
カタヤマ(一年・操縦手)
名前:片山右京氏より
イメージ:艦これの時雨
好きな戦車:M60
タカギ(一年・砲手)
名前:高木真一氏より
イメージ:艦これの朝霜
好きな戦車:メルカバ
サトウ(一年・装填手)
名前:佐藤琢磨氏より
イメージ:艦これの萩風
好きな戦車:五式中戦車
なお、近日中に次話投稿します。
(予約済み)